夢
視界は赤く 四肢は動かず 全身が酷く痛い。
燃え盛る炎と大破した車。
(とうさんとかあさんは・・・・)
「トッ・・・・ヒュッゴホッゲホゲホ」
父さんと、声を出そうとしたのだが痛む喉から漏れたのは空気の音と嗚咽だった。
でも、なんとなく分かっている。
一人でココにいる時点で両親はもう。
幼いながらにここで自分は死ぬのだと悟るには十分だった。
(しにたくない・・・しにたくないよ。いたいよ。くるしいよ。たすけてよ。とうさん、かあさん)
頭を埋め尽くすのは死への恐怖。そして絶望。
次第に視界に写る世界が歪む。
動かぬ手足では流れる涙を止められず、ただただ、泣いた。
歪む視界に何かを捕らえた。
もしかしたら人かもしれない。
『なんじゃ、童か。 死ぬのか?お主』
もう意識は朦朧としており、なにを話しかけられているかも理解は出来なかったが綺麗な声だった。
『わしのお膝元で死なれても気分が悪い、か。
どれ童。お主に生きる機会を与えるとしよう。
拒否権は存在しない。』
熱い、燃えるように熱い何かが口から流し込まれる。
『わしの話し相手になるのじゃ』
最後に視界に写ったのは大きく、そして美しい、獣の姿。
■
(酷く懐かしい夢を見た。)
端整な顔立ち。
すらっと伸びた手足。
そして、夕日のような赤い髪をした男。
街中で見かければ目立つであろう容貌だ。
だが、今彼に声をかけるものはいないだろう。
彼が寝ていたのは、路地だ。
路地で寝ているような人物、そうそう関わろうとするものではない。
皆、自分の身が大事である。
そして関わらない方が正しいのだ。
ガヤガヤとした喧騒を耳に、重たい瞼を開ける。
もう、朝。いや、これだけ人がいるということは昼近いのかもしれない。
随分と昔の夢をみた。
多分これはお母様から顔を見せにこいということだろう。
そういえば久しく顔を出してなかったからな。
そうと決まればお土産を持っていかねばどやされかねない。
もう数日まっていたかったが、こればかりは仕方がない。
身体についた土や誇りを軽く払うと男は路地裏を後にした。