一章6『行動を起こそう』
また、静寂が訪れる。
二度目の原因は、わたしが圧を掛けたから。
「……、」
『…』
その銀瞳に宿る、厳烈な葛藤。ずっと無意識に強張り、臨戦態勢の身体。
ベッドから抜け出して古びた皮帯靴が床に着くと、ふらつきながらも立ち上がる。
そうして、やっとベッドを挟みながらもきちんと対峙して。
「……………………」
しばし満ちる。
だが、それはすぐに破られて。
「…………すみませんが。[解らない]、としか言いようがないですね」
「影というものは各国組織の隠密部隊くらいしかないが、私は正真正銘、近衛騎士だよ」
相変わらずの睨むような視線に、小さく肩をすくめる騎士。わたしは、すっと差し伸べるのではなく、片手を向ける。
『答えて。ここはどこ、人間』
「出来れば名で呼んでいただきたいですが……、」
傍目には分からないが、その伸ばされた手に充填される [力]。それを認知したのか、名の訂正の後に速やかに説明を入れた。
「…ここは、ルーヘスト王国王城客室の一室。付け加えるのならば、君は西方の王領に倒れていた、というところですが」
『そうじゃない……ここは、この世界は、』
くしゃりと歪められる表情に、誰でも生まれながらに知る、基本の基本を。
「―――[エントリヒウェルト]。至二神が創造した、この世界はそう呼ばれる」
『………………………………【最終世界】って』
「……?」
苦い表情を浮かべ、その言葉の意味をポロリと口からこぼして、理解する。ノイズのようにしか聞こえなかった呟きに、シュヴルスは無理解を示す。
「私は暫し、席を外すとします。後は扉の向こうに居るから、何かあらば呼んでください」
『待っ』
バタン。扉まで同じ距離だったはずのシュヴルスが退出したのを示す、扉を閉める音。いつのまに、と心中で驚きながらも、その手の行き場はなく下ろすしかなくて。
『―――て………』
【主公】
『ベル、今更何』
今になってようやくアクションを起こすベルに、きつい口調になるのは仕方なくて。
【済まないが、出られなかった】
『……』
【彼の騎士は聊か好かれ過ぎている様だ。
―――最後見たアレは、世界軸を管理する精霊。それ迄も堕ちたのなら逆に転移して吉だった】
『…………はいはい。はぁ、……やっぱり。時々居るわよね、好かれている人間』
【王族は下らない人間の元締連中。疾く出て行った方が得策】
まだまだ続きそうな長話に、ふと思った事を呟いた。
『まぁそうだけれど』
【契約を迫られたくはなかろう】
わたしは、聞き流しながらふと席を立つと扉のノブへ手を掛けた。窓から出ても良かったけれど、窓はない。
『ま、取り敢えず[外]見に行かない? このわたしが知らないものなんて、久しぶり』
ベルにしか聞こえないような微笑み持つ声と、同時に両開きの立派な扉が開く音が重なる。
開いた扉の向こうには、宣告通りに壁際に佇む先程の青年。ひとつ深呼吸して銀瞳に真っ直ぐその姿を映す。
雫は、口開こうとした青年に告げる。
「何かあっ―――」
『―――――ねぇ外見に行ってもいい?』
突然の申し出に、目を見張る青年。雫は続ける。
『ねぇ、この世界の姿を見れる場所はない? シュヴルス』
気付けば、自然と青年の呼び名が人間から変わっていた。微笑みが、心底楽しみだというものに変わる。
―――まずは、その姿をこの瞳に映そうじゃないの。
精霊の知的欲求は面倒くさい、という逸話がある。それは長齢なだけに時間が有り余るからだ。
数瞬の驚きの後に、青年は安堵したような表情で言った。
「あぁ、あるよ。案内しよう」




