序章 2 おにいちゃんの優雅な1日
今回はおにいちゃん視点でお送りします。
優雅な1日、私も過ごしたいものです。
講義が終わった。
今日は午前中の予定で午後はバイトもなく時間が出来る。
大学生っていうのはなかなかに自由が多いものだと改めて実感。
「昼食は、さて…どうしたものか」
普段なら学食で友人達と食べ、そのまま遊びに繰り出したりもするが、今日は彼女のさとみとの時間を優先しようと思う。
九重さとみ。
俺の3歳下のお隣さんで幼なじみ。
俺の鳩尾までくらいの低身長。
にもかかわらず、出るとこ出てて引っ込むとこは引っ込んでる。
ぼくっ娘ロリ巨乳。
動物好きの料理好き、明るく可愛い。
「おにいちゃんおにいちゃん」となついてくる様はホント可愛い。
と、そのさとみはまだ学校だ、平日でなければ食事を作ってもらうんだが。
とりあえず、放課後いつもの場所で落ち合うようメールを送っておく。
さて、となると昼食は家の冷蔵庫と相談するとしようか。
さとみ程ではないが俺も少しは料理をする。
まぁ、さとみの影響なんだが。
俺の両親は共働き、決して裕福ではないが貧乏でもないごく一般的な家庭だと思う。
しかし、お隣の九重さん家は父親が【冒険家】という、これまた珍しい職に就いており、母親は専業主婦。
さとみが産まれたことでだいぶ落ち着いたそうだが、昔は世界中を飛び回って結構な資産を築いたのだとか言っていた。
まぁ、普段家に居ることが少ない俺の両親に比べて、九重さん家のご両親は家に居ることが多い。
俺の両親もこれ幸いにと九重さん家と懇意になり、留守の間俺をお願いしますと頭を下げていたのを覚えている。
九重さん方も娘と歳の近い俺を大層気に入ってくれたようで、本当に良くしてもらっている。
心から感謝したい。
社会に出て一人前になった暁には精一杯孝行するつもりだ。
さて、家に帰り早速冷蔵庫を開けてみる。
豚バラ肉、玉ねぎ、ピーマン、昨日炊いたご飯、卵。
…うん、チャーハン作ろう。
さとみに貰ったギャルソンを装備して調理に取りかかる。
手順はテキトー…詳しくないんで。
玉ねぎをみじん切り…目が痛い、ピーマンを…何て言うんだ、ざく切り?
軽く炒めて少しだけ塩コショウ、別皿に取っておいて今度は一口サイズに切った豚バラ肉を同じく軽く炒める。
ピーマン玉ねぎ皿に一緒にしておいてフライパンを空けて…あ。
『おにいちゃん、チャーハンに使うご飯は冷えてるなら水、温かいならマヨネーズ。だぞぃ』
…そういえばさとみがそんな事を言っていた。
やってみるか、今回は冷飯だから水で洗って良く水を切る…最初にやっておけば良かった…。
卵は切るように、そして米投入、混ぜて混ぜて炒めておいた具材投入!
炒めて炒めて、ちょい味見…おぉ!パラパラだ!
少し味が薄い、ちょっとだけ醤油…うまぁい。
飲み物にコケコーラで頂く。
かなりテキトーに作ったが十分イケるチャーハンだ。
…どうでもいいことかも知れないが、諸君はコーラ派閥を知っているだろうか?
主派閥は、コケ派とヘブシ派の二大派閥なのだが、俺はコケ派。
ヘブシも嫌いではないのだが、俺の中ではコケに軍配が挙がる。
一度大学の友人達に軽い気持ちでこの話をしたら、よもやキノコタケノコ戦争に比類する戦が始まってしまい、更にゼロ派なる新派閥まで発足。
同様にコケ、ヘブシ派に別れ激化した。
事態の収拾に東奔西走するはめになってしまったのは言うまでもない。
因みにさとみにこの話をしたら大笑いされてしまい…
『ぼくは炭酸飲めないからねぇ~あ、でも、唐揚げ用の鶏肉をそのコーラと醤油で煮ると美味しいよ』
なぜか、新たなレシピを教えてもらった…むぅ、コケ派に引き込みたかった。
食事を終えて時計を見る、結構余裕があるな。
少しゲームをしようか、最近友人に教えてもらった面白いゲーム。
パソコンから始まって、某有名コンシュマーにも移植されているくらい人気が出ている…
エロゲーじゃなぃやぃ!
ホラーゲームだ。
迫り来る能面どもから逃げ回るゲームなんだが、俺はこれをホラーゲームとは思わない。
と言うのも、敵の動きが面白いからだ、踊ってるとしか思えない動きで迫ってくる能面。
初見で見入って大笑いしていたら殺られてしまった、時々思い出し笑いをしてしまう程だ。
当然、さとみにもやらせてみた。
最初こそ能面に追いかけられてきゃーきゃー言っていたが、すぐに笑い声の方が多くなっていた。
友人にはお前らおかしいとか言われたが…失礼なやつめ。
適度に能面に追いかけられていると、スマフォのアラームが鳴った。
「もう時間か」
危ない危ない、アラームを設定してなければゲームに夢中でさとみとの約束をすっぽかすところだった。
さぁ、出掛けるとしよう。
行き先はさとみの通う高校のすぐ近くの商店街だ。
高校側の入り口に招き猫を象った大きな時計がある。
その下はちょっとした休憩スペースになっており、よく待ち合わせ場所等に使われていたりする。
俺達も多分に漏れず利用している…まぁ、さとみが卒業したらどうなるか分からないんだが。
家からも近いこともあり商店街の利用は止める事はないと思うが。
他にもあの商店街を利用する理由はある。
寧ろこちらの理由こそが大きいかもしれないくらいだ。
と言うのも、この商店街の中心には神社がありそこに野良の動物達が寄って来るのだ。
商店街の住人達も当然周知しており、皆で可愛がっている有り様。
まぁ、俺達もその住人達と同じように可愛がっている側なんだが…。
ここ最近は特に数が増えて犬猫十数匹位は見かけた。
一時期数が減ったのだがどうも飼い手が見付かった子達がいたらしい。
それでも多いんだが、ともあれ…餌に困ることなく、境内で大いに遊び回り、怪我や病気になっても誰かしらが気付き動物病院に連れていくしで、至れり尽くせり。
皆毛並みは綺麗だし、目やにのある子なんて一匹もいない。
まるでブリーダーのようだ。
そんな状況を大の動物好きである俺の彼女さんが見過ごす訳もなく、恐らく生涯通い続けるのではないかと思っている。
時計の下のベンチに座りソシャゲで遊んでいると。
「おにいちゃん♪」
声を掛けられた。
目の前には空色を基調に要所要所に白をあしらった制服に身を包んだ女の子。
腰くらいまである艶やかな黒髪をふんわり、やわらかく二房に別けて前に下ろしている。
幼さの残る顔立ちに、優しげなタレ目と人懐っこそうな笑顔で俺を呼ぶ140cm。
「お帰り、さとみ」
「うん!」
俺の可愛い彼女。
すっと、差し出した手が握られる、相変わらず小さくて可愛い手だ。
「おにいちゃんおにいちゃん、今日男子に告白されたぞぃ」
いきなりさとみがそんな事を言い出した。
「…またか、今年入って2回目だよな?」
「うん、もちろんおにいちゃんがいるからってお断りしてるんだけどね~」
そう、なんだかんだでさとみはモテる。
彼氏としては誇らしいが、モヤってするのも事実…顔には絶対出さないけどな!
「はぁ~、正直迷惑…」
「さとみ、ぶっちゃけると…お前がロリ巨乳のぼくっ娘だからだろ?」
「ぶふー!?」
おうおう、盛大に吹きやがった!
俺をモヤっとさせた罰だ、もう少しからかわせてもらうぞ~♪
「しかし、3人か…俺のさとみに変な虫がと憤る気持ちと、さとみのことわかってるなと、変に同意するきもち…複雑だな!」
そう言って顔を覗き込んでやると、見る間に慌て出す。
空いてる手で唐突に髪をいじりだし、視線が泳ぐ。
「さとみは着痩せするから判りづらいだろうな、胸だけじゃないと!」
「おぉ、おにいちゃん!何てこと言うんだよ~!?」
おっとっと、少しからかい過ぎたか?
少し涙目でうーうー言ってる、そんな姿も可愛いくて仕方ない。
「ふっ、そうか…そんなさとみを独占している優越感を楽しめばいいんだな。」
「あーあー!もぅこの話おしまーい!」
むぅ!って睨まれてしまった、可愛い。
そうやって適度にさとみをからかいつつ、会話を楽しみ例の神社に立ち寄る事に。
先日入ったバイト代で動物達のおやつを買い込み、鳥居を潜って階段を昇るときつねの石像だ。
神社できつねと言えばお稲荷さんだと思うが、どうもこのきつねは違う気がする。
そう思うのは、隈取りがないせいだろう。
俺が知ってるお稲荷さんは白い毛並みに赤い隈取りが施されているやつ。
いや、単に俺が知らないだけで普通のきつねの像でもお稲荷さんになるのかな?
さとみにも話を振ってみるか。
「お稲荷さん…じゃあ、ないよなぁ…このきつね」
「ぬはは、お母さんが以前、「私の石像よ~♪」とか、訳わかんない事言ってたけどね~」
「珠実さん相変わらずなんだなぁ」
何を言ってるんだあの人は…。
さとみの母親である九重珠実さん、17歳の娘もちとは到底思えない若々しい女性だ。
さとみと姉妹と言われたらきっと、誰もが納得するだろう。
…ここ十数年、全く容姿が変わってないような気がするんだが…気のせい、だよな?
さとみの母親だけあって、優しくて、明るくて、料理上手で、お茶目でもある。
しかし…中二病という悪癖があって、俺もさとみも巻き込んで、魔王と勇者ごっことか始める事がある。
隣を見ると、思い出しているのか、さとみも遠い目をしている。
お稲荷さんかどうかは神主さんに聞けばいいか…。
境内に入る前にこのきつねを布巾で綺麗に拭きあげる。
昔からの風習だな。
境内に入ると早速犬達が駆け寄ってくる、相手してやりたいが、まずは神主さんに挨拶せねば。
「待って~ワンちゃん達、最初は挨拶から!」
「ワンワンワン!」
うん、今日もコイツ等元気いっぱいだな。
「おや、これはこれは、九重さんにお兄さん。ようこそいらっしゃいました。」
「こんにちは、神主さん、お邪魔させてもらいますね。」
「こんにちは~今日もたっくさんもふらせてもらいま~す!」
境内を掃除していたのだろう、竹箒を手に、作務衣姿の神主さんが出迎えてくれた。
まだ30代半ばなのに滲み出る渋さが格好いい。
「どうぞどうぞ、沢山可愛がってあげて下さい。
そうそう、今日は珠実さんもいらしておいでですよ。」
「ぅえ? お母さん来てるの?」
「はい、つい先程お見えになりまして…あぁ、丁度此方にいらっしゃいましたね。」
次回、お母様の登場です。
のんびりだらだら…ゆるりと話を進めていきます。
能面に追いかけられるゲーム。
面白いですね♪
私はPC版とスイッチ版をやっておりますが、どうしても金メダルが取れないんですよねぇ…。