第二話 角娘ちゃんは発見する
「い、いい匂い……」
現在、角娘ちゃんはとある店の前に立っていた――というのも、件の匂いを追った末にたどり着いたのが、この場所だったからである。
「このお店、なんのお店なんだろう……入ってみれば、わかるよね?」
えい!
と、角娘ちゃんはお店の中に入る。
すると、お店の中に並んでいたのは樽や瓶、様々なケースに入れられた粉――まるで日本のコーヒー豆を専門に取り扱っている店の様な雰囲気だ。
というより、樽に入っている粉末からみても、本当にコーヒー豆屋さん……とはいかないまでも、なんらかの飲み物屋さんかもしれない。
角娘ちゃんがそうあたりを付けていると。
「いらっしゃい!」
と、聞こえてくる店主の声。
せっかくだから、店主に直接聞いてみるのがいいかもしない――角娘ちゃんはそう判断し、店主がいるカウンターの元まで近づいていく。
そして。
「あの、このお店はなんのお店なんですか?」
「お嬢ちゃんも変なことを聞くね」
店主は続けて言ってくる。
「ここは見ての通り、角を専門に扱う角屋だよ」
「角屋?」
「そう、そしてこの街一番の角屋の店主がこの俺、角屋ちゃんさ!」
と、店主のおじさんは自らを指さし、自己紹介してくる。
どうやらこのおじさんの名前は、角屋ちゃんというらしい。
「ひょっとしてえぇと……角娘ちゃんっていうんだね? 角娘ちゃんは街に来るのは初めてかい?」
「あ、えと……はう。角屋ちゃんの言う通り、私いままでその――田舎で暮らしてまして」
「なるほどね、だったら仕方ないかもしれないね」
と、角屋ちゃんは説明を続けてくる。
角屋ちゃんの説明によれば、ここは角を持つ魔物――ドラゴンや魔人を討伐した際に得られる角を扱っている店の様だ。
その角は古来より珍味として重宝されており、この店で売られているように粉末にすると様々な使いかたが出来るらしい。
例えば白米にふりかけたり。
例えば薬に使ったり。
例えば水に溶かして飲み物にしたり。
例えば調味料につかったり。
それが角。
そして、その角を粉末に加工して販売するのが角屋であり――角屋の店主こと角屋ちゃんの仕事というわけだ。
「ここは角の買い取りもしているから、角娘ちゃんが角を手にれたら、どうぞご贔屓に……といっても、角娘ちゃんが角のついている危険な魔物から、角を取る日なんかないと思うけどな!」
言って、ガハハハハハと笑う角屋ちゃん。
「あ、あはははは……」
角娘ちゃんは思わず笑うのだった。
気が付いてしまったからである。
街中で自分の頭に角が付いていることに気が付かれたら、大変なことになると。
角屋ちゃんは先ほど確かに言った――角が付いているのは危険な魔物だと。
そう、つまり。
(女神ちゃん! 聞いてないよ! わたし、魔物なの!? 人間に狩られて、角を剥ぎ取られるような、危険な魔物なの!?)
これは余談だが。
この後、角娘ちゃんは角屋ちゃんから「試飲にどうぞ」と出された飲み物――暖かい角ドリンクを飲ませてもらい、一息ついたのだが。
「角……お、おいしい」
それはものすごく美味しかったのだった。