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弱者は誰かを呪いながら死に絶える  作者: 海原 川崎
岬 有紀を中心で発生する出来事
32/49

回想 岬の場合 3

同じ学年とは思わなかった。

安西あんざい 千穂ちほ 2年3組。趣味 謎。友好関係 謎。まぁ休日に美術室に来ている時点でさ…。私もだけど。


 家に帰るとやけに母親が明るく洗濯物を畳んでいた。きっと伊藤さんとの仲が回復したのだろう。嬉しいがなんと単純なのだろうか。鼻歌交じりに洗濯物を畳んでいるその光景は理由を知っていれば単純な人間が自分の都合のいいように生きている様にしか見えない。

 「あらぁ、お帰り岬ちゃん。」普段より一オクターブ高い声でしかも笑顔で私に【ちゃん】付けとは、あまりの変貌に呆れてしまった。

 「あぁ、うん。」私が戸惑いながら回答をすると、少し怒りながら注意をしてきた。

 「なによ、元気が無いじゃない!そんな態度じゃあ将来大変よ!」昨日まであんな生き方をしていた人間に人生とは何かを問われても説得力がない。

 「あ、うん。」

 「うんじゃなくて。後ご飯は出来ているからね。お風呂も沸かしてあるから。」畳んでいない衣服に向かって歩く母親の後ろ姿を見て不安を感じてしまう。

 また伊藤さんと喧嘩でもしたら前以上に荒れるだろう。そうなったら本当に私の人生は終わりを告げる。私は心の中で大きなため息を吐いた。

 

 食事前にお風呂に入る人と、食事後にお風呂に入る人がいるけれど一体どちらが多いのだろう。

私の場合は帰ってきてお風呂を沸かしてから夜ご飯を作り始め、お風呂に入ってから洗濯機を回し、待っている間に食事と後片付けをしてしまう。

 それが毎日続いていたのに今日はお風呂も湧いてある。意外と感動してしまうが、これが子供に何かをしてもらった親の気持ちなのだろうか?まぁ、私子供何だけど。

そんなくだらない考えも、湯船の熱いお湯が私から気持ちの悪い汗と一緒に流してくれる。

 湯船の中で私は考える。あの人の呆れるくらいの単純さと伊藤さんの事。安西千穂の事。なんだか今日は異常である。私の周りに変化が起こりすぎている。

 お風呂から出て、パジャマを着ると母親が先ほど言っていた通り本当に食事が用意されていて驚いてしまった。

 炊飯器の中には炊いてあるお米が入っており、テーブルの上には小皿が二つ。その両方に昔母が作ってくれた楕円形のハンバーグ。真ん中の大皿にはレタスときゅうりのサラダ。

 「あらあら上がったのね。」テーブルの上に乗っている料理に驚いた表情で見ていた私に母親は気が付くと茶碗にご飯をよそい始める。

 「さて、食べよう。ほら、あんたの好きなハンバーグだよ。」笑顔でそういう母はまだ三人で暮らしていた時の優しい母の表情だった。

 「…うん。」なんだか抵抗というか気恥ずかしさを感じてしまうが、こんな日はいつまで続くかはわからないのだから今日くらいは甘えてもいいじゃないか。

 「ほらほら、座って。」目の前にいる母は表情豊かで昔を思い出す。

 「…うん。」母親の支持に従って私は席に座ると二人で食事を始める。

 楕円形のハンバーグは母の手作り。当時私が苦手だったピーマンを物凄く細かく刻んで入れてある。

 ソースはケチャップとソース、焼いた時に出た油を混ぜた特製ソース。箸で一口サイズにして口の中に入れると懐かしい味が口の中で広がってくる。

 「ねぇ母さん。」ごく自然と母親の事を母さんと呼んでしまった。母は驚いた表情を一瞬だけ見せるとすぐ何事も無いかのように表情を戻し「何?」と聞いてきた。

 「明日も食べたい。」

 「うん、分かった。」

 なんだか今日は本当に不思議な日である。この後私達は久しぶりに会話をして二人で後片付けを行った。


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