精霊の回廊Recollect
長々と間空いてしまいましたが……。
これまでよりもダントツで長いので!!
今更ながらになのですが、ブックマークがされていていることに気付き……
(;▽;)ノありがとうございます!
カツ―ン。カツ―ン。
ペタ…。ペタ…。
騎士のブーツと、少女のリボンを巻いただけの靴音が、終わりの見えない回廊に響き渡る。
「……………」
クリスタルのような素材の道は、廊壁の燭台の灯りがほのかだろうともそれを反射して、目を細めるほど明るく保たれている。
同時に、等間隔で端に並べられているローテーブルの掛物の虹色がクリスタルに映っていて、それが無限に続いていて。それが更に神秘さを増す。
「………………………綺麗」
自然と、感嘆が漏れる。
虹色の、まばゆい回廊。
壁は真っ平らだが、床は回廊の中央――本来なら絨毯のある位置に施されている蔦や花の模様の彫りの上を行く。
綺麗。美しい。
ピリピリと身体中の傷が、動くたびにその存在をそれぞれに誇張するけど、それすらひと時忘れられるほどに。
ペタペタ。もしくはヒタヒタか。
幽鬼のような足音が少し不恰好に景色に合っていないが、その分、シュヴルスのブーツの足音が甲高く目立って響いていて意識せざるを得なくて。
蒼髪の美男子がクリスタルに映えているのに、絵になるなと思いつつ、案内についていく。
「【現今の銀燭】…か」
脳裏に蘇る、狂精霊の残した言葉。
ぶるり、と漆黒の人の形を成した影とおぞましい気配を思い出して、時間が経ったにも関わらず、悪寒が走った。
あの精霊が、明るく周りを照らす燭台の名でわたしのことを呼んだその意味は分からない。
だけど、忘れるなと、言った。そのこともすぐに消えたせいで、訊く暇などはなくて。
でも、ひとつだけハッキリしている。
あの四散は、存在が消滅したものではない。場所を変更、去っていっただけ。
―――まだ、この世界のどこかに存在しているはず。
カツン。と、クリスタルの凹凸を踏んだのか、ひときわ高い靴音。ハッとして顔を上げると、ずっと行く先並ぶ燭台のひとつが目について、少しくらいなら止まっていても追い付けると判断して、近づいてみる。
「…、」
燭台が備え付けられた壁。鏡のようなそれに、映る自分が目に入る。
その者は、銀髪銀瞳の着古したケープと腰まである銀髪の髪留め赤リボンが特徴的な、年十七ばかりに見える少女。
実際は千歳超えなのに、変化を嫌う精霊の血のせいか遅々として外見は変わらない。
数歩先を先行するシュヴルスは、土埃はすっかり落として、小綺麗なマントをひるがえして進む、美男子だ。そして、精霊の血が流れるとか中途半端なものではなく、正当な『人間』だということ。
外見は二十歳前後。わたしと違って、きちんと見た目と年齢が釣り合っていて、無為な数百年なんか過ごすこともなく生きてきたのだろうか。
この何もかもが鮮烈な世界に来てから、“ 自身の停滞 ” が頭から離れない。
それは、固定されたような外見。
それは、日常というものの経験。
それは―――。
…この世界のものは、永遠ならずの刹那のもの。
この世界の何者にも契約を持たず、時間ばかりで空っぽなわたしは。
もしかしなくても、この世界の異―――――
「シズク、着いたよ。この辺りの燭台が鍵だ」
「……え? ぁ…うん」
ぐるぐると回っていた思考が行き着く前に、シュヴルスから声がかかる。無意識に立ち止まっていたのか、十メートルくらい離れているのを駆けて近くへ。
シュヴルスが向き直る壁には、ずっと見て来た燭台。
一見、何も変わらないものに見えるけど―――
「ぁ」
隣の燭台とセットでにらめっこしていると、素っ頓狂な声を上げる。
隣の燭台は、豪華なことに付け根部分に小粒な宝石が付いていて、それは虹色に転じていた。
だが、手を伸ばす燭台。
眉潜めて見てみると、宝石は同じく付いているものの、かすかな彫り込みが施されていた。
「わ、細かっ」
それは、交差した剣に何か四つの集合した四角が上乗せされて彫られていたけど、その何かは知らなくて。
「ここだね。シズク、開けるよ。ついてきて」
「開けるよ……って?」
何かの紋章の彫刻から顔を上げ、雫は引っかかった言葉を反復する。
だが、シュヴルスは燭台に手を当てて、瞑目していて聞いていないようだった。
「……〔――、 ―――――― ―――……」
ポ、と彫刻に光が灯り、何か小さく呟き始めた。
「…っ」
違う。呟きじゃない。
ただの呟きには、気配は乗らない。
気配、波と言い換えても良いけど、その揺れの本質は、超常の力系統――わたしが使うのも、これ。
未だに力の呼び方は安定しないけど、波があるならばそれは力が乗せられた言の葉。それは、何か術のような。
「 ――――― ―― ――― 」
その揺らぎに、エネルギーを消費するためかずっと回廊の中では黙っていたベルが、突然こぼす。
『詠唱…呪文か』
「てことは、《鍵解き》してるの?」
先程の『開ける』という語と、昔の自分のいつかの仕草重なって、ポロリとベルに聞き返す。
鍵解きは、狂精霊のせいで廃墟の無事な扉がすべて鍵掛けられた時――抑留事件って言ってみたりするけど、自然現象を起こすより、繊細な鍵穴に現象を入れることの方が断然難しくて、印象に残っている。
その時は大型のビルで、しかも最上階にいたから、階段につながるのも何もかも閉まって、窓からも出られなくて大変だった。ついでに狂精霊が建物を囲んでたから厄介で。
二百年くらい前。あの時は、周囲の精霊にホント長ったらしい詠唱を三十くらい詠ってやっと出られたんだった。
「ひどい目にあったなぁ……」
あれだけやってもあそこは精霊がいっぱいいるから、血力の減りがあまりなかったけど、精神的に疲れた。。。
出来れば、二度とやりたくはない。
「…―は、――――――〕……よし」
思い出してげんなりしていると、続いていた呟きが止んだ。
だいたい二十節くらいだっただろうか。シュヴルスは、最後に区切りを口にして終わり、かざしていた手を退ける。
代わりに、剣鞘から剣を抜き刀身の先を彫刻ギリギリにかざした。
「っ!」
警戒する暇もないくらいに素早い引き抜きに、ビクッと肩を震わせる。
シュヴルスは、そんな雫の反応にも構わず、チャキっと縦にしていた剣先を手首を回して横に倒した。
「〔開け〕」
……キキキキキキキキキキ―――――
その動作にまるで鍵を開けるようだな、と思うのも一瞬。
言と共に、クリスタルの壁に四角くヒビ、否切れ目が入り、光が漏れ出てくる。
その切れ目は遥か上、首が痛くなるような高さの天井の辺りまで続き、四角の中に二分する線がひとつ。
「わ……………」
そこから四角は両開きの扉になり、クリスタルの壁の扉部分に左右対称の模様が浮かび上がる。
いつのまにかドアノックも付いていたのも気付かず、雫はポカンと向こうから漏れてくる眩さに感嘆していた。
巨大なクリスタル同士が擦れる、甲高い音。
それは、背筋がゾワっとするものでもなく、耳に響くものでもない。
不思議なことに、弦をひくような心地よい音。
見たことのない大きな扉に、その壮観さに、雫は瞠目していた。
同時に、感動さえしていた。
扉が開ききると、そこは空白。
存在という言葉が無いまでに思える、どこまでも続く白。
見覚えも、来たこともないはずなのに。
ふと、何か聞こえた気がして、首をかしげる。
でも、雫は気付かない。
何処か。
何故か。
微かながらに、血が騒いだことに。
「―――――ようこそ、《原初の部屋》――僕の画室へ」
高くも低くもない。
囁いているようにも大声にも聞こえる。
そんな、不思議な声。
とくん。と、鼓動が意識せざるを得なくなる程に、明確に跳ねる。血が騒ぐ。
この声には澄み切る波がある。そう、わたしの詠唱のような。
何もない、壁も床もない、真っ白な。
そこに、人影が在る。
「歓迎するよ、異世界の霊神――霧霞 雫」
人影は、歓迎の意を表する金髪の子供。
ゆったりとした純白の衣に身を包んでいて、空間に顔が浮かんでいるのかさえ思うほど。
「僕は、キャリシオンの創造主、ティシュトリア。つい、繋がる場所に君が来たから呼んじゃった」
子供は、地に足がついているのか不安で初めて地のありがたみを実感しているわたしに、いかにもという軽さでトンデモ事実を告げた。
「…っ!……、、」
咄嗟にカッとなって、人間が何を、と言いかけて、口を閉ざす。
先程も聞いたけど、言葉に波がある人間なんて、いるわけがない。詠唱を常用の言葉とする人間が。
―――だとしたら、この子供は何者?
「…っわ…ッ」
何もかも白くて、地面がはっきりしない震えていた足に更なる衝撃が来て、今度こそわたしは確実に空白へ倒れ込んだ。
何もなくただ真っ白で影もないのが怖くて、手で叩くとペタペタと床があるべきところに止まる。それにきちんと床があると安堵しながらも、目の前の子供に注視する。
「おーおー、そんなに睨まないでよ。呼んだっていうのは、ただ扉を開いた君の意識をここに繋げただけなんだから」
「何…。……いや、……繋げた?」
複雑な問いかけが口をついて出そうになるが、それを抑えて、引っかかった点を反芻する。
彼此の距離的に聞こえるはずのない呟きを聞いたのか、見えるはずないのににっこりと子供は笑い、両手を合わせて言う。
「うん。そう、繋げた。
まぁ、召喚の応用だね、意識だけバージョンのだけれど。あ、言葉の使い方は重要だよ? 何だって、嘘一つで人ひとりなんて簡単に滅ぶからね。君も操るなら注意を払うことだ。
あぁ、今回は意識だけがやはり限界かな? 僕と君の縁はそこまで無いし。こんなので身体なんて質量体、喚んだら惨事だよ。
神代ならまだしも、最近になってくると縁ある存在はそうそう居ないんだよね。あるとしても、微かだし。その点なら、ひとつの立派な契約として利用できるほど重い縁を持つ君は物凄く珍しいし、ただの人間がまさかここまで力を持てて変化出来るなんて、興味深いったら。
言葉を使えるようになるまで、記録しか出来なかったし、下界にも降りれないから、退屈でしょうがない。
言葉で遊べるようになっても、下界には降りれなくてね。オモチャを目の前でお預けされるような苦痛だ。言葉で呼ぶしか無かったんだけれど、縁が無いと呼べない。
待望の待ちに待った縁なのだから、やっぱり呼ばない手はないね」
「何を…」
やけに長話が好きなようで、話しながらこちらに近付いてくる。
雫は、やっとそこで周りを見渡して、あるべき姿がないことに気付く。
「ベルっ? 寝てるの? ……?シュヴルス?」
見回しても、騎士は居ない。もしかして、扉は閉じてしまってその向こうか。
ベルはいくら燃費が悪いとはいえ、起きていられなくなるほどだったのか、とも考えて。 わたし一人じゃ、まともな現象も起こせないと気付いて冷や汗をかいて。
「そうそう。ここには、蒼騎士も智精霊もいないよ。ここに呼んだのは君の意識だけだからね。智精霊と本契約を結んでいたようだけれども、結びが強くとも、この領域には侵入不可だよ。
ここは仮でも、神の、僕の聖域だ。眷属は、許可なく存在できない」
「……わたしを呼んだのは何故?」
何故、ティシュトリア。と言おうとした。
なのに、言えなくて。仕方なく、名なく問う。
「………」
つっかえた。何も詰まらせても喉も悪くないのに。
確認に再度、名を呼ぼうとしても、パクパクと形だけが残る。
何故だかは、なんとなく。
呼ぼうとした時、悪寒が走ったからだ。いつだかの、格上の狂精霊の時と似ている。神秘的存在で、格上というのが共通で当てはまるけど、おそらく。
考えていると、パクパクと空振りする口に一瞥、ふとティシュトリアが口を開く。
「……。君は、世界を面白いと言えるかい?」
「…………、…」
少しの間を置いて、質問に答えることなく質問を質問で返したことに思うのはあったけど、続く質問に拍子を突かれて。
それは何故と言おうとしたけど、また、言えない。
なのに、その質問に対する答えだけは口にできる。
「……、…………。……ここは、この世界は美しい。そして、鮮烈で。時が速くて、綺麗でも――」
「違うよ」
語る途中に入る否定の語に、がちんと語りは止まり、それを寂しそうに見ている。
「あぁ。君ほどのちからでも、この言葉に強制させられるのか。
悲しいね、寂しいね。なんだって、僕の僕だけの特権だけれど、勝手に用意されていた能力だけれど、時間が経てばそれは檻だ。対等な存在がいないなんて、つまらなくて面白くなくてしょうがない。下界の人間は権力ばかりを求むけれど、権力と似ているコレが、常々こんなものを何故欲しがる、と疑問だよ。
神が持つのは、すべての現象を強制し統制する力。眷属の精霊が、自然現象を司るのもその劣化版。
これを誰かに預けてのうなうと過ごしたいけれど、気持ちや存在を映す眷属の精霊が、その願いに変質して、中途半端に受け継いだなんて滑稽だ。
眷属は、眷属でしかない。その主人の力とは根幹から違うのだから。主の姿、まぁ、在り方とも言うね。願いだとか、感情だとかとも言えるけれど。
それを映す性質を持つのに、映し切れないのは、やはり魂の器が溢れるからなのかな。
せっかく君という “ 待望 ” が現れたというのに、対等ではないなんて、つまらないね」
相手が来訪するのを待っていた時間がそうするのか、まくしたてるように喋るティシュトリアを、引き気味に聞く雫。
「……………ぁ」
気付けば、喋り終わったからか、雫は再び声が出るようになっていて、かすれ声が漏れる。
長話ながらも聞いていて、思うこと。
強制の力だとか、願いの言葉である詠唱を常用するからだとか、考えが巡る。
―――詠唱以外は喋れないのか、とまで行き着いて。
それを問おうと口を開く。
その前に。
「そうだよ」
「っ!?」
ティシュトリアの返事に、ドキリと肩をビクつかせる。
今のは、何に対しての肯定だったのか。
もしくは、長話はまだ終わりではないとか。
その繋ぎだとか。
前後にわたしは喋っていない。
―――なら?
「あぁ、ごめんね」
再びの声に、また。
もしかして、声に出ていたのか。そう咄嗟に、口を押さえる。
「いや、大丈夫。君は、まだ話していないよ。
……………」
「…―――?」
「いいーや。ただ、心の声が聞こえるだけの話さ」
後半に何か呟いたように聞こえて眉をひそめる雫に、片手をぞんざいに振って話を切る。
…先程から長話にしては、珍しい、と思ったわたしは悪くない。
パン、とひとつ柏手。
「さ、話を戻そうか」
にっこりと笑って仕切り直すティシュトリア。
「ここは聖域、まぁ神域とも言われているけれど、僕は紛れもなくここに君を招いた。お客神だ。普通とは少し言い回しが違うけれどね。
僕に一番近い “ 時間軸 ” の世界に一際大きい波紋が生まれて、その波が繋がれる場所まで来たんだ。
自然と、波紋の余波が至って気付くのはそうかからない。そして、君は僕の興味をそそる。
君は、人間の身体から精霊の血を持って神と同等の存在になっている。半霊、いや。やはり、霊神だ。
いやはや、最初から今まで己の力の経緯を注視しないとは、なかなかに勇者だね。まぁ、勇者は人間の異界者なんだけれど。勇者と言えば、君の時間軸と方向が同じ世界だね。あそこ
驚いた、ということは久しぶりだよ。驚愕だ。
君は面白い。故に、滅多にない気まぐれだよ」
「違うよ。…このキャリシオンではなくて、あの白亜の崩壊――《地球》のことだよ」
初めて知る狂った終わる世界の名に、何故知るという疑問が湧く。
ティシュトリアは、キャリシオンの創造主。異世界であるあの世界を何故知るか、と。
「―――――――…」
1日、もしくは数時間前。それまでは、わたしはそこに居たはず。なのに、ついに狂った精霊に飛ばされ、この世界へ。
異世界から来たなんてことは、話していない。
―――何故知る。
その問いが頭から離れなくて、その場を沈黙が包んだ。
「あーー。静まり返っちゃったね。せっかく、僕ひとりだけじゃなくて、君というお客神がいるのに」
テテテテ。小走りでついに、雫の目の前に対峙するティシュトリア。急激に縮まる距離に、その格上の存在に悪寒する雫は、ビクリ、と震えて緊張する。
「ごめんごめん。僕としたことがね。でも、存在感を無くすにはこれが限ー界。逆に大人になれば増すんだけれど、逆効果だし、これ以上無くすーって言っても、今以上に子供の姿にはなれないし。
いやね、波長合う存在をここに呼ぶのは久しぶりだから、抑えることが慣れてないとも言えるけれど。縁殆ど無しで呼ぶとすると、やっぱり、波長合う存在しか呼べないんだけれど、僕以外の存在はすぐに命尽きて消えてしまうから、波長合う存在以外に縁はそうそう無いんだよね。
世界という海にたゆたう君の魂を見つけた時は、感動したよ。白銀の、圧倒的に他の存在とは魂の器が大きく、繊細で、それでいて周りの場を照らす光を持つ。
あらゆる数えきれない無数の次元の中に君を見つけたけれど、君は世界の、全次元の特異点とも言えるわけだね」
ふと、また言葉を切る。
「本当に気を揉まされたよ、言ってしまえば君は世界の爆弾だ。力の本質も使い方も正しく理解していないし、それでいて、契約精霊に頼って時間を過ごして来た。あの破壊まみれの世界だったから、制御できていなくても大丈夫だったけれどもさ、ここはもう君が望んでいた『輝く世界』だ。ひとつひとつが繊細で鮮烈な事柄を持ったモノが集まる世界だ。ここには、狂精霊なんて下もいないし、精霊は正常で自然現象には影響は見られてない。君の世界とは違う。簡単に壊れる。
でも」
そこで不自然に言葉を切る。
数瞬、瞳を閉じて、開いて。後に目線をそらして言う。
「君は、壊したくない、と願うのか。…ま、繊細の中の破壊が望むのならば、制御する方法を見つけるといい。方法は、人によってまったく異なるからね」
「っ…――!」
制御する方法、話していないことを言い当てられたこと、喉元まで来たのに、息がつまるだけで声にならなくて。
同時に、くらり。
視界が二重にブレて、がくりと膝を折った。
「―――――!?」
それを見て、ティシュトリアは困ったような顔をして頬をかく。
「話しすぎたかな。君の意識が持たないようだ。
まぁ謂わば、今はくっつくことのないものを磁石で引き寄せた状態。磁石という耐久が無くなれば、引き寄せられたものは戻るものだ…と、すまない。時間がないというに話すのは、長年のぼっちのせいだとでも思っててくれ」
どくん、どくん、と。
心臓の音がうるさくなってきて、胸を押さえる。
だんだんとティシュトリアの話すことが聞こえなくなってきて、顔をしかめた。
「でも、これだけは訊きたかったんだよ。君を守護する蒼騎士は手強いし、智精霊は君の事を虎視眈々と狙い執着しているしね。
だからね――気兼ね無く、やっと君に問えるのさ」
「…――――…」
一瞬、時間が止まったように感じた。
それは、今まで合うことのなかった瞳が、合わさることを無意識に忌避していた瞳が、瞳の奥底に眠るモノに恐怖する瞳が。
髪と同じ色をした、金の瞳。
ただ、王城の装飾に使われていた金属なんて俗物の輝きなど比較にならない神秘を秘める、宝石だ。
金と銀。ある意味では、対なる瞳がやっと結ばれて。
際まで見開かれた銀瞳に、あどけない子供の姿なのに心底興味深いとだかいったような微笑みが映る。
「君は――――」
数瞬の後、再度静寂。
だが、雫は、全く静かなんてなれなかった。
強風が叩きつけたような衝撃を錯覚する。
どくどくと、間隔を狭めてくる。
くら、と。
めまいがして、ぺたんと尻をついて座り込んだ。
「…ッ!!」
今のは、どういうことなのだろうか。
わたしは、耳を塞いで、うずくまる。
そして、ゾッと震えた。
―――聞こえないはずなのに、この質問だけは他よりも確実にハッキリ聞こえた。
「おや、意外に堪えたようだ。僕には永遠にこういうことは理解不能だろうね」
ニコニコと、変わらず笑っているティシュトリア――異界の神が。
数百年の記憶が、途端に怖くなって。
わたしは、目を閉じて。
その暗幕の見えない世界に、しばらく浸っていた。
最初と最後のティシュトリアのキャラが崩壊してるような……(汗




