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夢見る雪華は何を思ふ 3

「あれ? ハル。どうしたのこんなところで。大好きだよ」


「えっと……え? 雪奈さん? 今なんて」


「大好きって言ったの」



 ・・・・・・誰この人? 知ってる? 俺知らない。



 卵と商店街をこえ、一人と一匹(一体?)で雪奈の家についた。

 ちょっとためらいながらもお邪魔した。

 そして雪奈がいるであろう部屋を探し、二階の一室の扉を開いた。

 そしたらベットの上に雪奈がいた。

 そこで投げかけられた第一声目。

 予想外の一言。

 さらっとすごいこと言っちゃってるんですが……。

 雪奈、お前キャラ違うくね?



「ああ、ごめんねハル。ここに掛けてくれればいいから。座って?」


 少し抵抗があったが招かれるまま雪奈の横に腰を落とす。

 つまりベットだ。

 とろんとした目、普段聞いたこともないような甘い声。

 正直怖い。

 

「いつも叩いたりしてごめんね。でも恥ずかしくて、つい手が出ちゃうの」


 恥ずかし気にうつむいて雪奈が言った。

 モジモジというかなんというか。 


「ああ、うん。それは別に気にしてないけど。なんかお前、しおらしくなってない……?」


「私はいつもこうだよ。ただ、ハルの前だと素直になれないだけ。大好きだよハル」


 すごいモヤモヤする。すごいムズムズする。

 そして近い、迫ってくるな。

 落ちつけ雪奈、そして俺!


「ちょい卵。これはどういうことなのか説明プリーズ!」


 耐えられなくなり卵に助けを求める。

 雪奈の右手は俺のふとももに掛けられ、吐息があたるほどに顔が近い。

 

「しんそうしんりですので、それもここはふかいふかいところですから。いうなればこころがすっぽんぽんのじょうたいですな」


「それってつまりどういうこと?」


「りせいでのせーぶはまったくしない、まったくのじゅんすいなゆきなちゃんということです」


「……それはやばいだろ。これ雪奈が知ったら発狂しかねんぞ」


「ねえハル」


 雪奈の両手が俺の顔を掴み、そして引きよせた。

 俺は思わず息を飲む。

 優しく潤んだ瞳、まるで翻弄するように形を変える唇。

 あどけなさ残る無邪気な、それでいて妖艶な。

 普段の雪奈の凛々しさは消えている。

 知らない幼馴染に目をそらした。

 俺はシーツのしわの数を数えることに専念する。今決めた。


「私のこと、どう思ってる?」


 そんな俺をお構いなしに顔をあざとい角度に傾け、上目づかいに雪奈は俺に問いかけてくる。

 挑発的というべきか、それを超えて官能的とも言えるかもしれない。


「ねえ、ハル。……教えて?」


 幼馴染とはいえ異性。

 異性とここまで接近することがいままであっただろうか。

 少なくとも記憶するなかで異性とその距離三センチまで接近するのは初めてだ。


「お、お俺は――嫌いじゃないぞ」


「好きでもないの?」


「ど、どっちかというと……、好きだぞ」


「うれしいハル。大好きだよ」


 抱きつかれた。K点越えた! 祝K点越え。

 心臓がやばい、興奮か恐怖かわからない感情で胸が凄まじい音を立てて唸っている。

 怖い怖い、こんな雪奈怖い。


「これはもしや、あーるじゅうはちのてんかいのよかん? ぼくはまだこどもなのでへやからだっしゅつするのです!」


「いや待って、マジ待って。一人にしないで、お願いたまごちゃん!」


「ごしゅじん、だいじょうぶなのです。そとでむーどのあるびーじーえむをながしますので、ぼくにはなにもきこえません。だからなにをしてもだいじょうぶなのです」


「いや、そういうことじゃなくてね? この状況見ればわかんじゃん? やばいじゃん? すっごくやばいじゃん? だから出ていくだなんて言わないで――」


 ――バタン。と無情にも扉は閉められた。


 今の俺には『お前どうやって扉開けて閉めたんだよ』って突っ込む余裕はない。

 一人にされた。取り残された。

 雪奈は俺の胸に顔をうずくめている。

 俺はベットシートから明後日のほうへ目を泳がす。

 

「ねえハル?」


「は、はい。なんでしょうか」


「覚えてる? 小学校のころ、かくれんぼしてて私が土管のなかに入ったときのこと」


 んんー、あったっけ? 覚えてない。


「ちょっと分かんないですかね。ほら、結構昔のことだし」


「あのとき、土管の中で砂が邪魔して……這い出ようといくら頑張っても登れなくて。そのうち日が暮れて、土管の中から見える景色が少しづつ赤くなっていって……。私このままここから出れなくて死んじゃうのかなぁ、って泣きながら思ったんだ」


 うん、俺の返答ってば割と無視なのね。

 そう考えると、どっちかっていうと迷い人に近いとこにいるのかもしれない。ここの雪奈は。 

 深層心理に近くなれば近くなるほど、純粋で単純な感情で動くってことか?

 あ、それはさっき卵が言ってたっけ?


「それでね。うずくまって泣いていたら、ハルが助けに来てくれたの。私、本当に嬉しかった。あのときからハルは私の王子様なんだよ?」


「ん、ありがとう雪奈。でもごめん、ちょっと覚えてない」


「……そっか。……じゃあこれは覚えてる? これも小学校のころ。クラスの男子にからかわれて、私泣いてたんだ。雪奈はすぐ泣くって、そうやっていじめられてた。ハルはその男の子を追い払ってくれて、『お前はテスト百点取れるからすごい。俺よりすごい。そんなすごい雪奈があんな奴に悪口言われたくらいで泣いちゃダメだ』って言ってくれたこと」


「……ごめん。それも、覚えてない」


「……それから私勉強して、ハルにとってすごい私でいたくて。また褒めてもらいたくて。男の子にからかわれても強くなろうって、立ち向かって、私頑張ったよ?」


 雪奈にこんな一面があるとは思っていなかった。

 強くなりすぎた感は否めないが、俺をそんなに思っていてくれていたことが意外だった。

 なんかしゅんとした。

 覚えていないのが申し訳ないと思った。


「じゃあ、メガネ外したほうが可愛いって言ってくれたことは? 覚えてる?」


「……ごめん」


 いつの間にか、雪奈の瞳が涙で滲んでいた。


「長い髪のほうが可愛いって言ってくれたことも?」


「…………ごめん」


「夜の校庭で、一緒に星空を見たことも? 事故にあってから手紙をくれたことも?」


「………………」


「私は、私は全部覚えているのに……?」


 雪奈の頬から涙がこぼれた。

 俺は目を合わすことも出来ず、ただうつむいていた。

 思い返せど、記憶に残っているのはこの夢の世界での記憶だけだ。

 幼少の記憶は残っていても雪奈との思い出は覚えていない。

 かつて共有したはずの時間、それを俺は全く覚えていない。

 もどかしさが胸を締め付ける。

 涙をこぼす雪奈にかける言葉も思いつかない。


 俺はただ口をつぐんで、ただ時が経つのを待つしかなかった……。



 何か駆け足で進めてる感が否めない……。

 ともあれ、3日連続更新とは私史上初かもしれない……。地の文崩壊してますが。

 痴劣な文章ですが読んで頂いて本当に感謝です。

 読んでくれた方々の頭に思いつく限りの幸が降り注ぎますよう、お酒でも飲みながら祈らせていただきます。

 それではまた。



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