表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
弱者は誰かを呪いながら死に絶える  作者: 海原 川崎
物語の進行とそれにより発生した変化
26/49

遠藤徹の視点2 (3)

扉を開きゆっくりと歩くと前方から声が聞こえる。

「やっと来たか遠藤徹。全くさ、さっさと出せって話だと思わない?別にこの家には興味なんて無いんだから。」僕は下を向きながら歩いているので前に誰がいるのかは分からないが、この声は間違いなく先ほどの声の主だ。

こいつの視界さえ消してしまえば殺さなくて済むんだ。

そう済むんだ。罪悪感なんてこいつがどんな生き方をしているのか知っていたら湧かないだろ?いつも 金魚のフンみたいに井上にベットリとへばり付いて生きていやがった人間だ。

自分に言い聞かせるように念じるが彼を傷つける覚悟が出来ない。

そもそも自分の盾だった金魚が死んでから活き活きとしだすなんて何があったのだろうかと僕は疑問に思った。

「なぁ、こっちを見ろよ?母さんからも言ってよ。僕の友だちが僕を見てくれないんだ。」由紀夫は大声で話を始めると突然口調が女性の様に変わり、まるで一人二役をやっているように話をした。

「あら可哀想な由紀夫。なぜ彼は前を向かないのかしら?礼儀って物を親から学ばなかったの?でもあんな親じゃあしょうがないわね。井上君を殺した挙句に自分は家に閉じこもって息子の事なんて気にもせずにいたんだからね。」先ほどの発言から察するに、無理に出している甲高い声で演じているのは母親なのだろうか?徹の疑問など置いていきぼりのまま由紀夫は話を続ける。

「そうだね。あの野郎家に入ったら挨拶もしないで人を殺そうとしてさ、ムカついたから殺したけどさ。…あぁ、安心してよ。僕がここに来たのは井上の殺害の犯人を探しに来たわけでは無いよ。犯人から全て聞いたしさ。いや、びっくりびっくり。犯人が君のお母さんだってねぇ。知らなかったならごめんよ。でも本人から聞いたから事実だと思うよ。ほら、元気を出してさ、別に君を殺すとかそういう理由で来ては居ないからさ。」

「そうよ、由紀夫。コミュニケーションは大事よ。きちんと理由を言わないと思いは伝わらないわ。」再び一人二役を始める

「そうだね母さん。遠藤徹君。君に会いに来たのにはきちんとした理由があるんだよ。君のお母さんから行方不明になっているって聞いてね、どうせやることも無いし遠藤徹君を探そうって話になったんだよね。」

「そうね。…ねぇ、遠藤君の為に持ってきた物があるでしょ?それを渡しなさい。」

「そうだ、そうだ。ほら、君の母さんだよ。」母親の話が終わると思い出したようにポケットを漁り僕の足元に何かを投げてきた。

10円玉ほどの大きさをしたそれは、一瞥しただけで何なのかは理解することが出来たが理解を頭が拒否をした。

爪を覆うように付いている薄い皮膚は長年手入れがなされていないせいでヒビ割れを起こしており、皮膚そのものも艶も無い人間の指が僕の足元に転がってきた。カッターで切った様な切り痕が切断面の近くにいくつも付いており、途中で無理やり引きちぎったのか、ベラベラの皮膚が魚の尾ひれの様に引っ付いている。

「ほら、母さん。感動で声が出ないのかな?良かった、良かった。わかると思うけどそれ君のお母さんの指だから大事にしてあげてね。何か君に渡したいと思ったんだ。だってそうじゃないと悲しいでしょ?形ある物で母さんを思い出すことが出来るでしょ?あなたの母さんは罪を背負っていたからね、僕が開放してあげたよ。」怒りと悲しみで全身を震わせている徹など気にもせずに由紀夫は一人芝居を続ける。

「素晴らしいわ、由紀夫。やっぱり由紀夫は自慢の子よ。それに比べてあの子はお礼も言わないでただ下を見るだけ。全く親が殺人犯だから仕方ないのかもしれないけれどそんなことじゃあ人生途中で失敗するわよ。」由紀夫がふざけた演技を続ける中、僕の中の怒りは沸点を超えて殺意に変わっていた。

先ほどまで彼の視力を奪う事に抵抗はあったけれどこいつは殺す、絶対に殺す。目だけじゃない。全身を焼いてやるよ。

『どうせあなたのことだから今の挑発で腸が煮えくりかえってしまっているのでしょ。でも挑発に乗っかって前方に火を放つとあら不思議。糞ガキの盾になっている一般市民にあなたの攻撃が当たってしまうわ。前方というより前方、後方、左右に盾となる人がいるから全方向と言うべきかしらね。』先ほど左の耳に装着された耳栓の様な通信機から千里の声が聞こえてきた。

「まぁ母さん落ち着いて。感動で涙が止まらないんだよ。ほら、男は涙を見せないなんて言葉があるでしょ?自分の両親に久しぶりに会えて感動しているんだよ。そんな感動場面を邪魔しちゃ駄目だよ。」由紀夫の話と同時に左からあの演技臭い千里の落ち着いた声が聞こえてくる。

『まぁ、殺してしまっても証拠はこちらで消し去ることが出来るから力に自信があるならやってしまってもいいと思うわよ。でも心が保たないでしょ?』きっと監視カメラから僕の状況を覗いているのだろう。

「まぁ、なんていい子!!そうね。感動の場面を邪魔しちゃ駄目よね。しばらく静かにしていましょう。」

『多分あなたが前方を見ないことに違和感を覚えているのね。もしかしたらこちらが能力を知っているのに気がついているのかしら。でも目さえ見なければただの調子に乗っている人間よ。さて、敵が待ってくれている間に何か考えないといけないわね。』声は聞こえなくなり周囲の人間も由紀夫も喋らなくなった。

 彼女の言葉で少し冷静になった徹は、自分の母を殺された怒りを全力で抑えて、あの男の視界を封じる方法を考え始めた。

そもそも千里はバーナーの様に大量の炎を腕から出すことが出来るという前提で話を進めているが僕にそんな事は出来ないし、せいぜい出来ることといえば指からライターから出る微弱な火を指の先端から出すことである。

指を彼の目元まで近づけて焼く、だがそうすると片目が余る。両手で目をえぐり取る?その方法が一番理想的だ。だが、眼球に指を突っ込んだときの感触を僕は耐えることが出来るのか?道徳心、罪悪感、そんなものは炎で焼こうが変わらないのかもしれないが。

悩んでいると左耳から千里の声が聞こえ始めた。

『作戦を伝えますわ。白がそこの愚弄をバーンと狙撃をするのでどうにか動きを止めておいてください。以上。』そんな曖昧な作戦じゃあ何もわからないしこちらにしても何も出来ないではないか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ