一章4『目覚めは良好』
最初に感じたのは、何だろうか。
柔軟で触り心地の良い身を預けている何かか。
懐かしく思える、澄み切った空気か。
それとも、〈霊銀血〉の流出による、魄脈の怠さか。
『―――――』
眩しい。閉じられた暗幕に、光が透けて。
「……―――…………―――」
遠く聞こえる、誰かの呼び掛け。
痺れているのか、うまく動かない身体を他所に、微睡みではっきりしない思考を纏めようとする。
開く視界に映るのは、世紀末さながらの粉塵に曇った白亜の崩壊ではなくて。
感じる、身体が横たわっているらしい重力。なら、見ているのは宙で空でと思考が告げる。
人間で言えば[中世]のような、簡易なベッド。しかし、シルクと枠組みの木の質は上物で、天幕まで付いている本格的なもの。
『銀』――わたしは、天蓋を見詰めて、ぼうっとしていた。
「目が覚めましたか」
『…………………?』
はて。気の所為か。ふと、先程とは違う誰かの声が聞こえた気がした。
ぼんやりする意識。
―――わたしは、寝ていた?
そんな当たり前な感慨が浮かぶ。
夢? 周囲の構造を読んだ気配が、そうさせる。
800と2000年前くらいによく似た。すなわち、洋風の部屋。世紀末のここにはそんな形あるものあるはず無いのに。
わたしは、薄々感づいてはあるけれど、寝ぼけ状態にあって。
「失礼ながら精霊様……で合っているでしょうか」
再度、音―――否、違う。
波のない耳触りは違うけれど、意味が並んだ、[声]ではないのか。
じきに戻ってくる感覚を確かめるように、手を握りは開き、起き上がろうとする。
そして、初めて[そこ]の空間を実際の瞳に映した。
『ぁ―――』
わたしは、困惑を更に深めるように、刮目して。
僅かに、吐息が漏れて。
―――[知らない]。
初めに、精霊の記憶が告げたのは、有り得る筈の無い、その答え。
ふ、と途方も無い不安が湧く。
それは、一回見回したから。
ここには、知る物はあれど、知る空間にはあらず。
あるのは、白亜の崩壊ではなく別世界のような何か。
わたしのいるベッド。部屋の中央に置かれたそれは、とても大きくて。
そう、部屋だ。
ふと湧く語に、すとん、と少しだけ納得がおりる。
『、――――』
でも、何か、知らないものも混じっていて。空間の座標も未知の場所で。それが、〈あれ〉のように仇成すモノであったなら―――
知らないが故の、恐怖と想像。
ぞ。走る悪寒に、手を握り締める。
悲鳴を堪えるか、変な声が漏れ出る。
「!、大丈夫ですか」
部屋の端。否駆け寄ったからすぐそば。
気付かなかった。
―――こんな世界では在り得れない。
―――わたし以外の声の元。
『ぅ、そ』
姿形なら、同じ。見た目なら、違う。
目を瞠り動揺するわたしに、先程からずっと声を掛けてきた存在。
『人間…』
人間。そうだ、ヒト族。
燃費の悪くて、ただわたしの作った環境を壊していった破壊者。
わたしも、かつて一度、一応途方も無い記憶も無いずっとずっと昔。その分類に入っていた、ずっとずっと昔、聞いた事のある。
蒼髪の青年の紅瞳が、まっすぐこちらを見つめていて。




