第五話 角娘ちゃんの初体験
「半年……半年かぁ」
角屋ちゃんに自らの角を売ってから数分後。
現在、角娘ちゃんはもわもわした気分で通りを歩いていた。
角娘ちゃんがもわもわした気分になっている理由は、角が高く売れなかったからではない――角娘ちゃんの角は凄まじい高値で売れた。
しかし、角娘ちゃんはそれでももわもわしなければならないのだ。
なぜならば。
「半年過ぎたらどうすればいいんだろう……まだ片方の角は残ってるけど、合わせても一年しか暮らせない」
そう、角娘ちゃんの悩みとはそれである。
現状、唯一の財源というべき自らの角――それがなくなれば、当然角娘ちゃんの収入は途絶えてしまう。
そうなれば、角娘ちゃんは再び無一文に戻ってしまうのである。
「はぁ……」
故に、角娘ちゃんはお金の入った袋を大事に抱きしめ、再度特大のため息を――。
「わ、きゃっ――」
吐こうとした瞬間、そのため息は悲鳴に変わる。
理由は簡単、何者かに突き飛ばされ尻もちをついてしまったからだ。
「痛っ……!」
角娘ちゃんはお尻を撫でながら、自分を突き飛ばしたに違いない何者かに文句を言おうと視線をあげる。
しかし、角娘ちゃんはそこで気が付いてしまうのだった。
「あ……え?」
先ほどまで角娘ちゃんが抱えていた袋がなくなっていることに。
見知らぬ男が袋を抱えて走り去っていく姿に。
「え、えぇええええええ!?」
この時、角娘ちゃんは異世界に来て初めてお金を盗まれたのだった。