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パンデミック  作者: 桜桃なる猫
第二章 隠された裏側
20/59

20.剛の持ち味

ーー20日目

 規則正しい生活は続き健康的な毎日を過ごす日々。

 今日も早い時間に一人で食事をした剛は、すっかり日課になった午前中のジムでの運動を終えて再び食堂に来ていた。


 どうせなら食事にも気を付けて克之のようなバキバキの肉体でも作ってみるか、などと考えてはみるものの、レトルト物の多いパンドラでの食事で脂質制限など出来るはずもなければ、栄養の偏りを無くす為のサプリメントや筋肉量増強の為のプロテインといった物などがあるわけがない。

 

 無理のある思考を笑い飛ばすと、それでも少しでも肉を!と牛丼と味噌汁を用意して食べ始めた。


「お母さん、オヤツ食べていい? 羊羹、一個だけ良い?」



(お母さん……オヤツ?)



 まだ身体の成長し切っていない舌っ足らずな声と、何処かで聞いたフレーズに意識が持っていかれる。


 近くのテーブルで食事をしていた小さな女の子は母親の許可を得ると満面の笑みで椅子から飛び降りた。


 他の人とぶつかりそうになりながらも食料品の並ぶ棚まで到達すれば、勝手知ったる我が家の如く、下の方に置いてあった羊羹を二つ持って急いで戻ってくる。


「はい、お兄ちゃんの分っ」


 勢いよく置かれた羊羹を落ち着いた動作ながらも手にする男の子。


 だが、母親に頭を鷲掴みにされ怖い顔で覗き込まれてようやく「ありがとう」と小さな声でお礼を述べる姿にほっこりしていると、すぐ近くにお盆の置かれた音がした。



「ボクもオヤツ食べたいんですかぁ?」



 心躍らせる人物の声に頬を緩ませ振り返れば、期待通りの笑顔を携えたポニーテールの似合う美人のお姉さん。

 そして正面には更に美しい金髪美女が剛に向かい笑顔を向けている。


「ああやって嬉しそうに食べてるのを見るとこっちまで食べたくなりますよね?」


「その気持ちは分かるけど、私は太るから却下だな」


 体の線が見えない病衣の上からでも見事だと分かるプロポーションをしているというのに、少しばかり糖分を取ったとて大した違いにはならないだろう。


「剛くんってば、咲さんの身体をジロジロみて〜、また変な妄想してたでしょ?」


「またって!? し、してませんよっ! お昼から何言い出すんですかっ!?」


 図星を突かれて慌てていれば二人からしてみたら当然のようにバレバレなのだが、それでも取り繕おうとする剛に合わせて「そうですか、そうですか」と気の無い返事をすると持ってきた食事に手を付ける。


「話を振っておいて放置プレイとか、酷いっ……」


「あははっ、じゃあ小さい子が趣味で見惚れてたとか?

 そうかそうか、剛くんってば、こんな美人二人と仲良くしてる癖にちっともちょっかいかけて来ないなぁと思えば、私達は年齢的に対象外だったのね? これは今日一のショックだわぁ〜」


 更に続く玲奈の遊びに カクッ と項垂れたものの、本当はそんなイジリすら嬉しく思っているのに悲しいフリをする。

 それは剛なりに導き出した玲奈と咲に対するコミュニケーションの在り方だった。


「ぼ、僕は幼女趣味だったのか……知らなかった…………って、違いますよ!

 パンドラに来る時に一緒だった女の子、覚えてませんか? ほら、僕がお菓子をあげたから少しだけ仲良くなって、手にチップ入れられる前まで一緒に居た女の子」


 ようやく思い出した咲が ポンッ と手を打てば、覚えていてくれたかと安心する。

 だが、相手は剛で遊ぶ楽しみを理解する咲、それだけでは終わらない。


「つまり、あの女の子よりあの女の子の方が可愛いよねって話しでしょ? ごっめ〜ん剛くん、私にはどっちも可愛く見えるから同意してあげられないわ」



「どっちがどっち!? そもそも、話し違うしっ!」



「あれれぇ?そうなの? 小さい子が趣味な剛くんだから黄色の……ゆうこりんだっけ?アレとも仲良いんだと理解したんだけど違ったのかなぁ?」


 誰とでも漫才のような軽いのりでコミュニケーションをとる秞子は男女問わずCパケッツの人々から親しまれている。


 しかしその中でもよく絡んでいるのが目撃されている “剛きゅん” と愛称で呼ばれる剛の事は知らぬ者の無いほどに認知され『付き合ってる』などと噂が囁かれるほどだ。


 実際のところ、剛が一方的に絡まれているだけなのは二人が戯れ合う所を見れば分かる筈なのだが、何せやることの少ないパンドラの生活、一度立ったゴシップには尾ひれはおろかその他諸々の付属品が付いてもおかしくはない。



「お前、マブ姉ちゃんの他にもまだそんなイケてる女を隠してたのか? 意外と隅に置けねぇなぁ、おい」



 機嫌が良かった玲奈の顔を曇らせた克之は剛を挟んで反対側に座った。

 その隣にはなんとも言えない申し訳なさそうな顔の千鶴。


 良識を弁えた彼女からすれば挨拶も無しに場に割り込むのは失礼だと思いながらも、克之に合わせて二人に軽い会釈をするだけに留めていた。


「玲奈が言ってたヤンキー君は君の事か。 見た目通りやんちゃそうだけど、彼女さんに倣って他人とのコミュニケーションの仕方を少しばかり学んだ方がいいんじゃないのかな?」


 笑顔で話す咲ではあったが言葉には少し刺がある。

それを感じない克之ではなかったが、机の下で握られた手と千鶴の視線とに止められ冷静さを保っていた。


「そうかい? 剛よりはマシだと思ってっけどなぁ。 でも、俺には俺なりのやり方が……」


「その君なりのやり方で玲奈を怒らせたのは反省しないのかな?

 それに剛くんを低く見てるようだけど、他人との距離感が掴めてないだけで決して見劣りするような人じゃない。 寧ろ、尖ってるのがカッコいいと思ってる貴方より遥かに魅力を感じる男性だわ」


 静かながらも、なぜ突然怒り出したのか理解出来ていない剛は、残念ながら褒められたのにも気付かない。


「あ、あの咲さ……」


 どうしていいか分からなくなりながらも一先ず咲を止めようと口を開きかけたところに「剛くんは黙ってて」とカウンターをくらい撃沈してしまう。


 その様子に苦笑いを浮かべながらも頭を撫でた玲奈がそのまま引き寄せれば、素直に コテン と肩に寄り掛かる姿に克之も千鶴も言葉を失い驚いてしまう。



「私の言いたい事があまり分かって無いようね。

 単刀直入に言えば、君は女性を見下している。 もしかしたら同じ人間どころか、性を吐き出すための道具としてしか見てないんじゃないのかな?


 別に君という存在を否定する訳じゃないし、そういう態度が素敵だと感じる人もいるのかも知れない。 でも、君の彼女さんにまでそんな思想を突き通せば、そのうち意見が合わなくて喧嘩する羽目になるんじゃないのかしら?」



 だが多少仲を深めたとて剛は剛。 咲にやられた流れで玲奈に戯れ付いたとて、本気で甘えに行ったわけではない。


 ごく僅かな時間でも玲奈との触れ合いを堪能すると、すぐに頭を起こした剛は玲奈や咲とも仲良くなって欲しいと願いながら、目を瞑って何かを考えてる様子の克之を心配そうに見ていた。


「確かに、俺は女に対してそういう目で見ている。 誘ってもいないのに媚を売りに来るような女なんぞ、どうでも良かったからな。

 けど、千鶴や、剛のツレであるアンタ等にまでそういった気持ちで目を向けてた訳じゃあねぇ。……が、そういう事を言われるって事は俺に非があったんだろう、すまない、謝るよ」


「素晴らしい。 もっと噛み付いて来るかと思ったんだけど、その謙虚な姿勢は褒められたものだと思うよ。 ねぇ、玲奈?」


 喋りたくもないと咲の視線から顔を逸らした玲奈に皆の苦笑いが誘われる。

 それでも克之の返答に満足の咲は微笑んだままでいた。


「けどよ、悪ぃが俺は俺だ、この性格を直すつもりは無い。 もしそれが気に入らないってんなら、いくら剛のツレだからって俺からはもう近付かないから言ってくれ」


 振り向いた玲奈の顔には「来るな来るな」と書かれているのが剛には見えてしまい、大きな溜息を吐きたくなったのは仕方のない事だった。


 出来れば仲良くなってもらいたいという願いは届かず、気が合わないものは仕方がないと諦めかけたのだが、咲の言葉が全てをひっくり返す。



「人を見下せば、人からも見下される。 早くそれに気付くことを祈るよ。

 それで君の提案なんだけど、君が剛くんのお友達である以上、仲良くしてあげた方が剛くんが嬉しがる。 だから君が近付くことを許そうではないか。

 しかし、ここで重要なのは君が剛くんの友達って事だ。 そうでなければ同じ返答はしていないという事ぐらい賢い君なら理解出来るよね?」



「人には見下すなと言いながら、ずいぶん上からモノを言うんだな」


 喧嘩腰かと言うとそうでもなく、挑戦的な笑みを向け合う二人は何かが通じ合っているようにも見える。


 そして吊り上がっていた口角を更に引き上げた咲はトドメの一言を口にした。


「私は君よりずいぶん年上だ、年配者は敬うモノだよ、少年。

 それで提案なんだけど、やる事の無い施設での生活だ、この後の予定なんて無いよね? と、言うわけでぇ〜、剛くんの友人同士の親睦を深める為に、このメンバーで『人生ゲーム』でもやろうじゃないか」







「剛くん……私、赤ちゃん出来たみたい」


 両手を頬に当て恥じらう姿は千鶴の目からしても可愛いと思わせるモノがあり「勉強になる」と、心にメモを取りながらもじっくり観察していた。



「マジでっ! 出産祝いってこんなに高いんですか! $1,000って10万ですよね!?」



 全員から差し出されたお金のカードを「毎度あり〜」と嬉しげに受け取って行くが、克之のカードだけはむしり取るように奪い去ったのは玲奈と克之の心の距離の現れだろう。


「出産って女にとって一大イベントなのよ? 剛くんは鼻からスイカ取り出すから心の準備しといてねって言われて逃げ出したくならない?」


 僅か数秒で血の気が引いた顔をみれば、剛の想像がその様子に行き着いたことくらい誰にでも分かる。

 しかし大きな溜息で妄想を吐き出すと、頬を叩いて気持ちを切り替えたようだ。


「よ、よぉっし! 僕だって……」



カカカカカカカッカッカッカッ……



「ええっ!?」

「ぷっ! たっ、剛ぅ、おめぇマジ面白れぇ! くははははっ、そんなけ気合いれてそれかよっ、あははははははっ!」



《後先考えず家を建てる。$50,000支払う》



「け、結婚もしてないのに持家が……しかも借金!!」


 愕然と項垂れた剛の頭を玲奈が撫でると、たかがゲームなのに泣きそうな目をして顔を向けた。

 そんな様子に剛という人物への理解を深めると、自分の番だと数字の書かれたルーレットを勢いよく回した千鶴。


「あら、私、結婚。 借金中に悪いわね、剛くん。 $1,000下さい」


「ふぉっ!? マジか……」


 続いてルーレットを回した咲が金山を掘り当て$100,000を手に入れると、次の克之がとんでもない場所に止まった。



『借金を押し付けて逃亡。 ルーレットを回して止まった相手から$10,000貰う』



「克之っ、分かってるよね? ここは一番お金持ちの咲さんから取るんだよ!?」


「安心しろ、大丈夫だ。 俺は空気の詠める男だぞ?」


 口角を吊り上げると全神経を集中させルーレットの摘みに指をかける。

 そんな事をしても止められる場所など選べるわけでもないのだが「剛に止まれ!」と強く念じる克之。


 さらに不吉なことに、両手を合わせて神にでも祈るかの如く固く目を閉じた剛の耳には「剛くんに止まる、剛くんに止まる、剛くんに止まる」と低い声で念仏のように呟かれる咲の声が纏わりついて来る。



カカカカカカカカカカッ



 弾かれたルーレットは軽快な音を立てて回り始めた。

 しかし場所を示す為に伸ばされた指針が抵抗となり、その速度は徐々に削られて行く。



カッカッカッカッ……



 克之の自信に満ち溢れた視線、千鶴と玲奈の愉しげな視線、そして悪戯心満載といった咲の視線が見つめる中、回転を続けるルーレット。



カッ、カッ、カッ…………



「うっは! 流石俺っ! 空気詠みすぎだろ!!」

「あははははははははっ、あはははははははははっっ、あははははははははははははは」

「剛くん……」

「持ってるわね、剛くん」


 その声に己の運命を理解しながらも恐る恐る目を開けてみれば、指針の示している数字は 『 1 』



 それは剛の事を指す数字だった。













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