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愛し、愛されて(2)

ガチバトルだけになっちゃった……。

ジルニトラの格納庫に銀色の光が舞っていた。

降り注ぐその淡い粒子の向こう側、銀色の結晶機はその両腕で香澄を抱きかかえるようにそっとその姿を包み込む。

マグナスは己の手にしている刃の切っ先が不自然に震えている事に気づいた。その原因が自らも悟る事の無いまま全身が恐怖に包み込まれていたからなのだと気づいた時、女は思わず背後に跳んだ。

刃を握り締める手に迷いはない。恐怖など感じてはいない。だがしかし、本能的に違うのだと理解していた。目の前の少年は、もう桐野香澄でもアルベドでもなく、それらを超越した存在なのだと。

少年は涙を流しながらも穏やかな表情で顔を上げた。血塗られた指先その全てが銀色に染まり、大気を、大地を、全てを銀色に染め上げて行く。

世界が悲鳴を上げる最中、少年の真紅の瞳はどんな感情も宿してはいなかった。キルシュヴァッサーが放つ光の中、桐野香澄は涙を拭って目を閉じる。


「分かったんだ……。僕がやらなきゃいけないこと……いや、違うな。僕が――俺がやりたい事……」


「う……お、あああああああああっ!!!!」


マグナスの雄叫びが響き渡った。彼女の中にあるミスリルとしての絶対的な本能が後退を許さなかったのだ。真紅の化身へと変貌を遂げたマグナスは巨大な太刀を構え、キルシュヴァッサーに迫る。

振り下ろされた刃は正に必殺の一撃と呼ぶに相応しい奥義だった。焔を纏う一撃は香澄の目前で停止し、その炎は彼を傷付けることはない。


「――――すまない」


その言葉の刹那、マグナスは完全に空中で停止していた。それは彼女の行動が停止したのではなく、彼女という存在に流れる時が遮断された事を意味する。

刃を手にしたキルシュヴァッサーが輝いた刹那、香澄とキルシュヴァッサーは既にマグナスの後方に立っていた。キルシュヴァッサーの掌の上、指を鳴らす香澄の合図に呼応するように、マグナスの時が再び動き出す。

彼女は何も見ては居なかったし感じてはいなかった。必殺の一撃は盛大に空振り、焔は格納庫の壁を焼き払う。その直後、振り返ろうとするマグナスの各所から鮮血が噴出し、焔のミスリルは膝を大地に膝を着いた。


「あんたに負けてやる訳にも、捕まってやる訳にも行かないから。だから……すまない」


キルシュヴァッサーの掌の上、香澄はその銀色の装甲を労わるように指先で撫でる。確かに全ては消えてなくなってしまった。それでも重いではこの中にある。

銀色の装甲が纏っているものは夢や希望や愛だけではないだろう。絶望や失意、挫折や裏切り……嘘。それら全てを蓄えてそれは常に香澄の傍にあった。

故にそれを香澄の全てと定義するのに些かの疑問も必要はなかった。桐野香澄は客観的な情報だけで己を判断していた。そして思い出せない過去の記憶の中、自分の願いを冷静に取り組んで胸に仕舞い込んだ。

暖かい気持ちだけが今は少年の心の中に湧き上がっていた。悲しみや迷い、嘘と真実……それら全てはただの事柄に過ぎない。


「成すべき事があるのならば――結晶の王は迷わない」


香澄の言葉にキルシュヴァッサーは応えるように唸りを上げる。二人の間に疑問や戸惑いは既に無く。あるのは己の心に正直な想いだけ。

振り返る事もなく片手を翳したキルシュヴァッサーの背後、目の前に現れたリインカーネーションの腕が伸びる。金色と銀色翼は正面からぶつかり合い、反発しあう二つの力は二つの影を遠ざける。

金と銀の光の欠片の中、香澄は目を細める。言葉も無く見詰め合う二つの同一存在は、お互いの存在を否定する為に刃を振るった。



⇒愛し、愛されて(2)



「桐野秋名は始まりのミスリルの器として存在していました。彼女はいずれ己の魂が失われる事を知りつつ、アダムの計画に協力していた……。それは、彼女がアダムを敬愛していたからに他なりません」


海斗たちはヴェラードの話に口を閉ざしていた。

桐野香澄が背負っていた運命と、アルベドと呼ばれた銀色のミスリルが共有していた意思。その成れの果てが今この未来へと続いてしまっているということ。

秋名のアダムへの想いと、アダムの『彼女』への想い。それを見つめてきたアルベドの想いと、それに囚われ生まれた香澄の想い。

想いはその人の数だけ存在し、全ての願いが叶うことは無い。願いを叶えられるのは、想いを果たす事が出来るのは、ほんの一握りの存在だけ。

その為に人は何かを犠牲にして、何かを裏切って、何かを忘れて、何かに嘘をついて、真実を求めて。だからそれは当然の事。善悪など、存在しない事。

擦れ違い続ける想いが純粋ならば純粋である程、人は分かり合えない。それはミスリルとて同じ事である。その願い一つ一つを否定する事など、一体この世の誰に出来るというのだろうか。


「アダムは、元々はただの人間の科学者でした。私もそうです。私たちは彼女……始まりのミスリル、我らが主、銀色の女王によってミスリルにされた存在。その中でも特にアダムは女王に魅入られて居ました」


「……パパは、その……銀色のミスリルが好きだった、ってこと?」


「そうですね。ありすの言うとおり、素直な言葉にすればその通りです。彼は人間ではない物を愛してしまったが故に、その人生の全てを棒に振ってしまった。自らもまた、ミスリルとなれば……愛した彼女を永遠に守り続ける事が出来ると。永遠に共に歩めるのだと。あの男は本当に心の底から信じていたのです。ですが、それを裏切ったのは――」


「――――人間、だった?」


海斗の呟きにヴェラードはゆっくりと頷いた。それはもう、それくらいのことは、もう。予想も想像も、出来る事だった。

人間は今でもミスリルを受け入れられないまま、争いを繰り返している。ミスリルもまた、人間に協調しようとせず、そもそも話し合おうという考えが両者にはない。

己の願いだけを信じるミスリルと、危険分子と決め付けてしまう人間と。どちらも愚かでありどちらも正しくあり、その是非はやはり誰にもわからない。

ただ事実として二つの存在は分かり合えないという事。分かり合えていないという事だけが言える。遥か彼方の時の向こうからずっと繰り返してきた擦れ違い。その世界を変えようと立ち上がったのが、アダムという男だったのかもしれない。


「女王の命は人間の手によって奪われた……しかし、実際に手を下したのはアダムでした。アダムは最愛の人を守るために、その命を自ら奪うという行いに至ったのです」


「な、なんでパパはそんなこと……」


「……それってもしかして……秋名を香澄が殺さなきゃいけなかった理由と……何か関係があるんですか?」


海斗の言葉にありすは目を丸くする。戸惑うような視線を受け、ヴェラードは腕を組んで頷いた。


「二人とも、同じでした。愛する人が壊れ、別人になってしまう事……。その魂が蹂躙され、穢されてしまう事を、何よりも彼らは恐れていたのです。そして二人は同じ願いを託され……別々の道を今歩んでいる」


それは、神の力を持つ女性がその最愛の騎士に託した願い。

己の全てが消えてなくなって、他の誰かがそこで生きて行くという世界で、愛する人を一人にしてしまわないように。

願いが潰え、有限の世界の中、それでも無限を生きられるように。

永遠に叶い続ける願望と裏切りの呪いと祝福。二人は同じ物を与えられた世界で、別々の物を見て生きていた。


「お兄ちゃんは、お姉ちゃんがお姉ちゃんじゃなくなってしまうって知って……それで、殺したっていうの?」


「勿論、それは推測の域に過ぎませんが。ですがそうであったと私は願いたいのです。我が主を殺した裏切りの騎士、アダムと……その意思を継ぎ、現代にて過去を顕現させようとする偽りの騎士、香澄。二人の存在が邪悪なものであるなどと、少なくとも私は想いたくはない」


「ありすも……ありすも、そう思いたい。お兄ちゃんは、お姉ちゃんの為に……結果はどうであれ、何かを守ろうとして……手を血に染めたんだって」


「大事なのは真実でしょうか? 私はそうは思いません。大切なのは、信じたい物を信じる事。それは祈りに良く似ています。私たちはその不確かな真実という事場に惑わされ己の願望さえ捩じ曲げてしまう。ですがそうではなく……真に神に届く祈りとは。信じたい物を信じて祈り続ける事ではないでしょうか」



空中にてぶつかり合う刃を目で追う事は誰にも出来はしなかった。

勿論その渦中にて刃を交える二人とてそれは同じ事だった。

有象無象を消し去る程の破壊を齎す金と銀のシルエットは縦横無尽に刃を繰り出していた。

認識するよりも想像するよりも早く、刃を振るう。命を奪われるより早く、削られるより早く、迫られるより早く。早く、早く、早く――――。

火花が散る。無数に飛び散る閃光は確かに二つのそれが衝突している事を意味している。しかしそれは目視出来るものではない。時の流れを緩やかに、穏やかに、押しとどめてようやく認知出来る、百戦錬磨の瞬間。

キルシュヴァッサーの腕は二つしかない。それに対してリインカーネーションは二本の腕に加え、背後に展開する六つの翼を腕のように扱っていた。

手数は二対八。本来ならば勝負と呼べるほどの物さえ発生しないその刹那、キルシュヴァッサーがその八種類の攻撃を全て受け、いなし、かわし、弾き、防ぎ、切り替えしている事が出来たのは、銀色のミスリルが時を加速させた独自の時間軸の上に存在しているからだった。

キルシュヴァッサーに腕は二本しかない。だがしかし金翼のその四倍の速さで動く事が出来たのならば、或いは――。その最強のミスリルとさえ刃を交える事が出来るかもしれない。

可能性は顕現し、今二つの存在は鎬を削っていた。激しい攻防の最中、呼吸をする事さえ忘れたまま香澄は精神を研ぎ澄ます。

キルシュヴァッサーという力を操る上で必要な技術力を彼は十二分に所持しているのか? 圧倒的な力を持つ翼のミスリルに対し、その動きを見極める事が出来るのか?

答えは否。断じて否だった。本気で攻撃を始めたリインカーネーションが相手では、香澄の実力では圧倒的に不足――。


では、何故か?


その疑問は勿論アダムの頭の中にも過ぎっていた。

必殺と呼べる一撃を既に無数に繰り出しているというのに。死角からの連続攻撃を仕掛けているというのに。

見る事も感じる事もしないまま、まるで未来を予知するかの如き正確さで翼の攻撃を受けきっている銀翼の化身の姿がそこにある。

何故? どうして? どうやって? その疑問は決してアダムには解決する事が出来ないものだった。なぜならばそれは、今までの長い時間と歴史の中で、桐野香澄がここで今編み出した全く新しい結晶機の戦い方だったから。


「――――親父ィッ!!」


更にペースはあがっていく。唸りを上げる腕も震える刃を握るその手も、限界と呼べるそのラインをとうに踏破している。

金色の機体が一歩後退した。その事実にアダムは愕然とする。八つの腕で攻撃しているはずのリインカーネーションが、何故押し返されるのか?

それは四倍の速さで動いているからなどという言葉では説明出来ない。リインカーネーションの腕はそれぞれが独自に意思を持つといっても過言ではない、独立した攻撃手段。対する香澄の頭は所詮一つしかない。

技術にどんな差があったとしても、人間である桐野香澄に七つ分の思考は不可能なはずなのである。だが事実、現実として香澄は前へと進んできている。

能力でも技術でもないというのならば、何がここまで銀翼の機体を歩ませるのか。歯を食いしばり、アダムは猛攻を仕掛ける。それでもキルシュヴァッサーは止まらない。むしろ、前へ。前へ。前へと進んでくるではないか。


「お前……一体何をしたッ!?」


「何もしてねえよ――俺はなっ!!」


キルシュヴァッサーの一撃が、リインカーネーションの翼の一つを薙ぎ払う。その切断された翼の向こう側、アダムは確かに感じ取っていた。

何かが違う。それまでのキルシュヴァッサーではない、何か。銀色の機体の輝く瞳の朱はそのまま適合者の赤に他ならない。アダムは追われている。キルシュヴァッサーではなく、銀翼の主である桐野香澄に。


「あんたにはわかんねえだろうな……」


刃を受け止めながら、香澄は語る。


「俺とは違う……過去を繰り返す道を選んだあんたには、絶対にわからねえさ」


「――――図に乗るなよ、小僧! オリジナルを越えられるとでも思っているのか、偽者めが!!」


「偽者が本物を倒しちゃいけねえなんてルール――ねえだろがッ!!」


香澄の放った一撃はリインカーネーションの胸を掠る。その切っ先の一撃だけで、アダムは強い戸惑いを感じていた。

何故なのか。何故なのか。何故なのか。理由など問うことの無かった男が始めて脳裏に走らせる疑問。何故――。


何故、目の前の男が一人で戦ってはいないのだと、そんな事を思ってしまうのか――――。



「えっと、ヴェラード……だっけ?」


「はい?」


「お兄ちゃんとパパが限りなく同じ存在で、同じ願いを抱いた存在で……。だったら、パパとお兄ちゃんは戦う必要なんてないよね……?」


「それはどうでしょうか」


ヴェラードの言葉にありすは首を傾げる。しかし、ありす以外の男たちは同じ事を考えていた。


「自分と同じ願い、姿、力、意思を持つ存在が居たとしたら……ありすはどう思いますか?」


「え? ……どう、って言われても……。わかんない。そんな事、普通在り得ないし」


「そうですね、在り得ません。幻想の類の話ですからね。では、鏡はどうです? 鏡の中に映っている自分を見て、どう思いますか?」


「どうって……別にどうも……」


「ではそれが自分の意図に沿わず勝手に動き出したら?」


ありすは言葉を失った。そしてそれこそが戦う意義にさえ繋がるだろう。

己に従って当然のもう一人の自分。己と同じ願いを抱いて当然のもう一人の自分。それが勝手に動き出し、別々の願いを胸にしたのならば。

正しいのはどちらなのか。本物はどちらなのか。その願いの、どちらが叶えられるべきなのか。二つの存在はお互いに問い掛ける。


「シンプルな話です。もう一人の自分がいう事を聞かなくなれば――自分と相手、どちらが正しいのか、決着をつけたくなりませんか?」


「…………」


「それが己の願いに沿わない事をしていたのならば。全力で阻止しなければならないと……そう、思いませんか?」


自分だからこそ、止めなければならない事がある。

自分だからこそ、絶対に受け入れられない事がある。

自分だからこそ、負けられない。自分自身だからこそ、負けてやるわけにはいかない。

正しいのは自分だと証明せねばならない。それは理由でも意義でも意味でもなく、ただ本能の導きによるものだから。


「でも……でも、お兄ちゃんとパパが戦ったら、お兄ちゃんは勝てないよ。パパは原初のミスリルにして最強の騎士、なんでしょ……?」


「そうですね。アダムは我々契約の騎士団ナイツオブテスタメントの中でも最強です。あらゆるミスリルの中でも、無敵であると断言出来るでしょう」


「じゃあ……お兄ちゃんは……」


「いえ、そうとも限りませんよ。だからこそ、私は桐野香澄に入れ込んでいるのですから」



金色の翼が砕けて行く。次々に、理解も出来ぬまま。

銀色の閃光は刃を成し、鬼神の勢いでリインカーネーションへと踏み込んで行く。


「――――ぉぉぉぉおおおおおおッ!!」


「何故……何をっ!? 何があぁあああああっ!?」


懸命にその刃のきらめきを追うアダム。しかし気づけば完全に防戦一方になりつつある。完全に拮抗していたはずのパワーバランスが崩れ始めている。

打ち合う刃の火花もそれを示していた。同一規模でほとばしっていたはずの閃光は、いつしか銀色の光が金色のそれを覆うようになっていた。

力、速さ、正確さ……。その全てにおいて今、桐野香澄はアダムを凌駕していると断言しても良い……。そんな矛盾する現実がそこには広がっていた。

一つ、また一つと金色の翼が捻じ伏せられていく。大気を切り裂くような圧力を秘めた瞳がどんどん近づいてくる。アダムは冷や汗を流しながら、その迫力に完全に呑まれていた。


「どうした、親父……。俺はここだぜ? 殺して見ろよっ!! あんたが今までそうしてきたように……思い出に変えて見せろ!!」


「……何が……何が起きている!? お前……化物か!?」


「ああそうさ、化物だ。俺が見えないのか? アダム・ゲオルク・リヒテンブルグ! あんたには見えないのか!? あんたが踏みにじってきた物がっ!!」


香澄はアダムに技術も力も早さも全てが遅れを取っている。それは能力で挽回出来る程度の差ではない。

だが、今の彼は一人ではなかった。アダムが感じ取っていた違和感は、決して杞憂などではなかったのだ。


「まさか……」


桐野香澄の力を飛躍的に高めている物。

それは、彼自身の力ではない。彼の瞳に宿る真紅の色は、彼を愛した彼女の物。


「まさか……奪ったのか……?」


彼の髪の銀色は、彼が守ろうとして守れなかった彼女の物。


「キルシュヴァッサーの中にあった……千の夜の記憶を……!?」


「俺は――――人間だあああああっ!!!!」


リインカーネーションが弾き飛ばされる中、アダムは確かに目撃していた。

キルシュヴァッサーの瞳の中に、己に対する何らかの感情があることを。そしてそれは、桐野香澄が全てを受け継ぎ玉座に座る資格を持つ事になったという証でもある。

アルベドが蓄積し続けた、桐野秋名の記憶。その中には勿論彼女の知識と力の全てがあった。

それは香澄を遥かに凌駕する領域を行く力。香澄はその姉の力と知識を受け継ぎ、己のそれと足してアレンジし、全く新しい戦い方を編み出していた。

付け加え、彼の目は最早一つではない。香澄の中に流れ込んだ沢山の想いは、今も身体の中で息づいて叫んでいるのだ。

香澄を守ろうとする無数の意思が今、彼を死から遠ざけようと叫び声を上げている。雄叫びはリインカーネーションさえも圧倒し、銀色の機体は愛する者を守る為に全力を尽くす。

それこそがリインカーネーションを凌駕する要因。桐野香澄そのものが強いわけではなく。彼の行ってきた全ての要因が今、彼を守っているのだ。


「馬鹿な……! 『彼女』が……お前を認めたとでも言うのか!? 俺の呼びかけには応えなかった『彼女』が……お前を生かそうとしているのか!? 俺の愛を……お前の愛が凌駕するとでも……!?」


「俺は…………馬鹿だった」


切っ先を突きつけ、息を吐き出す香澄。その瞳に揺らぐような思いは無い。


「秋名の想いも……皆の想いにも、応える事が出来なかった大馬鹿野郎だ。どうしようもねぇ、取り返しのつかねえ事をしちまった。でもな、アダム……俺は『やり直したい』なんて思わない。何故なら過去は変えられないからだ。そして――今ここにある世界の全てが、過去に触れ合った人たち全てから与えられた奇跡だからだ!」


「………………き……っさま……」


「秋名は死んだ、もう居ない! 響も死んだ……どこにも居ない! もう、俺に笑いかけてくれない……それは辛いけど! でもだからって、そこにあった想いを無駄にして生きて行くなんて事、俺には出来ねえんだよっ!!」


「ふざけるなぁぁぁああああああ――――ッ!!」


金色の波動がキルシュヴァッサーを吹き飛ばす。リインカーネーションの掌の前に浮かび上がった巨大な結晶の輝きから放たれた閃光がキルシュヴァッサーへと放たれる。

巨大な破壊の願望を具現化したその光は一撃で全てを原始に還す破壊力を秘めている。その閃光を十字に構えた刃で受け、香澄は歯を食いしばっていた。


「もういい、計画などどうでもっ!! お前さえ俺の目の前から消えうせればそれでいい!! 奇麗事ばかり口にしたガキがっ!! お前に何がわかる!? 彼女を失ったこの世界で生きて行く失意が、お前にわかるわけがないだろうがああああっ!!」


「勝手に――決め付けんなああああああッ!!」


銀色の翼が広がり、香澄を失うまいと力を押し返す。


「あんたはいっつもそうだ! あんたは何もしてくれなかった! あんたをどれだけ……どれだけ秋名が想っていたのかわかんねえのかよっ!?」


溶け落ちそうな刃を包み込み、翼は広がっていく。銀色の粒子はキルシュヴァッサーを覆い尽くし、真紅のマントは光を描いて銀色の翼へ解けて行く。

巨大な龍の翼――。そして手にした刃は金と銀二つの輝きを纏い、黄金の滅亡を斬り返して行く――。


「秋名にとって大切だったのは、あんただった! 俺には幸せにしてやれなかった! 救ってやれなかった! あんたならそれが出来たのに、しなかったのに、わかってたのに! それでも秋名はあんたを愛してたんだっ!!」


「愛……だと? 馬鹿な……そんなもので、リインカーネーションが押し返されるとでも言うのか……?」


「何で信じらんねーんだよっ!! あんた、何百年も会いたかったヒトがいるんじゃねえのかよ!? 他人の愛を理解出来ないお前に……誰かを愛する資格なんて、あってたまるかああああああっ!!」


香澄は声にならない叫び声を上げた。それに共鳴するように、キルシュヴァッサーも雄叫びを上げる。

二つの願いは今一つに重なり、リインカーネーションの破滅を打ち破る光となる。砕け散った金色の閃光の向こう側、キルシュヴァッサーは泣いていたのかもしれない。


「ば……っか、な……!?」


「――――『彼女』だって、あんたを愛してる。あんたを止めてくれって叫んでる。だから、俺は――神だろうが王だろうが、何にでもなってやるよ」



お前を、越えてやる。



香澄の突きつける刃が勝敗を決する鐘を鳴らす。

リインカーネーション……アダムはその切っ先に映りこんだ『彼女』の幻影に、確かにその想いを受けていた。

涙を流しながら、それでも受け入れられない現実を弾き飛ばすように高らかに笑う。

金と銀のシルエットは擦れ違う。時が止まるような刹那の向こう、リインカーネーションに突き刺さった二つの刃が雌雄を決した――。

〜キルシュヴァッサー劇場〜


*そろそろ終わるよ! 編*


『ファーストキス』


木田「香澄の馬鹿野郎――ッ!」


香澄「ぐっは!? いきなり殴る奴があるか!!」


木田「この野郎……何キスシーンなんてやってんだよ!」


香澄「…………はっ?」


木田「とぼけても無駄だぞコラ! お前……銀とキスしやがったな! 不潔! いやん!」


香澄「直後に首吹っ飛んだが……それでもカウントするのか?」


木田「そ、それは確かに……いくら十五禁になってるからって、グロいかも……」


響「最近のヒロインは内臓ぶちまけちゃったり首吹っ飛んだりするくらいで丁度いいんだよ〜」


木田「で、出た……」


香澄「……というか、木田。別にキスくらい俺たちくらいの年代ならみんなした事があるだろう?」


響&木田「え?」


香澄「え……って、なんだ? 無いのかお前ら?」


響「な、なななななな……な、ないわけないじゃない! かっ! 香澄君なんかよりぜんっぜん経験ほーふなんだからね!」


木田「……俺なんかもう自殺したくなってきたわ」


響「参考までに聞くけど……香澄君のファーストキスの相手って誰だったの?」


木田「キスの味ってどんな味なんだ、香澄?」


香澄「い、いっぺんに訊くな……。そうだな……キスの味は……こう、おはぎみたいな味だったな」


二人「おはぎ?」


香澄「ああ。初めてキスした相手は姉貴で、味はその時姉貴がコタツで食ってたおはぎのような味だった」


二人「…………いやあああああああああ!!」


木田「ふ、不潔よー! 姉となんて! 姉となんてえええ!」


響「おはぎって! 全然ロマンチックじゃないよ! 全然、そんなのなんか、なんか違うよおおおおおおおっ!!」



『主人公その5』


香澄「やっと主人公に戻れた気がする……」


海斗「なんかパワーアップしちゃったね。覚醒するのにはちょっと遅すぎた気もするけど」


香澄「んー……まあしょうがないだろ。色々あったし」


海斗「これからは二人で頑張ろうね、香澄ちゃん」


香澄「……二人? なんだその、自分も主人公ですみたいな発言は……? おい海斗……海斗!!」



『エンディング』


ありす「気づけばもう60部! もう少しで全てが終わるね〜!」


香澄「明らかに怒涛のラッシュになる事が目に見えているんだが、俺はこれからどうすればいいんだ?」


ありす「あと十部くらいの間はもうバトル尽くしだろうね〜。ガンガンたおしてガンガン進む! そしてドーンってなってドカーンってなって、ボーンでエンディング!」


香澄「……続編に続く、とかならないようにしないとな」


ありす「その為に短くまとめてきたんじゃん……」


香澄「何はともあれ、ここまでやってこられたのも読者様のお陰だな」


ありす「こんなところまでまめに読んでくれているそこのあなた! 本当にありがとうございました!」


香澄「もうすぐ銀翼のキルシュヴァッサーは最終回を迎えますが、残りのラストスパートにお付き合いいただけたら幸いです」


ありす「はー。おわりかー。なんだかあっという間の三ヶ月ちょっとだったね」


香澄「色々あったなあ……」


ありす「思い出話でもしてみる?」


香澄「そうだな。そうするか」



『みてみんβとか』


ありす「そういえば、『みてみんβ』が今日公開されたね(20年12月23日現在)」


香澄「ウメさんは紛れも無く神だな……。本当にご苦労様ですとねぎらってあげたい」


ありす「これで、どうでもいいイラストとかも気軽にUP出来たり、挿絵のアップロードが公式に行えるんだよね! 絵師さんと作家さんの間にある壁が少し薄くなって、相互作用でより賑わっていったらいいよね!」


香澄「『みてみんβ』は誰でも簡単にイラストのUPが出来る他、ユーザー登録を行う事で気軽に絵師さんとのコンタクトも可能というとてもお手軽なシステムだ。投稿出来る画像形式も多いし、タグやユーザーでの検索も容易らしい」


ありす「まさに『画像版小説家になろう』ってかんじだね!」


香澄「厳密にはウメさんではなく『ヒナプロジェクト』というチームが開発しているらしい。ウメさんはそれに参加しているという形だな」


ありす「まだβ版って事もあって、まだまだこれから更に進化していく可能性もアリ! これは要チェックだね!」


香澄「…………」


ありす「…………なんか、そういうつもりはなかったのに怪しいCMみたいになっちゃったね」


香澄「……み、皆で広めよう、みてみんβ……」


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