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弱者は誰かを呪いながら死に絶える  作者: 海原 川崎
物語の進行とそれにより発生した変化
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遠藤徹の視点2 (5)

「遠藤様、大丈夫ですか?」金縛りにあったように動けずにいた徹を動かしたのは右肩を叩いた白の手だった。憑き物が落ちたように全身を動かせるようにはなったがその場から動こうとは思わなかった。

「遠藤様?」動かない徹に対して違和感を覚えた白の口調に少し不安げな声色になった。

「なぁ、お前が撃ったのか?」その場から動かない徹は死体を指さしながら後ろにいる白に問いかける。

「はい。」

「僕にはあのお嬢様の考えが解らないよ。正義の為とか言っていたけれど結局やったことは人殺しじゃないか。」徹の喉から必死に出した声に対して白はいつもの声色に戻り話を始めた。

「お言葉ですが、綺麗ごとでは世界は変わりません。たとえ罪人であろうと人なのだから人殺しはいけないなんて言うのは、今まで何かに守られて生きていた人間の偽善です。あなたがどんなことを思おうと私は最善の選択をしたと思っています。」そう言い放つと白は徹から離れ死体となった由紀夫のそばに近寄ると持っていた寝袋の様な物を広げ、その中に死体を入れた。

由紀夫は誰の目に触れること無く肉体すら消えてしまった。

その日から徹は動かなくなりただ空を見ることが多くなった。

千里の発言を半信半疑で受け止めていたのか、自分の力を信じたくなかったのか、多分両方の理由だろう。

普通こんな状況になったらこの家から出て行く羽目になるのだろうが、今の徹にとってはそんな事もどうでも良かった。

だが徹は放置されて居た。千里にとって人間一人の一生を背負うことなど楽なことであったしいずれ彼の精神状態も安定することを知っていたからだ。

日々は淡々と過ぎていく。由紀夫は行方不明。徹の母親は死亡が確認された。父親は息子を置いて何処かに引っ越した。

事件の真相は解らぬまま、操られていた人々も数日後に意識が戻った。

徹が動かなくても時は進んでいく。長かった夏も終わりを告げたが、まだ蒸し暑さは続いている。

「遠藤様。」いつもの様に反応は返ってこない。扉を開くと開いた窓から青空を見つめている徹が生気のない人形の様に椅子の背もたれに寄りかかっている。

「お嬢様がお呼びです。」白の言葉に一瞬反応しこちらを一瞥したがすぐに視線を外に戻してしまった。

「なんでお前は普通でいられるんだ?自分の手で人を殺したんだぞ。なんか無いのかよ?罪悪感とかよ?」静かな怒りが彼の話し方から判断できるが白はいつもの様に淡々と話しを続ける。

「あの時も言いましたがあの場でやらなければあなたも犠牲者の一人になっていたでしょう。私は自分とお嬢様、それに遠藤様の安全を最優先にして行動を起こしたので罪悪感等ありません。あなたは気にしないでいいのですよ。私が殺したのですから。」白の言葉を聞くと徹は動きを止め気の狂った様に笑い出した。

ケラケラと響き渡る笑い声を聞いて白は驚き目を丸くしているとフッと笑い声は止みこちらを見ると、徹は憑き物が落ちたようなすっきりとした表情で白の方を向いた。

「ありがとう。やっと決心がついたよ。」ここ連日の抜け殻の様な表情がなぜか解らないが周囲の生気を奪い取ったように顔から感情が滲み出るようになっていた。

「では行こうか。」徹は不気味なほど爽やかな笑顔で数日ぶりに部屋からでた。


「あら、回復したのね。」いつもの様に紅茶を飲んでいる千里は妙に爽やかな徹を見ながら言った。

「ああ、覚悟は出来た。受け入れた。今の自分の状況も母親が死んだのも全て受け入れたよ。俺に拒否権はない。拒否をしたらお前が全力で人生を潰しにかかってくる。」彼の言ってきた確認事項に千里はパチパチと拍手をしながら満足気に答える。

「その通りですわ。」

「ならやるしかないだろ。それで俺が止める。こんな力は無い方がいいんだ。悪人を潰す。善人は助ける。それぐらいしか俺の生きる道はないからな。」熱が入ってきた演説に対して乗るように千里は相槌を打つ

「まぁ、なんて良い心掛けでしょう。でもいきなりそんな素直になるなんて何か理由があるのではないかしら?」千里の質問に対し徹はしばらくの間考えると答えた。

「あれから考えていたんだ。あいつが壊れてしまった理由。母さんが死んだ理由。そして俺の人生について、全部この力のせいで壊されてしまったんだ。だから俺はこの力を悪用しようとしている人間を殺す。」

「…そうですか、その選択は正しいかはともかく自分で考えて選択をするというのは案外むずかしい事ですからね。そこに関しては立派だと思います。」そう言うと千里は笑顔を向けながら「ただ…。」と言葉を続けた。

「数日間の貴重な期間を無駄にしたのは駄目ですね。感傷に浸るのは自由ですがここは私の家であり、あなたの世話をしているのは私です。私の機嫌をとらないで図々しくこの家で金も出さず暮らすのは虫のいい話だと思いますよ。」

「俺が今日話に来るのはわかっていたんだろ?だからこの期間俺を放置して回復するのを待っていた。そして回復したら俺を駒の一つとして利用する。利用されるならこちらも利用する。そうだろ?」徹の言葉に対し千里は作り笑顔で返答する。

「そうですね。だからその日の為に特訓してください。」これで暫くの間は協定が成立した。多分いつかは裏切られる。でも、それは今ではないし、逆らっても無駄なのだ。逃げ道なんて無い。俺は多分この女に殺される。

だから俺がこいつを殺してやる。

二人は互いの考えを理解してわざとらしく笑った。 

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