安西千穂の視点 1
-ニュースの一言-
今日は絶好の洗濯日和!!
世界は何で満ちている?金?生命?
私は感情で満ちている。世界が欲で満ちていても今の私は感情で行動中。
私の今の感情は恋。ある人に現在進行形で恋をしてしまったようなの。
私はその感情で動いている。恋愛100%の体になってしまった。
あぁ、授業中も彼の事を考えるようになってしまった。寝る前も、目が覚めても、授業の中でも家族との団欒の時も、心のどこかではあなたの事を考えてしまうようになってしまった。2年3組出席番号3番 井上雄介君。あなたは今何をしているのだろう。私のことなんて知らないだろうし、あなたみたいな人は、私のような女に一切興味を持たないのは知っている。
…でも、夢くらい見てもいいよね。
そんな事を考えながら時計を見ていると午前10時45分。あと5秒で46分になる。
5、4、3、2、1、午前10時46分、時間がこれほど素晴らしくて愛おしい物と気がつくなんて思いもしなかった。
今は日曜日10時46分、私は休日の井上君の日課である早朝のランニングの後に行う部活動を学校の2階教室である美術室で見ていた。
部員達と一緒に練習をする姿、日光が照らす中、彼の姿は他の部員とは違う何かを発していた。なんていうの、イケメンオーラ?そんなイケメンオーラにメロメロになってしまった私は哀れと言うかなんというか…。
彼の姿を見てしまうだけでもう胸が満足感でいっぱいになると同時に独占欲のようなものも出てきてしまう。きっと付き合えたら、優しいのだろうな。
それに美術室なんて夏休みにくる人も居ないしゆっくりと彼を見ることが出来る。
「あら、今日は日曜日なのに誰かいるなんて珍しい。」声のする方、扉の方を覗いてみると一人の少女が居た。
「おはようございます。」休日なのに人が来ないという私の予想は外れた。
私を怪しい物を見るような目をして睨んでいる少女に向かって咄嗟に答えてしまった。
「空を見ていたの。」
「空?」少女は私の声を聞きながらも手慣れたように絵を描く準備をしだした。
「そう、この景色は今しか味わえないから。照り付ける光。仄かに白さを帯びた青い空。そしてこの学校特有の何か不思議な息苦しさ。私はそれを見ているの。」当然咄嗟に出た嘘である。私はそんな事を考える人ではないし。彼の姿を拝むためにいつも来ない美術室にいるだけなのだ。
「ふぅん。息苦しさ…ね。」彼女は私の言葉にさほど興味を示さずに絵の具のついた大きなエプロンを身に付けた後自分の後ろ髪をひとまとめにしようとポケットから取り出したヘアゴムを口に軽くふくみ、両手で髪をまとめ始めた。
それから彼女は一言も発さずに絵を描く準備を始める。
スケッチブック。使用済みチューブ絵の具。保存状態の悪い筆。使い捨て紙パレット。引き出しから色々と出していき絵を描き始めた。
私は彼女の手慣れた動作で絵を書く姿に感心しながらじっと見ていると。私の視界なんて気にしないように紙パレットに絵の具を着け描き始める。
私はしばらくその姿に見とれていた。
…そういう意味じゃないから。私は井上君一筋だし。なんか綺麗だなって思っただけ。綺麗な顔もそうだけど普通の女の子が着たら色気も何もなくなってみずほらしい恰好に見えてしまうじゃない。でもそんな風には見えない。色気はないけど何か強さというの?凄味?を感じた。
いつの間にか彼女の方をずっと見ていた。私が見ている事には気が付いていないようでスケッチブックに筆をひたすら走らせている。
「ぐー。」私のお腹の音が教室に響いた。そう言えば朝ごはん食べてなかったっけ。恥ずかしいな。お腹の音が彼女にも聞こえたのかじっと私の方を彼女は見ていた。
「お腹空いているの?」
「う、うん。朝ごはん食べ忘れちゃって。」私の言葉を聞くと彼女は筆を机の上に置いて席を立ち教室に設置されている水道を使って手を洗い始めた。
手を洗い終ポケットから取り出したハンカチで手を拭くと鞄のジッパーを開けた。
「朝ごはんはきちんと食べないと駄目だよ。こんな暑いのだからただでさえ減った食欲がさらに無くなってしまうよ。」彼女は鞄から何かを取りだし私の方にそっとパスをしてきた。
「おっと。」受け取った物を見てみると長方形の黄色い外装をした有名栄養食カロリーメイト、緑色で書かれた文字にはフルーツ味と書いてある。
「食べていいよ。それでお腹はある程度膨らむでしょ。」
「でも、これってあなたのお昼ご飯じゃ?」
「大丈夫、私にはこれがあるから。」彼女は鞄から袋を出し私に見せてきた。
【お得ゼリー、色々なフルーツの味があるよ!!】透明な袋には大きく文字が書いてあり中には一口サイズの色々な色をしたゼリーが入っている。
「朝から冷凍保存しておいたゼリーが夏の暑さでちょうどよいヒンヤリ加減になっているよ。」彼女は得意げな顔でそう言った。
私は彼女の親切に素直に従ってカロリーメイトの箱を開け中に入っているビニールを破き、長方形のビスケットを手に取る。
「ありがとう。行為に甘えていただきます。」
「ぎゅるるる。」私のお腹は目の前のごちそうを早くお腹に入れてほしいのか先ほどより大きな音を発した。
「ふふっ。よほどお腹が空いていたんだね。どうぞ、食べなさい。」彼女は私のお腹から発せられて音に驚いた表情を取った後、子供をみる母親のように優しげな表情をした。
手に持っているクッキー生地を半分口に含むと、仄かにフルーツ味のするクッキー生地が口の中で唾液と混ざり合って年度のように固くなる。私はそれを口の中で味わうと飲み込んだ。
「味はどう?」
「カロリーメイトの味。」
「なにそれ。」私のなんのひねりもない味の感想が笑いのツボに少し入ったのか少し笑顔になった。
この日は彼女と会話をしていたら空は夕暮れになっていた。
岬 有紀 私と同じ学年クラスは別2年1組。趣味 絵を描くこと。彼女は休日に気分のままに学校に来て今回のように絵を描いているらしい。
全文終了してるので一日一回19時頃に更新します。