夢見る雪華は何を思ふ
「ハルがご主人さまってなんか面白いね、全然そんなキャラじゃないのに」
雪奈は口元を押さえぷくくと笑いを堪えている。
雪奈さん、そこは突っ込まないでほしいのだけれど。
俺は劇でもやろうなら村人Bとか、背景の木とかそーいったポジションなのは自覚しているし。
仮にこういうご主人さまと召使いの関係なら間違いなく召使いに属するだろうさ。
「ちょっと待て卵、それだったらアキはなんなのさ! 最初アキと一緒にいてごしゅじんーとか言ってたじゃん?」
「ごしゅじんはごしゅじんです。あきはたんなるばいたいですが?」
卵は淡々と聞きなれない単語を言った。
「ばいたい?」
「そーです」
「ばいたいってなんだ?」
頭の上にクエスチョンマークを出し、雪奈にヘルプの視線を送る。
「んと、媒体ってのは二つあるモノを媒介すること。簡単にいうとあるモノとあるモノなかだちする、みたいな感じかな?」
「「おー」」
「お前ほんと便利だな」
「褒めてくれるのは嬉しいけど、人を物みたいに言わないでくれる?」
「すいません、ごめんなさい」
怒られた。怖い。凄く怖い。
「あーもう、分かんねえよ卵! つまり簡単にどういうことなのさ!」
「このせかいでいうとばいたいはこれです」
そう言って卵はピコピコと点滅するアンテナを雪奈に向けた。
「これって……、たまごちゃん? 私には冬月雪奈って名前があるの。ちゃんと名前で呼んでくれるかな?」
「おおーこれはしつれいしましたふゆつきゆきな。つぎからはちゃんとふゆつきゆきなとおよびしますので」
「……ねえ、ハル。このたまごちゃん私を馬鹿にしてない?」
「あ、やっと気がついた? 俺もねーずっと思ってたんだよ、良かったー共感してくれる人いて」
「ばかになどしておりませんぞふゆつきゆきな」
「……長いからゆきなちゃんでいいよ」
「……ぷっ」
「なんで笑うの?」
「“ちゃん”ってガラじゃないだろ」
グーパンが飛んできた。
「いってぇ! たまご、お前のせいでまた殴られた! ほら見ろここ、血ぃでてんじゃん血! お前のせいだぞ!」
顔じゃなくて肩とかにしては頂けないだろうか? 切にそれを願う。
「おおーゆきなちゃん。ごしゅじんをいじめてはいけないのですよ」
「いいのたまごちゃん。ハルに分からせるにはこれが一番手っとり早くて効果的なの」
雪奈のスゴ味で完全に委縮する卵と俺。
どうやって育ったらここまで暴力的になるのだろうか。
やっぱりお父さんがターミネーターで手塩掛けて箱入り娘として育てたからなのだろうか。
ターミネーターの血筋なのだろうか。
恐るべし冬月家。
「それで? 媒体が私ってどういうことなのたまごちゃん」
「そのままのいみですが?」
おーっと、雪奈の額に青筋が浮かび上がるぅ! すっげーピクピクしてるぅ!
このクソ卵も学習しないなー、マジでそろそろ殴られんぞお前。
「ていや!」
「へぶぽッ!?」
腹にキック食らった。
ありがとうございます神様。
顔は避けてくれたのですね。感謝します。
でも痛いので今後こーいうの無しの方向でお願いします。
「なん……で、俺……?」
完全に不意打ち。息が出来ない。苦しい。
「ごめんハル、なんとなく」
俺を見る目が全く謝っていない。
蔑む目がたまらんほどに痛い。
「うん。大体分かった。これは私の夢の中。そしてハルがそこに入り込んできてる。そういうことでしょ?」
「おおーそうですだいたいあってます!」
俺は気がつかれないように雪奈から少し遠ざかる。
この卵は地雷原だ。
しかもセルフで起爆するやっかいこの上ないシロモノ。
そして起爆すればもれなく俺に被害が及ぶ。
なんとかせねば……。
「でも、どうやってハルは私の夢に入り込んできたの?」
「おおーそれはいりぐちからです。いまいるところよりだいぶふかいところからです。ここはいりぐちもなく、いろいろなかんじょうがまさるところなのです」
「深いところ?」
「そーです。ゆきなちゃんのしんそうしんりから、ごしゅじんはこのせかいにはいりました」
「えっ、なにそれ。ハル、私になにしたの?」
「いやいやいやいや、なんにもしてませんって。マジで。これマジ!」
雪奈の鋭い視線に思わずたじろぐ。
しかし本当になにもしてない、した覚えなんかない。
嘘をついていないのを悟ったか、雪奈は卵に視線を戻した。
ほっと一息。
「たまごちゃん、それはどうやって入るの?」
「ゆきなちゃんははいれません。せいかくにいうと、ゆきなちゃんはこのせかいそのものなので、はいりようがありません」
「つまり、ハルは私の中に入っているということね」
「さっきからなんか色々とエロいな」
俺が言った意味を理解したのか、顔を真っ赤にして雪奈はにらみつけてきた。
俺にはこの次の展開は予想がついた。
こいつ絶対殴りかかってくる。
ほーら、殴りかかってきた! ゆきなちゃんマジ単純!
ここまでは予想通りだ。そう何度も殴られてたまるか。
俺は間合いに入って先に出る足に注意する。
雪奈が踏み込んだのは左足。
つまり右拳が飛んでくる。
甘い。チョコレートパフェのように甘いぜ。 流石の俺も三度目はない。
振りかぶってから放たれる、弧を描くような軌道のパンチ。
それを俺は上体を反らし、スウェーで交わす。
当たると確信して放った右拳は空をきり、雪奈は大きく体勢を崩した。
この好機を逃す俺ではない。
復 讐 す る は 我 に あ り ッ !!
おしおきの時間だべ~。
このまま足を掛け、完全にバランスを崩させ押し倒し制圧する。
男が女に手を挙げるのはどうかとは思うが……、忘れてはいけない。
こいつは鬼なのだ。悪魔なのだ。
雪奈の服を掴み、足をかけようとする最中、予想外なことに雪奈は地面を蹴って空中に身を投げた。
そして全体重を掛けた右腕を軸に、猫のようにくるっと一回転。
遠心力を得た雪奈の左踵は一切の手加減もなく俺の脳天に直撃する。
俺は勢いよく地面に叩きつけられ、のびた。
こいつの戦闘力桁違いなんですけど…………。
「ご、ごしゅじんー!?」
「たまごちゃん、いいの。これはしつけなの。それより話を戻しましょう。ややこしい話だけど、まとめるとこの世界は私の夢の中。そして今いるところより深い場所に入口がある。ハルとたまごちゃんはそこから入ってきた。そういうこと?」
「だいたいそういうことです」
「……分かった。ちょっと抵抗はあるけど……、試さない訳にはいかないよね」
雪奈はちょっと渋った様子だ。
そして這いつくばる俺を見る。
「ハル、いつまで寝てるの? 持てる情報は多い方がいいでしょう、さっそく試してみて」
誰のせいでのびてると思ってるんだよ……。
こいつマジ鬼、マジ悪魔。
ご無沙汰しております。独楽です。
毎週更新とか出来ないこと言っちゃダメだなーって思います。
しかしながら、そろそろ本気だそうかと常日頃から思っている次第であります。
でも出来ないんだよねー、意思弱くて笑えてくるレベル。
きっと明日から本気出します。多分。




