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弱者は誰かを呪いながら死に絶える  作者: 海原 川崎
物語の進行とそれにより発生した変化
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遠藤徹の視点2 (4)

そんな事を考えていると由紀夫は地団駄を踏んで、不機嫌さを全身で表現しながら大声で質問をしてきた。

「なんで泣いてないの?君の母さんでしょ?悲しみとか人間が持っている感情は君には無いの?育ててくれた母親が死んだっていうのにさ、お前は本当に人間か?人間か?」由紀夫は再び裏声で母親を演じながら話を始める。

「由紀夫ちゃん。あいつは人間ではないわ。人間の皮を被った悪魔よ。そんな悪魔は殺してしまうしか無いわ。ねぇ由紀夫。殺しましょう。殺すしか無いわ。殺しましょう?」何度見ても不格好な人形劇である。だが、由紀夫は真剣そのもので一人二役をしているし、本当に母親が居るとでも思っているのであろう。

「母さん、そうだよね。僕も同じ事を考えていたよ。こんな感情もない人間は生きている価値は無いってさ、さて君達に命令だ。」由紀夫はここで言葉を止め演奏の指揮官の様に両手を挙げると彼の行動を遮る形でインターホンから千里の声が聞こえてきた。

『ねぇ、質問してもよろしいかしら?』

「あ?今良い所なんだけど。」僕の裏に玄関の呼び出しベルから千里の声が聞こえてくるが途中で言葉を止められた不満を表情に出す。

『あなたさっきから誰に話しかけているのかしら?』

「見ればわかるだろ?母さんだよ。」

『あなたの両親ってこと?』

「そうだよ。そんな事は普通に考えてわかるだろ?」千里の発言に疑問を覚え、母のいる方を思わずじっとみるが、由紀夫の目には彼に賛同してくれる優しい母が見えていた。

だがそんな由紀夫に構わず千里は話を続ける。

『でも、あなたの両親は数日前に死んでいるわ。しかも、あなたの前で両親共に自殺?悪趣味な死に方ですね。自らの手で上顎と下顎を開く方向に力を入れて死亡ですか…。』千里の発言に彼の眼は大きく見開かれるが、それもすぐに元に戻り母親の居る方を指差しながら反論をした。

「何を言っているんだ?母さんならここにいるじゃないか。」だが、指を指す方向を彼以外の人間が見ても何もない様にしか見えない。

 だが、由紀夫の記憶に覚えの無い出来事が映像として流れ込んでくる。

暴力を振るう父、それを止める母。そして目の前で死んだ両親。今の彼にとっては知らない記憶なのだが、千里の発言によって頭の中で封印されていた記憶が蘇ってきた。

記憶が蘇ったことにより、死んだ母がこの世界に居ることに矛盾が生じている事に気がついてしまった由紀夫は母親を形成することができなくなってしまい、視界に写っていた母親はぼやけたレンズの様に見難くなり、やがて消えてしまった。

「…あれ、母さん?どこに行ったの?さっきまでここに居たんだよ。本当だよ。母さん。何処?何処だよ。なんだこれ?可笑しいぞ!生きているはずの母さんが死んでいるぞ?可笑しいな。おかしいぞ?」周囲を探すが母親は見当たらない。 由紀夫は頭を無我夢中で掻きながら独り言を念仏の様にブツブツと呟き始めた。

「母さんは生きてない。僕が殺した、僕が?違う。あいつが、父さんがいけないんだ。僕を殴ってきたから仕方なかったんだ。あんなことになるなんて誰が思ったんだ。そう、僕は悪くない。悪くないんだ。」僕は悪くないという言葉を何度も呟き始めた由紀夫は頭を掻きむしりながら立ち上がり、おぼつかない足でフラフラと歩き始め楯となっていた人から離れると銃声が響き、その場で息絶えた。

『ご苦労様白。』徹が棒立ちをしていた人々が倒れているのに気が付いたのは、耳元の通信機から千里の声が聞こえ顔をようやく前に向けてからだった。

倒れた人々の中に血を円状に広げて倒れている死体がある。

その場から離れるのが最優先事項だろう。そう思ったが、徹は金縛りにあったようにその場から動けずにいた。


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