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パンデミック  作者: 桜桃なる猫
第二章 隠された裏側
19/59

19.天使達の戯れ

「はぁ〜〜あ……進まないなぁ」


 本日の予定業務を終えた絵里は、パンドラの中心部〈ヴィルカント〉にある自分の席に着き、凝り固まった身体と頭を解そうと背もたれに身を預けて大きく伸びをした。


「溜息なんて珍しいわね」


 その手を取り、自慢の黒髪を垂らして覗き込んで来たのは、黒縁メガネが真面目な印象を与える《菅野すがの 美香みか


 50人以上いるパンドラの看護師の中でも絵里ともっとも仲の良い彼女は、剛がマイクロチップを埋め込まれた時に一緒に居た女性だ。


「美香ぁ、なかなか振り向かない男をモノにする秘策、無い?」


「なによそれ。 まさか、まだあの子とシテないの?」


「だぁってさぁ……」


 しばらく顔を合わせてなかった親友にお目当てにしている剛との進捗を報告すれば「はぁ?」と目を丸くして驚かれてしまう。



「何なに? 剛きゅんの事?」



 剛達Cパケッツよりも体調の良くない人が集められたAパケッツ担当の美香がここに居るのが珍しい事だった。


 Cパケッツ担当の看護師達の詰所に当然のように入って来た秞子ゆうこは、自分がお気に入りとしている剛の話題を察すると遠慮も無しに会話に飛び入り参加して行く。



『無邪気』



 26歳という年齢に反して小学生のような幼い容姿、その見た目相応に裏表の無い性格は嫌う者が少なく誰とでも仲良く出来るのが彼女の特技であり、言葉で形容するならばその一言に尽きると言うもの。


「まさか、秞子も狙ってるの? って言うか、それオッケーなの?」


「オッケーも何も、目的さえ達成すれば何の問題があるの? もしダメって言うなら私が先に見つけたんだから秞子が変えてよね」



 シュゥゥゥゥンッ



 反論しようとした秞子を遮るように開けられた入り口の扉。



「何なに? 珍しく秞子が喧嘩してんの?」



 今度は鮮やかなオレンジの髪と膨よか過ぎる胸とが人目を惹く芽衣裟めいさと、それ以上に目立つピンクの髪を頭の両側から吹き出させたギャルメイク看護師《堀田ほった 美菜水みなみ》の派手派手コンビが姿を現した。



「秞子はん虐めよったらウチが許さへんで?」



 秞子が入って来たのに合わせて入り口の方へと向きを変えた絵里の座る椅子、その背後に回り背もたれに両肘を突いていた美香へと矛先が向けられたのは、この中で唯一彼女だけがCパケッツのメンバーではなかったからだろう。


 小さく横に振る顔の前で手も一緒に振って「自分ではない」とアピールすると、細められた美菜水の視線は呆気なく緩んで柔らかいモノとなる。


「私が誰かと喧嘩などする筈がなかろう。 それより聞きたいのだが、皆、夜のお仕事の方はどんな感じなのだ?」


 両手を腰に当て、あるのかどうかの疑問すら湧いてくる胸を張れば、リーダー然とする秞子の微笑ましい行動に暖かい視線が集まる。


「どんなって、回数のこと? 最初は敬遠してた奴らもコッチから誘ってやるとなかなか従順でさ、僕は最近、毎日朝帰りだよ」


「ウチも似たような感じかなぁ。 ただ、毎日ではあらへんけど、この後も予定があるんよ」



「ゼ〜〜ロ〜〜っ」



 芽衣裟と美菜水に続き口を開いたのは、お行儀悪く椅子からずり落ちた姿勢で足を投げ出し、肘掛に両手を広げる絵里。

 どこかのテレビ番組をなぞってのやる気のない報告でも彼女の意図とする言葉は伝わったようで、その場の四人の笑いを誘うには十分過ぎた。


「まさか、まだ剛きゅん一筋なわけ? しかも進展無しとか? それで秞子と喧嘩してたの?」


「どうせ不出来な私は男一人振り向かせられないほど魅力がありませんよぉ〜だっ」


「そないな事言うて……Cパケ内で一番人気なんは間違いのう絵里はんなんやけどなぁ」



「ってことは何? ずっとしてなくて欲求不満だってことよね?」



 背もたれから身を乗り出した美香が服の中へと手を滑り込ませれば、慌てた絵里がそれを押さえてみるもののそんな事では阻止しきれない。



「あはぁぁんっ、ちょっと!美香!」



 口元を歪ませる美香の指が踊れば、外からでは分かりにくい豊かな胸が自由自在に形を変える。



「止めっ、ちょっと! 本気でやめてっ……はぅぅっ!」



 そうなると乗りの良い芽衣裟と美菜水も黙っていられるはずがない。


「それならそうと言ってくれればいいのに」

「せや、遠慮なんてする必要あらへんのに、なぁ?」


 両足をそれぞれ捕まえて動かぬように固定させると、面白半分に太腿の内側に指を滑らせて絵里で遊び始める。



「嫌っ! 嘘でしょっ!? 止めて……はぁぁぁぁあんっ」



「うふふっ、絵里ってば可愛いのよねぇ。 このままみんなでする?」

「それも面白そやなぁ、そうする?」

「なんならビデオ撮って貸し出し端末にアップしとく? くっくっくっ、そうすれば剛きゅんは絵里にドン引きで妾が頂く事に……ぐふふっ」


 何かをしたら反応してくれるという事は、会話にしろ遊びにしろ、嬉しい事である。


 指が動く度に敏感な反応を示す絵里の身体は彼女達にとっては恰好の玩具となり、冗談のつもりであった筈なのに、その魅力に惹かれていつのまにか歯止めが効かなくなり始めていた。



シュゥゥゥゥンッ



 集中攻撃に遭い息も絶え絶えの絵里意外、全員の気まずい視線が向かう先には短く切られたシルバーに近い水色の髪がボーイッシュな印象を与える女性《杉浦すぎうら 野乃伽ののか》と、ゴーグルとヘルメットを着用した変わった格好の看護師が開け放たれた扉の向こうに現れた。


 大きく股を開かされ椅子の上で押さえ付けられている姿はあからさまに異常。



シュゥゥゥゥンッ



 しかし、表情を崩す事なく部屋に入った二人は動きを止めたまま何を言われるのかとビク付く四人と対峙したのだが、反応を見せないまま無言の時間が数秒続いた。



「Bullying is not good , A friend?」

(イジメは良くないわ、仲間でしょう?)



 パッと手を離して離れると、白々しい態度で “自分は何もしていない” と視線を泳がせる。

 そんな事はまかり通る筈はないのだが、すかさず話題をすり替えようと秞子の饒舌な舌が回りだす。


「の、野乃伽は夜の方、上手く行ってんの?」


「上手く行ってるかどうかは……分からない……けど……何人かとは契りを結んだ。

 でも……赤ちゃんって……簡単に出来る……の?」


「知らへんけど毎晩 ズポズポ 頑張ればそのうち出来るん違いますぅ?」


「ズポズポとかやらしいな、美菜水。

 それよりもさ、ぶっちゃけみんなはどう思ってんだ?」


 疲弊した絵里がずるりと座る椅子の肘掛に腰を乗せ、力無い眼差しながらも恨めしそうな視線を向けられる芽衣裟。

 愛しいモノを愛でるようにその頬に手の甲を添わせてから皆を見渡すと、リーダーである秞子で視線が止まる。



「どうって、受精卵を抜き取る話しの事かね?」



 あっけらかんと吐き出された驚くべき言葉。


 彼女達パンドラの看護師は、避難して来た一般人の健康管理と生活のサポートを担っている。

 しかしその一方で、院長八木より別の指令が出されていたようだ。


「妊娠しても大丈夫って言うのんはありがたいでなぁ、お陰で気兼ねのう生で出来るってもんやん?」


「母体に負担をかけずに……受精卵を抜き取る……それが可能って……前提……よね?」


「着床すぐなら出来るって説明だったね。 院長先生が言うんだから大丈夫なんでしょ?」


「そうなのかな? 僕は聞いたことも無い事だったから不安なんだけど、美菜水が言うように生で気兼ねなくってのは唆られるよね」


 微笑み合う彼女達は性に興味旺盛な若い女性の会話ではあったが、その中で一人、面白く無いと頬を膨らます者がいた。



「相手が見つかるのは羨ましい事で……」



「あら、人当たりの良さなら秞子、一番人気あるのよ? ただ性の対象として見られてるのかは疑問やさかい、最後まで行けるのかどうかは秞子の腕次第なんちゃう?」


「腕、ねぇ……」


 その容姿が故に初日から可愛い妹的アイドルとして不動の地位を築いた秞子。


 20代30代が多い避難者達にとってそんな秞子を女性として見ろと言われても難しいモノがあり、その中に潜む幼女趣味者を探さなければならない分、彼女達のもう一つの目的達成にはなかなかに難しい立ち位置にあった。


「まぁ、秞子には頑張ってもらうとしてさ、みんないるならついでにもう一つ聞いておきたいんだけど……その後についてはどう思ってる?」


「せやなぁ、ウチら研究者って言うよりも……」



パチッ!



 全員に見えるように指を鳴らし、注目を集めたゴーグル看護師。

 もう片方の手で人差し指を立てて唇に当てると、次にインカムを指してから指を交差させ小さく×を作る。


 カンの良い彼女達にはそれが何を意味するのかは伝わったようで、苦い表情を浮かべたものの秞子が空気のリカバリーを図る。


「芽衣裟の今日の相手はどんな人なの? イケメン?」


「あ? あぁ……Ⅵグルの奴なんだけどさ、これがまた口が上手い奴でね。 今日始めて話したんだけど気分良く褒めちぎってくれちゃってさぁ、見た目は全然大した事ないって言うか寧ろタイプとは大違いの大きな腹してるんだけど、気が付いたら今夜行く約束してたんだよねぇ……って、やべっ! 僕はそろそろ行ってくるねっ」


 取り出したスマホで時間を確認するや否や急に慌て出すと、大きな胸を振わせ背を向けたかと思いきや、ろくな挨拶も無いままに片手を上げて部屋を飛び出してしまった。


 その様子に微笑みを浮かべながらも「じゃあウチも行くわ」と美菜水も腕時計で時間を確認してから秞子に向けて「頑張りぃや」と残し、ピンクの噴水を揺らして落ち着いた足取りで部屋を出る。


「秞子はふざけ過ぎ……早く仲良くなるには一番……けど……メリハリ付けないと進展は無い……頑張って」


「メリハリ、かぁ……」


 胸が無いと言っても過言ではない野乃伽は、男との進展が無いと嘆いた秞子と身長は違えど体型はさほど変わらない。 にも関わらず野乃伽にはお誘いがかかるのに秞子は嫌煙されるのは、やはり何処かに女らしさというモノが足りてないからなのだろう。


 悩み始めた秞子は放置して未だ反応の無い絵里と美香におやすみを告げると音も無く扉へと向かう。



「野乃伽っ、ちょっと付き合いなさいっ! アンタも行く?新入り」



 慌てて追いかけた秞子が野乃伽を捕まえ二人仲良く並んだのだが、それはどう見ても同僚と言うよりも歳の離れた姉妹にしか見えなかった。


 そして「no,thanks」と答えたもののゴーグル看護師までもが二人に付いて部屋を出て行けば、後に残されたのは絵里と美香の二人きり。


「美香があんな事するから……」


 その時になりようやく動きを見せた絵里が怠そうにしながらもずり落ちそうな身体を持ち上げ椅子に座り直した。

 すると美香は先ほどの芽衣裟の様にその肘置きに腰を下ろすと、栗色の頭を抱き寄せ愛しい者にする様に優しく撫で始める。


「ごめんごめん、でも気持ち良かったんでしょ?」


「そうだけどぉ……大人数で攻められるのはちょっと怖いわ。 でもお陰で不完全燃焼っ、責任取ってよね?」


「何? 続きをしてもらえなかったから拗ねてたの? 口では止めてとか言ってた癖に……や〜らしぃっ」


 美香にされるがままに身を預けていた絵里は反論もせず頬を膨らませていた。


 その様子に気が付けば立ち上がり、椅子の端、股の間に片膝を突くと身を屈めて顔を近付け、耳元でそっと呟く。


「拗ねるな拗ねるな、満足するまで何度でもシテあげるわよ。

 その代わり……今夜は寝れると思わないことね」


 甘く、長い口付けを交わした二人は、仲睦まじく寄り添うように看護師の詰所を後にしたのであった。












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