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黄昏の追憶 4

 卵は俺達の剣幕(主に雪奈)に押され、ひっくり返ってくるっと一回転したのち、テーブルの隅で怯えていた。

 雪奈はというと正面で片肘付いてそっぽ向いている。


 深いため息が出た。

 こんなことをしている場合ではないのだ。

 アキがこっちにこなくなり、その数日後に雪奈に出会った。アキが来なくなってもう一週間ほど経っている。

 マンネリ化しつつあるこっちの世界に飽きたか、現実のほうで問題が発生したか……。

 恐らく前者はない。

 俺の状態とこの置かれている状況、こういう場合大暮秋広という人間は間違いなく支えてくれようとする。

 たとえどんなに退屈であろうと、たとえそれが俺でなくても、そういう奴がいれば誰だってそうする。アキはそういう奴だ。

 となると考えられるのが後者。

 バイクの件が何か関係していると思い、事故のあった場所へ足を運んではみたものの、ちっとも手がかりなしの進展なし。

 得たものといえば重度の精神的疲労とこの訳の分からない卵みたいなアキの携帯……。


 ――アキの携帯ッ!?

 そういえばこの卵はアキの携帯だった。

 自分のまぬけさに絶望する。俺は本当にぼけーっとしているのかもしれない。


「なあ、卵。なんでアキはこっちにこなくなったんだ? お前は何か知らないのか?」


「“あき”とはなんですか? さんまのきせつですか?」


 そーいえばこの卵と会話したのは初めてかもしれない。

 前にも話しかけたけど無視された記憶がある。


「そっちの“あき”じゃなくてだな……。あー、つまりお前のご主人だよ」


「ごしゅじんならぼくのとなりでねてますが?」


「……? 隣でって……」


 卵はテーブルの上にいる。もちろん隣にアキはいない。


「どういう意味だ?」


「そのままのいみですが?」


「カチ割るぞ卵」


「ぴーーーー!!」


「もう、よしなよハル。怯えちゃって可哀想でしょ」


「絶対こいつ俺を馬鹿にしてるだろ」


「馬鹿なんだからいいじゃん」


 あー、なるほどー。

 こいつじゃなくて“こいつら”俺を馬鹿にしてるが正解だったかー。


「ねえたまごちゃん。隣ってもしかして現実のほうなのかな?」


「げんじつ?」


「そう、現実。君が大暮君の隣で寝てるっていう世界はここじゃないところでしょ? そっちを現実っていうの」


「ちなみに言っておくと、おおぐれってのはアキのことな」


 念のため補足しておいた。『大暮ってなんですか?』とか言いかねんからなこの馬鹿卵は。

 そして卵は頷き、顔? をうつむかせ悩み始めた。


「じゃあこっちはなんていうのですか?」


 身体を傾かせ卵が問う。その問いに対し俺たちも顔を傾げる。

 この世界は何なのか? ぶっちゃけなくても俺には分からない。最近こっちに来れるようになった雪奈はなおさらだ。


「んー、……夢?」


「が妥当なとこだろうな」


 結局のところこうなる。

 アキと雪奈は寝ているときにこの世界に入ってこれる。

 そう考えると夢って答えに行きつくのは当然だった。 


「なるほどー。ゆめかー」


 豊かな仕草で卵は自分の感情を表現する。

 ぴょんぴょん跳ねたり、回り転がったり、アンテナを点滅させたりと多様に。

 何故だかその仕草全てに苛立ちを覚える。


「ならばぼくはゆめがすきかもなのです。ぼくの“いし”を“こ”としてしゅつりょくできるのはここだけなので」


 予想外の発言に言葉を失う俺と雪奈。

 いし? こ? え、なに? よくわからない。

 それに構うことなく卵は続ける。


「ぼくはごしゅじんの、さらにいうとごしゅじんとばいたいの“いし”によりそんざいし、“いみ”をあなたたちのいう“げんじつへかんしょう”させるだけのたんなるでばいすなのです。とはいってもごしゅじんはずっとねむっているので、いまのぼくは“ばいたいのでばいす”でしかありませんが」


「……えっと、どういうこと?」


「いったとおりのいみですが?」


 雪奈はうーっと唸り、頭を抱えた。

 俺はなるほどねーといった感じで頷く。もちろん意味不明だがなんとなく雪奈に対し対抗心を燃やし知ったかぶった。

 ほどなくして体中から汗が噴き出た。

 卵の言ったことはほとんど理解出来なかったが、一つだけ理解出来た言葉がある。

 現実へ干渉、と卵は言った。


 つまりやっぱり電柱ブチ折ったの俺じゃねえか!!

 いや、でも運転してたのアキだし、俺主犯じゃないし、むしろ巻き込まれた被害者的なポジションな訳で……。


 そうこう考えて俺も頭を抱えた。

 ミラーボールのようにアンテナを点灯させクルクル回る卵と頭を抱えうつむく俺と雪奈。

 民家の屋根には口をパクつかせ時折羽ばたく知らないおばちゃん。

 はたから見れば異様な空間がそこには出来上がっていた。




 前知識も無くこれを書き始めた私ですが、先日ようやくプロットというものを知りました。

 いまさら感がパない……。その日の直感で書いていたなんて言えない……。


 読んで頂き誠感謝であります。

 良ければ次話も宜しくお願いします。

 毎週末更新目指してがんばろー(白目 

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