序章 3 さとみちゃんのお母さん
今回はさとみちゃん視点でお送りします。
お母さんの登場です。
お母さんもこの神社に来てるんだって、神主さんが教えてくれた。
社務所の方を見ると、見慣れたエプロンドレスに長い黒髪をゆるふわ三編みにして左前に垂らして満面笑顔のぼくの母親が手を振って歩いてきた。
「さとみちゃ~ん、お兄ちゃ~ん♪」
「にゃぁ~ん」「にゃぁ~」
ついでに猫もついてくる、この神社だと見慣れた光景だね。
「珠実さん、こんにちは。」
「はぁい、こんにちはお兄ちゃん、今日もイケメンね♪」
「ままんも来てたんだね~、お豆腐にあぶらーげ買っといたよん♪」
「あら、ありがとーさとみちゃん」
買っておいたあぶらーげとお豆腐をままんに渡して、鞄からスリッカーブラシを取り出す。
早速寄ってきたにゃんことワンこをブラッシングするんだ。
おにいちゃんはままんと神主さんとおしゃべりしつつお土産のオヤツをワンこ達に用意してあげてる。
「そうそう、二人とも、今からママと一緒にパパを探しに異世界行きましょう!」
……。
ままんが何か言い出したよ?
え? 何?
お父さんを探しに…何?
「珠実さん、この間の勇者と魔王ごっこの続きでもやりたいんですか?」
おにいちゃんがこめかみをおさえながら訪ねてる。
「うえぇ~…ぼく、もう魔王役やりたくないよ~?」
お遊びでやった勇者と魔王ごっこ、魔王に連れ去られたお姫様を救いに勇者が立ち上がるー。
最初はまぁ、ぼくがお姫様役でままんが魔王、おにいちゃんが勇者役と王道の役回りだったんだけどさぁ…。
それぞれ役変えて3回やったんだよ…。
モチロンおにいちゃんもお姫様役やったよ?
…うん、「泣きたくなった」っておにいちゃんのセリフはそこから出てる。
でもって、ぼくが魔王でままんがお姫様役になった時…まぁ、魔王は最後に勇者に倒されるじゃん?
で、お姫様を救い出してハッピーエンド、ぅん、わかる。
でもね!
ままんってば調子に乗っておにいちゃんにお姫様抱っこせがんだりするのはおかしいでしょー!?
いい歳してお目めウルウルさせて「おねがーい」とか!?
抱っこされたらされたできゃーきゃーはしゃぐし、「さとみちゃん写真!写真撮って~♪」とか!?
娘の彼氏捕まえて何やってんの!?
お父さんに言いつけるよ!?
「やだ~違うわよ、あ、まーちゃん、社務所使わせてもらうわね~♪」
「はい、どうぞ、只今御茶をお持ち致しますね。」
「ありがとー、ほら、二人とも行きましょう?」
何だ、勇者と魔王ごっこじゃないんだね…よかったよかった。
…でも、何かままんってば神主さんを当たり前のように執事さんみたいな扱いしてるけど、だいじょぶなのかな?
「すみません、神主さん…有り難う御座います。」
「いえいえ、お気になさらず、これが私の役目ですので。」
おにいちゃんがすかさずお詫びとお礼をすると、神主さんがそう言った。
役目って、ますます執事さんみたいだね、って、ぼくもお礼言わないと!
って、思ってたら神主さんは離れて行ってしまった…後でちゃんと言おう。
「で、ままん…何だって?」
社務所で神主さんが淹れてくれたお茶を楽しみつつ、足元のにゃんこをなでなで。
ふふ、首回りをなでなでしてあげるとゴロゴロいいながらぼくの手に頬擦りしてくれるんだよ♪
さらに指を甘噛みしてはザリザリした舌でペロペロ…ちょっと痛い。
「んなぁ~ぉ」
おっと、膝に乗ったこからこっちも構えと催促、ふふん、お応えしようじゃないか!
「だからぁ~、パパが家出しちゃったのよ!」
「はぁ? いつもの冒険に出掛けたんじゃないの?」
ぼくのお父さんは冒険家っていうお仕事してる人で、数週間から数ヵ月家を空ける事もあれば、丸一年家に居たりもする。
ここ数日見かけなかったからまたお仕事に出たんだと思ってたよ。
「違うわよ~、お仕事だったら必ずママとさとみちゃんに行ってきますのキスしてくでしょ~?」
「あー…そいえばそだねぇ~」
「本当、御家族仲良いですよね」
「ふふ、九重さん宅はおしどり夫婦の仲良し親子で有名ですからね」
おにいちゃんと神主さんがウンウンと頷いてる。
うん、ぼくも家は仲良し家族だと思うよ♪
「ほらぁ、この前さとみちゃんがお部屋でお兄ちゃんのこと押し倒して、ぇっちなことしようとしてたでしょう?」
「ぶふーっ!? ち、違うよ!!」
いきなりのままん大暴露発言に驚いて漫画みたいにお茶を吹き出しちゃったよ!
違うよ!ホントだよ!
ぼくの身長でおにいちゃんを押し倒せるわけないじゃん!?
あの時はおにいちゃんが…
「ん? もしかして、俺がさとみの部屋で寝落ちした時のことか?」
「そ、そう!そうだよ! おにいちゃん徹夜でレポートまとめてた~って、遊びに来たはいいけど寝ちゃって、それで…っ!」
「だから、お兄ちゃんの寝込みを襲っちゃったのよね?
仰向けになって寝てるお兄ちゃんに、大胆に跨がって~これでもか~って、顔近づけて、ね?」
「うわあぁぁぁーーーっ!!!」
言い方!!
何でそんないやらしくすんの!?
「おやおや、お若いですね…ふふ」
「神主さん、勘弁してくださいよ?」
恥ずかしいぃぃっ!!
「で、その時のちっす現場をパパと一緒に目撃しちゃって~♪」
「ぎゃふ…」
変な声出た…うぅ、彼氏との睦み合いを家族に見られるって…物凄い羞恥プレイだよ!
悔しいので開き直ってやる!
「そうだよ!ぐーすかぴーって呑気に寝ちゃったおにいちゃんの寝顔みてたら、イタズラしたくなったんだもん!」
「ちょ、さとみ!? 落ち着けって!」
「ままんだってしょっちゅうぱっぱとちゅっちゅしてるじゃん! ぼくだっておにいちゃんとちゅっちゅしたいんだぃ!!」
「何言ってるのよ! ママ達だってもっともぉ~っとちゅっちゅしたいわよ!
それこそ四六時中イチャイチャらぶらぶちゅっちゅしたいのよ!?」
「二人とも落ち着けぇぇーーっ!!」
……ごめんなさい。
開き直ったら余計恥ずかしくなっちゃったよぉぉ~ぬわぁぁ~!
おにいちゃんの一括と、神主さんが淹れ直してくれたお茶で何とか落ち着いたところで、改めてままんの戯言に付き合うとしよう…はぁ。
「…それでパパったらショック受けて家を飛び出して行っちゃったのよ~」
「で、その行先ってのが異世界って言うんですか? ちょっと無茶苦茶過ぎませんか?」
おにいちゃんの言う通り、いくらなんでも荒唐無稽過ぎるよ。
ままんの中二病がここまで酷いなんて…ちょっと、真面目に不安になってきた。
「…ふぅ、そうね、信じられないのも無理はないわね。」
そう言うとままんは唐突に立ち上がって、神主さんに指示を出し始めた。
「馬場、社の用意をせよ、娘達にも知ってもらわねばならん」
ゾクっ…!!
何…?
「畏まりました、天狐様の仰せのままに」
何何!?
ままんも神主さんも、雰囲気がガラっと変わったんだけど!?
勝手に身体が緊張で震える。
「天狐…様? た、珠実さん、貴女は…」
おにいちゃんも、ぼくと同じで緊張してるみたい…声が僅かに掠れてる。
「ふっ…微かなれどこの気に当てられ声を出せるか…やはり其方には素質があるようだな」
【気】?
何…ままんから凄い圧迫されるような感じがするコレのこと?
「ままん…」
「黙ってついて参れ、我が娘よ。そこで己が観、聴き、感じたままに答えればよい」
そう言ってぼくたちに向けたままんの背中は、何だかすごく大きくて。
…何か尻尾がいっぱい見えた気がした。
お社の中は不思議な空間だった。
というか、面積おかしいよ…外から見たこのお社、ちょっとした小屋だったのに、中に入って見たら真っ暗で、外からの明かりが全く入ってこない…一体どうなってんの?
「ふふ、気になる? さとみちゃ…気になるか? 我が娘よ。」
「…」
イラっ…。
何でわざわざ言い直すの?
さっきは正直驚いたけど、普段のままんがままんなだけにスッゴい違和感。
ちょっと仕返ししてやる!
「ええ、御母様、私とっても驚いておりますわ。」
「ふぁ!? さとみちゃん?」
「さとみ…ふっ、そういうことか。」
ぼくはわざと不安気な表情を作って、あえてお嬢様言葉でしゃべるとおにいちゃんも察したみたい、さぁ…仕返し開始!
「ねぇ、御母様、先程の威圧的な物言いは何だったのですか?
私、知らぬ間に御母様のご機嫌を損ねてしまうような粗相をしてしまったのでしょうか?」
眉は八の字!
喋ってる途中で見えないように足をつねる! 痛い!けど絶対声に出さないで、涙出す!
これで自然と涙目完成! さぁ、どうだままん!?
「え? ち、違うわ、そんな事ないのよ?」
効果はバツグンだ!
続いておにいちゃんが畳み掛ける!
「おうおうおう! 珠実かーちゃんよぉ? 何娘苛めてんだよ?あぁっ?」
「ひぇっ!? お兄ちゃん!?」
ぷふー♪
ままんてば慌ててる慌ててる♪
「違ぇってなら、何いきなりメンチ切ってんだよ? 説明してくれや…なぁ!?」
おにいちゃん、物凄いヤンキーっぷり!
下から抉り上げるように顔を近付けて迫ってる!
「そうですわ御母様! 違うと仰るのならしっかり説明して下さいませんこと?
でないと、私今後ずっとこのままで行きますわよ!?」
「おう! 俺もこのまま行くぜぇ?」
いきなり態度を豹変させたぼくたちにままんはたじたじだ!
演じてみて思ったけど、お嬢様言葉って結構面白いね♪
ぼくもノってきたよ。
「わ、わかったわ! わかったから! ママが悪かったから~ごめ~ん!
ちゃんと説明するから、いい子の二人に戻って~!」
あらら、ままんったら、もう根を上げちゃったよ♪
「いーい? 二人ともよーく見ててね! はーい、ポンッ!」
「ほあぁっ!! 耳~!」
【Pon!!】とか言う擬音が飛び出て来そうな勢いで出てきたのは、きつね耳だった。
ままんの頭にふっさふさのきつね耳!
「はっ!? そうだ普通の、えっと人間の耳は…おぉ、ない…無くなってる!」
「そりゃそうよ、お兄ちゃん…耳四つもあったらおかしいでしょ?」
まずは見てもらったほうが早いかな、と、ままんが見せてくれたのは、ままん自身の正体だった。
何かすっごい長たらしい名前があるんだけど、面倒だから【天狐】でいいってさ。
「ままんままん! 尻尾尻尾は!? いっぱいあるんだよね!?」
「…お兄ちゃんもそうだけど、さとみちゃんの順応力もなかなか凄いわよねぇ…驚かないの~?」
「珠実さんの娘だからでしょう?」
「いやいや、お兄さんもなかなかだと思われますがね」
「そうですか? 十分驚いてますよ、というか神主さんも…もしかして?」
「えぇ、お察しの通り、私は古来より天狐様にお仕えさせて頂いております、馬面で御座います。」
「だから【馬場】さん、なんですね?」
「えぇ、その通りです。此方で暮らすことになって、どうしたものかと悩んでいたのですが。」
「パパが提案してくれたのよ~、この古びた誰も住んでない、管理もされてない神社の社を出入口にして、神主としてそのまま管理すればいいって!」
「ままん!尻尾ー!」
もぅ!早く見せてよ!
神社云々とか後でいいよ!
「あらら、ごめんねさとみちゃん…はいどうぞ~!」
「おぉ~…ぉ? …ままーん一本しかないんだけど?」
あれぇ~さっきは何かいっぱいあるような気がしたんだけどなぁ?
でも、ふっさふさのもっふもふ~♪
「あらあら、さとみちゃんったらママの尻尾に夢中ねぇ♪」
「…神主さんは、そのホントの姿? にはならないんですか?」
「私ですか…戻ってもいいのですが、結構シュールかと思いますよ? 何せ首から先が馬ですからね」
「な、なるほど…いや、それはそれで見て見たい気も…」
「ん? おや…天狐様、皆来られたようですよ?」
「はーい、さとみちゃん、お兄ちゃん! 二人を皆に紹介するわね~♪」
そう言ってままんが立ち上がると、暗かった社の中が明るくなってきた。
資料によっては天狐>空狐だったり、天狐<空狐だったりするみたいですね、深く考えてませんでした。
この作品では、ままんはいっちゃんえらーい神様だって事にしてまうです。
次回、色々出て来ます。
能面ゲーム…この間漸く1ステージだけゴールドメダル取れました。
残り3ステージ…頑張ろう。