遠藤徹の視点2 (2)
「…ジッ、遠藤徹!!遠藤徹をこちらに引き渡せ。お前達に拒否権はない!!」拡声器を使っているのかノイズの走る様な音が聞こえた後に徹と同じ年代だと思われる少年の声が聞こえた。
「あら、こちらの準備が整う前に襲撃なんて野蛮ですわね。」
「そうですねお嬢様。」紅茶をゆっくりと飲むと千里は白い命令をした。
「白、先ほどの野蛮な声が聞こえた辺りの監視カメラの映像を用意できる?」
「はい。」白はポケットから取り出したリモコンのボタンを押すと横の壁が回転をし、中からコンピューターが現れた。
「少々お待ちください。」白が命令に従ってコンピューターを操作していると千里は徹の方を向き質問をした。
「…徹、今の声聞き覚えがありますか?」
「…は?」突然の質問に対して意表を突かれた僕は、思わず気の抜けた声で返事をしてしまった。
「なに阿呆面しているの。今の野蛮な声に聞き覚えがあるかしら?と聞いたの。私の聞いた限り、あの声はあなたと同じくらいの年齢だと思うのだけれど、学校にいた生徒であんな声の子がいたかしら?」僕の返事に呆れながら、再び質問をした千里の期待に一応答えようと、先ほどの声に聞き覚えがあるかを考えるが、どこかで聞いた声の様な気もするが思い出せずに居た。
「わからない。」
「わからない?」僕の返答に対して信じられないものを見るような目で返答してきた。
「あぁ、聞き覚えはある気がするのだけれど誰だかはわからない。」僕が言うと千里は、答えにガッカリした表情をして「そうですか。」と呟いた。
「お嬢様。後ろを見てください。」白の言葉に従い千里は後ろを見ると上から垂れ下がってきた巨大スクリーンにこの家の周辺の画像が数枚映る。全ての画像にこの家の方角を向きながら棒立ちをしている人間が数名写り込んでおり、その画像の一枚の中に拡声器を口元に近づけている人物がいた。
「白、この映像を拡大。」千里の言葉に従いパソコンを操作するとスクリーンには拡声器を持っている人物が映っている画像だけになった。画像には拡声器を持っている少年を囲うように棒立ちをしている人間が複数写り込んでいる。
「更に拡大。」千里の声と共に拡声器を持っている少年の顔が拡大されていく。
「…ビンゴですわ。徹はこの顔に見覚えはあります?」拡大された顔を確認した僕は驚いていた。
…この顔は忘れるはずが無いだろう。
「こいつは大塚由紀夫。井上の近くによく居た金魚のフンだ。」この阿呆面。顔を見間違えるはずがない。大塚だ。あの井上の後ろでネチネチと攻撃をしてきた卑怯者。
だが、僕の知っている大塚はもう少しまともな目をしていたし、全身にももう少し全身に肉が付いていたはずである。
だが画像に写り込んでいる男の頬は痩せこけ、目の下は隈が出来ている。
「その、大塚様?あなたの口調から察するにその御方に嫌悪感を抱いているようですね。」相当嫌な表情をしていたのであろう。僕の心中を確かめるように千里は質問をしてきたが、一言「別に。」とだけ言うと再び外から拡声器のノイズ音が聞こえてきた。
「…ブゥン。反応無しとはいい度胸だ。だが優しいから後十分待ってやる。それでも反応が無いのなら我が軍隊が貴様らに牙を剥くだろう。」大声がこちらにまで響いてくるがそんなものは関係ないと思っているのか未だに千里は落ち着いている。
「あら、野蛮ですわね。」
「そうですね。」
「恐ろしいですわね。」
「そうですね。」白と茶番の様な会話を繰り広げた後に僕に命令をしてきた。
「では徹に命令。あの野蛮な猿を殺してきてください。」突然この女は意味不明な事を言ってきた。
「何を言っているんだ?」思わず疑問をぶつけた僕に対して、再び可笑しい物を見るような目でゆっくりと説明を始めた。
「彼も能力者ですよ。能力は私の能力とこの映像から判断するに目を合わせた相手に対して命令出来る能力と予想してみます。」やっぱり質問に対しての答えがぶっ飛んでいる。
「いや、だから何を言っているんだ。」思わずもう一度言うが物覚えの悪い子供に対応する大人の様に千里は再び説明を始める。
「だからあの御方を殺して来いと言っているんです。殺戮趣味があるなら他の人達も殺してもいいですけど私は個人的に好みませんわ。」
「俺は人殺しなんてしない。」彼女の変わらない命令に再び反論をすると、また呆れた表情を僕に向けてきた。
「あら、あの御方はもう人では無いのですよ。私とあなたと同じ人の皮を被った化物なのですから。人間を殺さないなら化物は別でしょ?」
「…化物。」僕が彼女の言葉につられて呟くと今度はやけに演技臭く演説を始めた。
「えぇ、私もあなたも外にいる人も化物ですわ。人に似た皮を被った化物よ。だから人間にはカウントされない。これならあなたも出来るでしょ?」無茶苦茶な理論だ。そんな自己中心的な思考に対して僕が同意すると思っているのか。
だが、自分の発言は何一つ間違えていないという確信しているのか真っ直ぐに向けてくる瞳を見て同意とは別の脅迫されているような恐怖心が全身に襲いかかってきた。
「お前は自分の考えが正しいと思っているのか?」予め決められていた事の様に聞いてしまったが、返ってくる答えなんて大体予想がつくので心の中で後悔した。
「ええ。付け足すと悪人に人権なんて必要ないと思いますわ。あの外で喚いている男は家族の為に仕事をしている人や学校で勉学に励んでいる者達を操って貴重な時間を奪っているのよ。そんな奴は生きている資格など存在しないではありませんか?」正論なのかは分からないが、僕は呆れてしまったので黙っていると、彼女の発言に戸惑っていると勘違いしたのか提案を変えてきた。
「わかりましたわ。提案を変えましょう。私の一つの予知では眼と眼を合わせた途端に意識が途切れているので、彼は視線を合わせたら力を発揮するタイプということが予想出来ますわ。そんなに殺したく無いと言うのなら目を焼いてきなさい。」確信した。この女は可笑しい。人として大事な感情が欠けている。人を殺すことに戸惑いが無い。他人を思いやる気持ちが普通の人と比べてズレがある。駄目だ。早くこの女から逃げよう。
「後、もし逃げたり裏切ったりしたらあなたがどんな力を使おうが私の全財産を使っても殺しに行きますからね。」そんな心の中を予想していたのかは分からないが千里は作り笑顔をこちらに向けて棘のある言葉を放ってきた。
とりあえず僕に拒否権が有ると考えたのが間違いだったようだ。




