黄昏の追憶 2
偶然見つけた卵を抱え、俺達は雪奈の家へと足を進めていた。
以前、高速で駆け抜けた道。
あのときは周囲の景色なんて見る余裕もなかったけど、よくよく見るとこの住宅街付近は公園や商店街とかに比べると妙にリアルな感じがする。
並ぶ洋風の家々、庭に敷き詰められた芝の細かさ、踏みしめるアスファルトの目までハッキリと確認できる。
正直、違和感パない。
並べられた木々は風に揺られ、葉が擦れる音まで聞こえてくる。
意識してみたことはないけど、公園周辺じゃ薄ぼけた有るようで無いような実体が繊細には掴めなかった。自然のBGMなんて聞いたことがなかった。
空もそうだけど、やっぱり今日はなんかいつもと違う。
思考しつつ住宅街を進み、雪奈の家に着いた。
雪奈が言っていたように折れて根本部分のみが残された電柱があった。
俺とアキが原チャで突っ込んだあの電柱だ。
「ね、言ったでしょ? 朝起きたらこーなってたの! あっ、もちろんあっちでの話だよ」
あっちでの話。現実での話。
つまり夢の中で折られた電柱が現実の世界でも折られていると。
どういうことだ?
「どうしたのハル?」
「えっ、……いや、公共物を壊すなんて、悪い奴もいたもんだなぁと」
「電柱は電力会社の保有だから公共ではないけどね」
そうなんだ。知らなかった。さすが雪奈、あげ足取るのうまいなー。
「……ぼくこことらうまです」
卵は目を萎ませしゅんとしたようにうつむいた。
心なしかアンテナみたいなのもしおれている気がする。
「うるさいぞ卵。でもだな雪奈、犯人もやむを得ない事情があったかもしれないから安易に責めるってのはナンセンスだと俺は思うぞ」
「え? もしかしてハル、これに一枚噛んでたりするの?」
いやん、鋭い。
「そ、そんな訳ないでしょうに。無いと言い切れるね」
「ふーん」
ああ、疑われてる。やめて、そんなジト目で俺を見ないで。
「でも不思議なんだよね。普通電柱が折れるほどの事故があったなら深夜でもまずその音で誰かしら起きたり、大きな音を聞いたって人がいたりすると思うのに、一切なくて。現場にはバイクのタイヤ跡が残ってたんだけど、ぶつかったときの破片とか、こんな折るくらいの勢いでバイクが電柱に衝突したらドライバーも怪我では済まないはずなんだけど、血痕とかも見つかってないし……。なんだこりゃーってパパ頭抱えちゃってるんだよね」
雪奈のパパさんは警察官。身長は低いが和製ターミネーターと俺達は呼んでいた。
雪奈に寄りつく悪い虫は大抵ターミネーターに駆除される、それが小学生であろうとも。俺も引っ越す前は何度も睨まれたことがあった。
そんな怖そうアーンド厳格そうな印象とは裏腹に娘にはベッタリ。
一重に娘を愛しているんだろう。そう考えるといい父親なんだと思う。
「パパが警察官だから私怨の可能性もあるからって今日外出禁止だったんだよ」
「へー、大変だなあ」
一本お幾ら万円するんだろう、とビビりながら電柱を見ていると雪奈の家からタンタンタンタンと何か板をぶつけたような音がリズムよく聞こえた。
どうやら雪奈の両親はいるらしい。
夢の中であろうとあの和製ターミネーターと遭遇するはご遠慮したいものだ。全力で。
暑さのせいで汗疹ができてしまいました。
……凄くかゆいです。
かといって搔き毟ったら大変なことになります。
ってか、なりました。
汗疹あなどるべからず。