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大塚由紀夫の視点 5

 目の前にあるチャイムを押すと中から憔悴しきった女性が扉から顔を出してきた。

 「どうも久しぶりです。井上さん。」笑顔でいる僕の顔を見ると、家の中から出てきた井上の母は驚いた表情を強張らせてその場で固まる。

 「…あなた、病院にいるはずじゃあ。」驚きで僕の顔を数秒じっと見ると信じられないものを見ている顔をしながら彼女は僕に質問をした。

 「ええ、病院にいましたよ。いましたけれど井上を殺した犯人が気になっちゃって出てきちゃいました。」呆然としている井上の母とは対照的に由紀夫はいたずらを自慢する子供のように終始笑顔で話をしている。

 「それでですね。情報を集めるために今こうしてこの家に来たんですけど…。」由紀夫はゆっくりと目の前にいる井上の母の目を見て命令をした。

 「調査しても大丈夫ですか?」由紀夫の言葉に対して何も疑問を感じない井上の母は、顔のみを出していた扉を全開にして家の中に案内をする。

 「どうぞ、お調べください。」命令をされた井上の母は先ほどの怯えたような表情が消え、人形のように無表情のまま家の中に入っていく。

 「僕が井上の部屋でも調べている間に何かお菓子でも用意しておいてくださいね。あなたにも知っていることは話してもらいますから。」

「…はい。」井上の母からの了承を聞くと、由紀夫は陽気に鼻歌を歌いながら井上の部屋の扉を開けた。

 「前に来た時と同じ。」床に転がっている漫画、テレビゲーム、センスの欠片もないグラビアアイドルのポスター。ろくに使用されていない勉強机。部屋の住人が死亡している事以外は変化していない部屋を見ながら由紀夫は呟くと、部屋の中を調べ始める。

 一時間ほど部屋の中を調べてもわかった事は何もない。机の中にも、引き出しの中にもどこにも手がかりになるものは無く、ただ時間を無駄にしたという後悔の念が由紀夫の中で少し湧いてきただけだった。

 「ないね。」

 「そうね。」由紀夫の言葉に空想の母が答える。

 「やっぱりないか。」

 「やっぱり?一体どういう事、由紀夫?」由紀夫の言葉に疑問を感じた母は質問をした。

 「多分あいつが殺されたのって計画的な殺人とかではないと思うんだ。だってあいつ、遠藤の奴を捕まえたから学校近くの森に来いって死ぬ直前にメールをしてきたんだ。それで遠藤が行方不明…。遠藤が井上を突発的に殺してどこかに逃げたと考えるのが普通だと思うよ。」由紀夫のしょうもない1人推理劇を聞いた母は感動した用に涙を流した。

 「流石私の子。そんな推理もできるなんて素晴らしいわ。でもなんでそこまで予想がついていたのにこの家に来たの?」

 「そんなの暇つぶしだからね。自由気ままにゆっくりと、あえて遠回りをしているんだよ。母さん。」母の質問に答えながら由紀夫は井上の部屋を出ていき井上の母がいるリビングに向かう。


 「ねぇ、井上の母さん。あなたの死んだ息子について聞きたいんだけどさ。あなたから見て井上はどういう奴だった?」リビングのテーブルの上に置いてあるスーパーで売っている安物クッキーを食べながら、どうでもよさそうに聞くと、井上の母は無表情のまま語り始める。

 「とってもいい子でした。家事を手伝ってくれたりとか、学校での出来事を話してくれたりとか、でも最近反抗期に入ったみたいで時々なんの脈絡もなく機嫌が悪くなったりしていました。」淡々と表情を変えないまま語っている井上の母が話しているのが不快と感じたのか、由紀夫は突然口を挟んだ。

 「ストップ、淡々と話されてもなー。何も楽しくないよ。テレビみたいにさ、感情を込めて話をしてよ。阿呆みたいに泣いてさ、同情心をわざと誘うような素振りを見せてよ。」由紀夫が命令をすると無表情で話をしていた井上の母は嗚咽しながら話をする。

 「…それでも、暴力を振るうとかそんな事は無かったんです。なのに、なのにあの子が…。」井上の母は命令通りに由紀夫の言葉の後、両手で顔を隠し泣き始めた。

 だが由紀夫にはその光景があまりにもしょうもなく見えたのか彼女の話を遮り命令を再び行った。

 「奥さん。そこで泣いては話が聞こえないじゃないですか。ほら、笑って笑って。じゃあ質問を変更。井上を恨んでいた人とか誰か思い浮かぶ?」由紀夫の質問に対して井上の母は涙を流しながら笑顔で話を始めた。

 「はい。私のいる限りではいませんね。だってあの子はいい子ですもの。そんな子を恨む人なんていないですよ。」目からは涙を零しているがその声色は陽気でいて表情は幸せそうな顔をしながら話をしている為、不気味さが際立っている。

 「そっか、そっか。使えないな。この家にはもう情報なんてなさそうだな。じゃあ僕は帰るからさ、あなたの夫が帰ってきたら殺した後に自殺をしてね。」証言に飽きたのか井上の母の瞳を見ながら命令をした由紀夫は、テーブルの上に置いてあるビスケットを全て平らげゴミを放り投げると家から出て行った。

 「はい。わかりました。」由紀夫の消えた家の中で井上の母は返事をすると、魔法が解かれたみたいに何事も無かった様に掃除の続きを始めた。

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