火花散る
「そろそろ、体も温まってきたころですか?」
「ああ。この競技も少しはコツが分かって来た。バウンドの入射角度と反射角度の計算。そして立ち位置の計算と相手の動きの予測。……中々頭を使うものらしい」
数度のラリーを経て、ラケットボールのキモを肌で感じ取った森羅に、本職の宗一郎も舌を巻いた。スポーツの経験はなさそうだが、相当に実戦慣れしていることを感じ取ったのだ。
「すごいです。それならば、そろそろ仕掛けても――良いですか!」
「何――」
一歩深い踏み込みと呼吸の溜め。絶好の角度で返って来たボールを迎え撃つ青春者・木戸宗一郎は、渾身の一撃を放つ!
繰り出されたスマッシュは、これまでの小手調べのラリーとは違う、正に森羅の防壁魔術にひびを入れた、あの必殺の一球だ。
宗一郎のスイングで加速したボールは天井を穿ち、前方の壁に反射し、強烈な回転が掛かり、摩擦で発火するほどの速度を得て森羅を襲う。
「ぐうっ……」
それを何とか受け止めるも、ラケットの弦に接地してなお異常回転が掛かる。結果、ボールは打ち返されることなく、ガットに大穴を穿つ結果に終わった。
「へえ。僕のスマッシュを受けて、まだ立ってられますか。これはいよいよ燃えてきました」
宗一郎はトントンとラケットを肩に当てつつ、森羅に涼しい顔を向けた。
「これでは、折角ボールが見えてもリターン出来ない。ラケットを自前の物に変えても良いか?」
そう言うと森羅は魔導書を取り出して、ラケットがいくつも置かれたラックに歩き出した。そして、画面を見る事なく何かを数十行打ち込んだと思うと、空中に新たなラケットを出現させた。それをあたかもラケットラックから出したように見せて手に取る。
間違いなく、それは魔術の一つだった。
「一応確認させてもらうよ」
審判が具現化したラケットを検めるが、異常がないことを確かめると、黙ってうなずいた。
「さあ、試合再開といこうか」