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契約の、騎士団(3)


「キルシュヴァッサーが出撃した!?」


木田の報告を受けた響は思わず声を荒らげていた。

そんな事態は今まで一度も無かった。 無論想定していなかったわけではない。 だが、香澄は義理堅くルールを重んじる傾向にある人物だ。

感情に流される事はあっても、基本的に無断行動は取らない。 常にリーダーである響が香澄を監督していられたのもその部分が大きい。

そもそも、このチームキルシュヴァッサーという組織は個々の器量、判断に任せられる部分が多く、その全てを拘束しているわけではない。 ある程度生活に条件がつくものの彼らは軍人ではなくあくまで一般人。 いわば如月重工という会社の社員的な扱いなのである。

故にパイロットが暴走行為に走った場合の対応というのはあまり想定されていない。 そうしない人物が選ばれ、ここにいるはずであり、それを響は理解していた。

では何故キルシュヴァッサーは出撃したのか? 市街地にも関わらず暴走したのか? 香澄が召喚し、そしてそれに銀が応えなければ一瞬で出撃するなどありえない事。

何かが引っかかる。 そもそもの異常事態に付け加え、響の脳裏を過ぎる嫌な予感。 それが当たらない事を願いながら震える拳を祈るように握り締めた。


「不知火とエルブルスは直ちに出撃! キルシュヴァッサーを回収してください! 出来ればキルシュヴァッサーと交戦中の機体も確保を!」


「バイクをまわすから、響も乗ってくれ! 当然現地に行くんだろ!?」


「無論です。 お願いしていいかな、木田君?」


「当たり前だろ? 仲間じゃねえか、助けに行こうぜ」


力強い木田の笑顔に強く背中を押された気がした。

頷き、それからノートパソコンを片手に走り出す響。 不知火とエルブルスが出撃しようとする刹那、町は二つのシルエットの激突に震え上がっていた。

キルシュヴァッサーは強い。 海斗が乗っていた頃のそれさえ今や追い抜かん勢いである。 凄まじい勢いで猛攻を仕掛けるキルシュヴァッサーを前に海斗は完全に気圧されていた。

新旧エース対決と呼ぶには余りにも切羽詰った状況。 その状況に困惑し、刃に迷いがある海斗が勢いで香澄に劣るのは明白。 繰り出される刃が怒りに囚われた乱暴な太刀筋だとしても、それを防ぐので手一杯だった。


「(香澄ちゃん、君は……! 君はどうしてそこまで……!)」


海斗の心の中にあったのは疑問と迷い。 香澄のその姿を変わり果てたと断ずるに些かの予断も必要とされなかった。

桐野香澄という少年の人格がもしも十年前のままだったのならば、絶対にこんな事にはならない。 敵だろうが味方だろうが彼は暴力で全てを捻じ伏せるなどという真似は絶対にしなかった。

その力はいつも誰かを守るためにあり、そして相手を壊す為には存在していなかった。 夕日の中、瓦礫の山で傷だらけになった二人だからこそ通じ合えた友情の形。

進藤海斗は何か大きな思い違いをしていたのかもしれない。 確かに彼の言うとおり、彼の考えるとおり、桐野香澄という人物の根幹を成す部分は変化がないのだろう。

それは誰かの為に力を振るうという事。 そして何よりも優しく、それを素直に表現出来ないという事。 いつも己を殺してしまうという事。

海斗がそうであったように、また香澄も海斗を必要としていた。 彼らは二人揃っていたからこそその危うい心を何とか保つ事が出来ていたのかもしれない。

だが二人の間には時間が横たわり、指先が触れ合う事はもうない。 この長い時間の中で、桐野香澄は確かに変わった。 進藤海斗が変わったように。


「呪い……」


それを『呪い』と表現したのは、恐らく海斗の直感だった。 しかしそれはある意味正しく、そして今の香澄を戦わせている要員に他ならない。

彼は怒りと悲しみと絶望を織り交ぜた色を刀身に塗りたくり、盲目的なまでに敵を討つ事に執着している。 それは何故か?

失いすぎたのだ。 そして失い続ける事に慣れすぎたのだ。 様々な過去が、様々な思いが、桐野香澄の優しい心を塗りつぶしてしまっている。

それに本人さえ気づいていない。 そう、本人は気づいていないのだ。 自分のやっていることが、自分の望んでいる事とは違うのだと。

何故か? 故にそれは呪いのようであり、桐野香澄を追い詰めている。

何故か? それは本人には理解出来ない、何かとても大きな漠然とした力の流れ。

何故か? 今は海斗の目に映るキルシュヴァッサーの姿が、桐野香澄を取り込もうとしているかのように見えるのは――。


「ミスリルの癖にいい気になって人間のフリか? ふざけるなよ。 お前らの全てが偽りで、真実を貪り殺す物だ。 俺はそれを許さない……。 悲しみの連鎖も、絶望の河川も、全ては俺が断ち切る。 このキルシュヴァッサーで」


刀剣の連続攻撃の合間、隙を穿つように放たれた蹴りがフランベルジュを弾き飛ばす。 大きく後退し、よろめきながらビルに突っ込みそうになる。

しかし海斗は踏ん張っていた。 ぼたぼたと零れ落ちる汗が疲労から来る物なのか、それとも極度の緊張状態から来るものなのかはわからない。

ただ心の中にあるのは、これ以上香澄の望まない戦いをさせてはいけないのだという思いだった。 今の香澄に何が出来るのかは勿論海斗にはわからない。

だがきっとそれは自分のせいなのだ。 あの時、二人の心は一度離れてしかし確実にかみ合っていた。 あのまま海斗が香澄の傍に居れば、ここまで彼を追い詰めるようなことにはならなかった。

何が悪いのかはわからない。 ただ出来ることはあった。 悔いるべきものもある。 ならばもう、迷っている場合ではなかった。

正面に構えた剣は輝きを放ち、夜の闇の中軌跡を描いて揺れ動く。 今はもうただ、戦うのみ――。


それは擦れ違いと呼べる物だったのかもしれない。 しかし、分かり合えないのならばぶつかり合う他に何か手段があったのであろうか。

それも勿論、彼らにはわからない事だ。 そしてきっと、誰にも判らない事なのだ。

伝えるのには力が要る。 相手を納得させ、屈服させるだけの大きな思いと力が。

ならばそれを間違いであったなどと、この世界の一体誰に言えたのだろうか――。



⇒契約の、騎士団(3)



「これがキルシュヴァッサー……王の力か」


逃げ惑う人々の流れの中、二機を見上げる如月崇行の姿があった。

多岐に渡り、これと限定する事が難しい彼の役職をあえて一つに纏めるのであれば、それはキルシュヴァッサーの監視。

国連、如月重工、ないし日本政府より言い渡された彼の任務はキルシュヴァッサーという一機の結晶機のみに当てられている。 それは何故か?

その他にもエルブルス、ステラデウスなど開発チームが存在する中、たった一機の結晶機をそれほどまでに気にする理由。 それは無論キルシュヴァッサーが国産の結晶機であり、故に日本の威信を背負っているという理由もあるだろう。

しかしそれだけではない。 その銀色の機体が持つ役割を、過去を、そして今目の前の状況を見ていればそれは明白。 キルシュヴァッサーは、ただの結晶機ではないのだと。

世界で始めて人が手にしたミスリルに対抗する力であり、最も古く最も新しい。 己の意思で進化し、操縦者さえも静かに飲み込む機体。 誰にもそれを制御する事は出来ず、故に彼ら人間が制御できるのは同じく人間のみである。

人の手で扱うものならばなんであれ全て制御できる、というのは彼の姉である如月朱雀の言葉だが、彼もどこかその無茶な言葉を信じたいと願う部分があった。

しかし今目前で繰り広げられている戦いを見て、その淡い期待は今にも消えてしまいそうだった。 そう、人が切り札と考えていたその機体が、恐ろしい力でこの街に猛威を振るう今――。


「それでも信じろというのですか、姉上。 人の可能性と言うものを」


剣の打ち合いでは互角。 少なくとも致命傷を負う事はないだろうというのは海斗の判断だった。

しかし実際はどうだろう? 徐々に香澄の太刀筋は冷静になり、ゆっくりとその距離感は縮まっていく。 追う者と追われる者、その二つの立場の間に隔てられていた距離は、今まさに音を立てて削られているのである。

舞い散る鉄火と打ち合う高らかな音は二人の距離を縮める合図のように夜の街に鮮やかに散る。 それは奇しくも香澄の怒涛の修練の日々を物語っていた。

海斗が培ってきた時間を、香澄は才気と努力で追いつこうとしている。 二人の間にあった過去が今、皮肉にもようやく交わろうとしていた。

どこかそれを嬉しく感じながらも追い詰められている状況に光明は差さず。 歯を食いしばり、勝利の為の道を模索する海斗。


「――――どうしてだ?」


香澄の言葉と同時に真上から振り下ろされた対の刃。 結晶剣はその一撃で砕け散り、フランベルジュは衝撃で肩膝を着く事を強制される。

首筋に押し当てられた銀色の刃。 香澄の声は冷静で、心一つ抱くことなく敵を討つ事に疑問を覚えない。


「何故お前らはそんなに簡単に人を殺せる? どうしてそんなに全てを台無しに出来る? そうする理由がどこにある?」


その質問が矛盾だらけだということは最早語るに及ばないだろう。 海斗は言葉を発しないまま、香澄のそのおかしな問い掛けに苦心していた。

燃える町。 夜の闇に浮かび上がる銀色の刃。 死と絶望が蔓延する戦場において、その問い掛けは己に対するものに他ならない。


「何故秋名を殺した……? お前もさっきのミスリルみたいに喋れるのなら、答えろ。 秋名を殺さねばならなかった理由を」


突きつけられた刃からは殺意以外の一切の想いを感じる事が出来ない。 下手に答えても、答えなくても刃は用意にフランベルジュの首を落とすだろう。

冷や汗が零れ落ち、決定的な力の差に打ちひしがれる海斗。 歯を食いしばり、拳を握り締めても答えは出ない。


「――誰が悪いんだ? 何が悪で何が正義だ? お前はそれに答えられるか? 俺にはわからない。 だから、せめて自分の信じるとおりに……感情のままに戦うしかない。 その無意味さがお前にわかるか?」


コックピットの向こう側、香澄は無表情にただフランベルジュを見下ろしていた。 その表情からはどんな思いも感じられず、故にそれは刃に似ていた。

圧倒的な力を誇る香澄とキルシュヴァッサー。 その機体の周囲を取り巻く呪いのように、香澄を駆り立てる沢山の後悔。 そのうちの一つに含まれる海斗でさえ、それを阻むことは出来ない。

強すぎる思いが全てを破壊する。 全てを台無しにする。 善悪はそこにはなく、あるのはただ信じた思いのみ。 香澄は目を閉じ、刃を振り上げる。


「答えられるわけがないよな。 お前たちミスリルは俺と同じだ。 何の感傷も無く――全てを斬り捨て無残に出来るのだから」


振り下ろされる刃を防ごうともしなかったのは何故か。

スローモーションのようにゆっくりと己に降りかかる死を、海斗は目をそらさずじっと見つめていた。

理由は海斗にもわからなかった。 しかし直後、刃は動きを止める。 キルシュヴァッサーの背後から伸びたエルブルスの槍と不知火の太刀が交差し、キルシュヴァッサーの刃を阻んでいたのだ。


「もういいだろう、香澄……。 お前のそれはもう、ただの暴力だ」


「止めるのか? 俺を?」


「……香澄が、それを本当に望むなら、あたしたちも止めないよ。 でも香澄は本当にそれでいいの? ただ敵を討って、それで香澄は満足なの?」


二人の言葉にキルシュヴァッサーの動きが停止する。 その一瞬の隙を突き、フランベルジュは後退していた。

香澄は追うことをせず、刃を納める。 それは不可解でさえあった。 だが、仲間の声が彼の何か大切なものを支えているのだと、それだけは誰にでもわかった。

危うい彼の心を守っているのはもう思い出ではない。 故に囚われながらも仲間に依存し、そして今ただだ黙して刃を引いた香澄。 その胸中は誰にも理解出来ない。


「……判ってるんだ、俺も」


ポツリと、呟く香澄の言葉。


「……あいつを殺したって……。 ミスリルをいくら殺したって……。 姉貴はもう、戻らないんだって事……」


背を向け、遠ざかりながら海斗はその言葉を聞いていた。 今は背を向けるしかない自分に苛立ちを覚えながら。


「……ならどうして姉貴はもうこの世界に居ないんだ? なあ、誰か教えてくれよ……。 どうしてもう取り戻せないのに、取り返しがつかないのに……! 奪うんだよっ!! 殺すんだよっ!! そんなカンタンな事もわかんねーのかよ!? くそおっ! くそおぉおおお――――ッッ!!!!」


香澄の慟哭が夜の街に響き渡る中、戦いは決着した。

その場に膝を着き、力なくうなだれるキルシュヴァッサー。 そのやりきれない思いと叫びだけ、ただ戦場に残したまま――。



乾いた音が響き渡り、叩いた掌はとても熱かった。

生徒会室に戻った香澄を無言で打ち付けた響は感情を宿さない瞳で香澄を見つめている。


「……何か言いたい事はある?」


「いや」


香澄はそれだけ口にして首を横に振った。 その力ない返事にどうしようもなく苛立ち、響はもう一度反対側の頬を強く打ちつけた。

往復ビンタを受けた香澄の表情は前髪で隠れてよくわからなかった。 何の反論もせず、ただ成されるがままになっている香澄を見て、響はもう一度手を振り上げようとした。


「……待て。 気持ちは判るが、今は落ち着いてくれ」


その手を取り、首を横に振る佐崎。 響は震える拳をぎゅっと握り締め、それから開いた手で机を思い切り叩いた。


「…………貴方のした事はただの犯罪行為です。 追って政府から連絡があると思いますので、それまで自宅謹慎を言い渡します」


「…………ああ。 悪かったな、皆」


香澄はそれだけ呟き、部屋を出て行った。 扉が閉ざされると同時に、堪えていたものが決壊するかのように響の両目からぼろぼろと零れ落ちた。

何故自分が泣いているのか理解出来ないまま、ただ震える両手を机に何度もたたきつけては声を殺して涙を流した。 血の味がする食いしばる口の中、声にならない声で響は後悔し続けた。


「響は、香澄の代わりに泣いてるんでしょ?」


「……え?」


「香澄が泣かないから。 だから、怒ってるんじゃないの?」


アレクサンドラの問いかけに響は絶句した。 自分でもわけのわからなかった怒りの理由が、すんなりと胸に染み渡った気がしたから。

ただただ零れ落ちる涙に理由をつける事など無粋なのかも知れない。 それでも響は目を閉じ、肩を震わせ、小さく呟いた。


「そう……かもね。 そうなのかも、ね……」


だからといって自分に出来ることもない。 そう思えば思うほど、やり場のない思いに囚われる。

どうして傷つけることしか出来ないのだろう。 涙を拭いながら考える響の肩を叩き、佐崎は首を横に振った。


「迷っているのは皆同じだ。 何の保証もなく過ぎ去っていく時間の中、俺たちは自分に出来る事をやるしかない。 それが正しいのか間違っているのかもわからないまま……。 青春とはそういうものだろう。 掛け替えがない、だからこそ理解し合えない……残酷なものだ」


「あたしはそうは思わないな」


背後で手を組み、アレクサンドラは笑う。 その姿はメンバーの中でも飛びぬけて清清しかった。


「間違っても傷ついても、明日があるのは幸せだから。 今出来る事、素直に伝えなきゃ駄目だよ。 佐崎先輩の言うとおり時間は有限で容赦なく過ぎてしまうものだから。 だから今、心に正直にならなきゃいけない」


「……あー。 アレクサンドラって抜けてるように見えてたまにいい事言うよな」


「それじゃ、あたしは先輩を追いかけます。 あのままじゃ可哀想だから慰めます。 それって悪い事ですか?」


首を横に振る響。 それを確認してからアレクサンドラは走り出した。 その靴音が聞こえなくなって、響は深く溜息を着いた。

心に募る違和感。 香澄の行動。 封鎖された情報と操作された環境。 その狭間の中揺れる想い。 それらの答えは未だ遠く、わからない。

だがそれでよいのかもしれない。 わからなくてそれで。 それでも、確信がなくても、保障が無くてもそれでいいのかもしれない。


「それが青春、って事なのかな……」


呟いた言葉には誰も答えられなかった。



「……全く、アンタたちに助けられてちゃ世話ないわね、アタシも」


ジャスティスの部屋の中、ベッドの上に横たわるサザンクロスの姿があった。

四肢を破壊され、その結果彼女の肉体も大きな傷を残していた。 しかしあれから数時間経った今、身体の方は何とか修復されようとしていた。

傷口から零れ落ちる血はとまり、確かに一命は取りとめた。 あの程度ではミスリルは死なない。 それが契約の騎士ならば当然。

しかし左肩から先が修復される事はなかった。 ミスリルにとって情報そのものである肉体は切り離された程度では造作もなく修復できるものの、相手に食われてしまえばそれはもう元には戻らない。

奪われた片腕はこれからもう二度と戻る事はなく、速さを追い求めたサザンクロスは翼をもがれたのと同義だった。

その肩に包帯を巻きながらただ黙って作業をこなすフランベルジュ。 その姿にサザンクロスはなんとも言えない表情を浮かべていた。


「そんな人間相手の治療がミスリルに通じると思うわけ?」


「やらないよりはマシかと」


「……変わったわねアンタ。 昔はもっとこう……わけわかんない冷たさがあったけど。 すっかりそっちの人間共に毒されちゃったってーわけね」


ソファの上には海斗の姿が。 その傍らには缶ビールをがぶ飲みするジャスティスの姿があった。

二人を睨みつけるサザンクロス。 その瞳には敵意が宿っているのは当然だが、しかし海斗もジャスティスもそんなものを全く気にしていなかった。

ジャスティスは元々そういうものに固執するタイプではなかったし、海斗は今頭の中が別の出来事でいっぱいでサザンクロスのことなど至極どうでもよかった。

二人のいかにもサザンクロスを意に介さないといった態度に思わず毒気を抜かれ、治療が終了する頃にはサザンクロスもまた二人をどうでもいいと考えていた。


「……世話になっちゃったわね、フランベルジュ。 一応、感謝はしておくわ……」


「昔から変わりませんね、貴方は。 素直にありがとうと言えないんですか?」


「うるさいわね。 でも、助けてもらっておいてなんだけど、翼を失った以上生きてても楽しい事なんてないわ。 もう自由に空を飛べないと考えただけで、これから続く膨大すぎる年月に気が遠くなる。 あのまま全て食われてなくなってたほうがマシだったかもね」


「何故キルシュヴァッサーに決闘を挑もうと考えたんですか? まさかただの復讐ではないのでしょう?」


「そのただの復讐よ。 勿論アイツを仲間に引き入れなきゃいけないって理由も気に食わなかったけどね。 アタシに傷を負わせたのはあいつが始めてよ。 他の結晶機なんてチョロかったのに……。 腹立つわほんと」


ベッドの上に寝転がり、それからぼんやりと男二人を眺める。 メイド服を着用したフランベルジュとそれとを見比べ、苦笑した。


「で、あいつら何? 騎士団抜けたアンタの事情に深く立ち入るつもりはないけどさ……。 あんたがその給仕の服着ているのとあっちのは何か関係あるの?」


「ええ、まあ。 一応あっちの無駄にでかいのが私のマスターで、小さい方はつい先日までキルシュヴァッサーの適合者だった少年です」


もう少しフランベルジュが言葉を包み隠す事が出来る性格だったならば、サザンクロスが目を丸くする事もなかっただろう。

ベッドから飛び起き、海斗を見つめるサザンクロス。 しかしメイドはその行動を阻害するかのように腕を翳して遮る。


「貴方を助けたのは彼です。 傷を負わせたのも彼でしょうが」


「そのキルシュヴァッサーのパイロットがどうしてここにいるのよ!? アンタたち一体何しようってワケ!? ていうか、なんでアンタがアタシを助けるのよ!?」


「……そんなの、ボクにだって判らないよ」


海斗の呟きで部屋に静寂が戻る。 海斗はつらそうにうつむいたまま、静かに拳を握り締めた。


「判らないんだ、ボクにだって……。 本当は香澄ちゃんに生きてるよって伝えてあげなきゃいけないのに……。 でも、どうしてだろう。 今香澄ちゃんと会っても、お互い素直に相手を見ることが出来ない気がするんだ。 友達のはずなのに……なんでなんだろう」


「迷ってるからだろ? 判断し損ねてるからだ。 だからもう少し様子を見てみればいーっつってんだろ? わかんねーやつだな」


「……貴方に言われたくないです」


「へいへい。 まあそんなわけだ。 こいつは今ダメダメモードだから、倒すならラクチンだぜ? サザンクロス」


うなだれた海斗の姿にサザンクロスは歯を食いしばり、それから思い切り脱力してベッドに倒れこんだ。


「どうでもいいわよ、もう……。 人間って本当に……意味不明」


「あら、素敵でしょう? 理解は幸せ……。 判らないものの傍に居れば、得るものは多いわ」


フランベルジュの余裕たっぷりの笑顔にサザンクロスは視線を反らす。 そうして目を閉じ、考えるのをやめた。

背を向けた彼女の背後、海斗はまだ迷いの中に居た。 過去の思い出と今の香澄と自分。 その二つを比べてはどうにもやりきれない思いを胸の中で反芻する。


「……紅茶は如何ですか? マスターが貧乏なので、安物のティーパックですが」


「……ありがとうございます。 お願いしても、いいですか?」


「畏まりました」


礼をし、去っていく後姿を眺め海斗は溜息をついた。 その肩を叩き、ジャスティスはニヤリと笑う。


「いいだろ? メイド」


「……貴方はもう、こんな時まで何言ってるんですかーっ!!」


「クックック……! まぁ、せいぜい悩むがいいだろう。 だがその答えを焦る必要はないのだということだけ覚えておきたまえ」


「お得意の正義理論ですか?」


「いや。 ただの人生の先輩からのアドバイスだ」


そんな事を言われたところで勿論納得できるはずもなく。

ソファに深く体重を預け、今晩の寝る場所を考える海斗。 その夜が結局眠れぬものになるという事は、彼自身が誰よりも良くわかっていた。


60部までに終わらNEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!


どうも、神宮寺飛鳥です。

冷静に考えてみたらレーヴァテイン終わらせるのに百二十部以上合計でかかってるのに六十部で終わるわけがないよね……。

あーどうしよう。どうしようかなー。もう三十部とか早すぎだろ。一ヶ月経ってないのになあ……。

と、悶々と頭を抱える日々です。どうも神宮寺飛鳥です。


えー。三十部になっちゃいましたねー。もうどうしたらいいものやら。

本当にどうしたらいいのやら。困りましたねー。

長く連載する事になっちゃいそうだなあ……。というか、四ヶ月で六十部くらいを目指していたのにこの調子だと軽く四倍くらいいってしまいそうだ。

あーどうしよう。どうしようどうしようー。どうしようー。


まあいっか。


とりあえずまた次から模擬戦編に戻ろうかな、とか。もう行き成りラスボス方向でもいいかな、とか。色々考えてますが。

フラグ張り巡らせるのはもう結構やったので、あとは回収しつつ人間関係に進展を……。

ていうか全然明るくならないですね。次からまた少しパロディ方向に巻き返そうかな。

せっかくパロディにしても三部とかで終わっちゃったりするんですけどね。

とりあえずここからは香澄サイドと海斗サイドに別れて物語りを展開する予定。

自分で書いてて面白いのか面白くないのかよく判らない作品ですが、もう少しお付き合いください。

それにしても本当にメインヒロインが定まらない小説だなぁ。






そして、感想の来ない小説だなあ。

読者数も伸び悩むなあ。

展開も詰まるなあ。


大丈夫なのだろうか、ボクは……。



南無。

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