第一話 角娘ちゃんはお金に困る
「うぅ……ひもじい」
平原を歩き、街に着いてから二日。
角娘ちゃんは困っていた。
ものすごく困っていた。
理由は簡単である。
「お金がなくて何も買えない……もう二日間、噴水広場の水しか飲んでない。女神ちゃんとお話しもできないから、助けてもらうこともできない」
そう、角娘ちゃんはこの世界のお金を持っていなかったのだ。
例え女神ちゃんから角をもらおうと、チートスキルをもらおうと、十六歳まで成長ブーストしてもらおうと、お金がないのである。
「働こうとしても身分が証明できないって理由で断られるし……わたし、どうすればいいんだろう」
言って、角娘ちゃんはうずくまる。
彼女が居るのは路地裏――人通りがなく、日当たりも悪い場所。
「わたし、ここで死んじゃうのかな……転生させてもらってすぐ死んじゃったら、女神ちゃんに悪いな」
と、その時。
「あれ、なんだろう?」
角娘ちゃんはパっと顔をあげて立ち上がる。
そして、ヒクヒクと鼻を動かし、辺りの匂いを嗅ぐことに全神経を費やす。
すると。
「やっぱり! すごくいい匂いがする!」
この世界に来てから……否、前の世界でも嗅いだことがない。
これほどまで食欲を刺激する香りに出会ったことはない。
角娘ちゃんはお金を持っていない。
故に、この匂いのもとに向かっても意味はない。
「で、でも……死ぬ前にわたし、この匂いが何なのか確かめたい!」
言って、角娘ちゃんは走り出すのだった。




