No.4:殺意
安全な場所で夜を過ごし、日が昇った。
3人は森の中を再び歩き始めた。
「朝はいいわね。吸血鬼の数は少ないし、日光は気持ちいいし」
水鈴は背伸びをした。
「気は抜くな。いくら朝は出にくいとはいえ直接日光が当たらなければ吸血鬼は出てくる。気は引き締めておけ」
気を抜く水鈴に対しクロノは注意した。
ラルはクロノを見て思ったことを口に出す。
「クロノ、少しは気を抜いたらどうだ?」
「そうよ。気疲れするわよ」
水鈴もラルの意見に同意する。するとクロノは溜め息を吐き、口を開いた。
「お前達は気を抜きすぎる。一人ぐらい気を引き締めておかないと吸血鬼が来たとき対処できないからな」クロノはそう言い水鈴とラルの前を歩いた。二人もクロノの後をついて歩く。
歩いている途中ラルが水鈴に話しかけてきた。
「何でお前達はこの森に?」
すると水鈴の顔が急に暗くなり、口を開いた。
「・・・兄を・・・探してるの」
急に水鈴の足が止まった。水鈴の足が止まった為クロノとラルも足を止め、水鈴を見た。
「私の兄さんは北の地で行方不明なの」
クロノは目を見開き、ラルは驚きを隠せないでいる。水鈴は話を続ける。
「8年前に吸血鬼を退治しに北の地に行って8年間帰って来なくて・・・それで兄さんを探しに北の地に来たの」
水鈴の顔は更に暗くなる。
「(吸血鬼に殺されたんじゃ・・・)」
ラルはこう思ったが口には出せなかった。
「兄は吸血鬼に殺されたんじゃないのか?生きてるはずがないな」ラルの代わりにクロノが口にした。クロノの言葉に水鈴は無理矢理笑い答えた。
「そうかもしれない。それでも生きてるって信じてるから」笑っていてもどこか悲しそうだった。
「水鈴・・・嫌なこと思い出させたな。ゴメン・・・」
ラルは水鈴に謝ったが水鈴は
「大丈夫」と明るく答えた。
「クロノは何で北の地に来たの?前に聞いたとき、教えてくれなかったよね。今度は教えてよ」
水鈴はクロノを見て尋ねる。しかし、クロノは無視し森の中を再び歩き始めた。そんなクロノに対し水鈴は頬を膨らませラルは苦笑する。
「ねぇ」
暫く無言だった3人。突然、水鈴が話しかけてきた。
「どうした?」
反応したのはラルだけでクロノは無視した。
「森はまだ抜けれないの?」
「えーと」
「ラルの答えは期待してない。迷子だし(方向音痴だし)」
水鈴はクロノを睨む。クロノは溜め息をつき歩きながら答えた。
「土地勘があるわけじゃないから分かるわけないだろう」
「は?」
水鈴とラルが目を疑った。
「じゃあ、今まではどういう風に進んでたの?」
「北に真っ直ぐだが」「はぁー!?何でよ?」
「北の城に・・・吸血鬼の城に向かってるからだ」
返ってきた応えに水鈴もラルも驚きを隠せなかった。「何言ってるの!?本気?」
クロノは黙って頷く。ラルも続けて言う。
「吸血鬼を殺せる筈がない!死ぬだけだ!」
「・・・別に吸血鬼を絶滅させるのが目的ではない。それに水鈴だって兄を探し続けるならもっと危険な地に足を踏み入れなければならない。同じことだ」
クロノが冷たく応えるとラルは黙るが水鈴は更にクロノに言う。「私とは違うわよ!私は城には行かない。でもクロノは行く。クロノの方が危ないわよ!だから
「黙れ!!」」クロノは水鈴に怒鳴った。そして水鈴を睨んで言った。
「確かにお前と俺では何もかもが違う!お前は女だし俺とは違って普通だ!北の地にいる理由だって違う!俺のことを何も知らないくせに、家族と幸せに暮らしてきたお前に俺の何が分かる!!」
「クロノ・・・
「黙れ!!」」
クロノは突然、水鈴の首を絞めた。
「ク・・ロ・・・ノ・・・」水鈴の意識が遠のいていく。ラルは慌ててクロノを水鈴から遠ざけた。それでもクロノは水鈴の首を絞めようとする。
「クロノ!落ち着け!」
ドコッ
ラルはクロノを思いっきり殴るとクロノは我に返り落ち着く。
「クロノ・・・あのゴメ
「水鈴、ゴメン」」水鈴が先に謝ろうとしたがクロノが水鈴の言葉を遮り先に謝る。
そして再び森の中を歩き始めた。
歩いている時にクロノは先程の自分を思い出した。
「(さっき、本気で水鈴を殺そうとした・・・。ラルが止めていなかったらきっと殺してた・・・)」
クロノの表情は苦しくなる。
その後も森を抜けるまで沈黙は続く。
そして森を抜けた。クロノはラルを見て言った。
「森は抜けた。ここで別れる約束だったな」
「・・・そうね・・・」
クロノと水鈴がラルに言う。しかしラルは二人の傍を離れたくはなかった。
「いや、まだしばらくついていくよ。(今、コイツらを二人だけにするのは少し気まずいだろうし心配だな。こんな状態で吸血鬼に遭遇したら殺られるだろうな)」
「そうか・・・」
クロノは一言ラルに言うと歩く。水鈴は無言でクロノの後をついていく。ラルは溜め息をつき、二人のあとを追う。
上空でクロノ達を見つめる一つの影。影はクロノを見つめ、そして飛び去ってゆく。
―奴がいたか―
こう呟いて・・・。