表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

夏*実り

 リコとアセナが出会ってから数か月後。季節はすっかり夏へと変わり、暑い暑い日差しが照り混んでいます。


 リコはあれから、数日に1回狼のアセナの元へ通い、お茶をしたり薬草を一緒に摘みに行ったりして、友情を深めていました。

 今日は、いつもは午後に訪れるはずのリコが、朝早くにアセナの家へとやってきました。


「おはよう、アセナ! 起きてる?」

「おう、リコか。今日は随分と早いな」


 キッチンの奥から、セロリをかじりながら皿洗いをするアセナが顔を出しました。


「だって、最近暑いでしょ? 午後に出掛けたら暑さで倒れちゃうわ」


 まだ朝だとは言えど、真夏真っ盛り。リコは帽子を脱いで、ふぅっと息を吐くとアセナに水を一杯貰えるように頼みました。


「それに、アセナの畑の野菜が丁度食べ頃だって言ってたじゃない。早く来て収穫を手伝ってあげようかなって」


 リコはアセナからコップを受けとると、感謝しなさいよと言って水を飲み干しました。


「そりゃ、助かるな。しかし、妙に優しいんだな? 早起き嫌いのくせに」


 するとリコは苦笑しました。


「ふふ、実は新鮮な野菜が貰いたいなってのが本音かな」


 アセナは「やっぱり」と言うと、作業道具を取り出しました。


「じゃあたくさん手伝って貰おうか。やる気満々のようだし」

「あら、少しは手加減してよね? これでもレディーなんだから」

「スカートはいてるくせに平気で木登りしたような奴がレディーだなんて、滑稽だな」


 リコは「失礼ね!」と言うと、アセナと一緒に裏の畑に向かいました。




 畑には、色とりどりの野菜と果物、薬草がびっしりと植わっていました。


「やっぱり、ここの畑のは村の畑より活きが良いわ」

「まあな。泉の水が良いからな」

「へぇ~。それはそうと、早く収穫して、お茶にしましょ!」


 リコとアセナは、次々と収穫していきました。お日様がてっぺんに上った頃、急に雲行きが怪しくなり、空から大粒の雨が降り始めました。二人は急いで家へと避難しました。


「あちゃー。降ってきちゃったわね」

「しょうがないな……続きは、明日にするか」


 リコは「明日も早起きしなくちゃいけないのか……眠い」と呟くと、テーブルに突っ伏しました。


「まあ、別に午後に来ても野菜は逃げないぞ? 無理して朝に来なくても」


 アセナがキッチンでハーブティーを淹れながら言いました。すると、リコは「それは嫌」と言うと、こう続けました。


「だって……昼だと、アセナ……毛皮で……暑いでしょう?」


 か細いリコの言葉を背中で聞きながら、アセナは目を見開きました。まさか、そんなことを考えていたとは、アセナには思い付きもしなかったからです。きっと、「野菜が貰いたいから」という理由も、照れ隠しの口実だったのでしょう(半分は本当かもしれませんが)。

 アセナはリコに「ありがとうな」と言いました。しかし、リコからの返事はありません。アセナが振り向くと、リコはテーブルに伏せて寝ていました。慣れない早起きをしたせいなのでしょう。


 アセナはハーブティーの入ったカップをテーブルに置くと、滅多に触らないリコの頭をポンポンと撫でました。普段は、爪がひっかかったりして怪我をさせたらどうしようと思い、あまりリコには触ろうとはしません。狂暴ではありませんが、外見は普通の狼なのですから。しかし、アセナは友人の優しさに、どうしても撫でたいと思ったのでした。


 アセナはリコの向かい側に座りました。リコの寝顔を見たり、ボーッとしているうちに、自分も寝てしまいました。いつのまにか、あんなに激しかった雨も止み、空には鮮やかな虹がかかっていました。


 ある夏の1日は、穏やかに過ぎていきました。




 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ