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明日の星の銀鈴に。【凍結】  作者: しすれーる
第一章 異世界という現実
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噴水Schwarz






 何時とは無しに王都のルーヘスト街に巻き起こった魔力災害。

 その幾度と数え切れない強風と氷礫が吹き飛び始めて数分、かれこれ、レイによる人々の避難が終わった頃。


『ッ!』


 薄暗い路地裏、噴水や銅像の広場、露店多しの大通り。 

 新旧大きさ問わない木箱が幾多舞い上がり、売物が氷の槍となり、凶器とかしていた。それらは、凄まじいスピードで行き交い、数々の破壊を行なっていく。

 誰一人として居ない無人の街に、スピリットはただ一人居た。


 茶化すような苦痛の声だが、それに反して暴風の凶器が掠めた傷は数え切れない。実体化を解けばいいのだが、それだとこの状況における、本末転倒だ。


 スピリットは、己の筋力のみで走るのは久しいのか。白い足は、傷だらけだった。

 それに気付いていないとばかりに構わず、たびたび路端の木箱や剥がれた屋根瓦や、はたまた大きな馬車までふっ飛んでくる無人の街の一角を、次へ次へと走破して行き。


 精霊体ではない、筋力での走りによる疲労が溜まって溜まって蓄積されて。

 やがて足がもつれて、飛んで来た瓦礫を避けられずに当たり、その瓦礫も粉々になるほどの衝撃が伝わった。

 崩れ落ちかけるスピリットは、無理矢理飛来する瓦礫に掠って飛ばされてまで立つ。


『あぁ、もう。【Heal, Heal, ich. 】』


 だが、それらの傷はその一言で消え去る。


 ―――ザッ。


 誰かの足音が聞こえて、スピリットはふと振り返る。


「さすがは精霊血(ヒュドラルギュルム)というわけか」

『この程度……と言いたいけれど。…この街は霊力、否魔力濃度が異常だわ。おかげで〈肇の葉〉が狂い始めている』

「氷の竜巻……あれは、近付けないぞ」


既に試したのか、レイは忠告してくる。苦々しい顔をして、竜巻を見た。


「固体である氷を風と定義して、竜巻になっている……、ね。厄介極まりない。そして今は魔季でもない。明らかになんかいる」

『ふーん(政治には興味はないけれど……)』


 スピリットはレイの話を流して、氷の竜巻を見た。


 それを言い表すなら、氷彫刻が流動化しているとしかいえない。氷の龍だ。


「(美術じみた姿には惹かれるが、なまじ魔力量が半端ない。[謂れる力]が、半減といったところか)」

『  







 突然、身に掛かる真っ向からの圧力が、消え去る。


 空高く、建物を軽く超えて十数メートルの高さまで吹っ飛び、四方八方から凄まじい速度で飛んで来ていた瓦礫が、勢いを無くして轟音発てて落ちていく。

 そこで2度目空を見上げ、そういえば途中から人間飛んでいたのがいなくなっていたな、と他所に考え。


「ッ――…だわぁあああああっ!?」


 消えた圧力に対抗する為に踏ん張っていた分を消しきれなくて、顔面と地面の初見合い。

 ジャリっとする口の中に顔をしかめて、顔が燃えるような、新たに創られた擦傷に歯を食いしばって、這いつくばりながら上を見上げる。

 

「一体何…!」


 意外にかすれていた反面、苦痛が声に現れ当たっていたことに気付かされて、少しだけ頭が冷やされる。 


 正直、あちこちに小さいながらも傷がありすぎているのに加え、体感3キロ超えを走った体力無しさんにはキツい現状。多分おっかない顔して見上げるだろうなと思いながら、霞む視界を見開く。


 砂まみれの傷だらけの、ほつれた銀髪に、服がところどころ破けていたりする、かなり痛々しいことを加えると、本当に散々な見た目だが。 


『雫、お待ちかねの暗雲の下だ』


「ぁ…」


 銀光に彩られる銀瞳が極に見開かれて、閉じられない口から漏れる声。


 異様な、否。確実に怪異奇異な、鳥肌モノの凍るような霊気が広場に満ちていた。


 そこはその区最大の広場、屋敷のような広さを持つその石畳の中心に、相変わらず噴水が設置してある。

 人々の避難が終わり、石畳の上には木片と石片ばかりが転がるそこにはもちろん人影は見当たらず、あまつさえ《影》と断言出来るほどの濃い影を落としていないことが目に付く。


「着いた……けど、何処にッ…?!」


『噴水だ』


 刮目して見渡すが見つけられない雫に、低い声でベルが告げる。それは、宝石に目がないながらに嫌忌し、睨んでいるように聞こえた。


 無色透明な光を反照し、心地良い水音を盛大に噴かせるはずの噴水は冷気含む霊気に時を止め、あまつさえ水を一点の光もなく黒く染めている。


 大きな、屋根のようなキノコ型の黒い噴水は、疑いようもなく《影》が憑いていると断定出来た。


「この気配、どこかで」


 ふと、覚えのある悪寒に首をかしげる。

 この世界に来てからではない。漆黒で、凍て浸いて溶けることの無い氷獄のようで、纏わり付いて離さない極度の粘着質な。

 何か危険がそこにいることが分かって、立とうと膝をつくが、足首をひねっていたようで崩れ落ちる。

 その衝撃に、血滲む傷にまた熱が走って。




【流々行くひとすじを、手繰り追駆し及ばずの、狂気の冥闇抉り捕りて。

 ―――――さぁ、現今の銀燭よ】




 ムクリ。

 いっそ婉美とさえ思わせるナニカが、醜悪な漆黒から色変えず起き上がる。

 神経を逆立てる唾棄のノイズのようで、それでいて意味為す言葉に聞こえてしまう音が、同期して漏れる。


「……―――ッッ」


 どくん。

 ピクリ、と指先が跳ね、背筋に垂らされた灼熱か厳氷を大量の汗が流れ、心臓の音が耳元で煩くて離れない錯覚。



【――()()()()()()。……灯り無き空の下で再会を】



 瞬間、黒影が漆黒が暗黒が、闇煙となって広場に四散する。 すぐ脇を通って細路地に消えていく旋風が、曇る銀髪を舞い上がらせる。


『………』


 無言の静寂の中、ただひとり雫は止まない鼓動に胸を押さえ続けて。


  



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