回想 日常の崩壊
時期は夏休みが終わり新学期という気分も無くなってきた時期。学校は通常通り行うらしい。一部の親御からはクレームが起きているらしいが、こんな生活を続けても意味が無いとは思うので学校の判断は正しいとは思う。ただ学校に行っても千穂は居ない。
心にポッカリと穴が空いてしまっていて、ただ無機質な日々を過ごしていた。
休日。私は家におり、母親はバイトに出掛けてしまった。ただいつもの様に掃除、洗濯を行い母親の帰りを待っていた。
あれから数ヶ月経ったがスーパーに買物に行くのを私が事件に巻き込まれたら大変という理由で止められている。
だから私はいつもの様につまらないテレビを見ながら時間を潰していた途中、インターホンの音が鳴った。
「ピンポーン。」夏の事件を思い出し、警戒心が強くなるが無視するわけにもいかない。
インターホンを押した主を確認するために家の中にある連絡装置に向かって話をする。
「はい。」
「…っあ。その声は有紀ちゃん。私だよ。伊藤大将だよ。」
「あぁ伊藤さん。どうしました?」
「いや、近くによったから挨拶をしようと思ったのだけどきみ子さんは居ないかい?プリンも買って来たのだけど。」
「今は仕事に行っていて居ないです。」
「あぁ、仕事か…。残念だな。とりあえずプリンだけでも渡したいから受け取ってくれない?」私は彼のその言葉に何も疑問を抱かないまま扉を開けた。
扉を開けるといつもの様に笑顔でいる遠藤さんが小さい箱を持ちながらそこに居た。
「…どうも。」
「久しぶりと言っていいのかな。有紀ちゃん。元気ないと聞いたけれど大丈夫?」
「大丈夫ですよ。」
「…そう。じゃあこれお母さんと食べて。」そう言って渡された小さい箱を受け取ると遠藤さんは言いにくそうに数か月前と同じ様な発言をする。
「…あのさ。きみ子さん最近どう?」またその質問かと呆れたが、表情には出さず私は答える。
「最近は荒れる前みたく元の優しい母に戻っていますよ。」すこし棘のある発言だったかも知れないがそれを聞くと安心したように遠藤さんは答えた。
「そうか、良かった。こう元に戻ったのは私のおかげだね。」違和感のある言い方だと思っていると突然肩に手を掛けてきて言葉を続けた。
「じゃあさ、少し恩返しをしてもらわないとね。もし私が居なくなったりしたら君のお母さんは前以上に荒れるだろうしね。」そう言うと私の許可も得ずに家の中に入りこんできて扉の鍵を閉める。
「有紀ちゃんも頭が良いからさ、私が言いたい事解るよね?」そういう遠藤の表情は色情狂いを隠している顔であった。
「…最初からそれが目的だったんですか?」遠藤は先ほどの優しい表情など消え失せ、気味の悪い笑顔を浮かべながら答える。
「震えちゃってさ、大丈夫だよ。」言われてから初めて全身が震えている事に気が付いた。宥める様に話す遠藤はゆっくりと私の左手を掴んできたので逃げようと手を力いっぱい動かすが、掴んでいる腕に力を入れてから怒りながら話す。
「暴れるな。お前が私を拒んだら母親は前以上に荒れるのだぞ。」私はその発言を聞くと動けなくなってしまった。心の中で母親の荒れ様を思い出してしまったからである。
「そう、いい子だ。大丈夫、可愛がってあげるからさ。」遠藤は再びニタリと笑うと、靴を脱ぎ私と共に家の中に入っていく。
乱暴に腕を引っ張られながら歩いている私は、引きずられる様に遠藤の後ろをおぼつかない足で歩いている。
やがて遠藤は私の部屋の前で足を止めると扉を開き、布団に向かって私を放り出した。
尻餅をつく私を見降ろしながら満足げに遠藤は笑顔になると私に覆いかぶさってきて耳元で囁いてきた。
「大丈夫だよ。じっとしていれば後は私がやるからさ。」そう言われた途端、私は自分が次にやられることから逃げられないのが理解出来てしまった為に目から涙が溢れ出てきた。
腕で目元を抑えようとするが遠藤の腕が私の両腕を押さえつけますます笑顔になりながら頬を舐める。
「あぁ、いいよ。その涙を見る為に俺はあの女の為に下らない時間を使ったんだから。ほらもっと泣いて。いい声で泣いてくれて、興奮するなぁ。」そう言いながら達した様な表情を浮かべる遠藤は耳元に顔を再び近づけるとゆっくりと舌で舐めてきた。
耳に唾液がへばりつく感触に嫌悪感が生じる。仄かに熱を帯びて粘り気のある液体は私の耳の中にゆっくりと侵入してきた。
「ひっ!!」私が軽く悲鳴をあげても遠藤は耳をゆっくりと舐め続ける。舐められている耳の近くで唾液と肌が混じり合う音が響き渡ってくる。
「あぁ、いい。いいよ。本当に我慢したかいがあった。こんな子と出来るなんて…。」そう言いながら顔を火照らせる遠藤は恍惚とした表情を浮かべながら私の唇に顔を近づけ始めた。
ここで彼女の心の中で沸々と煮立っていた絶望感や失望感などの負の感情が限界を超え、殺意だけが心を支配した。
明確な殺意を持って遠藤の方を見ると、遠藤はその場で動きが止まり、風船のように体を浮かせ、天井に頭をぶつけると、頭のてっぺんから砕けるような音が聞こえ、段々と下がっていき足の根元まで鳴り響くと、体が割れた風船のように地面に落っこちてきた。
地面に当たった衝撃で石ころの様な骨が皮膚を突き破って所々から出てきた。
遠藤が死んだことでゆっくりと冷静になった私は、途端に過呼吸状態に陥り目の前に起きている出来事から目をそらしたくなった。
『私じゃない。私じゃない』と何度も頭の中で念じるがそれでも、呼吸は落ち着かず乱れるばかりである。




