冬*助け
お父さんがアセナを撃った次の日から、リコは森に行くことを禁じられてしまいました。リコは必死に説得しましたが、許してくれません。それからというもの、リコは気持ちが沈み混みあまり笑わなくなってしまいました。リコにとっては、アセナはお兄さんのような大切な友人だったのです。
なんでみんな、アセナが優しい狼だとわかってくれないのか、と考えているうちに、季節は秋から厳しい冬へとかわっていました。
ある雪の日のことです。リコの両親は流行り病にかかってしまい、寝込んでしまいました。看病を手伝ってもらおうと他の村人の元へ向かっても、大人の人はすべて病気にかかっていました。大人にかかりやすい、厄介な病気のようで、普通の風邪なら治る薬草を使っても、効果はありませんでした。
日に日に大人だけでなく、かかっていなかった子ども達までも病気にかかりはじめてしまいました。リコは必死に看病をしても治らずにいる村人達を見て、次第に不安でいっぱいになっていきました。──このまま、皆死んじゃったらどうしよう。その思いばかりが膨らんでいきます。
「どうしよう、どうしよう、どうしよう……一人だけ残されるなんて嫌! 何とかして皆を助けなくちゃ……でも、どうやって?」
そこでリコは、自分の部屋の本棚に入れておいた薬草の本を思い出しました。お婆ちゃんからもらった本で、小さい頃は文字が難しくて読むことができなかった本です。リコは思い立つや否や埃まみれの本を取りだし、読み始めました。すると、あるページに差し掛かったときに、見覚えのある花が描かれていました。
「──これ、シュークレ草……懐かしいわ。アセナと一緒に採りにいったんだっけ……」
不意に、アセナと過ごした楽しかった日々を思いだし、リコの頬に涙が伝いました。リコは、ゴシゴシと目元をこすり、シュークレ草の説明文に目を落としました。
「……シュークレ草、桃色の花びらが愛らしい薬草。高い木の枝に生えるため見つけにくいが、夜になると光輝く。見つかっても採りにくい為、大変希少価値のある薬草。採りにくい、って言ってるけど私普通に採れたわよね、そんなに大変かしら……あら?」
シュークレ草の最後の文が、リコの目に止まりました。
「採取しにくいだけでなく、万能薬として昔は使われていた。その効果は高くどんな病気でも治す力を持つ……!」
ガバッと顔を上げると、リコは「これだ!」と叫び、身支度を始めました。分厚い雪避けコート、ニット帽、大きなマフラー、手袋、ロングブーツを身につけると、リコは家を飛び出し吹雪の中を歩いていきました。
それから数時間が経ちました。今までならアセナの家についていたはずなのに、一向に見える気配がありませんでした。吹雪で前も見えず、今にも吹き飛ばされてしまいそうです。リコは何度も何度も足を雪にとられ、転んでしまったせいで、全身雪まみれでした。
それに加え、進むごとにリコの心の中は不安でいっぱいでした。遊びに行かなくなった上に、アセナの心身共に傷つけてしまったのです。もしたどり着いても、助けてくれるとは限りません。それでも、なんとか村の皆を救いたいという一心で、前へ前へと進んでいきました。
「っあ……!」
ふと前を見ると、吹雪の中に柔らかな光が見えました。リコは絶え絶えの意識の中、無我夢中で歩き続けました。ついに、小さなログハウスにたどり着くと、ノックをするのも忘れてドアになだれこみました。
「うわぁぁぁぁぁ! な、なんだ!?」
突然雪まみれのリコが倒れながら部屋に入ってきたので、アセナは大声をあげてのけぞりました。同時に、今まで食べていたのであろう、食べかけの大根も転がりました。しかし、その白い物体が人だと気づくと、恐る恐る近づきました。
「まさか……リコ、か?」
「や、っと……ついた……」
「なんでここに……!? それに、なんでこんな雪のひどい日に来るんだ! 馬鹿かお前は!」
アセナは、リコだと分かった瞬間、肩を掴んで怒鳴りました。
「馬鹿なのは、分かってるっ……でもね、村の皆が……流行り病にかかっちゃったの。シュークレ草なら治せるかもしれないって、聞いたからっ……」
「流行り病──それは本当か? シュークレ草が効くんだな? よし、待ってろ」
「よか、った……」
リコはアセナの言葉を聞くと、その場に倒れこみました。
「おい、リコ? リコ!」
リコは、安心しきってフッと意識を手放しました。