遠藤徹の視点 6
目を覚ますと先ほどの真っ白な天井とは変わって映画の金持ちが使っているようなシャンデリアがぶら下がっていた。
「ね、目覚めたでしょう?白。」
「流石ですお嬢様。」近くから女性の高い声が聞こえた。頭はきちんと回転しない。寝起きの状態と同じだ。僕は何か違和感を覚えながら先ほど何があったのかを思い出そうとする。
「目を覚ましたなら私の方を見なさい遠藤徹さん。」女性の声のする方を見ると木製のデスクの奥に座っている僕と同じぐらいの年齢の少女とスーツ姿の20代前半位の女性が僕の方を見ている。
「おはようございますと言うべきかしらね。」座っている女性が僕の方を見ながら何が楽しいのか愉快そうな顔で話しかけてきた。
「あなた達は…。誰です?ここはどこですか?」まだきちんと回らない頭で僕は質問をすると女性は僕の質問に対して笑顔で答える。
「酷いですわね白。私のことも覚えていないなんて…。泣いてしまいますわ。ねぇ白?」やけに演技かかった言い方をしながら隣にいる女性に同意を求めている。
「そうですねお嬢様。」白と呼ばれているスーツ姿の女性は無表情のまま、隣の女性の言葉に同意した。
回復してきた僕の頭の記憶の中からスーツ姿の女性に似ている人が浮かび上がってくる。
病院で僕をあの部屋まで連れて行った女性…。
それにこの少女はヘルメットのようなものを渡してきた医者。そう、確か僕は病院で診察を受ける際そこにいる女性と話をした。
「思い出したような顔をしていますわよ白。」
「そうですねお嬢様。」二人の女性がいうように思いだした。僕は病院にいたはず。でもここはさっきいた病院とは全く見た目が違う場所だ。一体どこだ?
「困惑していますわ白。」
「困惑していますねお嬢様。」相変わらず座っている女性は何が面白いのかはわからないが愉快そうな顔で僕を見ている。悪趣味だな。人が混乱している姿を見て笑っているなんて。
「そんな簡単に気持ちを表情に出すと将来大変ですわよ、遠藤徹さん。」椅子に座っていえる女性は先ほどと同じく表情を変えぬまま話を始めた。
「あなたは自分の今いる場所と私達が何者かを知りたいような質問をしていましたね。」普通の人間ならそのような疑問が湧くに決まっている。
「では答えましょう。白!!」椅子に座っている女性が白と呼ばれている女性に言うと隣から乾いた拍手が聞こえてきた。
「私の名前は!!」女性は大声で言うと隣の女性が拍手を止め話し始める。
「二重神家一族、二重神 千里様でございます。」白は無表情のまま紹介を終えると一人で拍手を始める。
「二重神家ってあの?」二重神家って確か…。有名な一族じゃなかったか?この町の土地のほとんどは二重神家の物だって聞いた事があるぞ。貴族の中の貴族。人の上に立つ人。
「そうですわ、私二重神家一族の次女二重神千里を申します。以後お見知りおきを…。」女性は私に軽くお辞儀をしてきたので僕も思わずお辞儀をして自己紹介をしてしまった。
「僕は遠藤徹と言います。」二重神千里の方を見ると満足そうな表情をしている。
「うん、うん。挨拶は基本ですからね。完璧ですわね。ではあなたが疑問に思っている事に答えるとしましょうか。」二重神千里は自分の右手を僕の方に向け三つの指をつきだしている。
「一つ、あなたがここに連れて来た理由。二つ、駅前に生えた石板。三つ、事件の犯人。私達はこの三つの質問に答えることが出来ます。全てを教えるつもりですがどれから聞きたいですか?」二重神千里は何が楽しいのか鼻歌を歌いながら僕に聞いてきた。
石板と言うのはあの朧駅前に突然生えたという巨大な岩の事だよな?あれが出てきてから僕の肉体の内側が何か変化をするような痛みに襲われた。病院に行っても問題なしと言われ家でずっと吐き気と痛みに耐えながらいた原因を知っているという事か?
僕が考えるように黙っていると二重神千里は僕が質問しない事に対して飽きたとでも言うように話をしてきた。
「決まりましたか?ねー、早く決めましょうよ。全部教えるのだから順番なんてあまり関係ないでしょう?もう、そんなに優柔不断だと女の子に嫌われますわよ。」
「お嬢様。少々言動が悪いですよ。」
「だって、なかなか話を進められないのですもの。」
「突然こんな所に呼ばれたのだから言動一つ一つに気を使うのも無理はありません。むしろお嬢様の発言が少々ずれているのですよ。」白と呼ばれる女性に注意を受けるとふてくされたように頬を膨らました。
「…解りましたわよ。質問ではなくこちらから情報を提供しましょう。噂で聞く情報のバーゲンセールと言う奴ですわ。」二重神千里は付きだしていた指を二つ曲げ、人差し指だけを伸ばしている状態にした。
「一つ、多分何日間かはわからないのですが体に痛みがあったでしょう?うんうん、答えなくて結構ですわ。私は全て解っていますから。あれの原因はあなたも記憶にあると思うのですが、駅前に発生した石板が原因です。少々オカルト的な話になってしまうのですが超能力ってあるでしょう?人間の常識を超えた力。男の子が憧れるスーパーマンとか、女の子が憧れる魔法使いとか。あの石板には人間に超能力を産み出す力があるのです。ここまでで質問は、まぁ全部説明するのでその後に質問はして下さい。あなたの体は先日の痛みにより能力の書き換えが行われたのです。肉体は変化していませんがある力が追加されているのですよ。」話に一区切りついたのか話すのを止め曲げていた中指を人差し指と同じようにつきだした。
「二つ、あなたの目覚めた力である事をやってもらいたいのですよ。それは男の子も女の子も憧れる正義の味方の様な事です。あなたに力が目覚めたのと同様にあなた以外の人間も力に目覚めたのです。それは私もそうですが、もう一人その力を使って世界を壊そうとしている人間が居るのです。あなたには私達に協力してそれを阻止してもらいたいのです。どうです?どうです?力が目覚めたなんてカッコイイと思いませんか?」二重神千里は僕の方を見ながら目を輝かしているが正直言って僕は関わりたくないと思った。
「お断りします。」僕が淡々と言うと二重神千里は驚いた表情を見せる。
「えぇ!?なぜです?世界を救うヒーローに誰しもが憧れるのではないのですか?世界ですよ。地球に住む人間、生物、植物、全てを救う事が出来るのですよ?」驚いた顔で言われてもそんなものに今日見はないしそもそも僕に力なんてものが備わっているはずがない。力があったら井上を殺しているのは僕のはずである。
そんなオカルト的な理由で僕を拉致してここに連れて来たのか、だとしたらこの女は相当イカレている。
「そんな事に興味はないからです。」僕が言うと二重神千里はややがっかりしたような表情を見せ曲げていた薬指をつきだした。
「三つ目。白。」二重神千里の声に答えるように白はどこからか血の着いた包丁が入った透明な袋を取り出した。
「これはなんでしょうか?」二重神千里はそう言うと懐から見覚えのあるボイスレコーダーを出してきて電源を入れた。
音声が流れ始めるが土を踏み潰す様な湿った音が流れているだけで何も聞こえない。しばらく聞いていると聞き覚えのある声が流れ始めた。
『…徹ちゃん。徹ちゃん。徹ちゃん。』やがてその声は小さくなると遠くで何か争うような音が聞こえやがて何も聞こえなくなった。
「さて、問題。犯人は誰でしょうか?」ボイスレコーダーの電源を切った二重神千里の先ほどと変わらぬ笑顔を僕に見せてきた。




