プロローグ
ある年ある町では怪現象が起きていた。連日町の住人が意識不明の昏睡状態になっていくというものである。医者に見せても原因は分からず、警察も軍も手を出せずにいた。町の空気は死んでいき、まるでそこだけぽっかりと穴が開いたような静寂が訪れてしまった。
「そしてとうとう手詰まりになったから僕たちに依頼が来たという訳だ!」
私は懇切丁寧に今回の依頼を説明してくれた男性に礼の意味も込めて笑顔で返事をする。
「そうなんだ、そんな大事なら私が出るのもまあ仕方ないか。」
整えられた白い髪をかきあげその男性はやれやれといった風に応える。
「頼むよ、今回の依頼は政府からだ。また前みたいに適当やられて報酬出ないんじゃたまったもんじゃないからね」
分かってるわ。と相槌をうち、私は飛行機の外に見える風景を見下ろすのであった。その空模様はこれからの私たちの行動を指し示すがごとく暗雲が立ち込めているのであった。
季節は真冬。雪も降りだそうかといった寒々しい空気である。
時刻は11時40分頃、飛行機から降り電車に揺られ問題の町へ二人は到着した。
うぅ、冷えるなぁと愚痴をこぼしながらも私は駅を出て感じた疑問点を隣にいた仲間へぶつける。
「ねぇ悠、今日ってこの町は祭日のはずだよね?」
悠と呼ばれた男性は同じく名前を呼び返す。
「そうだね、梨子。これほどまでに殺風景だとは僕も思わなかったよ。」
二人が電車から降り駅から出るとそこはすっかり伽藍堂になってしまった町が一望できるばかりであった。
駅前は閑散としており、まるで人がいなくなってしまったようだった。綺麗に舗装された歩道が逆に恐怖感を煽ってくるようだった。
もぬけの殻になってしまった街を見ながら思考の海に潜っていると二人の元へ一人の男性が向かってきた。
「失礼、如月悠さんに百地梨子さんですね?」
私たちがはいと返事をすると地元警察の制服姿の男性がどこか弱った様子でそこに立っていた。
「遠いところからわざわざ申し訳ありません。お二人のお噂はかねがね……」
悠が話を遮り前に出る。
「ああいえ、世辞はいいので本題に移りましょう。この町の惨状を見れば大体は分かります」
驚いた様子の男性だったがすぐに表情を戻し、一層声に重みを増し説明を続ける。
「今や住人の5分の1が意識不明となってしまいました。私も含め警察の面々もいつそうなってしまうか分からない状態というのが正直なところです。」
依頼に書いた通りこの問題の解決にあたっていただきたく……と続けようとした男性だったがそれを私は割って入らせてもらうことにした、なんせこっちの方が問題なのだから!
「――ねぇ」
そう私が水を差す。
「なんだい? どうしたんだ梨子、なにか発見でもあったのかい?」
寒空の下、こちらに向き直った悠が聞いてくる。
「――私、お腹が空いたわ!」
その場は、文字通り凍り付いた。
これが今回の物語の始まり、これから起こる悪夢のような出来事の前段階。序章ともいうべき地点に今、二人は降り立ったのである。