Phase9 悩める ヒナ
バレンタインのイベントの最終日
また人集りが出来ていた。
シルフ族の少女イーリアもとい、沢村 昇一氏の
基調講演が始まる。
彼のアバター(仮想体)は、シルフ族の少女ではあったが更に
翅や髪が流麗可憐にブラッシュアップされていてどよめきが中身が男性と思われる
アバター(仮想体)から沸き起こり
そして隣には、いつの間にやらユノンが立っている。
「すげーっ あれ本当にオッサンがデザインしたのかぁ 信じられんな」
「何を言う ヤローだからこそ ”理想”の少女 いんや 女性を作れんだろうよ
あーぁ オレもモデリングが出来たらなぁ オレが作るとどうも上手くいかん
頭ん中ではリソーの娘が居るんだどな」
「けっ それを言うならオレだってそうさ 脳内彼女はいつだって完璧さ
ただ、思った通りが出来ないだけで」
「それもそっかぁ」
「それをいうならあの ちんまいオンナノコも中々だぜ、あれも中身 ヤローかな? 」
とボクの方を見てヒソヒソ喋りをする。
「さぁ それよりよ ユノンちゃんだぜ あの娘どう攻略すっか
それが今のオレの悩みであるッ!! 」
とケット族の男性のアバター(仮想体)はユノンに手を振ったり 尻尾を振ったりしていた
本来ヒトには無い器官、 例えば尻尾や翅等は、少し訓練すれば自身の躰同様
自在に動かすことも可能であった
壇上のシルフ族の少女が男言葉で講演を始める。
「えー、ボクはこのユノンにモデリング監修とデザイン監修を行い
更に現実でも セルサイクロトロン(せるさいくろとろん)装置
荷電式原子転換装置とも言われている、
えーとこれは、政府指導の次代の国家産業プロジェクトでもありますが。
この装置で、ナノ素子の次期有力候補、電子細胞素子を集積してナノゼリーで構築した
次々世代型の対話型量子応用コンピュータの試作に成功しました
”ユノン”はこの試作機体でも有り第一号の次々世代型という事になります
目下、一般市販に向けて量産のシステムを構築中であります」
いつだって国家も企業も先の先をしている
早々と発表して特許取得戦争に打ち勝たねばこの国は世界の経済戦争に勝てない。
大昔は、政府主導は何かにつけて後手だったが
流石に涼の時代は違う。
世界事変と大規模な地殻変動で、過去の特許やデータコンテンツはバラバラに散逸して
特許もとっくに切れているそれらをデータアーカイブから丹念に発掘したり、
時折発掘される古いメディア媒体・サーバー機器からそれを再現して現在の技術と組み合わせたり
さらに新しい仕組みを乗せて発展させたりと
各国の散逸した過去の特許取得合戦は重要かつ熾烈であり、
いち早く発掘して自国の特許にするため
国はこのアーカイブ漁りに躍起に成っていた。
なにしろ切れた特許はデータアーカイブから見つけた者勝ちであり
大昔に自国で取得した特許をアーカイブから発掘されて、他国に横取りされる可能性が有ったからだ
これはエンターテイメント系コンテンツが多く、時折国際問題に発展することも有った。
この国も痛い目に何度もあってようやく政府も教訓を学び、今日のこの国の礎を築きあげた。
涼が生活している時代はまさに、そんな過去の特許の発掘取得合戦時代の只中だった。
ボクが、勤めているイゲンテック社でも、政府依頼のこの手の業務が舞い込んで来ていて
実際、データの発掘専用のの自動収集ソフト(ロボットウェア)を組んだことも有る。
さらに昇一 (イーリア)氏の講演は続く
「このユノンはこのイゲンルートオンラインにて
AI実証実験も兼ねて皆様に接触し、賢く成っていきます
見かけましたらお声がけをしていただき彼女をもっともっと賢くしてやって下さるよう
お願い致します。」
と可愛らしい シルフ族の少女イーリア が挨拶すると
「おーーっ スゲーーっ ユノンちゃん オレのトコきてくんねぇかなぁ」
「えーっ わたしもあの娘近くで見たい 着せ替えしたい」
等と男女とも喧騒を更に盛り上げる
沢村氏の講演は技術的で専門的な話に移行するにつれ
次第に政府関係者か、企業ロゴがさり気なく入ったアバター(仮想体)が
ちらほら散見されるだけとなり
ボクもオンナノコ(メア)のまま、佇んでいた。
でもユノンってさっきのアバター(仮想体)?
と考える間もなく
メッセージが割り込んできた。
[ こんにちは、斎木君 君のメデカル・レポートは雛君経由で読ませて貰った。
災難というべきかチャンスというべきか ボクははっきり言って言葉を迷っている ]
「どういうことですか?
ボクは沢村さんの真意を図りかねていますよ
こんな オンナノコのアバター(仮想体)に閉じ込められて
ボクにとっては災難という言葉しか、言語化出来ていませんね」
とやや言葉荒げな表現でメアのチョーカーメニューから、発信元の人物
今は壇上で講演を続けている、シルフ族の少女に向かって
カイバーウェアでメッセージをタイプする
実際は、骨伝導や実際の生身の脳の言語中枢から信号をピックアップ
声帯への神経信号をフィルタリング後、言語化しそれを母国語で翻訳それでやっと文字化できる
なぜ、このような回りくどい方法かというと、内心の自由を保護する為である。
言語中枢からの直接翻訳だと内心まで詳らかになってしまう可能性が示唆されていたからである。
ボクのメデカル・レポートはイゲンテック社で厳重に管理されて最も信頼できる
最も身近な親族:斎木 雛 その人に一任してある。
その信頼出来る雛が渡したとなると、沢村氏の人物も信頼出来る人格者ではあるのではあるが、
出来れば一言許可がほしかったのが本音だった。
(ヒナのやつ ボクに黙って渡すなんて、よっぽど藁にでにもすがる思いがあったんだろう)
とポジティブに思考を切り替えた。
「チャンスとおっしゃいましたが? 」
と何故災難がチャンスに繋るか解らず彼にいきなり単語をぶつける
[直接は、言えないけどボクの世間の肩書に関する事ということで察してほしいね]
とまた返ってくる。
そう言えば彼は、日本でも数少ない 戦略級無形知識保有者に指定されていたっけな
戦略級無形知識保有者(せんりゃくきゅう むけい ちしき ほゆうしゃ)
とは、
優れた、産業技術的知識を有した人物で研究に専念出来るように
多額の補助と各種税金の軽減措置があるが渡航地域には制限が有る
国が定めた一種の特権階級である。
大昔、”重要無形文化財保持者”とか”人間国宝”と呼ばれた人達のことである
ボクの時代 新暦 でも名を変え主旨を変更し
連綿と続いているものだ。
ボクのうろ覚えな知識だとこれぐらいであるが
保有者である沢村氏は、もっと国から恩恵を受けているはずである。
「あぁ 沢村さんの肩書ねぇ それとボクがどう関係するんです? 」
さっぱり繋がりが視えて来ない
プログラム言語で言えばメモリのインデックスの参照先が無い状態だった。
[うん涼君 君は今まで無い体験を現在継続中だ これは理解できるかな? ]
「えと、 VRMMOにリンクインしっぱなしってことですか? 」
これくらいならボクにでも判る。
[そうそれが一番大きいね それと、有りえないが、VRエネミーが血を流したり
君達プレーヤー この世界で言う所の”エトランス”がVR空間内で
行方が判らなくなり同時に、現実でもこの国から忽然と消えたことだ
...。
これだけ個人情報を管理されている社会でだよ
忽然としかも現在に至るまで誰も戻って来ない。
それを、君の専門の立場から解決すると言う事が
ボクの肩書に繋る ...というわけさ ]
「なるほど、これ以上は ”察しろ” ですか? 」
[ そういうこと♡ ]
沢村氏は最後は イーリア (アバター)に相応しい少女言葉で締めくくり
[ 君のメデカル・レポートを拝見させて貰ったお礼をまず一つ]
と大きなデータファイルが添付されてきた
[ 開けて見てよ なにちゃんと汚染されていないかはチェック済みだ
安心したまえ ]
と言われ 立方体のオブジェクトを突き開く
この立方体のオブジェクトは汎用共通3Dデータファイル形式で有ることを示していた
僕達の時代では、企業でモックアップモデルのやり取りに
こうしたソフトウェア依存ではない汎用共通3Dデータファイル形式でやり取りする事が多く
カイバーウェアにも標準でビュワーが組み込まれている。
立方体のオブジェクトはまだ未開封のデータファイルであることを示していて
改竄された様子はない。
大きな立方体のオブジェクトは細かい多数の立方体のオブジェクトに細分され
次第に本来の立体データへと再構築されていった。
「これは ボク? 」
[ あぁ その通り イプシウス社のマシンに入る前に 記念... いや臨床データとして
記録したものだ ]
そこには半自動型介護ベッドに横たわる一人の青年が浮かび上がっった
多少憔れてはいたが紛れもなく、ボク自身であり
繋がれている多数のチューブ回りの機器まで再現された高精細なメデカル・データであった。
「うわっ そこにボクがいる」
とボクは少女のアバター(仮想体)のまま可愛く両手を口に当てて驚いた。
[ 当たり前だろう君の主体はアバター(仮想体)ではない 現実のベッドに
横たわっているその青年だ 全ての主体はそこだ
しかしながら実際の感覚や行動はアバター(仮想体)にあり
今の主体はそれ(アバター)といって良い この、イゲン・ルート・オンラインでは。
今こうしてメッセージを送っているこの私も主体がどちらにあるのか、
時々判らなくなる時がある
全身義体で脳だけは生身であるこの私は現実でも
主体は脳なのかそれを維持、行動する義体なのか時々思考の迷路に入ることがあるね ]
と抽象的で曖昧とした返事で返した。
「ボクは、沢村さんのように哲学な思考はちょっと苦手でしてね
こういうのは、臨床心理学の学位も修めている雛が居ると弾むんでしょうけど」
とさり気なく意趣返しをした。
[ 涼君も 何もかも論理思考だけでは解決出来無い事を知ったほうが、何かと都合がいいぞ
偶には思考の迷路に入って ”遊ぶ” ことも必要だ。 論理の塊である機械もプログラムも
ゆとり(クリアランス)が大事だろ ]
と諭される始末。
「はぁ」
と生返事。
[ ところで、立体データはセキュリティーの為
ぼくとの会話が終わると数分で完全に0データに置き換わる 見ておくなら今の内だぞ ]
と言われ、当分は見ることの出来ないボク自身の躰を視点を変えじっくり
その横たわっているボク自身の躰の脳に刻んだ。
つまるところ、このメア(アバター)が記憶するのではなく記憶として残るのはあくまで横たわっている
生身の青年すなわち、涼の脳である
[あと一つ君に此処でのプレゼントは
いま壇上のユノンその人だ]
とちらとユノンに視線を向けると、視線が合い彼女は軽くウィンクした。
[ 彼女は先の講演の通り、次世代型の対話型量子応用コンピュータのプロトタイプの
アバター(仮想体)だ 現実での対話型量子応用コンピュータ(ユノン)もすでに
君の名義になっていて新国君にも許可も取ってあるからそこは安心したまえ
訳あって 実機を渡せるのは当分先になるがね
君の対話型量子応用コンピュータ:ベルゼーティア君ともいいコンビになるだろう 楽しみにしておいて
くれたまえよ 先立ってこのイゲン・ルート・オンラインでは
種族: ウンディーネ族の
職業: 召喚士兼治癒役として活躍してくれるだろうから、うんとこき使ってくれ
…
君の雛君のアバター(仮想体)と被るがいいだろ ボクはファンタジーの妖精が好きでね
そこはボクの我儘を通させてもらったが
人型のときは魚のような尻尾で なんと人魚型にも成れるんだすごいだろ
ボクが君のために渾身のデザインをしたのだよ
喜んでくれたまえよ
治癒役と君と同じ召喚士も兼ねているから
詳しい能力は彼女から聞くといい ]
と言ってボクはさらに驚いた。
人魚型や翅ではなく尻尾が生えているなんて
目立つ事この上ない これはまいった。
[此処だけの話だか ... ]
と更に秘匿通話である事を意味するアイコンが浮かぶ。
涼の時代は タキオン量子通信で、エクスビバイト EiB/s 級の通信速度を実現しているが
ライブ映像の秘匿通信だとそれでも尚、数ナノセカンドの遅延が発生するくらいの暗号強度である
それだけリアルタイムで復号に時間を要することの証左でもある。
テキスト会話では遅延は問題にならないがそれをソフトウェア技術者として周知している
身としてはこれからの会話がどれだけ重要な事かは理解できた。
[ 実はね... ]
と始まった会話は概ねこんな感じだった。
次世代型の対話型量子応用コンピュータのユノンを構成している
電子細胞素子を集積したナノゼリーは偶然的に ”崩壊” 無しに成功し今に至る
現在鋭意再現実験中だが、一向に再現しない。
いつかは崩壊しないで安定するだろうが今の世代で実現出来るかは不透明であり
このことを巡って、政府内の各省庁で熾烈な権利の争奪戦と舌戦が繰り広げられていること
ユノンの実機は今や政争の具にされて、沢村氏のAIのプロジェクトに大きな支障をきたして
いることが語られ、さらに自身も政府の一翼であるため
(ユノンの)オーナーになると軋轢が生じることになる
それで民間人であるボクに白羽の矢が向けられたのだ。
アイドルとして衆目に晒すのも、政府の隠匿の財にされないようにするためである
「そうですか ボクとしては嬉しいですが
ボクひとりにユノンが差し向けられてやっかみの対象になりませんか
調査ということもありあまり目立ちたくはないんですが」
当たり前である
既に熱心なユノン・パッショナー(ゆのん・オタク)コミュニティが出来ているのであり
そんな連中の矢面には立ちたくない。
それを指摘すると、
[ そこは安心したまえ ユノンはたくさんいる たくさんいるとういうのは
斎木君以外のはAIを収集して本体に送る為のAI収集用のダミーだよ
君の所に来る彼女のアバター(仮想体)が統括体だ
ボクの実機のユノンと同様にね
まぁそこはアバター(仮想体)に設定している機能の違いということを理解しておいてくれ。
本当はアバター(仮想体)にオリジナルもコピーも無いんだがね
君のユノンは高度なAIは勿論の事、他に様々な隠し特権を設定してあるが
ゲームは有利にはならない
あれもこれも盛り込みたかったが運営にお目玉食らってね
あくまで仕事の上でソフトウェア介入に関する特権だけだ、
そこは君の設定したOS疑似人格体君の許可なければ特権すら発動出来無い。
君にとっては不本意だろうが、ゲームは普通に楽しめるぞ ハハハ
それに、
他のプレーヤーからは”その他多勢のユノン”と認識される偽装効果があるから
やっかみもかなり回避出来る筈だ
人間である以上、やっかみは皆無とはいかないがそこはうまくやり過ごしてくれ
全て蒐集した情報は君のユノンのアバター(仮想体)を経由するが
君言えども経由する情報を自由には出来無いがね]
「えぇ それは理解しています 一介の民間人にそこまでの権限は無いでしょうからね」
これは当然だろう。
[そういうこと 理解が早いのは亡くなった親父さん譲りだね]
とさり気なく亡き父を褒められ嬉しかった。
[でもね、ちょっとだけ 君のユノンが召喚する ”肉食クラゲ:クヴァーレ” には細工をしてある
楽しみにしておいてくれたまえ バグ解析に役立つ機能も付け加ておいた
勿論召喚魔物としても ”優秀” だ、涼君の攻略の手助けにはなるくらいにはね]
...... 。
[ 君の親父さんには技術面で大変世話に成ったし
専用の機材も沢山ボクに遺してくれた 今でもそれを元にして改良した機材が
連綿とボクの身の回りで息づいている
実機のユノンやこのアバター(仮想体)では返せないくらいの恩がある ]
と言われボクは思わずポリゴンの涙を地面の非破壊オブジェクトに零し、
さらにそれは粒となって砕け散った。
いままで無言だった魚の姿に変じていたシステム擬似人格体ベリアことネーベリアは
[ そう新しい娘がくるのね でもこのベリア様がいっちば〜ん ]
と戯けて見せた。
[ それ涼君作? OS疑似人格体かね ]
「えぇ 仕事で潜り込んだので上司からこのシステムにアクセス出来るように特別に
OS疑似人格体を作成したんですよ 本来ならサクッとシステム権限でデバックして
孔を塞ぎボクはめでたくリンクアウトとなってたんでしょうが
こんな”事故”になってしまって」
と慌てて弁解した。
[ まぁここは 君の可愛いアバター(仮想体)を活かしてプレーヤーにいろいろ
おねだりしてもいいんじゃないかな ”ねぇねぇ バグの原因メアに教えてぇ♡ ” ってね ]
と茶化す。
「茶化さないで下さいよ イーリアさん」
と意趣返しのつもりで言い返したが
[ うふふ あんまりお堅いのは良くないわね ]
など当然のように少女口調で言い返されボクは言葉が続かなかった。
[まぁ 何にせよ君は医学界でもソフトウェア業界でも時の人だからね
”仕事”に励んでくれたまえよ これでボクからは以上だ
あとは君のユノンから聞いてくれたまえ
受け答えも少女そのものだから女心を酌まないと機嫌を損ねたり情報を
教えてくれないからそこんとこもよろしくね♡ ]
と一方的に秘匿通信のアイコンが消え
[ 女神:リーンの息吹がメアに吹きますように イーリア♡ ]
とこの仮想空間に相応しい別れの挨拶で通信は終わった。
程なく立体データも形跡もなく千々に砕けて、一切のデータの痕跡も残らなかった。
...... 。
しばしの静寂が訪れボクは魚型のベリアとバレンタインのフィナーレイベントを眺めていて
それも終了
時間19:00である。
早めに終わっても、あとでライヴ感は無いものの
動画配信もあるしイベントのアイテムも後ほどのリンクインボーナスの
ポイントでくじが引ける。
特に沢村氏の基調講演は貴重な情報であり電子配信のマガジンでは
誌面の都合で編集された部分無しに見れる上
こうした動画配信は後で有料配信になるにしても人気が高かった。
ボクは、生でイベント中に無料で聞けたのだから運が良いと言えば良かった
普段なら会社のデスクにまだ、かじりついている時間だったからである。
すぃっと と透けるように会場のポリゴンが消え元の広場に戻った。
突然、システムアナウンスが鳴り響く
[ 封印地域:ギアトレスが解放されました
レイドボス 有翼魔人:ァタウェー このボスはある程度LP減らすと
”撤退”致します
一度撤退しますと現実時間で2週間、神の御座:アプレントへ篭ります ]
大型のレイドボスは、討伐出来ない代わりに ”撤退” があり
ある程度LPを減らすと”撤退”し時間経過でまた何度でも挑戦出来る仕組みである
但し、ステータスやLPはランダムで変化し、度毎に違った攻略をしなければならない
これも、このゲームの特徴である。
[ 更に、古代王朝:レギミニアへの入り口も開放されました
女王:ロザリアからクエストが受けられます
有翼魔人:ァタウェーを攻略するとヒントが得られます
まだ見ぬ武器・防具・アイテムを目指しましょう!! ]
と更に煽り文句も忘れない
あちこちからどよめきが起こる。
何時システム更新がなされたのか、誰も知らなかった
ゲームは普通にオンライン状態で続行していたからである。
皆はそんなことより、早くも攻略の話しで盛り上がり
普段はPKプレイをしている連中もボス攻略と
封印地域:ギアトレスへの渡航の話題一色である。
「なぁ 俺等も行こうぜ PKばっかだとつまんねぇしな」
「そうするか 日頃のストレス解消には持ってこいなのによ」
「まあまあ そう言わずに さぁ」
「おしっ しばしPKは中止すっか」
と見るからにゴロツキの格好の集団のアバター(仮想体)が
宿に入って行く。
「でもよ どうやって浮遊大陸”ベルゼ”に航るんだ?
誰か情報持ってる? 」
とヤサグレのケット族男性が仲間と話す
「さぁな これも”攻略”だろ オレってさぁ NPC殺りすぎちゃってさぁ
情報 もう貰えないんだよねぇ ハハハ」
と軽く話す
「莫迦だなぁ NPC殺りすぎて大ボスやら未開地域の情報を聞き出せないばかりか
渡航も出来なくなんぞ」
とウル族男性。
「そうそう アタイもさ NPCのオスガキ殺りすぎてさ ほんのちょっとしか情報貰えないんだよね
この渾身のサキュバスのアバター(仮想体)で色仕掛けしてもさ
オスガキのNPC達と来たら突っ慳貪な反応ばかりだからさぁ
早くベルゼに渡ろうよ あそこは、まだ初なオスガキのNPC一杯いるし
楽しめそうだよね 殺しをさぁ」
とゲームでも唯一許可されている魔物のサキュバス型のアバター(仮想体)の少女が
口に指を当てて上目でウル族の男性に色目を使っている。
ちなみに、NPC殺りすぎて情報が少ない面子がパーティーにいても
パーティーに一人でもNPC殺しの経験がない面子がいて
その面子が頭目になっていれば
問題ないうえ
NPC殺しの情報は大陸単位でしか共有されず
軽い場合はNPC単位にとどまるのだが、
このサキュバスの少女は既に、NPC殺しが大陸単位まで広まっていたのである。
彼女が新たに情報を聞き出すには他の大陸に航るしか無い
「ふん、 中身男じゃないだろな ...っと此処では
これを聞くのは、野暮(マナー違反)だったな すまんな」
と切り返す。
他のVRMMOソフトや知育ソフトでは性別の虚偽は禁止されている例が多いのだが
このイゲン・ルート・オンラインでは、なりきりを重要視しているためと
男女の垣根を低くする政府主導の方針もあり、多少の問題を抱えながらも許可されている。
「まぁオレはNPC殺しはやってねぇし対人専門だからな
まぁ情報は任せとけや」
「そうこなくちゃね 楯役さん さすがたよりになるわぁ」
と少女のサキュバスはウル族の楯役に抱きついた
「おい よせったら 中身の素性が判らないやつに抱きつかれても困るぜ」
「うふふ そうね”男”と”男”だったりしたらね 人生の汚点だもんね」
と軽口を叩き合ってはしゃいでいた。
「これは、わたしの趣味じゃないからね」
と斎木 雛はモニターの横に沢村氏に渡したメデカル・データを立体ホログラフィにして
飾ってあった
介護型完全密閉式終末医療用ベッドは カプセル状で涼の姿は直接は見ることができない
本人もカイバーウェアを装着のままで、髭も髪も全て特殊な電解質液の中であり
それらは全て液中ナノマシンが世話してくれ、
髪も現状を記憶させておくとそのままの髪型を維持してくれるのである。
このベッドは終末医療用で、母親の胎内のように羊水で満たされ限られた時間を
穏やかな最期を迎えるためとのコンセプトで開発された装置であり
羊水代わりの電解質液の、液中ナノマシンが全て行ってくれるのである
洗浄・皮膚表在バクテリアの維持管理・毛髪・髭・排泄物の即時分解など
口には空気と高栄養物を供給する為酸素マスク状の器具が
取り付けられる
胎内を模しているだけあって普段は完全に暗闇であり
雛のパスワードが無ければ電子通過ガラスの透明度は下げることが出来無い
そんなこの時代でも最高最新の医療用設備である。
バイタルデータはカイバーウェア経由で行われ
仮想世界とのリンクも全てカイバーウェア経由である
通信も タキオン量子通信で有線ではない
通信切れも速度低下もない、気を付けるとすれば数十年に一度の太陽黒点の活発化による
体規模な磁気嵐であるが次のピークはまだ数年先のことである
雛は最後のアナクロな介護ベッドの”記録”と、
臨床メデカルデータの為と自分に言いかせて撮影したものだ。
アナクロといっても2000年代よりは遥かに発展していたが。
準備は着々と進む。
この国の人間としては少し大柄な涼であるが元々体格がいい
ユーロ圏で開発された機器である、空間は十分にあった。
本日、仮想世界イゲン・ルート・オンライン中イベント:バレンタイン最終日は
医学誌 サーチング・カドゥケウスの権威 ケイン・籠林氏が直々に今会社に訪問していて
最後の段取り中で雛は自分の診療室で待機中で
これらの機器が、最上階の特別医療室に据付られる様子を社内の中継モニターで雛は見ていたのである
据付作業に女性である雛の出番は無かったが
医療スタッフほぼ全員と黒澤氏も駆り出されていた
「それにしても気に食わないわね」
と思わずごちる。
[ おっ! ”ユノン”にヤキモチか ヒナの姐さん]
突然モニターに現れたのはキースで 小戯れた着崩しの2000年台の
ちょいワルおやじ風のファッションに身を固めていた。
「えっ そっ ...では ...無いもん ...って 私の心拍勝手に解析しないでっ!! 」
とクロのストッキングの足を組みなおしつつ激しく動揺する。
沢ノ樹 麗奈を意識して今日は、普段の白のストッキングではなく
黒のストッキングと紅のリボンパンプスでちょっと子供っぽいワンピースを着ていた
これも黒と灰色を基調としているが
レースやフリルは彼女(元は男性)に比べ控えめである。
何故、白を基調とした診察室にこんな対極の色彩の服を着ているのかというと
もうすぐ、会議が始まる今日は非番だったからである 権威が来訪しているのに
スーツに白衣を引っ掛けただけだと格好悪いし
性適合術を受け可愛い女性となった元男性の麗奈にやっかみもあり、
対抗意識を柄にもなく燃やして普段着慣れていない
可愛い系の服を着て会議に臨もうとしていたのである。
(やっぱり彼女じゃないと似合わないな)
とぼやくも今更着替え直しも出来無い。
この日のためにスケージュリングを
キースに精査させ調整しやっと隙間を作り気張った結果が着慣れないデザインの服のおかげと
権威に会える緊張でドキドキしていたのである
それを知ってか知らずかキースが余計な事を言うからつい強い調子になってしまった
そこへ
[ おヒナ メール着たぞ 読み上げるか? ]
とキースが言う
「ん アドレスは 社内か 良いわ読み上げてよ」
[ そうか じゃあ
”本日20:00 (ふたぜろ:ぜろぜろ)時最上階
会議室にて涼兄ぃの移動の発議を行うものとし 本日、日付更新前に実作業をおこなう
一時間前には会議室へ来られたし”
だって ホントは涼兄ぃではなく 斎木 涼となっているが
俺様としては敢えて敢えて言い換えてやったぜあとはメールのテキスト通りだ]
「ありがと キース 準備は出来て居て落ち着かないからいまから現場行くって
伝えて頂戴」
[ おう了解 っと今送信したぜ ]
覚悟は決めていたが落ち着かない
無水エタノールで口をゆすごうとして、我れに返り慌てて瓶を薬棚に戻す
医師でありながら、馬鹿な事をしようとしてブルブル首を振る。
キースに言われるまでもなく自分でも馬鹿だと思っていてもあの
”ユノン” に嫉妬の念を向けて居たのは、隠しようがない
今後彼女が治癒役としてパーティーに加わる
自分の立場を脅かす存在として女として強く意識した自分を恥かしく感じて思わず
パンプスを投げつけた
[おーぉ 怖いねぇ でも今ので少しは気が済んだか 手術中に
メスや鉗子でそれをやられちゃ敵わないからな]
「お蔭様で 少しスッキリしたわ ごめんなさい」
と言うと
[それはそのリボンパンプスに言いな]
と相変わらず軽口を叩くキース
「バカ」
と一言。
後は医療用洗面台で顔を洗い軽く化粧をして身だしなみを整え最上階に向かう
時に18:30である 当然ながら会議はまだ始まっていない
行き掛けにモニターの中でキースは、
[メアちゃんには本日20:00より前に、ナビゲートマウントに戻るように言っておくぜ
いいだろ なぁ? ]
「えぇそうして後はあっちに潜るんでしょ? 」
[こっち(リアル)では俺様が出来ることはねぇ しっかり涼兄ぃを見ててやるんだぜ]
と対話型量子応用コンピュータに励まされる。
「本当に良く出来た端末ね 貴男が現実の男性だったら良かったのに
お兄ちゃんへの恋慕を忘れられて良かったのにな」
と診察室を去り際に言うもこれは誰も聞き咎めなかった。
独特の消毒液の匂い白い無機質な壁
ゲンテック社の雛の診察室での出来事だった。
ボクは、またぶらぶらと夕方の広場を歩いていた
「オッス メアちゃん ちょっといいか、ヒナの姐さんからの伝言だぜ」
といきなりポータルオベリスクに現れたキースはいきなりこう声をかける
「うわっ キース? ってなんの用」
「すまん いきなり”レディ”に声をかけるとはオレは礼儀を忘れちまったらしい」
「そーでは無くてッ! いきなりヒナから伝言って何? ボクの躰に何かあったのっ? 」
「いいねぇこの口調 幼女が怒る様子は一部の連中には堪えられないだろうな
動画を撮れないのは癪だが ...ってここまでは前置きでな
本日20:00いよいよ兄貴の本体よぉ 機械に移すんだよ
今は19:30だろヒナのヤツ気も漫ろでな早くも会議室に向かった
あと兄貴の病室は最上階の特別医療室だ 安心しな」
とキースはタバコフレーバーを燻らす。
「だからさ レーヴェンティールに戻っておいて不測の事態に備えておいてくれ だとさ」
「そうか いよいよか さっき沢村さんからボクのメデカル・データと称して
立体データを見たけど 移行の前の臨床データだったか」
「まぁ そうゆことだな でもヒナのヤツモニターの横の立体ホログラフィ投影装置に保存して
あれこれ眺め回していたぞ へへへっ
時折指でよぉ つついてくるくる回転もさせてたりしてたな。
兄貴のぜ〜んぶ見られちまってるぜありゃぁ」
と今度は子供向けのタバコフレーバーを吸い爽やかなミント系の香いがキースから漂う
ボクは、少女のアバター(仮想体)のまま顔を両手で隠してキースの顔を直視出来なかった
「あれより高精細データがヒナの所に有るわけ? 」
と声を震わせながらいうと
「ったりめーだろうよ 医者が高精細データ持っていなくてどうすんだよ」
とさも当然のように言われる。
「あ そうだった ヒナはそういう立場にあったんだ」
と改めて納得したが、
「でもでも、立体ホログラフィ投影装置に保存する必要無いじゃないのぅ」
いつの間にか少女口調になっているのも忘れ
ごちると
「まー なんだ多分誰にも見せないし奴さん医者だからよ”愛しい”実兄を
いつでも弄れるんだから勘弁してやんなよ メアちゃん」
と弁解とも言い逃れとも取れる事を言う。
「しょうがないな でもレーヴェンティールには戻った方がいいな」
そう判断して
キースと共にチョーカーメニューから項目を選択
ボクのこの世界での拠点:レーヴェンティールへ
転送した。
戻ると早速、 待っていたと思われた”ユノン” が抱きついてきた
ステージと違い豪奢なワンピースドレスに水色の半透明なパンプス
白いタイツと非常に愛くるしい姿でボクの好みにピッタリで
さすが沢村氏と言わざるを得ない。
氏に言われた通り翅はなく、魚の尾鰭のような尻尾がありゆらゆら揺れている
そして、これまた凝ったデザインの水の蝶の髪飾りを留まらせていた
思った通り非常に目立っていたが、突っ込まれたらなんとか誤魔化すしか無い
「わお ちっちゃカワイイなぁ って私は ”ユノン” 見ての通り
種族: ウンディーネ族
職業: 召喚士兼治癒役
よ改めてよろしくね」
と頭を撫でられる。
ウンディーネ族らしくひんやり水の属性が火照ったボクを冷やす
彼女からは淡い薄荷フレーバーの香りが漂い鼻孔を擽った。
時間が迫り19:45には寝台に横になり”刻”を待つ
「ねぇ メア 不安でしょ生身の躰を預かり知らぬところで弄られるのって
このユノンねーさまが居てあげるからリラックスしててね」
とベッドに潜り込みボクを優しく抱き寄せてくれる
ボクが拒否出来る余地は無かった。
「おっと これはお邪魔だったな 俺様は表をぶらついてくらあ ベル姉とも話したいしな」
と露骨な言葉を発しそのまま庭園内に出ていった。
「ふふ 私貴男の生身の躰を見たわ、ちょっと色白だけどいい男ね
躰は大きいのに、心は子供様に純粋で脆いのね やはり男の子ね
私が貴男の所有物になって良かったわ
20:15分頃
激しい目眩と動悸 引き剥がされるような苦痛が突然幾度となく襲う
その度に、ユノンはぎゅうと抱きしめてくれそして、ボク(メア)の唇を奪う
んんっ ...んっんっーんっぅあぁん
と彼女は、人工知能とは思えない”リアル”な舌使いで唇を翻弄した
ちょうどこの時機械に入る直前 皆が気を遣いスタッフが出払った特別医療室で
二人きりの空間で当分は直接会えない生身の涼に
雛は熱のこもったキスをしていたのである。
このような感覚を15分くらいだろうか
味わった後、普段の調子に戻る。
「ふふ いい子ね 良く頑張ったわ 作業は全て終了したようよ
今ね貴男の介護型完全密閉式終末医療用ベッドのシステムに枝を伸ばして
ファームウェアの一部から読取オンリーで私の本体と情報をリンクしたわ
ヒナさんがいない時は私が状態を監視してあげるわ 安心してね」
と言い放った。
「情報をリンクって まさかファームウェアに介入したの? 」
「いいえ、介入した途端機密漏洩の為ファームは全て消去され
貴男は生命を維持できなくなるわ でも出てくる情報を読み取る事は可能
私の”本体”がそれをモニタリングするようにしただけ」
ボクは理解できなかった。
なぜなら、この秘匿情報はイプシウス社へダイレクトに送られて居るはずであり
タキオン量子通信ネットのノードを介さないはずである。
大規模で超高度な”クラウドサーバー”でも無い限り即時復号し読取りオンリーの
枝を付けるなど不可能な芸当だったから、
いま知る限りネットノードから完全独立して独自介入出来る
こんなクラウドサーバーは聞いたことがない
ソフトウェア技術者としての知識がこう断定していた。
「今は何も言えないわ でも忘れないで私は貴男の紛れもない”所有物”よ」
とユノンは一言そのまま眠ってしまった
ボクも先程の疲れ?からそのまま
眠ってしまい、翌朝ヒナの大声で目を覚ますことになる。
雛は会議室に入ると早くも新国氏とケイン・籠林氏とが
歓談しているのが見て取れた。
軽く二人に会釈をしてモニターに映る作業を見ていた
既に兄:涼のベッドは最上階の特別医療室に運ばれていた。
最新のベッドは繭状で中には人一人分の空間あり液体で満たされていた
「まるで、胎内ね」
と言うと、
「そう ヒナ、あれはまさにそれを目指して制作されている
本来終末医療用であの中で穏やかな”死”を迎えるためのものだ
それをこれから生きようする患者に一番最初に使うことになるとは
なんとも皮肉な話だがね」
とケイン氏は背後で声を被せるように言う。
「すみません 挨拶も無しで」
「ふふ挨拶ならさっきしたじゃないか この国の人間は相変わらず律儀だな
君のブラザーには気の毒だとおもっているのは事実だが
これはビジネスでもある、彼の臨床データ及び
機械のシステムモニタリングデータの全ては我々が有意義に使わせて貰う
悪く思わんでくれ」
「いえ 私は兄が”戻って”来るまでの間 完全な”安全”が担保されること
それと涼兄ぃの ...いえ兄の臨床データだけ自由に見ることが出来ること
肉親で医師ですから。 でも一番は完全な”安全”が”保証”される事
今の兄は胎児同様ですから、それがあの機械なら出来ると?
...企業の思惑等は今の私にとって瑣末なことですわ」
と雛も毅然と言う。
「雛君には彼の臨床データを見る権利は当然有るからね
専用のバイタルデータモニタリング端末を雛君の診療室に設置させよう
但し、ハードの操作は我々が、ユーロにある本社から直に行う
不測の事態以外は操作は出来無いそれはいいね。
それと、我々イプシウス社CEOでもある私をもっと信用してほしいな
技術スタッフも信頼できる それは私が担保しようではないか
今の事項は直ぐ契約に盛り込んでおこう」
と彼は何やら自身のカイバーウェアで指示を出していた。
決して”保証”とは言わないで敢えて”担保”すると言う表現に
雛は内心で (ずるい言い方) と思いながらも
「今の言葉には深く感謝致します」
と両名向かい合わず大きな電子通過ガラスから映るイゲンテック社の夜景を眺めながらの
会話と返事であった。
互いに目を見ずともこうして話せる相手はそう多くはない
これが二人の間に沸き起こった共通の感情だった。
誰も、音頭を取らずともすでに会議は始まっていた。
時は19:45分の事である。
そして、雛のカイバーウェアに送られてくる涼のバイタルデータもいつも通りだった。
涼の第二の次々世代型の対話型量子応用コンピュータ
お待たせ致しました
次回 10話 バグの巣窟へ
お楽しみに
語句修正やニュアンスの変更は有るかも知れませんが
ストーリーに変更は有りません。
活動報告にユノンの詳しいプロフィールを掲載してあります
まだ秘密がありますがネタバレの為
ストーリーが進行次第更新します