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白刃、霞を払いて(2)

結晶機の操縦方法には二通りの方法がある。

まず一つ目がマニュアル操縦。 コックピットに登場し、操縦桿やらフットペダルやらで実際にキルシュヴァッサーを操縦する方法だ。

コックピットは正直広くない。 内部にはおざなりなシートと、操縦桿に向けて宙ぶらりになっている操縦用のグローブ、足元のいくつかのフットペダルによって構成されている。

キルシュヴァッサーの操縦そのものはそう難しくない。 二つある操縦桿だけで移動、旋廻は可能だし、フットペダルでジャンプ、ダッシュ、ブレーキと言ったような操作になっている。

ゲームセンターに似たようなゲームが置いてあったのを思い出しつつ、しかしそれだけでは細かな動作が不可能であるのは当然の事だ。

その細かさとパイロットの直感を操作に反映するのが反射操縦と言われる二つ目の操縦法である。 搭乗時装着する専用のグローブと額に装備するバイザー、そしてキルシュヴァッサーそのものが持つ意思が、パイロットの直感的な動作を操縦に反映するのである。

例えば熱いヤカンにでも触ったとする。 人間は危険だとかなんだとか判断するよりも早く、即座に手を引っ込めるだろう。 そうした『危険』を察知して反射的に無理のない回避動作を取る事や、同じ操縦桿の操作でもパイロットの意思に応じてその効果の幅が大きく変化するなど、キルシュヴァッサーは直感的な操縦を行うシーンが多い。

だがそれは自分の身体同然にキルシュヴァッサーを扱えるようになればの話で。 だから訓練途中の俺がそんな簡単に出来るわけもなく。


「おやおや。 大丈夫かい、桐野君?」


「…………はは、余裕ですよ」


地下格納庫。 床の上に仰向けにぶっ倒れている俺を見下ろし、日比野は何やら苦笑を浮かべていた。

訓練開始から三日目。 正直想像していたより訓練は厳しかった。 訓練は実際のキルシュヴァッサーではなく、それを模したプログラムによって行われる。

人一人が入る事が出来るコックピット型の訓練装置に搭乗し、あとはバイザーを装着してしまうので実機と違いはあまりないらしい。

マニュアル操縦は上記した部分だけ見ると簡単そうに見えるし実際そうなのかもしれないが、細かい感覚やボタンの多さ、ペダルの配置など等、それらをバイザーという目隠しをした状態で行うには完全に身体に叩き込まねばならなかった。

これを毎日十数時間という勢いで繰り返し行い、スコアを確認する。 ミスリルをぶった切るのもデータ上でなら何十も達成している。

その分撃墜された回数も多いわけだが……。 海斗のように軽やかにキルシュヴァッサーを操縦するとは行かないようだった。

制服で訓練を進めるわけにも行かず、今はジャージに汗を吸い込ませている。 夏という季節も相まって、どうにもこうにも疲労は蓄積するばかりだった。

地下は一応冷暖房完備なのだが、この隅にある訓練区画だけは異様に温度が高い気がする。 もう目やら腕やら足やら痛くて死にそうだった。


「恐ろしいハードスケジュールだね。 あまり無理をして体を壊しても仕方がないし、今回は海斗君に任せるかい?」


「いや! まだやれます。 あと訓練漬けになれるのは三日しかないんです。 休んでいる時間はありませんよ」


汗を垂らしながら立ち上がる。 相手のエルブルスのパイロットだって、当然だが海斗と同じように実力者なのだろう。 今の俺が海斗に並べたようには思えない。

少しずつだが、上達している実感はある。 これほどやりがいのある苦労もない。 ぶっ倒れていたのは五分足らずだ。 やる気は微塵も衰えてはいなかった。


「そうかい? まあ、無理はしないようにね。 それからもう直ぐお昼だそうだから、次のシミュレーションが終わったら生徒会室にもどっておいで」


「はい。 それじゃあ続きがあるんで」


首からかけたタオルで顔を拭いながら頷く。

そう、もう時間がないんだ。 悠長に飯食っている場合じゃないのは、判りきっているから。



⇒白刃、霧を払いて(2)



「香澄ちゃん、大丈夫……?」


「……見てわからないのか? 大丈夫に決まっているだろう」


「見て大丈夫じゃなさそうだから言ってるんだけどな、ボク……」


生徒会室に戻った俺は食欲は無かったもののなんとか出されたカレーを食いきってテーブルに突っ伏していた。

昼食の担当はありすだったらしく、なんとも馴染みのある味のカレーだった。 ちなみにこの間もカレーだったのに何故またカレーなのか訊ねると、『合宿といえばカレーだから』との返答だった。

まあ気分は判らなくも無いしこの際食えれば何でもいい。 食事係のありすがいるか居ないかでこの合宿も随分と内容が変わってきたのではないか。 悪いが他に料理が出来そうなのは俺くらいしか居ない気がする。


「うめえええっ!! ありすちゃん最高だぜ! おい香澄ちゃん、真面目にお前の妹すげえな!」


「香澄ちゃん言うな阿呆」


「なんというハイスペック……! 料理上手なこの俺でも大変良く出来ましたと言わざるを得ないッ!!」


「えへへ、ありがとー。 でもお兄ちゃんは毎日食べてるしこの間もカレーだったから飽きちゃったかな?」


「毎日……」


「手料理……」


佐崎と木田が俺を見ていたが気づかなかったフリをした。 放っておけばやつらの興味はどうせすぐありすに向けられるだろうし。

そんなわけでありすはどうやら退屈しないで済んでいるようだった。 生徒会の連中は皆ありすのことが気に入ったらしい。 何かと付きまとう佐崎と木田はあれでも生徒会メンバーだし、ありすに従ってる状態ならとりあえず安心して任せられる。

生徒会室にありすを置いて置いても役に立たずやる事もなくて暇だとなきついてくるかと思いきや、ありすの存在は存外に役立っているようだった。


「桐野君、ちょっといいですか?」


顔を上げると正面でパソコンの前に座った冬風が髪を背後で纏めながら俺を見ていた。

立ち上がり、テーブルの反対側の冬風の傍らに立つ。 髪を結んだ冬風は眼鏡を押し上げてパソコン画面を俺に向けた。


「貴方の三日間の戦績と動作データを少し整理してみました。 これで自分の戦闘傾向と弱点、それからどこを重点的に強化すればいいかわかるはずです」


赤いフレームの眼鏡だった。 冬風はどうも普段はコンタクトレンズをつけているだけで実際は視力が弱いらしい。

眼鏡をかけている冬風はいかにも真面目そうな生徒会長だった。 普段から真面目なだけに真面目どニ割り増しというか……俺は何を言っているんだ。 疲れているのか。


「へぇ……。 わざわざすいませんね、冬風さん」


「やるからにはきちんとやらないと。 それにしても桐野君は白兵戦闘能力に特化していますね。 射撃の成績は微妙ですが、刀剣の扱いは何か心得があるんですか?」


「剣道はやっていたが、剣道じゃこういう刀の使い方はしないな。 まあ握って振った経験があるっていうのは差が大きいのかもしれないが」


「先程も言いましたけど、白兵戦闘能力は非常に高いものの射撃はイマイチです。 今回は射撃武装はとっぱらって白兵武装のみで望んだほうがいいかもしれませんね」


「銃も一応装備していたほうがいいんじゃないか? 相手の出方を窺わないと」


「そうですね……。 一応専用拳銃だけは装備しますが、今更このペースで射撃を鍛えてもあまり役には立ちません。 むしろ伸びるのが早い白兵を鍛える事に集中すれば、刀剣戦闘だけは何とかモノになるかもしれません。 それが『勝ち目』になるのならば、射撃は捨てて今回は刀剣の扱いを重点的に訓練した方がいいと思います」


なるほど、あくまでも次の対エルブルス戦に間に合うような調整ということか。 出来れば両方出来て当たり前なのだろうが、射撃がヘタクソなのは俺のせいなのだから仕方が無い。

確かに格闘、刀剣の扱いには多少の心得があるし、直感操作もすんなり馴染む。 逆に射撃は実際に俺が経験していない事実だから、直感操作の恩恵が少ないのだ。

となると、一先ずは刀剣で『戦闘になるくらい』の形は整えて望みたい、ということか。 射撃訓練はとりあえず模擬戦が終わったあとでも出来る。


「剣道の経験があるなら、このまま主武装は刀で行きましょう。 拳銃は腰背面に装備します。 あとは貴方の努力次第……な、なんですか? 人の顔をジロジロ見て……」


「……いや。 別に」


何だ、ちゃんと仕事できるんじゃねえかあんた。 それに、嫌っているはずの俺相手でも一生懸命、か……。


「プリントアウトしてくれるか? 訓練しながら読み直したい」


「……判りました。 少し待っててください」


プリントの為に席を立つ冬風を見送り入れ替わりに席に座ると海斗がニヤニヤしながら俺を見ていた。


「何だその目は」


「響さん、いい人でしょ?」


「さぁな」


紙コップに注がれたスポーツドリンクを一気飲みしていると隣にイゾルデが腰をかける。


「調子はどうだ二人とも」


「ボクはいつもどおりだね」


「……まあ、努力はしているよ」


本来ならば訓練をするのは海斗、イゾルデが良いのだろうが、今回は俺、或いは海斗が出撃するという事でイゾルデには生徒会の手伝いを優先してもらっていた。


「ありすを任せてしまって申し訳ないな、イゾルデ。 迷惑かけてないか?」


「ふむ。 ありすは良い娘だ。 有能だし明るく活発でな。 某の目が黒いうちは佐崎、木田には手出しさせん」


「そうか……。 頼むよイゾルデ」


「それより、貴様は模擬戦の心配をしていろ。 やるだけやれば負けてもいいなど甘い事は言わんぞ。 やるからには勝て、香澄」


そう言ってイゾルデは湯飲みを一気に呷った。

そう、負けるわけにはいかないのだ。 皆の期待を背負う以上、それは避けなければならない。 無様な敗北など、絶対に。

今の自分に出来る事が限られているのは判っている。 余りにも時間がなさ過ぎる。 予定通りの日程なら間に合ったと胸を張って言えるが、あと三日程度でモノに出来るかどうか……。


「香澄ちゃんなら大丈夫だよ。 昔から香澄ちゃん、喧嘩で負けた事一回もないもん」


海斗の良くわからない根拠の笑顔が少しだけ救いになる気がした。

プリントアウトしてもらった資料を手に俺と海斗は再び地下へ。 午後の海斗は武装とキルシュヴァッサーの調整、チェックを手伝うらしく、当然ながら一人で訓練が続いた。

結晶の中に閉じ込められたキルシュヴァッサー本体。 ミスリルと同一と呼ばれるその存在を遠巻きに見上げ、俺は拳を強く握り締める。

あれは余りにも姉貴に似すぎている。 絶対に無関係であるわけがない。 いや、そう信じたいのか。 何かの手がかりがあるのだと。

姉貴が俺の元を無言で去るというありえない事態。 ありえないと感じていたロボットの存在。 ありえないはずの謎の敵、ミスリル。

その、世界の裏側にあるもう一つの当たり前の世界が関係しているのならば。 姉貴が去った理由も、もしかしたらそこに……。


「……キルシュヴァッサー。 お前は俺を、彼女の所に導いてくれるか……?」


冬風に渡された資料を手に、もう一度訓練機を見上げる。

迷っている暇も考えている暇もない。 だから俺は戦わねばならないのだ。

そうして無我夢中になって走っている間、俺は悲しみを忘れられるから。



そうして、四日後――。 特区東京フロンティア、国連軍基地。



生徒会メンバーは部活の遠征などに使う共同学園のバスを貸し切り、基地に向かっていた。

当然だがありすは留守番である。 三日間の訓練を経てパイロットの変更はない。

日比野が運転するバスが巨大な滑走路の脇、無数の戦闘機の隣に停車し、俺たちはぞろぞろと揃ってバスを降りた。

全員服装は制服である。 それがチームの証であると同時にパイロットスーツでもあるらしい。 静かに息を吸い込み、吐き出した。

国連軍基地は海沿いに存在する為、潮風の香りがふわりと舞っていた。 キルシュヴァッサーは既に搬入されているらしく、俺たちはこのまま司令部に出頭、その後予定をあわせ模擬戦開始となる。


「それじゃあみんな、まだ開始まで一時間くらいあるからそう焦らずじっくりね。 僕は車を置いてくるから、先に司令部に行っててくれ」


慌しく人が行き交う滑走路を学園のバスが遠ざかっていく。 基地は厳戒態勢だった。 戦闘機が空を舞い、無数の武装した兵士が走り回っている。


「すごい事になってるな……」


「公式な試合とは言え、国際的な戦闘行為だからね。 結晶機はやっぱり極秘だし、色々な意味で警戒は怠れないんだよ。 ボクらも司令部に行こう」


「ああ……」


急にリアリティを帯び始める戦闘という行為に思わず緊張感が高まる。 本物の銃を構えた兵士。 本物の戦闘機。 本物の軍基地。 本物のロボット。 本物の、戦争――。

考えれば考える程追い詰められる気がした。 やれるだけのことはやってきた。 今更引き返せるとは思っていない。 それでも緊張は否応無く身体を凍りつかせていく。


「そう硬くなるな、香澄。 貴様は十分努力してきた。 あとは我々が全力でサポートする」


「桐野君は初めてだから緊張するのも無理はないけど、実力を発揮出来ませんでしたってわけにはいかないんです。 ほら、リラックスして」


「あ、ああ……。 悪い……」


正面から俺の両肩を叩き、にっこりと微笑む冬風。 思わず無邪気なその姿にどきりとしたのも束の間、背後からタックルを食らい思わずよろめいた。


「おら、香澄ちゃん! いつものふてぶてしさでいっちょエルブルスをぶっ倒してこいよ!」


「き、木田……。 お前なあ……」


と、背後を振り返るより早く目の前に冬風の姿があることに気づいて固まる。

思い切り飛ばされた俺はよろけて冬風の腕の中に飛び込んでしまったのだ。 まさかこうなるとは思わなかった俺たちは停止し、佐崎が口笛を吹いた。


「やるな香澄」


「木田あっ!! 何しやがるテメエッ!! 佐崎も『ひゅー』じゃねえんだよ!」


「わりーわりー! いや、でも役得じゃん?」


何がだ。


「あ、あの……」


「あ?」


正面に向きなおすと顔を真っ赤にして俯いている冬風の姿があった。

慌てて身体を離すと、冬風は何も言わずにそっぽを向いてしまった。 ああ、これは完全にやっちまったなと思い木田を睨みつけると、木田は無言で両手を合わせていた。


「まあ、緊張はほぐれたみたいだし結果的には木田のお陰か」


「佐崎良い事言うじゃねえか。 そうそう、リラックスが一番だって、このラッキースケベ」


「…………この場でまずエルブルスの前にお前を潰してやろうか?」


「どわーっ!? 暴力反対暴力反対っ!! 仲間に向ける視線じゃねえぞ、それっ!!」


実際、馬鹿をやっていたら気がまぎれた。 肩肘張っても仕方が無い。 今の自分に出来る事をやるだけだ。

全員そろって移動し、基地の内部に入る。 あとは司令部で待機するだけだが、さて……。


「皆先に行っててもらってもいいか? ちょっと最後にキルシュヴァッサーを見ておきたいんだが」


「あ、場所わかる? ボクも一緒に行こうか?」


「いや、大丈夫だ」


壁を見るように促す。 そこには『格納庫』という文字と共に矢印マークが表記されている。


「ちょっと見てくるだけだ。 気持ちを落ち着かせたくてな」


「なんだよ香澄ちゃん、案外ナイーブだな……いててて!?」


「ほら、無粋な事を言わず我らは行くぞ。 香澄、後でな」


「ああ」


イゾルデに耳を引っ張られて去っていく木田。 それに続いて残りのメンバーも踵を返した。

メンバーとは逆の方向にT字路を曲がり、矢印にそって移動すると格納庫はすぐだった。 開け放たれた扉から差し込む光に照らされながらキルシュヴァッサーは膝を着いている。

その反対側、正面には灰色の機体――恐らくエルブルスだろう。 キルシュヴァッサー同様膝をついて出番を待っていた。

二つの結晶機を同時にこうしてみると壮観と言わざるを得ない。 これからロボット同士で戦わなければならないのかと思うと、また少しだけ不安が忍び寄ってくる。

それを振りほどくように頭を振る。 ふと、視線の先エルブルスの足元に第一共同学園の制服が見えた。 ゆっくりと歩き出し近づくと、それはぼんやりとエルブルスを見上げる少女だった。

灰色の不思議な髪色。 灰色の瞳。 不思議な雰囲気の少女だった。 もう少し近づこうと思い足を踏み出そうとした瞬間、


「だめ」


思わず足を止める。 少女の首だけがこちらを向き、俺の足元を見ていた。

そっと足を引っ込めると、そこには小さな虫が歩いていた。 このまま足を踏み出していたならば俺は虫を踏み潰していただろう。

ちまちまと移動して去っていく虫を彼女はずっと見つめていた。 それが格納庫の外に出て行くのを見送り、少しだけ嬉しそうに頬を緩ませる。


「……バリショーェ スパシーバ」


「え?」


「あの子、殺さないでくれてありがとう」


とても流暢な日本語だった。 ふっと、儚い笑顔を浮かべて少女は俺と向かい合う。

蒼いワイシャツ――第一共同学園の制服だ。 相変わらずぼんやりとした様子で少女は俺を見つめていた。


「日本語、上手なんだな」


「東京じゃ日本語が話せないと大変でしょ?」


ああ、そりゃそうだ。 まあ、そりゃそうだよな。 イゾルデみたいなのもいるわけだしな。

視線をエルブルスに向ける。 エルブルスはキルシュヴァッサーよりも重装甲で肉厚な印象を受ける機体だった。 パワーは強そうだが、スピードはキルシュヴァッサーなら勝るだろう。

武装が気になるところだが、あまりじろじろみていてはスパイみたいで良い気分ではない。 視線を再び少女に向けようと顔を下ろすと、その灰色の瞳が直ぐ目の前にあって思わずあとずさる。


「おわっ!?」


「……キルシュヴァッサーのパイロット?」


「あ、ああ。 あんたはエルブルスの?」


「アレクサンドラ・ゲルマノヴナ・シェルシュノワ」


名前なげえ。


「桐野香澄だ。 えーと……アレクサンドラ」


「桐野、香澄。 香澄……? 女の、名前?」


まあ、そう思うよな。 生徒会の連中がそこに突っ込まないのが逆に俺は不思議だった。

昔からこの名前が余り好きじゃなかった。 ただ、姉貴が呼んでくれる時だけはこの名前を好きになれた気がする。

女みたいだのなんだのとガキの頃はよく囃し立てられた。 顔が整っていた分昔は女っぽかったし、余計に気になっていた。


「だが、男だよ俺は。 間違いなくね」


「見れば判る」


そりゃそうだ。


「……進藤海斗ではなく、今日は香澄が相手なの?」


「残念ながら俺だ。 なんだ、そんなに頼りなく見えるか?」


「逆」


首を横に振り、アレクサンドラは言った。


「強い想いを感じる。 銀翼に対して」


「銀翼?」


「……銀翼のキルシュヴァッサー。 あれはそう呼ばれているの」


キルシュヴァッサーをもう一度見つめる。 確かに装甲は銀色だが、翼なんてないはずだが。

その時俺は深くその言葉の意味を考えなかった。 アレクサンドラもそれ以上は語ろうとしなかったし、どうでも良い事のように思えていた。


「じゃあエルブルスは何て呼ばれてるんだ?」


「軋轢。 軋轢のエルブルス」


まあ、確かにそんなカンジだな。

アレクサンドラは髪を掻き揚げ、それから優しい瞳でエルブルスを見上げていた。 その様子はとても穏やかで、エルブルスに対する愛情を感じる事が出来た。


「大事にしてるんだな、エルブルスを」


「うん。 エルブルスだけが、あたしの存在意義だから」


「え?」


その言葉の真意を問い正すよりも早く、アレクサンドラは俺に背を向ける。 何も言わずに去っていくその背中を見送り、俺は呆然とその場に立ち尽くしていた。

虫を殺さないでと言った彼女。 俺にありがとうと言った彼女。 愛しそうにエルブルスを見上げていた彼女。

彼女がフェリックス機関のパイロット? 第一生徒会のパイロット? 軋轢のエルブルスのパイロット?


「何だ……判っていたはずなのにな」


戦争なんていっても、戦うのは俺たち子供だ。 見ず知らずの相手ではない。 同じ学生で、同じ立場で、同じように何かを背負って戦っている。

負けたら後が無いというエルブルスとフェリックス機関。 そして――それだけが存在意義だというアレクサンドラ。

知らないほうが気は楽だったのかもしれない。 だが、俺はそれを知る事が出来てよかったと思う。

拳を握り締め、背を向ける。 そうだ。 俺はそれでも尚、相手が何者であれ――負けるわけにはいかないのだから。

そうしたものを俺も同じく、背負っているのだから――。



キルシュヴァッサーとエルブルスとの模擬戦は、四十分後に開始された。



〜キルシュヴァッサー劇場〜


*みたい人だけみてね!*


『木田と佐崎』


木田「なあ佐崎、俺たちって名前なんていうんだ?」


佐崎「無い。 作者が考えてない」


木田「何で!?」


佐崎「脇役だからだ」


木田「…………いや、でも作者さ……俺たちのエピソード考えてるんじゃなかったか?」


佐崎「エピソードと名前の有無は関係ないだろう」


木田「……そうか?」


〜完〜



『霹靂の〜』


ありす「って、物凄く長かったじゃん?」


香澄「半年くらい書いてたからな」


ありす「銀翼のキルシュヴァッサーはそんなに長くならないといいね」


香澄「そうだな」


ありす「長く書けるほどネタもないような気もするね」


香澄「ああ」


ありす「…………。 なんかさ、ぶっちゃけレーヴァテインで燃え尽きた気がしない?」


香澄「する……。 何でまたロボットSFにしちゃったんだろうな」


ありす「なんかキャラ被ってるのとか多そうだよね」


香澄「ああ……。 色々と気を使わないとな」


ありす「……せめて主人公はさ、ツンデレじゃなくて普通の男の子にするべきだったんじゃないかな?」


香澄「ツンデレっていうな! リイドよりはマシだと思う!」


ありす「……そうかなぁ?」


〜完〜



『出撃一時間前』


アレクサンドラ「……………」


整備員「……」


アレクサンドラ「………………」


整備員「…………」


アレクサンドラ「……………………」


整備員「(もう一時間はエルブルス見てるな……)」


アレクサンドラ「(お腹すいた……)」


〜完〜



『戦場の絆』


イゾルデ「これがキルシュヴァッサーの訓練機だ。 フットバーと二つの操縦桿で動く」


香澄「これは、パイロットカードは必要ないのか?」


イゾルデ「何だそれは?」


香澄「ジオンと連邦に分かれるんだろ? ターミナルはどこだ?」


イゾルデ「何の話だ」


香澄「インカムを挿すところが無いぞ、イゾルデ」


イゾルデ「人の話を聞け」


香澄「まさかマッチングしない店内専用仕様なのか!?」


イゾルデ「桐野香澄ッ!!」


〜完〜



『君の名は』


香澄「しかし、長い名前だな。 ロシア人は皆そうなのか?」


アレクサンドラ「うん。 名と姓以外に父称というのがあって、真ん中にはいってるのがそれ。 ミドルネームとは異なるものなの」


香澄「アレクサンドラ・ゲルマノヴナ・シェルシュノワ……だったか? まあどちらにせよ長い上にわけのわからない名前だな」


アレクサンドラ「ロシア人だからしょうがない」


香澄「しょうがないか……。 何か由来とかあるのか?」


アレクサンドラ「ない。 ロシア語の名前を検索したら出てきたからそのまま採用した」


香澄「……そっか」


〜完〜


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