第九話 角娘ちゃんは投げてみる
「ぐげげげげげげげげげっ!」
そんな声と共に、こん棒を振り上げ走るゴブリン。
その先に居るのは少年である。
「危ない!」
咄嗟だった。
角娘ちゃんは気が付くと、少年の方へ走り出していた――少年とゴブリンの間に入り、少年を庇おうとしたのだ。
だがしかし、角娘ちゃんから少年までの距離は遠い。
これでは。
(と、届かない……っ! でも、それじゃああの子が!)
助けたい。
角娘ちゃんはこれまで、自分の中にそんな強い気持ちがあるとは、気が付かなかった。
きっとこれは母性本能というやつに違いない。
故に、角娘ちゃんはここで咄嗟の行動に出る。
「えいっ!」
角を折ったのだ。
そして、その角をゴブリンに投げつけたのだ。
それは角娘ちゃんにとって、ただのけん制のつもりだった。
その隙に少年の元まで行く隙が出来ればと……そんな気持ちだけだった。
けれど。
「ぐげっ――」
上がるのはゴブリンの断末魔。
角娘ちゃんの角がクリーンヒットしたゴブリンはなんと――。
「え、えぇ……め、女神ちゃん……やっぱり、やっぱりこれ、やっつけ作業だよ……」
跡形もなく消し飛んでいたのだった。