手紙 2
気がついたらここにいた。
何度目かのここ。
いつも通りダベって終わる一日。
でもその日は幼馴染と久しぶりの再開。
久しぶりに貰った顔面右ストレート。
そんで気がついたらこうなってた。
本日二回目の顔面右ストレート。
ひとつだけ、学んだことがある。
女の子の部屋で、勝手にタンスでも開けようもんなら大変なことになる。
おういえ。今日も絶好調じゃねえか、ちくしょうめ。
「また……か……」
目の前には見慣れたタコ滑り台。
代り映えの無い、茜色の公園の風景が広がっていた。
公園を見回す、ひとりでに揺れるブランコが目に入った。
アキはまだ来ていないようだ。
よくよく考えてみると、アキが俺より先にいないなんてことは珍しい、というか初めてのことかもしれない。
「……まあ、こういうこともありますか」
俺は揺れるブランコに腰を下ろした。
「あの後、どうなったんだっけか……」
ポツリと一人つぶやき、途切れそうな記憶をたどる。
あの後、雪奈は一人自宅へ入って行った。俺達はそれを追った。
アキが「これって不法侵入じゃないのかな?」などと言って、家に入るのを拒み、それでも入ろうとする俺を執拗に止めていたような気がする……。
よく覚えてはいないが、まるで俺にこの家に入られると困るような。そんな感じがした。
……気がする? なぜ不鮮明なのだろうか?
この世界に来る前の記憶は曖昧なこともあったが、こっちに来てからこんなことはなかった。その場面場面も、思い出しているこの時でさえ、今にも頭から消えてしまいそうな、思い返したそばから崩れていくような……。
悶々と、でも時は淡々と過ぎていく。
その記憶は、もうすでに思い出せなくなっていた。
どのくらい時間がたっただろうか……。
今日はアキは来なかった。
翌日、散々見飽きた景色を眺め、一日が終わった。
今日もアキはこなかった。
あれから二日経った。
アキはまだ来ない。
俺は一人、ブランコに揺られ、揺られるだけ。
ふと、頬に冷たいものを感じた。
触ってみると、濡れていた。
それは片側から一筋、頬を伝い地面に落ちるとダムが決壊したように、止めどなく止めどなく溢れた。
声が出た。
言葉にならない、情けない声が。
考えないようにしていた。
張り裂けそうな、押し潰されそうな感じが耐えられなかった。
だから強がって、馬鹿やって、紛らわしていた。
それはアキがいたから、アキがいてくれたから、なんとかなっていた。
でもアキは、もういない。
俺に一つだけあった繋がり。
俺を繋いでいてくれた希望は、いつの間にか断たれた。
なんで俺はここにいるのだろう?
なんでこうなってしまったのだろう?
なんで俺が?
なんで、なんで俺だけが?
不安だった。不安で仕方がなかった。
世界から取り残されそうで、もし唯一の、その繋がりであるアキがいなくなったら?
俺一人取り残されたら?
俺はどうやって、どうやって俺でいられようか。
充血した目を潤すように、涙が溢れ出てくる。
でも、その渇きは癒せない。
涙は鼻水を交え、糸を引いて顎から垂れた。
それが少し滑稽で、俺は笑いながら泣いた。
「……ハル? なんで泣いてるの?」
久しぶりに、自分以外の声が聞こえた。
顔を上げると制服姿の女の子が、困ったように首をかしげ、立っていた。
「ゆぎな……?」
鼻が詰まって変な声が出た。
「ひっどい顔してるよ? どうしたの?」
「なんで……ごごに……?」
「なんでって、ほら。手紙。貰ったから」
雪奈は持っていた手紙を出し、笑ってみせた。
手紙なんて書いた覚えはない。
だが、そんなことはどうでも良かった。
俺はえずいて泣きじゃくった。
読んで頂き感謝感激でございます。
良ければ次も見てあげてくださいませ。
なるべく早く書きますゆえ。