表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

失敗作

作者: 未雪織

年の終わり、世界を作り直した。

担当はくじ引きで決めた。

ある人は建物を直した。

ある人は道路をはがして掃除をした。

ある人は空色の天井に雲を貼り替えた。

ある人はその天井をくるりと回して反対側を紺色に塗った。

ある人はその夜空に星を並べた。

そして、ある少年は月を作った。

年末の世界修理は、例年通り順調に進んでいた。


「おい、月から接着剤が垂れてるぞ」


誰かがそう言った。

それを聞いた少年はびっくりして、空に浮かべた月を見上げた。今年は三日月が選ばれたので、少し暗い黄色の細長い形が紺色に塗られた夜に浮かんでいる。

そしてその三日月から白い線が下へつららのように流れていた。接着剤がはみ出しているのだ。

「え、どうして」

少年は失敗作となった月を見て思わず声を上げた。周りも同じように空を見上げ、それに気づきざわつき始める。

どうしよう。こんな、みんなの大事なものを、どうしよう。

頭が混乱して、呼吸が上手くできなくなった。

「おい、今年の月の担当は誰だ」

「よく見たら切れ目もあるじゃないか」

「月は大切なものなんだぞ。それなのに失敗しやがって」

そんな声があちこちから飛んできた。痛い。言葉は投げられた小石のように少年に当たる。痛い、すごく痛い。


僕です、ごめんなさい。


そう言おうとするが声が出せず、嗚咽が漏れるだけだった。少年の目に涙が溜まっていく。ざわつきが大きくなるほど、少年は怖くなって頭を抱えた。

そのとき、ざわざわとした空気に、氷のようなよく通る声が響いた。

「ああ。今年はあいつだよ」

少年とは真逆の、この星で一番の優等生の声だった。彼は少年の方を指さし、睨むような鋭い目で、微笑んで。

「だよね?――くん」

彼に名前を呼ばれると、銃口を向けられたみたいだった。膝ががくがくと震えた。止まりかけていた呼吸は速くなり、肺に溜まった酸素が心臓を押しつぶすように膨らむ。

「あ、あの、ぼく」

上手く言葉を繋げられない。少年のこもった声は風に流され人混みへ消えていく。

周りの人間の声が大きくなっていく。少し遠くから「ふざけんな!」という怒声が響いた。それをきっかけに、「どうしてくれんだ!」「責任とれよ」などの声がたくさん投げつけられる。さっきよりも大きな、岩で殴られているように痛い。

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」

少年はしゃがみ込んで頭を抱えて繰り返す。

失敗しちゃった。また、間違った。だめだ。僕はだめだ。

「この出来損ないが!」

ハンマーで殴られた、ような痛みだった。こらえていた涙が溢れ出す。

ごめんなさい。本当に、ごめんなさい。全部、全部僕が悪い。

優等生の彼は冷たい目のまま口元に優しい笑みを浮かべ、少年に歩み寄った。

「まあまあ皆さん。この子だって悪気があったわけじゃないんですから」

優しく聞こえる声でそう言って、少年の頭に手を置いた。その手は生ぬるくて気持ちが悪かった。少年は、昔泥水をかけられたときのことを思い出した。


「やめて!」

少年は叫んで、頭に置かれた優等生の彼の手を振り払った。


するとその瞬間、月が大きくなった。

高い高い夜空の天井から不吉な音がした。

一気に、三日月が大きく見えた。


少年は、月を作るときにいくつもの失敗をしていた。

ひとつは、接着剤の場所や貼り方を間違えたこと。

ふたつめは、継ぎの切れ目を隠せていなかったこと

それからもう一つ大事なことが。


例年よりも大きく作りすぎたこと。



失敗作は人混みの真ん中に落ちて、潰れてしまった。


それはぺしゃんこになった。

失敗作は壊れやすいのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ