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弱者は誰かを呪いながら死に絶える  作者: 海原 川崎
岬 有紀を中心で発生する出来事
31/49

回想 岬の場合 2

 昨日出会った名前もわからない少女は明日も来てね。なんてセリフを吐いて帰ってしまった。来ているとは思わないが私はどうせ家に居たくもないしいつもの様に美術室の鍵を借りるため職員室に行ったがもうすでに鍵は借りられていた。

不思議に思い美術室に行くと昨日の彼女が何やら外を見ていた。

  本当に来ていたとは…。

 「あら、今日は日曜日なのに誰かいるなんて珍しい。」私が皮肉交じりにセルフを言うと少女は緊張した表情で私の方を見ながら挨拶をしてきた。

 「おはようございます。」

 「おはよう。その感じだと絵を描きに来た様子でもないし、陶芸品を作りに来たわけでもないし、一体朝から何をしているのかしら?」再びわざと皮肉セリフ。

 「空を見ていたの。」

 「空?」空なんて何処からでも見られるでしょうに。やや呆れながら私は彼女の言葉を軽く聞きながら絵を描く準備を始める。

 「そう、この景色は今しか見られないからね。照り付ける光。仄かに白さを帯びた青い空。そしてこの学校特有の何か不思議な息苦しさ。私はそれを見ているの。」

 「ふぅん。息苦しさ…ね。」息苦しさ、それは私も感じている。でも学校ではなく家だけど。彼女の言葉を軽く受け流し、絵の具のついた大きなエプロンを身に付けた後自分の後ろ髪をひとまとめにしようとポケットから取り出したヘアゴムを口に軽くふくみ、両手で髪をまとめ始める。

 今日はなんだか真剣に絵が描きたい日なのである。美術室の引き出しから、スケッチブック。使用済みチューブ絵の具。保存状態の悪い筆。使い捨て紙パレット。引き出しから必要な物を出していき、絵を描き始めた。

 暫くの間絵を描くことに集中していたが近くから聞こえてきた間抜けな音によってその集中力も途切れた。

「ぐー。」名前も知らない彼女のお腹が空腹のサインを周囲に知らせたのだ。

「お腹空いているの?」

「う、うん。朝ごはん食べ忘れちゃって。」お腹の音に、集中力を削がれてしまった私は、筆を机の上に置いて席から立ちあがると、教室に設置されている水道を使って手を洗い始めた。手を洗い終えポケットから取り出したハンカチで手を拭くと鞄のジッパーを開けた。

「朝ごはんはきちんと食べないと駄目だよ。こんな暑いんだからただでさえ減った食欲がさらに無くなってしまうよ。」私は鞄から自分の昼ご飯であるカロリーメイトの箱を取りだし少女の方に軽く投げた。

「おっと。」私が投げたカロリーメイトフルーツ味の箱をジロジロと眺めている彼女に対して私は行った。

「食べなさい。それでお腹はある程度膨らむでしょ。」なんだか私は世話焼きおばあさんの様な気がしてきた。

「でも、これってあなたのお昼ご飯じゃ?」私を心配するように聞いてくるがもう一つお昼ごはんはあるのである。

「大丈夫、私にはこれがあるから。」私は鞄から袋を出し彼女に見せた。

【お得ゼリー、色々なフルーツの味があるよ!!】透明な袋には安っぽい文字がでかでかと書いており、中には一口サイズの色々な色をしたゼリーが入っている。

「朝から冷凍保存しておいたゼリーが夏の暑さでちょうどよいヒンヤリ加減になっているよ。」

ゼリーを見せたことで納得したのか、私の親切に素直に従ってカロリーメイトの箱を開け中に入っているビニールを破き、中に入っているUSBメモリほどの大きさをしたビスケットを手に取った。

「ありがとう。行為に甘えていただきます。」

「ぎゅるるる。」彼女のお腹はカロリーメイトを口に運ぶ前に更に大きな音を発して思わず私は笑ってしまった。

「ふふっ。よほどお腹が空いていたんだね。どうぞ、食べなさい。」彼女は羞恥心で顔を真赤にしながら軽くお辞儀を私にしてからカロリーメイトを口の中に含んだ。

味を確かめる様にゆっくりと食べているので思わず聞いてしまった。

「味はどう?」

「カロリーメイトの味。」

「なにそれ。」あまりにひねりも無い感想に私は少し呆れてしまい、その後に自然と笑みが漏れてしまった。

暫くの間同学年の人とお話をすることが無かったから、この出来語に私は内心新鮮さともに照れくささを感じた。

この日は彼女と会話をしていたら空は夕暮れになっていた。


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