残酷な、セツナリズム(1)
ほぼパロディ。
「香澄は、将来の夢とか無いの?」
昔、姉貴が突然そんな事を言い出した事がある。
その言葉が予想外な程、大げさすぎる程、自分の胸にぐっさりと突き刺さった事を今でもよく覚えている。
黒いコートを纏い、吐く息が白く染まって昇っていく真冬の夕暮れ。 ホットの缶コーヒーを両手に一つずつ持った俺は、それを思わず落としそうになる。
ちょっと自動販売機に行って帰ってくるだけ。 それだけの距離が異常なまでに遠く感じられる。 姉貴はその彼方で、フェンスに背を預けポケットに手を突っ込んで微笑んでいた。
「なーにびっくりしてるのよ。 別に普通の事でしょ? 良くあるコミュニケーションじゃない」
「あ、いや……。 あんたがそれを言うか?」
止まっていた足を動かし、缶を片方手渡す。 彼女は小さく笑い、それから缶コーヒーを掌の中で転がしながら空を見上げる。
「まだその事根に持ってるんだ、香澄」
「当たり前だろ? 勝手に就職決めやがって……。 あんた、大学行きたいってあんなに言ってたじゃねえか。 学びたいことがあるんだろ?」
「んー。 別に大学でなくても学ぶ機会は沢山あるんじゃない? それに自分で決めた事だから。 わたしはそれで満足してるわ」
風に吹かれては靡く黒い髪とコート。 その気持ちの良さそうな晴れ晴れとした表情とは打って変わって、俺はそれから視線を逸らした。
判っているのだ。 自分の存在が彼女にとって重荷になっているという事が。 俺にはちゃんと学校に行けとか、勉強しろとか言うくせに……彼女は自分の人生を犠牲にしている。
俺よりもずっと勉強も運動も出来て、何をやらせても天才的なのに。 俺のせいで高校さえろくに通うことが出来なかった。
金なら、あるのに。 親父が残した資産は莫大だった。 どうしてそんなに金があるのかって詰め寄りたくなるくらい、金は沢山残されていた。
それでも彼女は極力それに頼りたくないと言い、勝手に使うのを封印してしまった。 親戚の家に預けられていた間は流石にそれに頼るしかなかったが、今は何とか二人で自立している。
二人で自立する、というのも妙な話だ。 それは自立ではない。 二人居なければ意味がないのならば、それは半人前だ。
そう、俺は半人前だった。 早く大人になりたくて仕方がなかった。 俺が大人になったら、彼女に苦労なんてさせないのに。
「そんな事よりね、香澄は明日の事を考えなさい。 明日の明日、次の次。 未来は死ぬまで続いてる。 今この瞬間だけが全てじゃないのよ」
「判るけどさ……。 でも、今に満足できなかったら、明日だってそうはいかない。 俺は今……。 今、力が欲しいんだ」
「……こども」
そう言って彼女は俺の頭を優しく撫でる。
正直恥ずかしかったが、それが好きでもあった。 そうして優しく触れられている間、自分は必要な人間だと思えたから。
でもそうして俺の頭を撫でた後、決まって彼女は悲しげに空を見上げる。 それがどうにも腑に落ちず、自分を肯定できない取っ掛かりでもあった。
将来の夢はないの? そう訊いた彼女。 その答えは欲しくなかった。 今さえ続けばそれでよかった。
でもきっと彼女はそうじゃなかったのだと思う。 未来の事を思えば、過去と今だけに縋って生きるのは愚かなのだと、知っていたのだろうから。
未来の事を考えなかった俺。 けれど、彼女はずっと遠くを見つめていた。 俺には思いもよらないほど、ずっとずっと彼方を。
その時彼女が見ていたのはなんだったのだろうか。 その未来に俺はいなかったのだろうか。 そしてその景色は、今の俺さえも捉えていたのだろうか。
今だ問いかけることすら叶わないその夢に、俺は今でも囚われている。
でも、だからこそ――。
⇒残酷な、セツナリズム(1)
「「「 キルシュヴァッサー!? 」」」
学園祭一日目、深夜。 生徒会室に響き渡る揃った声に俺は思わず溜息をついた。
顔をそろえた連中が声もそろえて叫んだ理由は俺の傍らに立つ小さな小さな少女にある。 銀翼のキルシュヴァッサー……そう呼ばれるミスリル結晶機、その本体が俺の真横に立っているのだから、大騒ぎになって当然だろう。
銀色の髪に白い肌。 不思議な光沢をする銀色のドレスの上に赤いケープを羽織っている。 真紅の瞳はきらきらと輝いて、まるで周囲の光を吸い込んで発光しているかのようだ。
歳の瀬十にも満たないような小さな人間の姿をしたそれは、先程から俺のズボンを片手でちょこんと掴んでは放さない。
「ねえねえ、キルシュヴァッサーってなに?」
全員の視線が振り返り、背後で首を傾げているありすに向けられる。 俺は完全にありすの存在を失念していた。
全員が慌てて俺の周囲を取り囲み、キルシュヴァッサー本体の姿を隠す。 しかしそうあからさまに隠されたらありすは当然見たがるわけで。
「ねーねー、なになに? 何がいるの!? ありすもみーたーいーっ!」
「き、桐野君! ありすちゃんは私たちが抑えるから、早く脱出を!!」
「バカ香澄ん! こんなとこ連れてくんなっちゅーに!」
「あ、ああ……。 悪い、あとは頼む」
片手でキルシュヴァッサーを担ぎ上げ、生徒会室を後にする。 連中と内密な話をするには今の学園はオープンすぎる。
俺はそのまま深夜だというのに静かに騒ぎが続けられる学園祭中の通路を走り、エレベータに滑り込む。 地下格納庫なら、一般人は立ち入れないはずだ。
生徒会手帳を端末に翳し、暗証番号を入力している間もずっとキルシュヴァッサーは俺を見上げていた。 じーっと。 じいーっと。 その純粋無垢な瞳に見つめられ続けるというのがここまで苦痛だとは思わなかった。
無言で腕を組み、ひたすらに視線に耐えながらエレベータの中物音も立てずに待ち続け、開いた扉の向こうに再び子供を担いで歩みだす。
「ああ、いたいた! いやあ〜、桐野君ご苦労様っ! 探してたんだよ、急に消えちゃって困ってたんだ」
格納庫はちょっとしたパニック状態だった。 職員が慌しく走り回り、中には何故か虫網のようなものを担いでいるやつもいる。
それらが日比野の一声で落ち着き、全員安堵の溜息を漏らして日比野の背後に集まってくる。
「キルシュヴァッサーにテレポーテーション能力があるのはわかっていたけど、まさか目の前でパっと居なくなるとは思って居なくてね……。 いや、本当に唐突だったよ。 見つけてくれてありがとう、桐野君」
「いや……っていうか先生、何でキルシュヴァッサーが結晶から出て……あれ?」
見ると普段なら結晶が存在しているはずの場所にはそれはなく、代わりに赤い結晶機が並んでいた。
それとキルシュヴァッサーとを何度か見返し、首を傾げる。 ますます訳がわからなくなってきた……。
「ええと、簡単に説明すると……キルシュヴァッサーは意思を取り戻し、今は自意識と呼べる物を持って勝手に闊歩しているんだ」
「……つまり」
――暴走じゃねえか!?
慌てて担いでいた幼女を放り投げると、床の上でころころと転がった。 俺の乱暴な扱いに職員たちは慌ててキルシュヴァッサーを拾いに走る。
ちょっと転げて軽い傷が付いただけなので問題はないと思うが、研究者たちは精密機械でも扱うように丁寧に幼女を抱き上げていた。
「いやいや、大丈夫だよ香澄君。 彼女はキルシュヴァッサー……僕たちの味方なんだからね」
「だからってフツーに出歩いてていいもんじゃねえだろ!? もうちょっと管理しっかりしろよ!」
「それがね……管理できないんだよ。 彼女は自分の意思で好きな場所にテレポーテーション出来る。 一瞬で目の前から消えちゃうものをどう管理すればいいんだい?」
確かに日比野の言っている事は尤もだが、放置していいものでもないだろう。 今思えばあの結晶の中に入っている間は安心だった。
それに目の前をウロウロされると余計にはっきり意識してしまうのだが、その出で立ちは昔の姉――桐野秋名に瓜二つなのだ。 気持ちがざわつくのも無理はない。
「桐野君っ!」
振り返るとエレベータから冬風と佐崎が出てきたところだった。 恐らくありすの足止めは残りの連中が行っているのだろう。
「日比野氏、この状況はどうなっているんですか? キルシュヴァッサーが平然と外を歩いているとは……流石の俺でも予想の範囲外だ」
「まさかミスリルとして目覚め、暴走しているとか!?」
「え、えぇと……ちょっと落ち着いてね? 別に僕が悪いんじゃないんだから、そんな胸倉掴み上げられても困っちゃうなぁ……」
「一大事なんですっ!!」
「わかったわかった……。 結果だけ言うと、彼女は危険じゃない。 キルシュヴァッサーもこれまで通りに機能する。 むしろ良い事のほうが多いよ。 彼女の目覚めは僕らを次の段階に導いてくれるはずだ」
佐崎と冬樹は互いに顔を見合わせ、それから日比野の胸倉から手を放した。 二人とも必死というか、真面目というか……だからって先生に掴みかかっていいんだろうか。 まあ日比野だからしょうがないか。
しかし、その発言内容から理解できたのは危険ではないという事だけ。 キルシュヴァッサーが目覚めた理由も、あの結晶が何処に行ってしまったのかも、その目覚めが何を意味するのかもわからない。
二人もそのことが引っかかっているのだろう。 俺を中心に並んで立つと、日比野の言葉を待っていた。
「キルシュヴァッサーは特別な結晶機でね。 外部に本体が存在するという不思議な状況が今まで続いていたんだ。 本来なら結晶機は、ミスリル本体が結晶機としての姿を形成しており、当然内部にそれは格納されている。 結晶機=実体化ミスリル成体であるというのが当たり前なんだけど、キルシュヴァッサーは違う」
そう、キルシュヴァッサーは本体が外部で結晶漬けにされているという奇妙な状態で活動していた。 いわば中身もないのに動いているミスリルだった。 今までの状態が異常だったわけで、今はさらにその上を行く異常事態だと言える。
思い返すとエルブルスには別行動する本体など存在しなかった。 いや、もしかしたら第一共同学園の地下に結晶があるのかもしれないが、新たに搬入されたらしい赤い結晶機の隣には本体など別離されてはいない。
「勿論キルシュヴァッサーはミスリルだよ。 でもその力は外部にあるこの子……『銀』から供給されていたんだ。 銀がこうして目覚めた異常、キルシュヴァッサーの能力はどんどん覚醒していくと考えていい」
日比野の傍らに立ち、真っ直ぐな目で相変わらず俺だけを見ている少女、銀。 その頭をくしゃくしゃと撫で、日比野は笑った。
「本体が目覚めた事により、キルシュヴァッサーは進化する。 今まで彼女の力を抑えるために使われていたものが全て力に変わるからね」
「……あの、先生? 私、まだ状況がよく飲み込めないんですが……」
それは俺も同じだった。 というか、何故今まで疑問に思わなかったんだろうか。 外部に本体があるミスリル……? じゃあ、『キルシュヴァッサー』と俺たちが呼んでいたものは、何なんだ?
ミスリルがミスリルであるためには、ミスリルと宿主という存在が必要なはず。 それが二つ重なって現実化したものが初めて力を持つ。 そう、ミスリルは本来ならば形を持たない存在なのだ。
だが、今目の前の銀というミスリルの少女は形を持っている。 明らかな人間としての形だ。 そのほかに、キルシュヴァッサーというロボットのミスリル……?
いや、おかしくは無い。 一つ仮説を立てるとすればそれは明確な意味を持つ。 もしかしたら二人もそれに気づいてしまったのかもしれない。
初めて公園で遭遇した子供のミスリルは、人間の子供という媒体に寄生し、背後に蜘蛛のロボット……ミスリル本体を実体化させていた。
つまり俺たちが乗っているキルシュヴァッサーが宿主として、寄生しているのは俺たちではなく――――。
「はいはい、そこまで」
日比野が手を叩く音で思考の世界から引きずり戻される。
そのまま日比野は銀の背を押すと、銀は自分の足で歩き、俺の下までやってくると両手で足にしがみ付いた。
「お、おい……?」
「見てのとおり、どうやら銀は桐野君が気に入ったらしい。 これから銀の世話は君がすること」
「はあっ!? 日比野テメーなに訳わかんねーこと言ってんだコラァッ!?」
「だ、だから僕が悪いんじゃないんだってばあ〜……。 どうせ隔離してもワープして君のとこに行っちゃうんだから、君が最初から面倒見たほうが早いでしょ?」
「ワープとか訳わかんねーこと言ってんじゃねえ! こいつがワープするって証拠を見せやがれ!」
「いいよ? ほら、こっちにおいで銀」
日比野は銀の首根っ子を掴み、俺から引っぺがすとそのまま遠くへ歩いていく。
ずるずる引きずられていく銀。 何か動物みたいだな……と三人でそれを眺めていると、唐突に銀の姿が消えて重量を無くした日比野は派手に転等した。
「き……消えちゃった……」
「……ほわあっ!? 香澄、足元!」
「え? おわっ!? なんじゃこりゃあっ!?」
足元を見ると、銀が先程と全く同じ姿勢で俺にしがみ付いていた。
正直怖かった。 背筋がぞっとしたのは言うまでも無い。 その澄み切った瞳も、こうして怪奇現象を見せられた後だと何らかの悪意があるのではないかと疑ってしまう。
「め、眼鏡眼鏡……。 これで判ったかい? 君は銀に気に入られてしまったんだよ。 なぁに、優しく扱えばかわいいもんさ。 ペットかなんかだと思えばいい」
そんな風に気楽に思える程俺は単純じゃねえんだよ。
畏怖の念を込めた瞳で銀を見下ろしていると、唐突にふっと、優しく銀が微笑んだ。 その笑顔は昔の姉貴にそっくりで余計に気味が悪くなる。
「だあああああっ!! 気色わりいっ!! 何だこのガキーっ!!」
足をぶんぶん振り回して放り投げると、空中をくるくる回る銀。 体重が恐ろしく軽かった。 いや、子供ってこんなもんか?
「わあああああっ!? 桐野君何やってるんですかあ!?」
「おぉおい!? ロリコンじゃなかったのかお前!?」
何かどさくさにまぎれて叫んでいるやつがいたが、今は放置する。 飛んでいった銀をキャッチするために冬風と佐崎が走り出し、同時に上を見ながら着地様相地点に滑り込み、二人は正面衝突して転等する。
その二人が折り重なった上に銀は華麗に着地し、靴が顔面に減り込んだ佐崎が悲鳴を上げる。 日比野はそれを見て笑っていた。
「彼女は子供のようでもれっきとしたミスリルだよ? ちょっとやそっとじゃ壊れやしないから、桐野君がDVな人でも問題はないはずだ」
「よし、そのバイオレンス……あんたがまず試してみるか?」
「冗談だよ冗談……やだな桐野君、目が本気じゃないか……」
「そんなことより桐野君ッ!? 子供を放り投げるなんて正気ですかっ!? やっぱり貴方という人は、冷たい人間……」
佐崎の上に座ったまま銀を抱き上げる冬風の言葉が止まり、その真ん丸く開かれた透き通った瞳に視線が釘付けになる。
しばらく銀と見詰め合った冬風は、無言で銀をぎゅうっと抱きしめた。
「……気に入ったのか?」
「か、かわいいですっ!」
「よかったな……」
「俺は、よくない……! 響君、少し太ったんじゃないかね……ぐおっ!!」
なんとむごい。 倒れた佐崎の顔面を踏みつけ、冬風は眉毛を笑いながら吊り上げていた。
「乙女の逆鱗に軽々と手を伸ばす人は放っておいて、兎に角銀ちゃんの扱いを決めるのが先決ですね」
ぬいぐるみか何かのように銀をひしと抱きしめたまま戻ってくる冬風。 頬擦りされている銀は何だか困ったような顔をしているように見えた。
「銀は普通の人間と基本的な部分は変わらないから、それほど気にせず接してあげれば大丈夫。 ご飯も食べるし、トイレにも行くし、お風呂に入らなければ汚れるから」
「しかし、桐野君に任せるのは反対です。 さっきみたいに小さい女の子相手でも容赦なく暴力を振るう桐野君は、小さな女の子を愛でる資格無しです」
そんな資格はいらん。
「これは着せ替えてもいいんですか、先生?」
「……冬風君? それは構わないけど……なんだか話がずれてきていないかな?」
二人がそんなやり取りをしていると、いつの間にか復活した佐崎が制服に付いた埃を叩き落としながら歩いてきて俺の肩を叩いた。
「正直に言えよ。 本当は嬉しいんだろ?」
無言で肘打ちを決めた。
結局銀をどうするのかは保留となり、一先ず生徒会室で預かる事になった。
今後銀をどうするのかはともかく、引き離そうにも強引にひっぺがすと銀は勝手に戻ってきてしまうのだ。
幸い今日から明日にかけ、生徒会は生徒会室に止まりこみである。 とりあえず銀をどうするか、一晩は考える猶予がある……のだが。
「…………お兄ちゃん?」
「……はい」
「……その女の子、誰?」
「……はい」
「はいじゃなくて。 わかんないでしょ、ちゃんと言わなきゃ。 ねえ、誘拐してきたんじゃないよね……?」
「違います……」
生徒会室、テーブルに腰掛け足を組んでいるありすの前に俺は何故か跪いていた。
相当銀が気に入らなかったのだろう。 俺の頭を足で踏み……流石に靴は脱いでくれた……ながら、目だけ笑っていないという素敵な笑顔で俺を見下ろしているありす。 弁解の言い訳も思いつかず、俺は皆に助けを求めるものの、他の連中は銀を構うのに一生懸命で俺のことなんて眼中になかった。
「お〜に〜い〜ちゃ〜んんん〜!? 余所見しないっ!!」
「はっ! すんませんっ!」
頭をグリグリ踏まれながらひれ伏す俺。 何で俺妹に踏まれてんの。 誰か説明出来るなら説明してくれ。 そしてこの悪夢を終わらせてくれ。
「お兄ちゃんが、ロリコンだっていうなら、まだいいの……。 それはある意味有利だから」
「有利ってなにが……」
「シャラップ! お兄ちゃんは罪状が言い渡されるのを待つ囚人同然! ありすの許可なしに喋ったらダメなのっ!!」
「えー……」
「とにかく! ロリコンなのはいいの! それはその……ちょっと変なだけで、別にいけないことってわけじゃないと思うの。 お兄ちゃんがその……社会的に逸脱しちゃってる存在だとしても、ありすは気にしないよ? だってたった一人の妹だもん。 家族がわかってあげなかったら、お兄ちゃんの特殊な性癖に理解を示してあげる人がいなくなっちゃうもんね……」
あの、何の話ですか? あとなんでそんな哀れみを込めた流し目で見てらっしゃるんですか?
「家族だもん、判って上げるのって大事だよね? ありすもね、本当はいやだけど……でも、お兄ちゃんが道端の小学生とか拉致監禁しちゃって新聞一面に報道されちゃったり、桐野家の名前に傷がついたら困るでしょ? だから、そういう時はしょうがないからありすがお兄ちゃんをね……ちょっと、聞いてる?」
「……聞いております閣下」
「とーにーかーく! ありすという物がありながら、あんな幼女を拉致ってきちゃうお兄ちゃんの神経ってどうなの!? ありすのなにが物足りないの!? それとも十歳以下じゃなきゃダメってことぉおおおお!?」
「何いってんだオマエェェエエエエエッ!?」
最早わけがわからん。
「うがーっ!! もう! お兄ちゃんのバカ! ばか! 馬鹿ぁ――――ッ!!」
「うごっ!? 死ぬ……死んじゃうっ! 木製の椅子で殴っちゃ駄目! ありす、お兄ちゃん本当に死んじゃうからっ!! やめてええええっ!!」
この小さな身体の何処にこれほどの力が……。
木田の席を振り上げ、何度も俺に叩き付けるありす。 結晶機とかミスリルとか関係ねえ。 まず俺はそれより妹に命を奪われる可能性のほうが高そうだ――。
「それにしても、香澄んは本当に幼女に好かれる素養ありだな。 マジでペドってもいいんじゃねえの? 俺そういうの軽蔑しないぜ?」
「…………お前の馬鹿に付き合ってる暇はない……。 救急箱を……取ってくれ……」
確実に傷口が開いて頭から血が出ているのがわかった。 いや、古傷じゃなくても普通に血が出るダメージだ。
くそう……俺病み上がりなのに……。 容赦なさすぎるだろ、おい……。
倒れたままちらりと顔を上げると、椅子を振り回して暴れまわるありすをイゾルデが取り押さえようと鞘に収めたままの刀で打ち合っていた。 というかイゾルデと打ち合うとかどんだけぇ〜。
ぐらつく頭を何とか起こし、ゆっくりと身体を起こすと目の前に銀の姿があった。 銀は立ったままじっと俺を見上げている。
「……せいっ」
「おいいっ!?」
唐突に、木田が銀のスカートをぺろんを捲し上げた。
ワンピース型のドレスのため、際限なく捲れてしまう。 捲くれたスカートで顔を覆われた銀は、首から下の裸体を完全にさらした状態で呆然と立ち尽くしていた。
「……いや。 穿いてないとは、思わなかったから……。 興味が理性を振り切ったっていうか……俺が悪いんじゃないっていうか……」
直後、木田は後頭部を何かで強打され倒れていた。 その背後にごろりと中身が丸々入ったままのスチール缶が転がり、思わず背筋がぞっとする。
「銀ちゃん大丈夫!? 木田君ッ!! 警察に通報するよ!?」
「……殺人事件で、か……?」
頭から血を流して倒れる木田。 その背後で銀を抱きしめ、冬風は冷たい目でそれを見下ろしていた。
ああ、もう全然、今後の事を話し合える雰囲気なんかじゃない。
「誰か助けてくれ……」
深々とついた溜息は真夜中の喧騒に掻き消されて行った――。
〜キルシュヴァッサー劇場〜
*飼ってたウサギが起きたら死んでた。コテッ って感じで寝るように死んでた*
『それなんて○○○?』
ありす「自分でやっといてなんだけど、足で踏むって無いよね」
木田「なんか、どっかで金髪幼女に踏まれる構図を見たんじゃないの? 作者が」
ありす「……そんな構図何やれば見れるのよ」
木田「エ○ゲとか」
ありす「いくらエロス担当だからってそれはないんじゃない!?」
佐崎「実際は書いてから『なにこのエロゲ』って気づいたらしいぞ」
ありす&木田「「 ええ〜……。 素でそれかよ 」」
『木田と佐崎その3』
佐崎「それにしても、俺たちみたいな明らかに狙った馬鹿キャラって今までいなかっただろう」
木田「おー。 そういやそうかも? 急〜にノリ軽くなるよな。 しかし何でまた俺ら作ったんだろう」
佐崎「『霹靂の〜』を読んでくれた人が結構欝になって読むの止めそうになるらしいんだ」
木田「再三言われとるがな」
佐崎「つまり! 途中で読まなくなってしまわなくてもいいように! 欝展開を和ませる為に俺たちが存在するのだ!」
木田「それってまた欝展開になるってフラグじゃね?」
『霹靂の〜その3』
ありす「だと、主人公が一番初めにいい雰囲気になった女の子は近々死ぬよね」
香澄「ぶっ! な、何言ってんだありす……そんなわけないだろ」
ありす「このまま行くとアレクサンドラか響さんが死んで、その後正ヒロインが出てくるんでしょ?」
香澄「そんなことはない! 毎回序盤にヒロイン死ぬとめっちゃ雰囲気落ち込むからもう殺さない!」
ありす「で、最初からいたはずのヒロインはいつの間にか空気になるんでしょ?」
香澄「……イゾルデの事か?」
『ツンデレ』
木田「なあなあ海斗ー。 響ってもしかしてツンデレなのか?」
海斗「え? ど、どうだろう……。 そもそもツンデレの定義が良くわかんないんだけど……」
木田「……最近さ、なんでもツンデレって言われてるよな。 何でもツンデレって言えばいいもんじゃないよな。 その辺ハッキリしてほしいよな」
海斗「う、うん……? そういえばツンデレらしいツンデレって居ないかもね」
木田「ありすちゃんは?」
海斗「……ツンツンしてる? あれはデレデレなんじゃない?」
木田「それかロリデレ」
海斗「それは何?」
『戦場の絆その2』
イゾルデ「ついに某専用のキルシュヴァッサー二号機、不知火がロールアウトだ」
香澄「三倍速で動くのか? 彗星なのか?」
イゾルデ「いよいよ持って知らない人には判らない話になってきたな……」
香澄「あれだ。 条件キツい割にはそんな物凄く強いわけでもザクの三倍速ってわけでもないんだよな。 まあコストもそれほど高くないけど」
イゾルデ「……」
香澄「やはりパイロットの腕があってこそ赤い彗星なんだな」
イゾルデ「じゃあキルシュヴァッサーは白い悪魔なんじゃないか?」
香澄「……それだっ!!」
〜完〜