回想 岬の場合 7
家に帰った後、先ほどの出来事は見間違いなのか記憶を辿ってみるが、やはり先程の光景は幻では無いと思う。千穂が倒れたのと何か関係があるのだろうか?考えてもわからない。
あの時は缶を蹴ったら地面に落ちずに空中で動きを止めたのだ。どこにもトリックの様なものは見当たらなかったし、宙で動きを止めた缶は触れた途端に地面に向かって落っこちた。
考えれば考える程疑問である。色々な出来事が起こりすぎている。お母さんはまともになるし、千穂は倒れるし、今日は空中で動きを止める缶。何がなんだかさっぱり、私の頭じゃあ処理出来ないことが多すぎる。
「…はぁ。」幸せが逃げるため息をしてしまったと感じながら視点を布団の方に移すと枕が空中で動きを止めていた。
「…。」あまりの事に絶句してしまった。ピンク色の枕カバーを被ったフカフカ枕さんが空中に浮いているのである。
先ほどの缶の様に細工はされていない。ただ空中で動きを止めているのである。辺りを見渡したりしてみるが監視カメラも何も無い…。どうやらテレビのドッキリとか言う類ではなく私の目の前で一日に二回も超常現象が起こったのである。
でもなぜ宙に浮いているのであろうか?どうせならフワフワと空中で雲のように浮いてくれれば良いのに。
そう考えているのが伝わったのか枕は突然私の顔面めがけて飛んできたのである。
「グゥフ。」乙女が出しては行けない様な声を出し、顔面に当たった枕は地面に向かって落ちていく。
枕投げの枕を食らった時みたいな痛みを顔面に感じながら、その場で考える。
もしかしてこれは…。私の脳内と何かが通信をしているのではないか?なぜその思考に至ったのか彼女本人もわかっていないが、物は試しと頭の中で念じ始める。
『枕さん。浮いて、この声が聞こえるなら浮いて。浮いて。』何度も念じている内に地面に落ちていた枕が私の顔元まで浮き、動きを止めた。
「本当に浮いちゃったよ。」驚いた私は再び念じ始める。
『千穂が倒れた原因を教えて下さい。』何度も念じるが枕は一向に動かずにいる。
『お願いです。教えて下さい。私の友達はなぜ意識を取り戻さないのですか?』再び念じるが何も起きない。何度も念じるが結局何も起きずに枕は空中に浮いている。
やがて私は諦め、浮いている枕を床に向かって叩きつけた。
視界は真っ暗で辺りには何もない。あまりにも暗いせいで自分の手元も足元も真っ暗で見えないので私はその場で静かに座っていた。
『岩。駅の前に出現した岩、そこに君の求める答えがある。』何かの声が聞こえる。
「あなたは誰ですか?」私の質問なんて無視をして声の主は話を続ける。
『お前の力で世界を変えろ。』その発言を聞くと視界が眩しい光で覆われて蝉の鳴き声が聞こえ始め、全身は粘り気のある汗が服に染み込み不快感を与える。
寝起きの眼は完全には開かず夢か現実かの見分けがつきにくい。だが、脳が稼働をし始めると自然と口が動いていた。
「…夢。」視界に映るいつもの光景。ゆっくりと立ち上がると視界に入った机の上を見ながら念じてみる。
『本、浮け。』念じている内に机の上に放置されている本はひとりでに動きを始め、ゆっくりと空中に浮かんだ。
「浮いた。」やっぱり私が考えた事は間違じゃ無かった。空中に浮いている1冊の本を見ながら再び動くように念じると、今度は空中で動きを止めていた本が羽の生えた様に八の字を描きながら飛び回り始めた。
なぜかはわからないけれど、超能力が使えるようになったらしい。混乱すると思っていたが事実から目を逸らしても何も始まらないのだから、この力をうまく使える様に練習を行うのと、誰にもこの力が使えることを知られないように生きていかなくてはいけない。
『戻れ。』軽く念じると今度はその場で力尽きたように床に落っこちた。
昨日は力を制御できていなかったのだろう。でも、なんで自分に超能力が身についた事がわかったのだろう?昨日はわけがわからなくて混乱していたのに目を覚ますと手を動かすのと同じ様に物体を浮かばす事が出来た…。
「岩…。」そこで私は目が覚める前に見た夢を何故か思い出した。
何故か頭の中に浮かんできた駅前で発生した岩の姿。
なぜかはわからないけれどそこに行けば何かがわかる気がする。
『先ほどの夢は答えを教えてくれたのだ。」なぜそう思ったのかはわからない。だがここまで確証があれば私はそこに向かうしかない。
朝ごはんを食べ、着替えを終えた私は、岩が出現した場所まで徒歩で向かうことにした。




