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覚悟、その向こう側で(3)

ただのラブコメな話だった気がするなあ。


気がついた時、目にしたのは紅の日差しと保健室の天井だった。

何も考えられないまま、ただ天井を見上げ続ける。 小さく息を付き自分が気を失い保健室に運ばれたという事実を認識した。

ベッドの上に寝かされたままの冬風響が聞いたのは本の頁が捲れる音。 視線だけでそれを追いかけると傍らに組まれた折りたたみ式のパイプ椅子の上、本を捲る誰かの姿があった。

男子用の制服。 捲っている本は響の物に他ならない。 何故彼が持っているのかはわからないが、恐らく生徒会室に置きっぱなしで気絶してしまったので持ってきてくれたのだろう。


「……海斗?」


消え入りそうな呟きの先、しかし思い人とは違う顔が響を見つめる。 本を閉じたそこに居るはずのない桐野香澄の姿に思わず身体を起こした。


「桐野く……っ」


しかし言葉は最後まで続かなかった。 響を襲う強烈な眩暈。 額を抑えてベッドに再び倒れこむと、見かねた香澄が口を開く。


「無理せず寝てろってイゾルデが言ってたぞ」


「どうして……?」


そう、自分はイゾルデの前で倒れた。 運んでくれたとしたらイゾルデ以外には考えられない。 だというのに目の前にいるのは何故かよりによって桐野香澄なのである。

だがその答えは少し考えれば明白な事だった。 その運んでくれたイゾルデが香澄を呼んだのである。 既に時刻は夕暮れ時――。 昼休みから何時間も経っているのだから。

状況は飲み込んだものの、それは響にとって気の重い状況には変わらなかった。 ベッドの上に倒れたまま額に手の甲を当て小さく息を付く。


「わりと頻繁に倒れるのか? お前は」


「……そういう訳じゃありませんけど……。 今日はちょっと、疲れてたんだと思います」


「探してたんだろ。 海斗を」


瞼を閉じる響。 それは既に答えているような物だった。

掛け布団の上に乗っている響の手を取り、香澄は眉を潜める。 その手は相変わらずぼろぼろで、細く繊細な指は無理な労働で傷ついているように見えた。

それはあの日から変わらずまだ彼女が海斗の面影を求め夜な夜な爆心地に出かけている事を意味している。 事実彼女はそのせいでここ一ヶ月間、ろくに休眠も取る事が出来ないで居た。

生活のリズムは荒れ果て食事さえ充実していない今の彼女がぱたりと倒れたのは決して偶然などではない。

元々決して身体は強くはなかった。 体育は見学するくらいの虚弱体質……それは彼女が一番良くわかっている。 それでも無理をしたのならば代償は当然の事であると言える。


「好きで、やっている事ですから。 誰かに言われたわけじゃない……無駄かもしれないって事もわかってる。 でも、私は……?」


その細い指に香澄の指が絡む時、響はそっぽを向いたまま愕然としていた。

瓦礫を掘り返し、ドロだらけになり傷だらけになりそれでも日々その姿を追い求めていた。 その証が指の傷だというのならば、ならば、そう。

今まさに自分の傷を撫でるその指先は。 桐野香澄の指先は。 今こうして傷だらけになっている自分の物と何が違うというのか。

顔もあわせないまま隠せない動揺をかみ殺すように歯を食いしばる響。 そう、香澄も同じだった。 あれからずっと、探していたのだ。


「少し眠れば落ち着くだろう。 それとも何か飲むか? 流石に冷えてきたしな」


「どうして貴方は……」


「好きで」


響の言葉を遮るように呟き、香澄は立ち上がる。

振り返らずにベッドを覆うカーテンに手をかけ、それから続きを呟いた。


「好きでやっている事だ。 だから気にするな」


「待って!」


シャツの裾を掴む弱々しい力は恐らく気づかなければ振りほどいてしまうようなものであろう。 しかし香澄はきちんと立ち止まり、静かに振り返る。

しかし驚いていたのは香澄ではなく香澄を呼び止めてしまった響の方だった。 何故呼び止めたのかも、そうしてどうするのかも何も考えていなかったのだ。

自分の行ってしまった余りにも理解不能な行為に思わず顔が赤くなる。 その額に手をあて、香澄は首をかしげた。


「何だ、熱もあるのか?」


その手を思い切り払い退け、慌てて布団の中に引っ込む響。 訳が判らないのはいよいよ香澄も同じだった。 顔まで布団を被った響の心情を香澄に察しろという方が難しい話であろう。

仕方なくとりあえず椅子の上に腰掛けた香澄は沈黙に耐えかね再び本の頁を捲り始める。 その音を聞き、そっと覗き込むように布団の中から響は顔を出した。

香澄はただ黙って本を読んでいた。 何をするでもなく、ただそこにいた。 その指先が視界を掠める度、傷だらけの姿に心がずたずたに引き裂かれそうになる。

納得していないのは誰もがそう。 香澄も響も例外ではない。 誰も納得の行かない選択をしてきたのだ。 そう、判りきっていても――。


「何か……話して下さいよ」


呟いた言葉は相変わらず消え入りそうだった。 しかし香澄はきちんと聞き取り顔を上げる。

それは香澄がちゃんと響の言葉に注意し、響の事を気にかけている証拠でもあった。

その優しさが判ってしまうから。 居たいほど感じてしまうから。 どうしようもなくやりきれない気持ちになってしまう。

恨めばいいのか、信じればいいのか。 それともどちらも間違いなのか。 心の奥底にかかったまま晴れる事のないこの靄を払えるかも知れない。 彼女はそんな思いで顔を上げた。



⇒覚悟、その向こう側で(3)



「すまなかったな。 香澄を借りてしまって」


「どうして?」


「香澄と一緒に訓練したかったんだろう?」


「うん。 でも香澄は一人の物じゃないから。 香澄は優しいから、必要とする人は沢山居る……そうでしょ?」


格納庫施設内の訓練機の前にイゾルデと話すアレクサンドラの姿があった。 既に何度かの模擬戦形式の訓練を終え、休憩中である。

結局、イゾルデは香澄と響が直接話し合う以外に二人の『無理な状況』を解決する方法はないと考えていた。 だがこれで全てが丸く収まるとも考えていない。

二人は結局自分に嘘をつき、大切な部分を誤魔化してしまった。 それは決して悪いことではなく、むしろ人間なら当然のように行う行為である。

例えばどうにも自分の中でやりきれない気持ちに何らかの原因を見出し、仕方が無いのだと自分に言い聞かせる。 例えば自分のどうしようもない失敗から立ち直るために次はもっと上手く、間違わないようにと努力する。

人は失敗した時、何かを失った時、それらによりどうにもならない感情に衝突した時、何らかの手段でそれを処理しなければならない。 そうしなければずっとその辛さや悲しみが続いてしまうから。

思いは風化する。 時が経てばゆっくりとその感情は色あせて行き、何れは形式的な感覚でしかなくなるだろう。 だが風化の時間は思いの深さと反比例する。

強く強く心に刻まれてしまった物は消したくても消せる物ではない。 切欠があるごとに思い出しては心を苦しませ、一見それは不自然なほどに本人を傷つける。 それがただ風化するのを待つのでは余りに長い苦しみが続くだろう。

だからそれを誤魔化すために自分に嘘を付く人間は少なくない。 これでよかったのだと。 あるいはもっと上手くやれたはずだから、次こそはと。

しかしそれは素直で純粋な人間ほど難しく、嘘つきで嘲る事に長けた人間ほど容易い。 そして響も香澄も、互いに嘘を付くのが決して上手ではなかった。

誰かの『所為』にしてしまえば。 仮にそれが客観的に正しくなくともそれでラクになれるというのにそうできなかった。 そうすることが自分を捩じ曲げる事に他ならないという事を彼らは本能的に理解しているのだ。

全て香澄の所為なのだと責任を押し付け考える事を止め、特定の人間に憎しみを向けるようにすれば響はもう苦しまずに済むだろう。

同時に香澄もまた、その責任の所在は自分ではないのだと言い張り、仕方が無かったと言い訳すれば少なくとも本人の心は救われるだろう。

それらの思いは全て真実であり、しかし偽りでもある。 たった一つの理由や意味など世界には存在しないのだ。 それぞれの思い、それぞれの主張。 それぞれの理由があり、そしてそれぞれの結果が残る。

故に本当はそれら全てを己の責任として捉え、乗り越え、そして強くなるしかない。 ただそれはあの時点の二人には難しい事だった。

だからイゾルデは全てわかっていてもそれを止めることはしなかった。 恨む事に安易に逃げ込み、しかしそれでも憎み切れない響。 そして全てを過去にしてただ先に進もうと決意したというのに、結局仲間が大切で響の下に走ってしまった香澄。

決意は時に言葉にすればいいとも言い切れない。 イゾルデのようにあの事件を心の中に秘め、全てを冷静に捉えた上でより上を目指そうと決意する物もいる。

そして彼女は二人の心が歪んだ状態でもつれているのを見て、しかしそれは本人たちにしか解決できないのだと判断しただけの話である。


「あたしは香澄に救われたから。 だから、どんな事になっても香澄の味方。 あなたは?」


「某は某の味方だ。 誰かを救えるなどとは思っていないよ。 ただ敵は斬り、己の目的の為に突き進むだけだ」


「でもあなたは香澄の心も守っているんでしょう?」


無邪気な一言にイゾルデは苦笑する。 成る程、あの香澄が苦戦するだけの事はある。 どんなにこちらが素直ではなくとも、こう真っ直ぐに見つめられると正直に答えなければならないような気がするものだ。


「居場所とは己の肉体と同義だと某は考えている。 自分を取り巻く環境こそ自分を育て守るものだ。 つまり仲間とは一心同体……。 彼らを救う事は自分を救う事に繋がる。 それは自分の為の戦いだとは思わないか?」


「仲間が心配なんでしょう?」


「……まあ、ぶっちゃけるとその通りだが、某の先程の言い回しの意味が……」


「優しいんだね」


アレクサンドラの笑顔には人の緊張や壁をほぐしてしまうような不思議な魅力があった。 それは恐らく全く害意のないものだからだろう。

思わず顔を赤らめて照れくさそうに明後日の方を向くイゾルデ。 アレクサンドラは飽きもせずイゾルデをずっと見つめていた。


「おーいこらそこ! 何こんなとこでラブっちゃってんだよ!」


二人が顔を上げるとそこにはリフトを操縦している作業着の木田の姿があった。 傍らには何やら端末を操作する佐崎の姿もある。


「あれ? 今日は香澄ちゃんサボリか? 珍しいなー」


「こら木田。 サボっているのはお前の方だろう。 さっさとそれをあっちに運べ」


イゾルデとアレクサンドラが二人に近づくと、格納庫の中心部には三つの結晶機が並んでいた。

不知火の隣には以前とは多少外見のイメージが変化したエルブルス。 そして形状の変化したキルシュヴァッサーが並んでいる。


「キルシュヴァッサーレベル2だってよ。 なんか前より若干でかくなった気もするよな」


「香澄のキルシュヴァッサー、少し変わったね。 ……ううん、これが在るべき姿なのかな? 前に戦ったキルシュヴァッサーは、『香澄の』って感じじゃなかったから」


「え? まじ? そんな事までわかんの? キルシュヴァッサーは元々海斗用の形であれだったからな。 香澄にシンクロするとああいう形が自然なんだよ。 パイロットってのはやっぱすげーなあ、よくそういうのわかるな」


「木田も判ってるよ?」


「いや、俺はいいんだよ。 だって俺メカニックだもん」


作業着のを見せびらかすようにその場で一回転して笑う木田。 何故かそれに釣られアレクサンドラもその場で回転してみせる。

二人が楽しそうにくるくると回る傍で佐崎とイゾルデは腕を組んだまま機体を見上げていた。


「結晶機が既に三機か……」


「不安か?」


「当然だろう。 国を一つ消せる力だ。 俺はいい気分はしないね」


「背負っている責任は重いな……。 我々が考えているよりも、ずっと……」



「話すって……何をだ?」


「……何でもいいよ。 こういうときは、男の子のほうから何か話すものじゃないの?」


「知らん……。 何が聞きたい? そんなに楽しい話はないぞ」


保健室の中、ベッドと椅子との間でやり取りされる会話。 声は決して大きくは無く、むしろ校庭から聞こえてくる部活動の声のほうが響いている。

本を閉じ、困ったように首を傾げる香澄。 響は目を合わせないまま、視線は常に布団の上の自分の手にむけたまま口を開いた。


「……桐野君の昔、かな」


何故そんな事を聞こうと思ったのかは本人にもわからない。 わかるはずもない。 口から咄嗟に出た言葉に響本人が驚いていたくらいだから。

それでも香澄は一息置いて口を開いた。 『どこから話せばいいかな……』という呟きと共に語り始める。


「元々俺は、この街に住んでいた。 その時はまだ小さな子供で、東京は一面の残骸だった。 ようやく復興が始まったばかりのこの町はずたぼろで希望の欠片もなかったんだろう。 でも、俺たちはそこで生きていた」


子供の数は圧倒的に少なかった。 当時生き残りの住人は殆ど存在せず、移住してきた研究者や技術者の家族としてやってきた人間くらいしか住民はいなかったのである。

故に近所に暮らしていた香澄と海斗が知り合うのは当然の流れだった。 他に同年代の人間がいないのだ。 当然、嫌でもお互いが目に付く。


「最初はあいつはへたれでいつも泣いてて、俺はそれがイライラしてイジメたりしてた。 何をやってもわんわん泣き喚くもんだから、結局仕舞いには俺が退散するハメになるんだけどな」


海斗と香澄が友達として触れ合う原因となったのは香澄の姉、秋名であった。 秋名がまず海斗を助け、そしてその役目を香澄に押し付けたのである。


「それからはずっとあいつのお守りだ。 自分で言うのもなんだが昔から腕っ節だけは強かったからな。 いつの間にかあいつを守るのが当たり前になってた」


しかしそれから暫くして香澄と秋名は引っ越す事になり、二人は東京を離れる。


「あとはグダグダだ。 親戚の家に最初は住んでたんだがそこも居心地が悪くてな。 色々なところを転々として、結局ボロいアパートで姉貴と二人暮らしだ。 だがそれも終わってしまった」


夕暮れの公園で振り返った秋名。 それが香澄の中にある最後の記憶だった。 その秋名失踪周辺の記憶は香澄の中でも曖昧で、それがどれほどの衝撃だったのか香澄本人にも想像がつかない。


「あとはもっとグダグダだ。 生きてるのか死んでるのか判らないような生活をしていた。 政府の通達を受けてキルシュヴァッサーのパイロット候補として東京に呼び戻されるまではずっとな」


だから、話しても面白いことなんてないし聞いてもそうだろう。 香澄は最後にそう付け加えた。 響はそれを聞きながら、何故か自然と心が落ち着いている自分に気づいていた。


「……私ね、記憶喪失なんだ」


突然の話に顔を上げる香澄。 響は視線を反らしたまま、自分の指と指を絡めながら唇を動かす。


「ミスリルにね……寄生された事があるの。 その時殆ど全部、何もかも忘れちゃった」


冬風響という人間を形作るそれら記憶は奪い去られ、そのままではもっと沢山の人を傷つけてしまうところだった。

そんな響を救ったのが海斗であった。 キルシュヴァッサーに乗り込み、響に寄生したミスリルを浄化したのである。

勿論寄生されメモリーバックを受けた影響で響は記憶を失った。 だが、そんな彼女が絶望せずに生きてこられたのには理由があった。


「私はミスリルの状態の時、海斗の感情を奪ったの。 私が海斗からメモリーバックしたのは……『悲しみ』」


「……悲しみ?」


「海斗がずっと笑ってるのは楽しいからなんかじゃない。 私が悲しいって感じることを奪ってしまったから、その所為なの。 私の所為で海斗はいつも無理に笑ってた……。 自分にずっと嘘をついたまま」


その言葉が今だの香澄の頭の中で引っかかっていた様々な出来事を肯定する。 海斗の不振な挙動も、響の涙と叫びの意味も。 そして彼女がどうして海斗にそこまで入れ込むのかも。


「私の為に戦ってくれたのに、私は海斗から奪う事しか出来なかった。 奪った彼の思いは優しい悲しみで、だから私は絶望しないで生きてこられた……。 私ね、一度ミスリルに全部食べられちゃって。 その時、ミスリルを感じる力を手に入れたの。 だから……その……」


「ああ。 判ったよ。 俺は誤解していたんだな、海斗の事を……」


「……今更話したところで意味なんかないけど……。 でもこれを話せなかった時点で私、桐野君の事を信じられてなかったんだよね……。 口先ばっかりだ、私……いつもいつも」


強くシーツを握り締める響。 何故恨んでいる人間にそんな事を話しているのかは本人にも訳がわからなかった。

ただ、誰かに話したかったのかもしれない。 それとも桐野香澄だからなのかもしれない。 少なくとも話す前よりは心がラクになり、そして少しだけ気持ちも緩んでいた。


「――傷が」


ぽつりと、香澄の呟いた言葉。 その手が響の手を取り、そっと握り締められる。


「痛みが、他人との想いを消さないで残してくれるってのは、アレクサンドラの言葉なんだが……。 俺もその言葉は結構信じてるんだ」


両手で響の手を包み込み、触れれば痛む指先を優しく引き上げる。 響はただ、ぼんやりと香澄を眺めていた。


「悲しみや苦しみがある限り、俺は自分のした事を忘れない。 あいつのことも諦められない。 でもそれでいいんだと思う。 それなら俺は、痛みと向き合えるから。 痛みが、苦しみが自分を強くしてくれるなら、俺はその悲しみと一緒に歩いていける。 もう決めたんだ。 だから……だからごめん、冬風」


「…………それは、何に対する『ごめん』なの?」


「さぁ、なんだろうな……。 ただ、そう言いたくなったんだ。 もしかしたら、お前を救ってやれないからかもしれないな」


「そう……」


当然の事だった。 故に悲しくも無ければ辛くもない。

ただ胸を締め付ける強い痛みは彼の覚悟を受けたからだろう。 そしてそれが遊びでもおふざけでもなく真剣そのもので、そしてその思いは自分よりよほど強いのだと感じてしまったからなのだろう。

憎む事も許す事も出来ず、揺れる心。 傍に居るだけで辛いのはわかっているはずなのに、どうしてこんなにも目をそらす事が出来ないのか。

それが痛みの所為であるというのならば。 痛みや憎しみの所為で常に相手を想うからなのだとしたら。 それは何と皮肉で矛盾した愛情なのだろうか。


「桐野君……」


「ん?」


「ごめん……。 ちょっと、泣いていい? あー、もう限界……無理……」


目に溜めた涙が小さく零れ始め、響は空いている手で香澄を手招きする。 訳もわからずベッドの上に身を乗り出す香澄にしがみ付き、響はその胸に顔を押し当てた。


「五分……。 五分、貸してて……。 そしたらまたちゃんと嫌いになるから……。 またちゃんと、貴方を憎めるから……」


そうしなければならない。 それこそ香澄が作ってくれた逃げ道なのだから。

苦しむ事は望まれていない。 だからこそ嫌いにならねばならなかった。 その為に彼は全てを背負う決意をし、それは微塵も揺るがない。

謝らなければならないのはどちらだったのだろうか。 救えないのはどちらだったのだろうか。 それは勿論二人にはわからない。

正しい事より間違う事より立ち止まる事を恐れた二人は、無理矢理にでも前に進むしかなかった。 時は止まらないのだから、想いも止めてはならないと。

泣きじゃくる響を抱きしめてあげたくてもそれは香澄に許されていない。 だからただされるがままに胸を貸していた。 本当に五分だけ、五分きっかり泣き喚き、響は顔を離して涙を拭った。


「……ありがとう。 それと、もう大丈夫です。 今日は生徒会室には行かずに家に帰って休みます」


「……夜中も、」


「ちゃんと寝ます。 今日からは探しに行きません。 それで文句ないでしょう?」


「ああ」


「でもそれは貴方も同じです。 それで倒れられたら私の方が困るんですから自重してください」


ベッドから起き上がり、鞄を手に取り立ち上がる響。 香澄の手には相変わらず本が握り締めらたまま。 それを傍目に確認したのに、彼女は声をかけなかった。

出入り口まで早足で歩いていき、それから立ち止まり振り替える。 少しだけ寂しそうな、しかし決意に満ちた微笑で。


「さようなら、香澄君」


去っていく後姿に香澄は呆然としていた。 もしもその時追いかけて抱きしめる事が出来たのならば、二人の間の亀裂は埋まっていたのかもしれない。

だがその痛みが無くなれば立ち止まってしまいそうで香澄は恐ろしかった。 そう、堪らなく恐ろしいのは自分が自分を許してしまう事。 そうしてしまえば、思いは風化してしまうから。


「――ああ。 さようなら、冬風響」


涙は流さなかった。 それでいいのだと言い聞かせた。

勿論わかっている。 誰に言われるまでも無く。


そんなものが、ただの無意味な嘘だという事は――。


チームキルシュヴァッサーが本格的に活動を再会したのは、それから一週間後の話である。



〜キルシュヴァッサー劇場〜


*必ず『激情』って変換に一回なるんだよね*



『ツンデレその3』


木田「なあなあ響ー。 最近は主人公にツンツンしてないか?」


響「え? 言うほどツンツンもしてなくない?」


木田「それもそうだ……。 じゃあ別にツンデレじゃないのか?」


海斗「だから、度合いじゃなくて対比なんだよツンデレは。 香澄ちゃんのことが好き過ぎてツンツンしてるならツンデレなんじゃない?」


響「好きすぎてっていうか……なんか憎んでるんですけど」


木田「それは……ツンデレなのか?」



『ロボットならばその2』


木田「見よ! これぞキルシュヴァッサーレベル2だぜ!」


佐崎「何が増えたんだ?」


木田「んー、全体的にスペックアップしたのと、あと腕部内蔵式ブレードとか、不知火にも着いてる脚部の隠しブレードとか……あとはロケットパンチ?」


佐崎「ロケットパンチは使えるのか……?」


木田「何いってんだよ! ロボットならついてて当然だろうがあああああああっ!!!!」



『主人公その3』


ありす「おにーーーーちゃーーーーんっ!!!!」


香澄「どうした!?」


ありす「主人公だからって不特定多数の女の子といちゃいちゃしすぎーっ!! 歯ぁ食いしばれぇ! そんな大人、修正してやるーっ!!」


香澄「これが若さかっ!?」


ありす「シリアスなSF小説なのかティーンズ向けのラブコメ小説なのかはっきりしてよっ!!」


香澄「それは俺の所為なのか!?」



『ロボットならばその3』


木田「でもさー、ようやく三体揃ったって事は合体も目前だな」


佐崎「そうなのか?」


木田「三体合体といえば王道だぞ! ゲッター〇ボだって三体だ!! アクエ〇オンも三体だし、古今東西むか〜しから最近の物まで、三体合体は王道なのだ! そのうち新幹線とか肩にぶっさすにちがいないぜ!」


佐崎「この東京に新幹線ってないぞ」



『メインヒロイン』


響「って、誰だと思う?」


佐崎「イゾルデはないんじゃないか? どう見ても友達って感じだろう」


イゾルデ「アレクサンドラか? それか妹か姉」


木田「いや、それは血が繋がってるから問題アリじゃね?」


アレクサンドラ「んー、響は?」


ありす「響さんって海斗君狙いだったんじゃないの?」


海斗「じゃあボクが香澄ちゃんのヒロインってことで」


木田「お前がいいなら俺とか佐崎もアリだろ」


一同「「 それはない 」」


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