第四話 弱者に対する仕打ち
俺達はスラム街を離れ、冒険者や行商人が使うような宿屋へ入った。
「ここなら私達でも使用できるのよ」
とはキッカの言葉。
まあ、それは良い。
個室を取り、湯を借りて汚れた体を洗うのは当然。
だがな、それは元々俺の金だぞ?
それをさも自分の金のように使う様を見せ付けられた俺はどう反応すれば良い?
「ごめんね」
俺の心情を察してくれたのかクロスはそう耳打ちする。
ちなみに現在俺達は全員で宿が経営している入浴施設へと足を運び、俺とクロスは終わったのだがキッカとアイラ、そしてユキはまだ出ていなかった。
女は長風呂というのはどこの世界でも共通なのかもしれない。
「いや、クロスが気にすることではない」
俺は気を遣わせまいとばかりに首を振る。
「むしろクロスには感謝している」
実際俺を助けてくれたのはクロスだけだった気がする。
思えばユキにはパンを取られ、キッカには罵倒され、挙句の果てにはアイラから身代わりにされかけた。
散々な目にあったが、これも意味のあることだと思い込もう。
ゲームの世界とはいえ英雄と関わり合うことが出来たのだから一種のお布施と考えるか。
……そう納得させないと、少なくともアイラと一緒にやっていけないな。
「ふう、さっぱりしたわ」
そんなことを暗示させているとドアが開き、リラックス表情のキッカが顔を出す。
「やはり入浴は大事よね。溜まっていた濁りを全て洗い流されたようで心が軽いわ」
「……気持ち良い」
後から入ってきたユキも湯気を出している。
入る前よりわずかに表情が緩んでいることから満足気味そうだ。
が……
「アイラはこの状態でも顔を隠すのだな」
「……」
入浴前と全く変わらない姿形に俺はため息を漏らすしかなかった。
「まあ、本題を始める前に」
全員が揃ったので、明日以降はどうしようかと話し合おうとした矢先に俺がそう口火を切る。
「まずアイラ、お前は俺に謝れ」
俺はアイラに指を指しながら詰問する。
「状況的にあれが一番だったのは認める。だがな、それでも何事も無かったかのように平然とした態度を取られると腹が立つ。だから謝れ」
「……」
聞いているのかいないのか、黒頭巾で顔を覆っているのアイラからは何も読み取れないが、こちらを向かないので少なくとも謝罪する気は無いのだろう。
「だからな――」
その態度に俺はますますイラつき、より強い言葉で弾劾しようとすると。
「……ユウキ、アイラに何を言っても無駄」
ユキがそう止めに入った。
俺は何のつもりかという視線を受けたユキを言葉少なく。
「……アイラは可哀想な子」
とだけ言う。
何が可哀想なのか首を傾げる俺に対しクロスは少し遠い目をしながら。
「アイラは徹底的に感情を削られたからね」
クロス曰く、代々メタロス家の裏側を担ってきたミドガルド家は文字通り影として仕えることを求められたという。
「……薬物、洗脳当たり前。真の暗闇に長時間閉じ込めて精神を崩壊させることも日常茶飯事」
「アイラが最後に笑ったのは何時だったかな? もう思い出せないよ」
ユキとクロスの言葉に俺は絶句してしまった。
アイラはクロス達と同じ十二歳と言う。
そんな年齢が壮絶な環境にあったことをどう受け止めれば良いのか俺にはわからなかった。
「……」
ドアのすぐ近くで佇むアイラ。
一体彼女は今、何を考えているのだろうか。
「? 何でユウキが悲しそうな顔をするの?」
ここでキッカが俺にそんな質問をする。
「ユウキとアイラは無関係でしょ? だからあんたが苦しまなくてもいいと思うけど」
「……俺のいた国では、人間は皆平等だと教え込まれていた」
キッカの言葉に怒りを感じたが、そのままぶつけても仕方あるまい。
そう判断した俺は日本という国の常識について話し始める。
「人間は物じゃない。誰だって泣き、笑い、そして楽しむ感情を持っている」
「ふーん、そんな国って国という体裁を保てているの?」
「ああ」
俺は頷く。
「少なくともアイラのような人間は一人もいないな」
幼い頃から洗脳教育なんて。
ふざけているな。
「で、それであんたは何が言いたいの?」
俺の意図を察したのか、それとも単に面倒くさくなったのか分からないがキッカは本題を促す。
「アイラを人間として接してあげられないか?」
俺は言葉を重ねる。
「何も突然変えろというわけではない。まずは誰に対しても挨拶したり、共に食事を取り、団欒の場でアイラにも話題を振ればそのうち元に戻る。
不幸中の幸いとしてアイラはまだ十二歳。
更正の可能性は十分にあった。
「不許可」
「えっ?」
あまりにもあっさりとした拒否に俺は目が点になる。
「残念だけど私達はそんなことをしないし、するつもりもない。何故ならやる意味が分からないから」
「意味はあるだろう。前にも言ったように人間は認められることで自身の力を何倍にも増幅するのだぞ」
「で、その代償として働きにムラが出てしまうと。不安定になってしまう愚は冒したくないわね」
「だから! その発想がおかしいんだ!」
俺は怒鳴る。
「キッカは人を部品としてしか見ていない! キッカの中には赤い血が流れているようにアイラもユキもクロスも同じように流れているんだ!」
「ふうん、そう」
俺の怒りをどう受け取ったのかキッカは唇の端を歪める。
「残念ながらあんたの考えは異端よ。普通に奴隷制度が存在し、国も認めている。これが世界の常識よ」
「……うっ」
この世界の常識といわれて言葉に詰まる俺。
郷に入りては郷に従えというように、その国の文化がそうなのであれば部外者の俺がとやかく言うべきではないかもしれない。
「何でそこで黙るかなぁ?」
キッカは俺に向かって大仰にため息を吐く。
「ユウキが本当に嫌だと思えば変えれば良いのよ。それこそ世界を敵に回してでもね」
キッカは事も無げに言う。
「ユウキが今の国の風習を受け入れられない、だったらその国の風習を変えれば良いだけよ。それこそ力を使ってでもね」
「そんな真似が出来るか、あくまでお互いを尊重しあわなければならな――」
俺は間違ったことを言ってない。
浮浪者だろうが王様だろうが始めは女性から生まれ、何かを食していずれ死ぬ。
そのサイクルは万人に共通なはずだ。
だが、何故だ?
何故俺はキッカから白い目を向けられる?
「あんたは宗教家?」
軽蔑を隠そうともしない口調で俺に尋ねるキッカ。
「そんなお題目を信じているのは人畜だけよ」
その強烈な言葉に俺は顔を歪める。
「言ったでしょう? この世界は力が全てだと。武力金力権力人力何でも良い、力を駆使して己の望みを叶えなければ負けるわよ」
「だが――」
俺は尚も言葉を重ねようとしたが、鳩尾に強烈な打撃が入ったので目を白黒させてしまう。
キッカに蹴られたと知ったのは五秒後だった。
その間俺は息が出来ない地獄の苦しみに床に膝を着いていた。
「分かったでしょう、あんたの今の立場を」
俺を見下ろすキッカの目は冷酷だ。
本当に十二歳かと思ってしまう。
「対抗する手段の持たない今のあんたは私に蹴られても反撃できないのよ。どう? 理不尽でしょう? これが弱者。何をされても俯き、耐えることしかできないのよ」
キッカの言葉が俺に突き刺さる。
キッカは間違ったことを言っていない。
この世界の代表としてそう宣言しているんだ。
ならば俺はどうする?
素直にはい、そうですかと従うか?
そうすれば後は楽だ。
世界はそんなものだと認めればこの苦しみから逃れることが出来る。
が……
「あくまで抗うのね」
立ち上がった俺の目を見たキッカは満足そうに笑う。
残念ながら俺はこの世界の常識とやらが受け入れられないようだ。
こんな目に会ってまでもなおも立ち上がろうとする俺の頑固さに内心苦笑を隠せないな。
「あんたが何をしようと勝手だけど、私達の団結を壊すような真似だけは止めてよね。それさえ守れば私からは何も言わないわ」
少なくとも今は世界の常識に従えということか。
分かった。
本当はすぐにでも反抗したいが、そんなことをしても自分の立場を苦しめるだけで終わる。
自分が何も出来ない弱者であるうちは大人しく従うしかない。
「これが弱者……」
何を言おうとも聞き入れられてもらえず、あまつさえ殴られてしまう。
力が欲しい。
俺が正しいことを証明できるだけの力が欲しいとこれほどまで強く願ったことはない。
「俺は……守られていたんだな」
今更になって気付く真実に俺は涙を流した。
「はあ……」
昼食を終えた俺は宿屋を出、噴水近くのベンチに腰を下ろす。
キッカはアイラと共に今後の方針を練り、クロスは鍛錬。そしてユキはどこかをふらふらするなど各自自由な時間を過ごしていた。
キッカから受けた冷たい宣告から二ヶ月。
俺はキッカ達から離れることなく行動を共にしていた。
ちなみにキッカ達は未だにこの街へ滞在している。
「次の募集が出るまで私達は待機よ」
とはキッカの談。
傭兵稼業は常に人手不足らしく募集には事欠かないが、女で子供でも大丈夫な条件となると一気に限られてくる。
あの時、苦心してようやくその募集を見つけたのは良いがユキの脱走によって保留となり、残された三人全員でユキを探し回っていたそうだ。
……そりゃあキッカが怒るよな。
もし俺がキッカの立場であってもユキを怒鳴りつけていたかもしれない。
「ふう……」
俺は空を見上げる。
正午を告げる鐘が鳴ったばかりのせいか少し太陽がまぶしい。
小鳥もしくは木の葉でも舞ってくれれば良い詩が生まれそうな気がするのだが、生憎とこの場所では自然なものなど欠片も存在していなかった。
さすが中世ヨーロッパを模した世界。
こういったところまで忠実に再現しているな。
「あら、ユウキじゃない」
俺はそんなことに感心していると横から声をかけられる。
その凛とした声音の持ち主は俺の知る限りだと一人しかない。
「キッカか。アイラと共にいないなんて珍しいな」
「アイラは情報収集の役目があるから四六時中一緒にいるわけじゃあないのよ」
腰に手を当てて呆れたようにキッカは呟いた。
「で、あんたはここで何をしているの?」
キッカは俺の隣に腰を下ろしてそう聞いてくる。
「別に、ただ孤独を味わっているだけだ」
「へえ、どうして?」
「自分を保つためだ。こうして俺は俺の存在を確認している」
朱に交われば赤くなるという諺の通り、この世界の常識は異世界人である俺に取って到底受け入れ難いもの。
しかし、その反発心が日が経つとともに失い、この世界の常識に染められていっているのを実感している。
奴隷が当たり前に存在し、人を人とも思わない世界。
その事実を受け入れることは俺にとって相当恐ろしいことに思えた。
「だからこうして一人の時間を作って気を休めるんだ」
誰とも接しない一人の時間。
この時間があることによって俺は俺であり続けることが出来た。
「ふーん」
納得したのか、それともどうでも良いのか。
キッカは一つ頷いただけで、この話題にこれ以上突っ込んでこなかったが。
「怒っている?」
「何に?」
キッカは別の話題を振ってきた。
「あの時、宿屋で痛めつけたこと」
「ああ、それか」
ようやく合点が言った俺は苦笑する。
「キッカに対してはもう怒っていない」
キッカから教訓を受けた際には殺意すら覚えたものの、そのことについてはもう気持ちの整理がついた。
アイラに奪われた金は返してくれたし、金が要り用の際はしっかりと俺に確認を取り、断りの意志も尊重してくれる。
他にもユキやクロスが俺を異物扱いせずにちゃんと接してくれるのは嬉しい。
時々意見の違いからかキッカ達と衝突することはあるが、それでもいきなり力に訴えず話から始めてもらえるのは有難かった。
今のところ大きな不満はないというのが俺の正直な感想だ。
「何が含みのあるような言い方ね」
キッカの問いかけに俺は肩を竦めながら続ける。
「俺が怒っているのはこの世界の常識だ」
弱者に対する風当たり。
奴隷を当たり前に認める社会。
そして人を人をも思わない市民の態度に俺は怒りを覚える。
「このままで済ますつもりは毛頭無いな」
俺は決意を込めてそう宣言すると。
「そう、なら良かった」
キッカが安堵のため息を漏らしたような気がした。
「さて、これからどうするの?」
キッカは腕を頭上に伸ばしながらそう聞いてくる。
「私はこれからアイラと話し合うけど、ユウキは何するの?」
「俺か? 俺はまた金づるを探しておく」
キッカの問いに対して俺は両腕を後頭部にのっけながら答える。
今、俺がやっているのは、現代日本であった製品をここで再現して利益を得ることが出来ないか模索している最中。
俺はごく普通の高校生だったため、どこぞの漫画に登場するようなチート機能など存在していない。
ただ、この世界には無い知識を持っているのは確かなので俺はそれを生かし、安定的な収入を得たかった。
「隠れて何かをやっていると思えばそんなことをしていたのね」
「これは俺の問題だからな。キッカ達の手を煩わせたくなかった」
「その心がけは正しいわね。もし尋ねて来ても一笑に伏していただろうし」
「やっぱりか……」
キッカ達に黙ってやっていたことは正しかったと俺は安堵する。
「で、その成果は?」
キッカの問いかけに首を振る俺。
「全然、作っては奪われて作っては複製されるの毎日」
一度職人に頼んで靴や衣服を作ってもらい、販売して当たったのは良かったが、欲に目がくらんだその職人は俺に報酬を渡さず、それどころか俺を盗人呼ばわりして騎士団につき出そうとしてきた。
「今街で流行っているスカーフや長靴、あれは元々俺が発案したものなんだけどなあ」
もし職人が約束通り報酬を渡していれば俺は今頃浴びるほど金貨を手に入れていたのに。
しかし、現実はその職人の懐を潤し、その財力を使って多くの職人を雇って作って莫大な利益を得ているとか。
今ではその職人はちょっとした成り金として歓楽街で有名だとか。
「あれは一生忘れられないな」
己の周りに多数の女を侍らせながら酔っ払っているその職人を見た俺は悔しさに歯噛みし、どうしてこうなってしまったのを考えた結果、他人に頼るから駄目なのだと結論づけた。
「本も大失敗」
そして次は独力で出来る本作りを目論み、“赤ずきんや”“三匹の子ブタ”を思い出しながら書いて売ってみた。
さすが世界の名作だけあって当初は飛ぶように売れ、俺もどんどん新作を発表していたのだが、ここでも邪魔が入る。
何とカリギュラスにおけるスランプ中の大作家が俺の作品を盗作だと騒ぎ出した。
無論俺は反論したが一介の浮浪児の意見など誰も聞く耳持たず、うやむやの内に俺が悪人とされてしまった。
売り上げ金を全額取られたばかりか俺は盗人というレッテルを貼られ、二度と出版が叶わない身となっている。
「ちなみに騒いだ大作家はとある官吏の目に留まり、相談役として政治に口出ししている」
俺はやけくそ気味に吐き捨てる。
「何だよこの世界は」
俺は肺の空気を全て出す程息を吐き出しながら心情を吐露する。
「どれだけ訴えても誰も守ってくれないし、耳を貸そうともしてくれない」
弱者は辛いとキッカから聞いていたが、それが想像以上であることを痛感する。
努力や成果を正しく評価することがどれだけ素晴らしいことかを今更ながらに思い知る。
唯一の救いは、今まで発案した全てが俺自身が作り出したものでないことだな。
だから奪われても仕方ないとまだ納得させることが出来る。
が、さすがにこう立て続けに成功を奪われると頭にくるものがある。
発案はともかく、市場調査やサクラの仕込みそして売り込みなど売れるための苦労はしているし。
「金がどんどん目減りしているのを確認するのも辛い」
それに加えて今、この瞬間にも金欠という死が迫ってきているのにそれを遠ざける手段が無い。
真綿で首を締め付けられるような恐怖がじわじわと近づいていることを日に日に感じ取っていた。
「あんた馬鹿?」
「え?」
キッカが鋭く言い放つ。
「何そんな自分は不幸ですっていう顔をしているのよ」
「辛気臭い顔にもなるだろう、ここまで努力しておきながら――」
「だからそれが馬鹿」
「どういうことだ?」
キッカの言葉の意味が分からず眉根を上げた俺に対し、キッカは鼻を鳴らしながら。
「ユウキ、私達は今最底辺にいる。それは理解している?」
「認めたくないがな」
「いいえ、今のユウキは認めていない。心の奥底で平等だと盲信している節がある。だからそんな『ここまで努力しておきながら』という言葉が出てくるのよ」
「……」
キッカの言葉に耳を澄ます俺。
「ユウキ、よく聞きなさい。私達弱者は奪われて当たり前、舐められて当然。正しい評価をしてもらうこと自体が稀なのよ」
「それは不公平過ぎではないか?」
俺が不満を口にするが、キッカは当然だとばかりな顔で頷く。
「その通り、それが弱者の立場。弱者は最後の一滴まで強者に絞られ続けることが運命ね」
力の無い者は人間の尊厳どころか、成功することすら許されない。
その悲惨な現実に俺は黒い感情に心を支配されそうになる。
「じゃあどうすれば良い? 弱者はずっとその場に甘んじろと言いたいのか?」
半ばやけくそ気味に俺は吐き捨てるがキッカは至って涼しげな様子だ。
「絶対に負けないこと」
そのキッカは続ける。
「何が起きようともめげず、挑戦し続けていればいつか必ず好機が訪れる。その気配を感じ取り、掴むことが出来れば奪われる立場から脱出出来るわ」
「好機が来なかったら?」
「そんなことをほざく者にチャンスなど一生訪れないわね」
俺の疑問を一刀両断に叩き切ったキッカは一転して笑いながら。
「安全を得たいのなら良い方法があるわよ。それはありのままに認めれば良いの。この世界は弱肉強食で、自分は喰われる立場だと認めれば楽になるし、運が良ければ生きることだけは出来るわね」
「キッカ……俺がそれを是とすると思うか?」
キッカの巫山戯た提案に声音を低くする俺。
生きるために人間の尊厳を捨てる?
本末転倒も良いところだろう。
俺は俺らしく生きたいがために安全な暮らしをしたいのであり、安全な暮らしのために俺を捨て去るなど出来るはずも無い。
「良い表情になったわね」
キッカは俺の前に立って瞳を覗き込みながら感嘆する。
「良い? ユウキ。私やあんたは情けない表情を誰かに見せては絶対に駄目なのよ」
キッカは続ける。
「弱味を晒すと私達を信じてくれている人達が不安になる。だから私はアイラにさえ悩む顔を見せないわ」
「キッカは強いんだな」
十二歳の少女とは思えない発言に俺は感嘆する。
するとキッカは唇の端を吊り上げて。
「別に、これが上に立つ者の務めと習っただけよ」
「習ったからすぐに実践出来るわけではないのだがな」
もしそんなことが可能なら大学教授は最高指導者になれる。
「まあ、褒め言葉として受け取っておくわ」
そう言ったキッカは踵を返し、手をヒラヒラ振りながら最後に。
「私からアドバイスを送るとすれば。あんたが成そうとしていることは『人は皆平等』という常識を『力が全てを決める』が常識な人々に強要させようとしているのよ。思想を変えることは私のメタロス家の再興と比較にならない程難しい。私から喝を入れられる程度じゃまだまだね」
それじゃあ、頑張ってね。
と、キッカはそう言い残して去った。