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奔走、第三生徒会(3)

色々カオス。

俺は自分の姉にどこか強い理想の姿を重ねていたのかも知れない。

桐野香澄と言う人間は、恐らく桐野秋名と言う存在に心を奪われていた。 毅然と世界を進むその姿は、子供心に美しく写ったのだ。

そう、美しかった。 世界は穢れているのに、彼女だけは……美しかった。 両手は白いままで、罪の色さえ溶かしてしまいそうだった。

強烈に憧れた。 自分もそうなりたいと思っていた。 誰にでも優しく、そして同時に誰にでも厳しい。 偏らない心――中庸であり、無色であり、強い心を伴う無心。 繊細な様で大胆、無邪気な様で恐ろしく、その眼差しは他の人間とは違う、どこか遠い場所を眺めているような気がした。

彼女に一生付いていきたいと思った。 そして願わくばその姿を守りたいと思った。 その為に強さが欲しかった。 迷う事も躊躇う事も、善である事も捨てきれるほどの覚悟。 人の心を踏破するような強さを持つ彼女に追いつく手段はそれしかないと思っていた。

透明な心は絶対に俺には傾かない。 大切だのなんだのと語るその唇が紡ぐのはあからさまな嘘で、それが俺にばれている事をわかっていて彼女は笑うのだ。

中毒性の高い歌でも聴かされているかのように、俺は彼女に夢中になった。 傍にあの人だけがいればそれでいい……あとは何も要らないとさえ思えるほど。

彼女が居なくなってようやく気づいたその恐ろしいほどの盲信と、そしてその盲信を受けている事を知りつつ俺の傍を離れた彼女。 二つの痛みは胸を強く抉り、それから姉の事に触れるのが怖くなった。

思い出すのも考えるのも何もかも嫌になり、何も考えなくて済むように自分のギアをコントロールできるようになって数年。 今になって考え直してもやはり思う。

俺はきっと彼女に恋をしていた。 いや、改めて考え直すほどのことでもない。 当たり前のように、自然と俺は彼女を愛していた。

恐らく世間的に見ればおかしな話なのだろう。 誰にも語れず、気づけば自分でその想いを反芻することさえ嫌になった愛情。 何故、今それを思い出したのか。


「こちらの姿を見るのは初めてだったか。 紹介しよう、香澄」


イゾルデに連れられてやってきた地下格納庫。 そこには勿論、ロボットなんてなかった。 ただそこには透明に輝く巨大な鉱石が佇んでいただけ。

それならば俺はあの日にも目撃している。 そう、キルシュヴァッサーを知るよりも早く、この場所で。 ロボットはあれだと、確かに聞いていた。

でも俺はそんな話を信じていなかった。 それは明らかにロボットではなかったし、そもそもそんな話そのものを信じていなかったからだ。

だが、間近に見上げるその姿に俺は思わず震えた。 動揺と感激、恐らく二つの心を揺らす想いに耐え切れなかったのだろう。 そっと透明なそれに触れて、俺は息を呑んだ。


「――――彼女がキルシュヴァッサー。 我々がミスリルと呼ぶ存在だ」


震える指で触れた宝石は冷たく硬く、温もりは僅かにも感じられない。

それでもその宝石の中で目を閉じて眠る幼い少女の姿に自分の胸が熱くなるのを感じていた。

気づけば頬を涙が伝う。 それからその場に膝を着き、静かに目を閉じた。


「姉さん……なのか……?」


そんなわけがない。

勿論それは、判っているのだけれど。



⇒奔走、第三生徒会(3)



三年前、俺と姉貴は小さなボロアパートで暮らしていた。

住んでいるのは俺と姉さんだけ。 他の部屋の住人も変な奴ばかりだったが、悪い人たちではなくて問題も何もない、平和な暮らしだった。

特に大家さんがとても親切な人で、頼みもしないのに色々と面倒を見てくれたのをよく覚えている。 木造のボロボロのアパートで、庭には桜の木が一本だけ植えられていた。

普通に考えればそこはただのボロアパートに過ぎなかったが、俺にとってはそれ以上であり、形容しがたい思い出に満ちた世界そのもので。 だから今思い返しても一番幸せだった時期はいつかと言うと、やはりその時期を回答する。

当時十五歳だった俺は生意気なガキだったと思う。 それはきっと今になっても変わらない。 ただあの頃の俺は、今とは違ったひねくれ方をしていた。

そして当時二十歳だった姉貴は既に学校へは通わず働いていた。 俺もそうしたかったのだが、当時の俺はまだ中学生。 バイトは出来ても働く事は出来なかった。

せめてと思い、家事は俺が何でもやっていた。 基本的に姉貴は家事の出来ない女だったので、それは仕方のない事だったのかもしれない。

美しい、美しいと思っていた姉貴は実際のところ休みの日は昼過ぎまでぐうすか寝ていて片付けもろくに出来ない面倒くさがりなやつだった。 ただ、俺はそれを悪いとは思っていなかった。

むしろ自分に役割があることを嬉しく思っていた。 何かしてあげられることがあるというのはこちらとしても気を楽にする。 毎日遅くまで仕事をして帰ってくる姉が昼まで寝ていても、俺は全くいけないことだとは思わなかった。

二十歳といえばまだまだ遊びたい盛りのはずだ。 姉貴はぐうたらに見えても勉強家で、色々な事を学びたかったと酒を飲みながら時々俺に愚痴る。 それは俺を責めている言葉ではないと判っていても、ぐさりと胸に突き刺さった。

大人しくあの桐野の家にいれば何の問題も無かったのかも知れない。 だが、俺たちは家を出なければならないと、そんな気がしていたのだ。

俺たちには母親がいなかった。 気づいた時にはもう居なかったので、その真相を知る術はない。 親父はどうやら日本人ではなかったらしく、名字も桐野ではなかった。 だが親父はその桐野という名字が気に入ったらしく、恐らく母方の姓であったのであろう桐野を自分の物であるかのように扱っていた。

当然俺たちにも桐野という名前がつけられる事になった。 姉貴はどちらかというと恐らく母の血を濃く継いだらしく、黒髪に黒目だった。 だが俺は親父の血を継いだらしく、金髪に蒼い瞳――。 顔立ちも日本人らしさは半分ほどだった。

その外見の違いが、どうしようもなく俺と姉貴を隔てているような気がした。 そして自分たちを置いてどこかへ居なくなってしまった親父と同じものだと考えると、自分自身がどうしようもなく許せない気がした。

正直父親の顔などろくに覚えていない。 研究所に行ったきりロクに帰らず、俺と姉貴はいつもほったらかしだった。 そのくせ親父は別の女――綾乃さんと結婚して子供をいつの間にか作っていて、そいつらと研究所で暮らしていたのだ。

ありすは十三歳で、俺は今十八歳。 五年という年月は、俺たちの母親の事を忘れるには都合いい年数だったのだろうか。 問い掛ける事さえままならなかった。

そうしていつの間にかいなくなった親父に代わり、綾乃さんは俺たちを引き取って育てると言い出した。 引き取るも何も戸籍上は既に家族なのだから当然なのかもしれないが、そもそも籍が入っていたのかどうかも怪しい。

親父はそういういい加減な男だった。 だらしが無くて、女を侍らすような色男――。 そんなイメージに強く嫌悪感を抱き、全ての大人が嫌になったのは子供心に仕方が無かったのかもしれない。

だから、そんな親父が選んだ女なんて認められなかった。 綾乃さんを俺は憎んでいた。 父親を奪ったと言うつもりはないが、だが俺から平凡な生活を奪ったのはきっとあの人なのだ。

俺は反対した。 家を出るといって聞かなかった。 そんな俺の為に姉貴は一緒に家を出て桐野から離れるといってくれたのだ。

その夜の事は今でもはっきりと覚えている。 暗い部屋の隅で泣きじゃくる俺を抱きしめ、『傍に居るからね』と囁いてくれた。

家の中に綾乃さんが居るという事が、俺と姉貴の唯一の居場所を食い荒らしていくような気がした。 思い出が全部砕かれて消えて、当たり前みたいになってしまったら、きっと俺はおかしくなる……そう思っていた。

家を出たのが俺が十歳の頃。 姉貴は十三歳だった。 遠縁の親戚の家に預けられた俺たちは、そこであまりよろしくない待遇を受けた。

金だけは腐るほど持っていた謎の親父。 お陰で肩身の狭い思いはしなかったが、本当に信じられる人間なんていなかった。 もしかしたら親戚も俺たちを受け入れようとしていてくれたのかもしれない。 それでも俺はその優しさを拒絶してしまった。

俺を孤立させないために、姉貴もまた笑って人間を拒絶した。 当たり前のように傍に居ると笑ってくれるあの人の存在が掛け替えの無い物になったのはおかしな話ではないと思っている。

中学を出てすぐに姉貴は働き始め、俺たちはそれから二人で暮らすようになった。 それからの毎日は楽しくて幸せで、とても満たされていた。


「……香澄? どこ?」


というのは姉貴の口癖で、昔から俺がそこら中をちょろちょろ駆け回る元気な子供だったからなのかもしれない。 姉貴は時々、訳もなく突発的にそんな言葉を口にするようになっていた。

どこもなにもそこは部屋の中で、俺は昼食を作るため台所に立っている最中。 つい先ほどまで寝ていたくせに起きて行き成りそんな事を言われても困る。

コンロの火を止め、エプロン姿のまま布団まで近づくと安心した笑顔を見せ、姉貴は髪を掻き上げて言った。


「いたいた。 よかった、居なくなったかと思った」


ずうっと昔からそんな事を言う。 同じ声で、同じ仕草で。


「そんなわけないだろ。 もうガキじゃないんだから」


彼女は自分を求めていてくれたのだろうか。 そう考えるのは俺のエゴなのかもしれない。 それでもそうであったのだと願いたい。

お互いのどちらかが居なくなってしまってもきっと俺たちは駄目だった。 姉貴がいなくなったら俺が駄目になるように、俺がいなくなったら姉貴は駄目になる。 どちらかがどちらかを否定した瞬間、俺たちは両方ともおかしくなるのは目に見えていた。

既に身体の一部だったのかもしれない。 姉貴の事は何でも判るつもりだったし、きっと向こうもそうだった。

だからこそその続いていた当たり前が急に終わってしまう事を俺は想像もしていなかった。 いや、想像していなかったというのはきっと嘘だ。 俺は常にそれを空想し、恐れていた。

姉貴がいなくなったら。 姉貴が俺を否定したら。 拒絶されたら……。 その不安を紛らわせる為にお互いの名前を呼び、触れ合い、確認する。

だからその過度なスキンシップはきっと、姉弟にしてはおかしかったのだと思う。

そう、おかしかったのだ……。 最初から最後まで、何もかも……。

間違っていたのだ。 俺たちは互いに過ちを犯した。 だからきっと姉貴は……いなくなってしまったのだ。


「なのにどうして……どうしてこんなところに……」


その宝石の中で停止しているのは姉さんそのものだった。 だが、年齢が余りにも違いすぎた。

それは俺の記憶の中にある最も古い姉さんの姿。 あの瓦礫の夕日の上を、俺と海斗と三人で歩いた頃の、小さな小さな姉さん。

でも姉さんそのものだった。 そこに姉さんがいる――そう思うと俺はどうしようもなく高揚した。 混乱、と言い換えた方が良かったのかも知れない。 宝石の中に入りたくて、腕を伸ばす。


「姉さん……俺だよ! 香澄だよ! なんだ、こんな所に居たのか……。 探したんだ三年間、待ってたんだ! ねえ、秋名……。 ほら、俺はここにいるよっ!!」


「か、香澄? どうした……? 何を言っている?」


「離してくれ……探してたんだ。 やっと見つけたんだよ、俺は。 だからね、もういいだろう? 姉さんに触らせてくれよ……! 俺が姉さんを起こしてやらなきゃ、姉さん遅刻しちゃうじゃないかあああああっ!!」


最早自分でも何を言っているのかわからなかった。 イゾルデが俺に触れようとした瞬間、何故か反射的にその顔面を殴っていた。

拳が熱くて、透明な壁が邪魔だった。 きっと姉さんを捕らえているその壁を俺が崩さねばならないと思った。 だから硬質のそれに拳を惜しげもなく叩き付けた。


「何してんだよ……早く助けなきゃいけないだろ、香澄……。 やっと会えたんだ……連れ帰らなきゃ。 ふふ、ふふふ……あぁ、嬉しいなあ……。 あんたもそうだろう……!?」


「桐野香澄ッ!! キルシュヴァッサーは……」


「五月蝿いんだよお前ェ!! 言わなきゃならないことが、やらなきゃいけない事が沢山あるんだよ!! 俺は……俺は!!」


背後から羽交い絞めにするイゾルデを振りほどこうと必死になるが、その力は強く完全に解く事は出来ない。

我武者羅に暴れてその姿を見上げても彼女は応えてくれなかった。 悔しさと悲しさ、わけのわからない様々な感情が胸の中で渦巻いていた。


「何で俺を置いていった!! どうして嘘を付いた!? 答えろ!! 答えろよっ!! 何で嘘を……そんな嘘を……っ」


姉貴は苦痛だったのだろうか。 俺の為に自分を犠牲にするのが。 ならばそう言って欲しかった。

苦痛の上に成り立つ幸せなんていらなかった。 俺はただ、姉さんが幸せで居てくれたならばそれで……それで良かったのに。


「桐野香澄っ!!」


後頭部を思い切り鈍い衝撃が襲い、視界に火花が散る。


「あ……ぐっ」


全身から力が抜ける。 ああ、これは気絶するな――と思った直後、俺の意識はどこか遠くへ飛んでしまっていた。

それからどれくらい時間が経ったのかわからない。 夢も見なかったし、ただ呆然と瞼を開くとそこにはイゾルデの顔があった。

後頭部がズキリと痛み、思わず飛び跳ねそうになる身体を押さえ、イゾルデは苦笑していた。


「まだ痛むか? すまない、抵抗が強くて速やかに中てられなかった。 まだまだ未熟だな、某も」


「いや……悪い。 俺が悪かった。 イゾルデは、悪くない……」


目を閉じた。 なんだか心地よい感覚だった。 全身からぐったりと力が抜け、何も考えられなくなる。

暴れてしまった理由が良くわからない。 心はあんなに冷静だったのに、何故だろう。 身体はいう事を聞かなかった。

イゾルデに恥ずかしい姿を見せてしまったという意味でも、目を瞑りたかったのかもしれない。 深く息を付き、額に手を当てた。


「既に二週間も経つというのにこの場所にまだ貴様が入った事がないという理由が少しわかった気がする。 安易な判断で入れてしまったが、もしかしたらこうなる危険性を海斗たちは知っていたのかもしれんな」


海斗は当然、知っていたのだろう。 あれが姉貴の姿をしているということを。 同じ思い出を持つのであれば。


「少々反省したところだ。 が、それとこれとは話が別だ。 何があったのか、話してくれるな?」


「…………ああ。 それくらいの権利は……それくらいの義務はあるよな」


そうして俺は目を瞑ったまま掻い摘んで事情をイゾルデに説明した。 勿論、深いところではなく形式的に、だが。

イゾルデは俺が話している間ずっと黙り込んでいた。 静かな空間の中、俺は一人話し続ける。


「……まあ、とにかくあれを姉と勘違いしてすがり付いて暴走したんだ。 笑いたければ笑えよ」


「いや。 余程大切な人だったのだろう。 正直、他人事のようには思えんよ」


イゾルデの真意はわからなかったが、その言葉に嘘はないように思えた。 寂しげに語るその言葉にゆっくりと瞳を開く。


「あ?」


と、そこにはイゾルデだけではなく俺を見下ろす海斗と冬風の姿があった。

二人はしまったとでも言わんばかりに曖昧な表情を浮かべ、そっぽを向く。 そして今気づいたのだが、俺はずっとイゾルデの膝の上に頭を寝かせていた。


「って、おい!? なんじゃそりゃ!?」


「わわ、怒られた!」


「か、海斗が先です! 海斗が先に!」


「イゾルデ! 何で教えなかった!?」


「ふむ? 口を挟めるような空気ではなかったからな。 まあ良いではないか」


「よかねえ!!」


すぐさま上半身を起こすと、顔を覗き込んでいたイゾルデのおでこに激突した。 結果的に再びその膝の上に落下する俺の頭。


「いってえ……イゾルデ、お前頭固すぎだ……」


「ふむ。 伊達に鍛えてはいないからな」


デコをどうやって鍛えるんだよ。 できるもんなら教えて欲しいね。

まあそれは兎も角、話を海斗にまで聞かれてしまったとなると、このまま何も知らずに帰るというわけにもいかなくなってしまった。

額を擦りながら視線をずらすと、今だ巨大な結晶の中で姉貴は健在だ。 目覚める気配はなく、心も先程と同じようにはざわつかなかった。


「ごめん香澄ちゃん! ボク、騙そうとしていたわけじゃないんだけど……でも、なんていうか……言い出し辛くて」


気持ちはわかる。 そして海斗が言っていた言葉を思い出した。

俺は自分から海斗たちと共にあるようになるだろうと、海斗は言っていたきがする。 自分から望んで生徒会に入らざるを得ないことになるのではないか、と。

その根拠の一つが恐らくこれだったのだろう。 ああ、当たり前だ。 こんなのがいるんだったら、こっちから望んで生徒会に足を向ける。

だがそれを最初から俺に言わなかったのはおそらく俺が強制ではなく自分の意思で生徒会に入るように仕向けたかったからなのだろう。 海斗ならば確信していたはずだ。 この景色を見れば俺が確実に生徒会に入ると。

だからこそ必死で俺に付きまとい、俺が自分で生徒会に入るように手の込んだマネを仕組んだのだろう。 思えばそれもすべてあいつなりの優しさだった。


「ごめんね……。 香澄ちゃん、怒った……?」


不安そうに俺を見つける海斗。 俺は深く息を吐き出し、首を横に振った。


「いいよ、もう。 判ってるからよ」


「香澄ちゃん……ありがとうっ! へぶう!?」


「おっと、抱きつきは無しだ! どうせなら冬風に引っ付いてやれ! 需要と供給って言葉、知ってるか!?」


「なななななあっ!? 何を言っているんですか、貴方はっ!!!!」


顔を真っ赤にして胸倉を掴み上げる冬風。 身体を起こし、今度こそ立ち上がって結晶を見上げた。


「イゾルデは言ってたよな。 あれがキルシュヴァッサーだって」


「……ああ。 結晶機とミスリルは同一の存在だ。 ミスリルを利用して生み出したミスリルを滅ぼす為の兵器……それが、キルシュヴァッサー。 結晶機なのだ」


故にパイロットは適合者と、そして時には宿主と呼ばれる。

ミスリルという化け物をその身に宿し、そしてそのミスリルに乗り込んで戦う人間。

その時俺は、結晶機というものがどれだけ恐ろしい物なのか本当の意味で理解していなかった。

そしてこのキルシュヴァッサーとの出会いが、俺の運命を大きく変えてしまうものであるとも、その時は気づいていなかった――。




暗く濁った空は雨粒を零し、東京という一つの偶像を濡らしていく。

静かな港に激しい物音が響き渡っていた。 一見すればそこでは何も起きては居ない。 だが、そこでは確かに激しい何かが蠢いていた。

漁船の一つが大きく拉げ、無人の港が大きく波打つ。 姿を現したのは三本足の獣のようなミスリルだった。

ミスリルは首元を何かに激しく締め上げられ、宙にぶら下がった状態にある。 その目の前には雨を受けて迷彩の表面が歪んでいる一つのシルエットがあった。

大きくミスリルを宙に放り投げたそれは空中で再びミスリルに掴みかかり、巨大な倉庫の上に叩き付ける。 穴をあけて突き抜ける二つの影。 逃げようとするミスリルの頭部を何かが一撃で粉砕していた。

雨の中、現れたのは鈍い灰色の機体だった。 蒼いマントを羽織り、その隙間から伸びた太い腕が巨大な槍をミスリルの頭部に叩き付けている。

決着は明らかだった。 しかし一つ目の結晶機は既に頭部を潰され痙攣し死を待つだけのミスリルに、再び槍を振り下ろす。


「きゃはっ」


何度も何度も繰り返される虐殺。 既に命を失っているミスリルの硬質化した身体を何度も粉砕し、貫き、噴出す液体を浴び尚、攻撃を止める事はない。


『六番実験体。 目標の生命活動停止を確認した。 作戦行動終了、直ちに帰還せよ』


パイロットには確かに命令が届いていた。 作戦終了、帰還せよと。 しかし鋭い槍は止まらない。 何度も振り下ろされ砕け散って跡形も無くなっていく結晶の残骸たち。


『六番実験体。 命令が聞こえないのか。 直ちに帰還せよ』


「聞こえな〜い。 従わな〜い。 だって、まだ敵は生きているもの。 まだ戦いは終わっていないもの」


少女だった。 灰色の少女である。 バイザーを装備したその表情から窺えるのは鋭く細く歪んだ頬だけ。 ただ、笑っている事だけが理解できる。

肩で息をして白い息を吐き出しながら、獣のように荒々しく笑う。 紅潮した顔は戦闘に酔っているという事実を容易に認識させる。

命令に従わず、攻撃を続けるパイロット。 少女は砕け散った破片を見下ろし、それから歯が折れてしまいそうなほどの強さで歯軋りした。


「うざい……きらい……。 食べちゃえ……」


灰色の結晶機の顎が牙を剥き、落ちていた破片を拾い上げてはむしゃむしゃと齧り始めた。

血走った瞳でうなり声を上げながらミスリルを食らう結晶機。 その姿はよほどミスリルよりも凶悪な存在のように思えた。


『作戦行動時間を過ぎている。 六番実験体、直ちに帰還を……』


「うるさぃいなぁああっ!! あたしは六番実験体なんかじゃないって言ってるでしょおォォォオオオッ!!」


頭を抱え、首を振り回し叫ぶ少女。 その姿は狂乱しているとしか表現のしようが無い。 喚き、意味不明な叫びを上げた後、バイザーを外して自らの頬に触れた。


「あたしは負けないの……! あたしったら死なないわ、不思議! あは! どうして生きているのかしら、とても素敵な事よね? だってあたしったら無敵で最強でぶっとんじゃってて、何よりアレクサンドラ・ゲルマノヴナ・シェルシュノワって名前があるんだからっ!! ねえ、エルブルス……? エルブルスゥウウウウウッ!!」


灰色の結晶機、エルブルスが咆哮する。 口から汁を滴らせながら。

夕暮れの雨の闇に紛れ、大気を振るわせる叫び。 その声は第三共同学園には届かない。

エルブルスとキルシュヴァッサーの模擬戦まで、残りおよそ一ヶ月――。


〜キルシュヴァッサー劇場〜


*作画崩壊&意味不明*


あらすじ:本編でテスト期間がカットされました。


香澄「結局ロクに勉強出来なかったが、まあ何とか赤点は回避出来そうだ」


ありす「……ありす、実はあんまり頭よくないの。 国語とか『2』だし……」


香澄「それは何となくわかる」


ありす「どういうこと!? どういうことそれ!?」


響「そういう桐野君は国語の点数どうだったんですか?」


香澄「86だ。 冬風は?」


響「ふふふ! 92点ですっ!」


香澄「お、お前に負けているというのが本当にムカツク……」


海斗「あれ? 三人ともどうしたの? 学園祭の準備は? 生徒会室、もう使うんじゃ」


香澄「ああ、そうだな。 ところで海斗、国語の点数どうだった?」


海斗「え? 98点だけど?」


香澄&響「…………」


ありす「ねーねーねーっ!! ありすが馬鹿なの!? ありすが馬鹿なの!?」


香澄「それは……どうなんだろう」


イゾルデ「ちなみに私は百点満点だ。 フフフ」


一同「…………」


〜完〜



ありす「今思うとリイドってすごく頭が良かったんだね」


香澄「天才キャラだからじゃないか? 残念ながら俺は作者曰くヘタレ系シスコン主人公だからな。 あいつと一緒にされても困る」


ありす「それって胸を張って言えることなのかな……」


香澄「シスコンは悪い事ではない。 ただちょっと変なだけだ」


ありす「……そか」


〜完〜



銀翼のキルシュヴァッサー主人公、桐野香澄。 彼は伊達眼鏡である。


香澄「何故伊達眼鏡かって? まあ理由は色々あるが、まず眼鏡をかけていると何だか軟弱に見えるというか、『普通』っぽく見えるからだ。 だいたい主人公は女顔かメガネとこういうのは相場が決まっているのだ。 あるいはイケメン。 ん? 俺はイケメンだから別に眼鏡いらねえのか……?」


ありす「お兄ちゃんってハーフなのに髪の毛黒いよね。 元々ぱつきんだったのに」


香澄「日本人っぽくするために定期的に染めているんだ」


ありす「目の色は?」


香澄「……青いんじゃないか? カラーコンタクトの上に伊達眼鏡〜とか言ったら流石におかしいだろう」


ありす「お兄ちゃん何人とのハーフなの?」


香澄「知らん。 ていうかあのな、それお前もじゃないか? お前親父が何人か知ってるのか?」


ありす「そんなの作者も知らないと思うっ!!!!」


香澄「……そうか」


ありす「でも、なんで眼鏡にしたんだろうね」


香澄「霧が晴れるからとか、死にやすい線が見えるからとか、人格入れ替わるからとか……」


ありす「……するの?」


香澄「……しない」


〜完〜



響「シスコンシスコンシスコンシスコンシスコンシスコンシスコンシスコンッ!!」


イゾルデ「ロリコンロリコンロリコンロリコンロリコンロリコンロリコンッ!!」


香澄「…………何か用か?」


響「別に桐野君の事とは言ってないよ?」


イゾルデ「ふむ? 何か思い当たる節があるのか? 香澄」


香澄「…………え? なにこれ? いじめ?」


〜完〜

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