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短編集  作者: 雨咲はな
17/26

仕返し代行



「ちょっと広瀬聞いてよー!」

 とクラスメートの松田が机に激突しそうな勢いで駆け寄ってきた時から、僕にはイヤな予感しかしなかった。

 ちょうど昼食のパンを食べ終え、さてまだ昼休みもたっぷり残っていることだし、静かに読書でもしようかなとちょっとウキウキしながら、文庫本を自分の鞄から取り出した瞬間のことだ。

 少しずつ読み進めていたミステリ小説は、いよいよ終盤、ちょうど名探偵が登場人物を集めて、「さて」と口を開いたあたりにさしかかった、というところ。本というものを、僕は徹夜してでも一気にガーッと読み上げる、というタイプではなく、空いた時間にちょっとずつページを繰って楽しんでいきたい派だ。じれったい読み方だね! と松田は憤るが、僕にしてみれば、物語世界が好きだからこそ、少しでもゆっくり咀嚼して味わっていきたいのである。

 だから、話の佳境の謎解き部分に入ったその小説の先を読めるのを、僕は素直に喜んでいた。三日かけて進めていた物語が、ようやく結末を迎えようとしているのだから、そりゃあワクワクするというものだ。

 で、隣の席のうるさいクラスメートがいない昼休み、ラッキーとばかりに文庫本を手に取ったその時に、僕のところに隣の席のうるさいクラスメートが突撃をかましてきたわけである。神様というものを僕が恨んでも、無理のないことだと思ってもらいたい。

「広瀬、広瀬、こんなことってある?! わたしもう泣いちゃいそうだよ!」

 こんなこと、と言われても、僕にはまったくその「こんなこと」に心当たりがないので、返事のしようがない。しかも、松田は泣いちゃいそうだと言いつつ、すでに目にいっぱい涙を溜めている。ついでに、僕の机の両端をがっしり掴んで、ガタガタとやかましい音を立てて揺すぶっている。非常に、迷惑だ。

「泣くなら一人で静かに泣いてればいいじゃないか。ここは僕の席で、松田の席はちゃんと空いてる」

 未練がましく手にした文庫のページをぺらりと捲りながらそう言ってみる。ああ気になる。結局犯人は誰だったんだ。婚約者か。幼馴染か。お手伝いさんか。

「わたしが泣いたってしょうがないでしょ! いちばんつらいのははっしーなんだよ!」

 松田が逆ギレしてばんばんと机を叩きはじめた。しょうがないと言ったって実際に泣いているのは松田なのだが、彼女に理屈が通じないのは今にはじまったことではない。

「つらい?」

 問い返し、ようやく手元の文庫本から顔を上げると、松田の後ろには、同じくクラスメートの橋本が立っていた。しかしその表情は明らかに、つらいというよりは松田の暴走に手をつけかねて困惑している。

「どうかした?」

 あまり関わりたくはないのだが、これも渡世の義理だと思って橋本に聞くと、「うーん、それがねえー、ちょっとねえー」という要領を得ない回答が返ってきた。

 橋本は客観的に見ればとても可愛らしい容姿をした小柄な女子なので、そうやって首を傾げる仕草をすると庇護本能をそそられる。いや正確に言うと、僕はまったくそそられないのだが、大いにそそられてしまうらしい単純な松田が、「どうかしたじゃないんだよ! 広瀬は冷たい!」と叱りつけるように叫んで、また机をバンバン叩いて抗議した。一応理由を聞いているのに、怒られる意味が判らない。

「はっしーが……わたしの大事なはっしーが、なんでこんな目に……!」

「ちょっと待った。その続きは、こんな教室の中なんかで暴露してもいい内容なのか、よく考えてからものを言えよ」

 松田は直情径行型の、言ってしまえば激情ですぐに理性を吹っ飛ばし、そのため後になって問題を引き起こすという、厄介極まりない性格をしている。橋本の身に何があったのかは知らないし特に興味もないが、ただでさえ周囲の耳目を集めているこの状況で、松田が大声で騒いだらそれは瞬時に広く世間に知られるところとなる。プライバシーをそんな形で宣伝されて、困るのは橋本だ。念のため忠告すると、松田はようやくはたと口の動きを止めた。

「とにかく、来て!」

 松田に強引に腕を引っ張られ、やむなくため息をついて僕も立ち上がる。どうせ、いやだと跳ね除けようが、丁重に辞退申し上げようが、この女は聞きやしないことは判っている。

 渋々、文庫本をパタンと閉じて鞄にしまった。



         ***



 連れて行かれたのは、よりにもよって校舎の屋上だった。びゅうびゅうと寒風が吹きすさぶ中、優雅に弁当を広げているやつがいるわけなくて、内緒話をするにはもってこい、と松田はその足りない脳味噌で考えたのだろうが、肝心の僕たちまで寒くて死にそうだ。

「寒いよ、広瀬!」

「こんなところまで連れてきたのはお前だろ!」

「二人とも、上着くらい持ってこないとー」

 涙目で震えながら言い争う僕と松田に、なぜか一人だけちゃっかり分厚い上着を着ている橋本が、もうー、と呆れたように可愛く口を尖らせている。いつの間に持ってきたんだ。そしてなぜ、この展開が読めていたなら先にそう言わない?

「とにかく、凍死する前に、早く話を終わらせろ」

 依然として橋本の「つらい出来事」には興味がないが(大体、本人がまったくつらそうに見えない)、こんな場所に昼休み中いたら間違いなく死んでしまう。さっと聞いて、さっと帰ろう。

「広瀬、あんたは冷たいよ! もっと真摯に話を聞こうって姿勢を見せなよ! わたしたちの親友のはっしーが、あろうことか二股をかけられたんだよ?!」

「お前は橋本の親友かもしれないが、僕は違う」

 まず、いちばん引っかかった部分を訂正しておく。

 そもそも僕の見解では、僕と松田は友人同士でもない。二年生になって、隣の席の松田が、なんやかんやと僕に話しかけてきて、強引かつ傍若無かつ一方的に、わたしたち友達だよねと言い出したに過ぎないのだ。拒否したり抵抗したりするのも面倒だからと放っておいたら、いつの間にかあちらの頭の中では友情が確立してしまったらしく、しょっちゅう一緒にいることになった。今では、僕以外のクラスの人間はみんな、僕と、松田と、松田の友達の橋本は、「仲良し三人組」だと信じきっている。

「橋本、二股かけられたの?」

 それからやっと、この話の本題らしき部分に触れた。ほんの二カ月ほど前に、橋本が元バスケ部の三年生に告白されて付き合い始めた、ということは聞いてたけど。

「うーん、二股っていうかー、私とは別の女の子とデートしてるみたいでー」

「それを二股って言うんだろ」

「そうかなー。でも、私もあんまりあの先輩のこと、合わないなって思いはじめてたところだったしねー」

 なるほど。告白されて付き合い始めたはいいが、話したり遊んだりしているうちに、「これはなんか違うな」と思うようになってきた、ということか。多分それはあちらも同じで、やっぱり別の子にしようかな、と考えていたところだったのだろう。そういうことはきちんと別れた後にしろよな、と真面目な僕は思うが、橋本自身がさほどショックは受けていないように見えるのは、そこまで相手に愛着を持っていなかった、ということだろう。

 だったら、別に問題ないじゃないか。

「じゃあとっとと別れて他のやつを見つけたら?」

「うーん、私もそう思うんだけどねえー」

「なんなら、僕と付き合う?」

「やだー、広瀬君、全然まったく私の好みじゃなーい」

 朗らかに笑いながら、橋本はずけずけと言った。小柄で、可愛くて、ちょっと舌っ足らずな喋り方をするから男たちは誤解しがちだが、この女は実は、相当きつい性格をしているのである。元バスケ部の先輩も、外見に惹かれて中身で気を変えたんじゃないのかな。いずれにしろ、ちゃらんぽらんだとは思うが。

「なに言ってんの、二人とも! こんな可愛いはっしーと付き合ってるのに別の女の子に手を出すなんてサイテーだよ!『思ってたよりつまんなかった』って、そんな酷いことまで言われたんだよ! あっちから付き合ってくれってしつこく言い寄ってきたのにだよ?! 付き合い始めてすぐにキスを迫って、はっしーがそれを断ったら、あっという間に別の女の子に乗り替えたんだよ! そんな不誠実極まりない女の敵には、即刻天誅を下してやるべきだよ!」

 松田は、橋本本人よりもよっぽど怒っていた。また気持ちが昂ぶってきたのか、地団駄を踏み、手までぶんぶんと振っている。寒いから、そうやって運動して身体を温めてるのか。鼻の頭が真っ赤で、涙の粒が今にも落ちそうに大きく膨らんでいるのは、身を切るほど空気が冷たいからか。

 僕と橋本は、ちらちらと顔を見合わせた。面倒なことになる前にお前が止めろよ、と目線で互いに押しつけ合っていたのが悪かったのか、僕が口を開きかけた時にはもう遅かった。

 松田が拳を握り、高らかに宣言したのだ。

「絶対、仕返ししてやる!! 協力してよね、はっしー、広瀬!」


 ……というわけで、この件の第三者であるはずの松田は二股男に報復する決意を固め、まったく関係ない僕と、当人である橋本がそれに付き合わされる羽目になった。

 迷惑だ。



          ***



 二股男は加賀という。

 どうすれば効果的に加賀に仕返しできるか、松田は普段はあまり使わない頭をフル回転させて、作戦を練った。

 そして彼女が、考えに考えて、ノートに書き連ねたのが、以下。



 ・悪口を広める。

 ・先生に言いつける。

 ・「あいつはホモだ」というウソ情報を流す。

 ・上からタライを落とす。

 ・ペンキをぶっかける。

 ・闇討ちする。

 ・入試の日、目覚ましを一時間遅らせる。

 ・誘惑してメロメロにさせてからこっぴどく振る。

 ・男として立ち直れないことを言う。

 ・加賀の父親が勤める会社の社長に直訴して、父親を僻地に左遷させる。



「……バカだろ」

 それを見て、そうとしか感想を出せなかった僕は正しい。

 この程度のことしか思いつかんのか、というのもあるが、小学生が考えるようなものや、実現不可能なもの、果ては妄想が混ざっているものまである。加賀の父親がどこに勤めているのか、そもそも父親がいるのかどうかも知らないのに、よくこんなことを書けるな。

「仕返しって、意外と難しい……!」

 松田はノートの上に顔を突っ伏し、頭を抱えている。もちろん、この女が、冗談のつもりでこんなものを書いたのではないことは、僕と橋本はイヤというほど判っている。むしろ冗談だったら良かったのにと思うが、恐ろしいことに松田はどこまでも本気だ。同じく机に顔を突っ伏し、さかんに肩を震わせている橋本は、決して松田の友情に感激して泣きじゃくっているわけではない。

「大体、ちょっと付き合ってみただけの男が他の女の子に乗り替えた、ってことくらいで、そいつの人生をどん底まで突き落としてやれ、という発想がおかしい」

 僕は極めて冷静な意見を述べたが、松田はバンバンとノートを平手で叩いた。

「広瀬は冷たい! だってはっしーは、すごく傷ついたんだよ! その傷をつけた男が、自分だけしゃあしゃあとした顔して幸せになるなんて許せない! あいつは自分の罪をちゃんと自覚して、はっしーに誠心誠意、土下座して謝って足の甲に頬ずりしてどうか愚かな自分を踏んづけてくださいって許しを請うべきだよ!」

 お前のその思考のほうが怖い。

「……橋本は、傷ついたの?」

「うーん」

 僕が問うと、松田の親友を長くやっているわりに常識人の橋本は、曖昧な表情をして首を捻り、苦笑を浮かべた。

「まあ、全然何とも思わなかった、って言えば、やっぱりちょっと嘘になるかなー。私この人とは合わないんじゃないかなあ、とは思ってたのは本当だけど、でもこれから仲良くなれるかもしれないし、って思っていたのも本当だった。少なくとも、そういう努力はしてみようかと思うくらいには、やっぱり先輩のことが好きだったのかも。でも、あっちは、ぜんぜんそんな努力をするつもりもなかったんだなあーと思って」

 一瞬、目を伏せる。

「だから、そういう意味では傷ついた、かな。……でも」

「ほら、やっぱり! 許せないよ! あの男を今すぐ世界から抹殺してやらないと!」

 橋本が言いかけた言葉を最後まで聞きもせず、松田はうわあんと声を出して大泣きした。さっきより仕返しのグレードが大きくなっている。

 橋本は、そんな松田を、優しい目で見つめていた。

「……よし」

 しょうがない。そう思って、僕は大きく息を吐く。

 やられたらやり返す。傷つけられたら二倍三倍にして相手を傷つける。こちらが嫌な思いをさせられたら、相手にはもっと嫌な思いをさせてやらないと気が済まない。

 ──という考えに、どちらかといえば僕は否定的だ。

 ざまあみろ、という過剰な報復の裏には、自分が下にいるのは我慢がならないから相手をさらに下に引きずり落とす、という卑小な気持ちが見え隠れする。自分の幸不幸と、自分を貶めた人間が幸福であるのが許せない、ということは、まったく別の問題じゃないだろうか。


 ……でも。


 橋本がその言葉の後に続けようとしたのが何なのか、不本意ながら僕には想像がついてしまう。そして不本意ながら、同意も出来てしまう。

 だから、しょうがない。

「松田は、どうしても加賀に仕返ししたいのか?」

「うん!」

 僕が確認すると、松田は頬に涙の痕をいっぱいつけたみっともない顔で、まっすぐ見返してきた。とりあえず拭けよ、と思って制服のズボンのポケットに手を伸ばしかけたが、横から橋本が自分のミニタオルでごしごし松田の顔を拭ってやったので、動きを止めた。

 中途半端なところで宙に浮いた手で、なんとなく脇腹をぽりぽりと掻いた僕に、橋本が可愛い顔に似合わぬ、にやりとしたタチの悪い笑みを向けてくる。なにその笑い。

「じゃ、いい方法を教えてやる」

 ごほんと咳払いをすると、まったく何も判っていないバカな松田が、瞳をキラキラ輝かせた。

「でも、松田にはちょっとキツイかもしれないぞ」

「なんでもやるよ! 刑務所には、お弁当を差し入れしてね! 唐揚げが好きだよ!」

 誰がお前を犯罪者にすると言ったんだよ。



          ***



 というわけで、松田は早速、僕が言うとおりに行動した。

 何をしたかっていうと、加賀に、真正面から堂々と、抗議をしに行ったのである。

 松田は親友の橋本がどれだけ傷ついたのかということを切々と訴え、加賀の不誠実さを責め、他の女の子と付き合うのだったらどうして橋本にちゃんと話をして別れの了承を取り付けてからにしなかったのか、という真っ当な正論を述べた。

 そして、橋本に謝れ、と要求した。

 対する加賀の反応は、まあ、予想通りだ。

「バッカじゃねーの、なにいちいち熱くなってんだよ。別に高校生同士の付き合いなんてみんなこんなもんだろ、他の人間があれこれうるさいこと言ってんじゃねーよ」

 そう言って乱暴に松田を小突き、嘲笑った。

「それともなにか、橋本はそんなに俺に未練があるってか。じゃあもったいぶるフリしてないで、素直に喜んでりゃよかったのに。そこまで言うなら、これからも付き合ってやってもいいけど?」

 そこで、松田は泣きだした。バカみたいに、わんわん泣いた。加賀のほうがドン引きするくらい、泣いた。

 松田が泣いているのは、自分が屈辱を受けたからじゃない。加賀が橋本を、自分の大事な親友を、態度だけでなく言葉でも、軽んじたからだ。

 ずっと静かに隣に立っていた橋本は、そんな松田の顔を拭き、よしよしと頭を撫でた後、加賀に向かって、勝ち誇ったように笑った。

 何も言わず、ただ、ふっ、と鼻で笑った。


 ──私には、こんなに大事な人がいる。私が傷つく以上に傷ついて、私が怒る以上に怒って、私が泣く以上に泣いてしまう、そんな貴重な、宝物のような存在が。


 それは、人間関係においてなんの努力もしない、薄っぺらい付き合いしか出来ない加賀のような人間には、きっと生涯手に入らないものだ。その喜びを、その幸せを、加賀は知らない。この先も得られない。

 それがどんなに尊いものであるかということも気づかないまま、生きていかなければならない。

 幸福の女神は、最初から橋本のすぐ隣にいる。加賀なんて、勝負の相手にもなるわけがなかった。

 だから橋本は笑う。心から楽しそうに、幸せそうに。そんな風には決して笑えない加賀の目の前で。

 それでいいんだ。十分だ。松田はちゃんと役目を果たした。

 仕返しは終わりだ。




 その後、加賀がホモだという噂がどこからともなく校内に広まって、本人は躍起になって否定したものの卒業までその疑惑はつきまとい、結局、新しい彼女にもフラれてしまったらしい。

 ……ま、この程度のことは許されるだろうさ。



          ***



「ねえ、広瀬君。今日の帰り、三人でパンケーキ食べに行こうよー」

「甘いものは好きじゃない」

 ニコニコ顔の橋本に誘われて、僕は素っ気なく返した。結局、巻き込まれたドタバタのせいで、読みかけのミステリ小説はまだ最後まで読めていない。松田の姿がない今こそ、密室の謎を知らなければ。

「まっちゃんがまだ落ち込んでるから、慰める会を開こうと思って。まっちゃん、生クリーム大好物だからねー」

「二股をかけられた橋本がぴんしゃんしてるのに、どうして松田がまだヘコんでいるのか、そこからして意味不明だ」

「いいからいいから、一緒に行こう」

 松田も強引だが、橋本も強引なのだった。

「クラスメートとして、もう最低限の義務は果たした。どうして僕が橋本のために、そこまでしなくちゃいけないのか判らない」

「私のためじゃなく、まっちゃんのためでしょー」

「なおさら判らない」

「ホントは悔しいんでしょ。まっちゃんが私のことで泣くのが」

 いきなり何を言うのかと僕はびっくりして橋本を見た。橋本は、可愛らしい顔に、またあのタチの悪い笑いを乗っけている。

「なに言ってんだか」

 ふん、と目を逸らす。橋本はけらけら笑った。

「広瀬君もねえ、一度女の子にこっぴどくフラれてみるといいかもよ。そうしたらまっちゃんがまた泣いて、広瀬のために仕返ししてやる! って怒るから」

「……やだね」

 僕は口を閉じ、ついでに手の中の文庫本もぱたんと閉じて、ムスッとした。

 そんなこと、いかにも言いそうだ。松田なら、きっとそう言うだろう。本気で怒って、泣いて、うるさく騒いで。

 「だってわたしたち、友達でしょ!」と堂々と叫んで、その言葉に僕がひそかに傷ついてることになんて、まったく気づきもしないで。



 あの超ニブい無神経なバカ女に、いつか正直に自分の気持ちを告げて驚かせ、仕返ししてやろう、と僕は心に誓っている。




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