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第三話 英雄の卵


 もう閉店時間だということで俺は外に出る。

 だいぶ中で時間を使っていたらしい。

 俺が入った際には日が高く昇っていたのに、今は辺り一面が真っ赤な夕焼けに赤く染められていた。

「さて、もう良い時間だから飯でも食おうか」

 昼に食ったものがすでに消化されていたので、繋ぎとして何か手頃な物でもないかと探すのだが。

「……何でこの世界は黒パンしか売っていないんだよ」

 生憎と大麦で作られた黒パンしかなかった。

「……メロンパンやアンパンが食べたいなあ」

 俺はそう心中で涙を流しながらボソボソした黒パンを口に運んでいた。

「……ん?」

 一つを食べ終えて次のパンを食べようとした時、隣から視線を感じる。

「じーっ」

 見つめる様子を声に出しているちっこい青髪の少女。

 煤だらけのローブをと草臥れた魔女帽子、そして手に所々が剥げた杖を持っている様子からおそらく魔法使いに憧れた少女だろうと察した。

 涎を垂らしながらパンをがん見する様子は微笑ましく思え、、憎めない子だという印象も与える。

 ためしにパンを左から右に移動させると、魔女っ娘の視線も釣られて動いた。

「もしかして食べたいのか?」

 俺がそう尋ねると魔女っ娘はコクリと頷く。

 その様子が何とも微笑ましく、俺は苦笑しながらパンを差し出した。

「……ありがと」

 言葉こそ小さくて聞き取りにくいものの、ちゃんとお礼が言える辺り立派だろう。

「--って、おい!?」

 俺の予想ではそのまま去る、もしくは隣のベンチに座ると踏んでいたのだが、なんと魔女っ娘は俺の膝の上に座った。

「……?」

「首を傾げないでくれ」

 顔をこちらに向けて上目遣いにそんな懇願する視線を浴びせられたら俺は何も言えなくなるだろうが。

「俺ってロリコンだったのかなあ?」

 まさか十二歳の小学生に心を動かされるとは。

 考えたくも無い可能性に行き当たり、俺は黄昏る。

 が、物思いにふける時間はそう長くなかった。

 それは彼女が食べ終わったからで無く、遠くから鋭い声音が響いてきたからだった。

「ユキ=マルフェイス!」

「……ビクっ」

 わざわざ声に出して驚きを表現するユキ。

 うーん、可愛いなあ。

 が、俺はそんなまったりする時間は一瞬で終わる。

 何故なら十二歳である今の俺とそう変わらない年齢の少女が腰に手を当て、ゆっくりと迫ってきたからだった。

「あんたのおかげで私は最大のチャンスを逃したわ。その責任を取ってもらうわよ」

 その少女は赤い髪を無造作に伸ばし、顔も薄汚れているがどことなく気品がある。

 錆びたナイフと継ぎはぎだらけのレザーアーマーに身を通したその少女は瞳に怒りの炎を燃やし、近寄り難い空気を発していた。

「……いや」

 その少女はユキの手を引っ張って連れて行こうとするが、ユキは俺の体を掴んで行きたくないとアピールする。

「……キッカ、止めて。私は痛いのは嫌」

 どうやらユキの腕を引っ張っている少女の名はキッカというらしい。

「何を言ってんのよ! それでも私の臣下なの!」

 物凄い剣幕でユキを叱り付けるキッカ。

 彼女は瞳に怒りを浮かべながら。

「あなたを含め、アイラやクロスはこのキッカ=バロットイック=メタロス家の従者でしょう! 主の命令に背けば罰が下るのは当り前よ」

「……でも、あのまま傭兵募集に参加しても実戦経験のない私達が外に出て戦うなんて無理。あっという間にやられちゃう」

「……」

 ユキの言葉にキッカも思うところがあるのだろうか。

 ギリっと歯を噛みしめるだけで反論しない。

「……キッカ、もう少し落ち着こう」

 ユキが言葉を重ねる。

「……家が没落し、使用人含めて全員が路頭に迷ったのはキッカのせいじゃない」

 そしてユキはそっと目を閉じて。

「大丈夫、家はきっと再興する。私達三人もキッカから離れない。だから命を捨てるような真似だけは止めて」

「ユキ……」

 ユキの言葉に何か思う所があるのか俯くキッカ。

 これはお咎めなしかと思いきや。

「それとこれとは話が別よ。早く行くわよ、ユキ」

「……お願い、止めて」

 残念ながらキッカは年齢に合わず、相当厳しかった。

「まあ、英雄の卵なのだからこれぐらいは当然か」

 十二歳前後の歳にも関わらず焼け付く様な苛烈性と気迫。

 俺やその他一般人とは心構えが大きく違っている。

 赤い髪の少女――キッカ=バロットイック=メタロス。

 その全てを焼き尽くす激しい性格によって敵はおろか味方にすら恐れられた戦乙女。

 キッカが撃墜した竜騎士の数は三桁に達しているとされている。

 そして青髮の不思議系少女はユキ=マルフェイス

 そして無口で無愛想な性格とは裏腹にその容赦なき魔法によって数多くの敵を葬った魔女。

 一説によるとユキが出陣すると聞いたたけで脱走する敵兵が後を絶たなかったとか。

 他にもクロスやアイラの名前も知っている。

 ここまで条件が揃えば疑う余地はないだろう。

 英雄と出会えたことに俺の気分は高揚した。

「ユキ、その無関係の人を離しなさい。そんなにくっつかれちゃ迷惑でしょ」

 そうこうしている間にもキッカはユキを連れて行こうとする。

「……キッカ、彼は無関係じゃない」

 キッカの弱音にユキは言葉少なく励まし、 そして俺を腕ごと引き寄せて。

「……彼は最高の支援者」

 予想通りというか俺に振ってきた。

「ユウキ=カザクラ、どうやら支援することになっているらしい」

「はあ、どういうこと?」

 事情を呑み込めていないキッカは呆れ声を出す。

「……私達が絶対的に足りないもの、それは資金。もっと装備にお金をかければそこら辺の賊なんかに負けるはずがない」

「それはまあ……そうだけど!」

 キッカが唸る。

「こんな餓鬼に金なんてあるわけが無いでしょう」

「まあ……普通はそう考えるよな」

 俺もキッカの立場ならそう言ってしまっただろうから苦笑する。

 だが、それでも頭にくるものがあるのは事実なので。

「俺もお前が騎士の家系なんて信じられない」

 そう嫌味を言ってやった。

「……あんた何て言った?」

 案の定、俺の発言に目を剥くキッカ。

 元騎士の家系というならこれぐらい流して欲しかったが、キッカはまだ子供だということを思い出す。

 体は子供だが、精神は十七歳なんだ。

 その俺がキッカと口論するなんて年長者として恥だろう。

 なので俺は謝ろうとしたが。

「殺してやる!」

「おわあ!」

 何とキッカは突然腰に差した短剣を抜き取って俺に斬りかかってきた。

 後ろに倒れ込むことで避けられたものの、狙った個所は首筋だったがゆえにキッカは本気で俺を殺しに来たのだろう。

「な、な、一体何だ!」

 少し皮肉を言ったら命を狙われた。

 そんな事態を呑みこめず、俺は混乱する。

「死ね!」

 そして尻もちをついている俺はキッカの次の動作に反応できず、ただ見ていることしか出来ない。

 すると突然景色がスローモーションとなり数々の記憶が蘇ってきた。

 ああ、これが走馬灯なのか。

 俺はそれに懐疑的だったが、実際に体験するとそう言ってられない。

 ――これで終わりなのかな?

 ゆっくりとした動作で迫ってくるキッカの短剣を視認しながら俺はそんなことを思っていると。

「……だめ」

 間一髪、ユキがキッカの腕を取ってくれたおかげでその短剣が振り下ろされることは無かった。

「離せ、離しなさいユキ!」

 邪魔をされたキッカはユキを振りほどこうとするが、ユキは頑として離さない。

「……キッカ、落ち着いて。今ここで騒ぎを起こすわけにはいかない」

 ユキの言葉に周りを見渡すと、確かにちょっとした人だかりが出来ている。

 このままだと警備隊が現れるのも時間の問題だろう。

「う……」

 そのことに気付いたのかキッカの瞳に理性の色が浮かんだ。

「ちっ」

 そして舌打ちを一つしたキッカは黙って俺に背を向けた。

 そしてそのままずんずんと歩いていく様子からもう俺のことなどどうでも良いのだろう。

「助かったのか?」

 そう呟くと同時に俺の体に震えが走り始める。

 命を狙われた恐怖が今になって俺を襲い、足腰を立てなくしていた。

「……ユウキ、ごめんね」

 俺の背中を撫でながらユキは慰める。

「……まさかキッカが有無を言わせず短剣を振り回してくるなんて思わなかった」

 ユキの話を聞きながら俺は傍にあったベンチに腰掛ける。

 深呼吸を二、三回するとようやく震えも収まってきた。

「……本当にお願い。キッカともう一度だけ話をしてあげて」

 ユキは俺の隣でそう懇願する。

「今のキッカは追い詰められているの。普段なら絶対にあんなことをしない。私が傍にいるから一度だけ会ってあげて」

 小さい体のユキの願いは胸に来るものがある。

 だがしかし、俺としては素直に頷くことが出来ない。

 命を危機に晒してまでもユキの頼みを聞き入れるのは御免だった。

「悪い、ここでさよならだ」

 なので俺は一言詫びてから立ち上がる。

「断っておくが、俺はキッカに悪印象を抱いていない。むしろこちらが悪いと考えているぐらいだ」

 江戸時代においても武士を侮辱すれば斬り捨て御免という制度があった。

 そのことから、いくら落ちぶれたとしても元騎士の家系であるキッカを貶せばこうなることは予想できたはずだ。

 今回は俺が世間知らずだった。

 俺はそう結論づけてこの場から去ろうとする。

「……だったら尚更キッカに会ってあげて」

 ユキはそう必死に引き留めようとするが、俺の心は変わらない。

「でもな、俺が悪いと考える一方でキッカに対して恨みがあるんだ」

 さすがの俺も命を狙われた恐怖を簡単にぬぐい去ることはできないさ。

「……」

 ユキも分が悪いと悟ったのだろう。

 俺の腕を握る力が弱まる。

 後は簡単。

 ユキの指をそっと離して終わり。

 これでキッカ達との接点は無くなるだろうと踏んでいたのだが。

「……あ、キッカ」

「え?」

 ユキが向いた方向を見ると、確かに去ったはずのキッカがこちらに向かって来ている。

「ユキを連れ戻しにきたのか?」

 苦虫を百匹ほど噛み潰した表情を作っているキッカを見ればそう判断しても仕方ないだろう。

 しかし、予想に反してキッカは俺の前に立ち、腰を九十度曲げた。

「非を詫びるわ」

 頭を下げたままキッカはそう言い切った。

「……ほら、キッカも謝っている」

 俺はどう対応して良いのか分からず、混乱している隙にユキが俺をそう耳打ちする。

「……キッカは例え自分が悪くても絶対に頭を下げない。なのに今謝っていることは、キッカも相当苦悩している証拠。だからお願い、最後のチャンスを頂戴」

「う……」

 ユキの切実な願いとキッカの頭を上げない様子に俺はどうするべきか迷う。

 ここはキッカ達を許すべきか。

 しかし、そうするにはあの出来事が尾を引いている。

 ただ、その反抗心は子供といえ英雄が頭を下げさせてまで守るべきものなのか。

 俺はどう行動するべきなのか煩悶し、太陽が雲にかかった頃に口を開いた。

「……案内してくれ」

 一度だけ。

 一度だけ許そう。

 俺はそう心に決め、キッカの面を上げさせる。

「……ありがとう」

 ユキは心底嬉しそうに目を細めた後、俺の手を握って礼を言った。

「……話を戻す。私はあなたに投資して欲しい」

 そしてユキはそう前置きして話し始める。

「……知っている通り、キッカは騎士の家系ーーそれも竜騎士という騎士の中の騎士。そして私は魔法遣い、ここにはいないけどアイラは隠密者、そしてクロスは重騎士として幼い頃から教育を受けてきた」

「なるほど」

 つまり下地はできているわけか。

 それなら一から教育する手間も要らない。

 そして何より。

「裏切るという可能性はないかな?」

「他の人はともかく、あんた相手だったら分からないわね」

「キッカ」

「はいはい、分かっているわよユキ」

 ユキの怒った口調に肩を竦めるキッカ。

 まあ、キッカも笑みを浮かべていたから冗談だったのだろう。

 しかし、正直な感想としてキッカ達が裏切る可能性など毛頭ないな。

 他人を陥れるにはキッカの性根があまりに真っ直ぐ過ぎる。

 この性格なら出し抜かれる懸念など考えなくて良いだろう。

「さっさと行くわよ」

 照れ隠しなのかキッカはそう言い放った後、スタスタと先頭を歩いていった。

 


「へぇ、キッカの家はそんな伝説があったのか」

「……うん、凄い」

 道中。

 キッカとユキ達の住処へ向かう中、俺は横を歩いているユキからメタロス家の武勇伝に耳を傾ける。

「……メタロス家は代々優秀な竜騎士を輩出してきた。特に初代が誇る撃墜数は現在でさえ抜かれていない」

 俺とユキの前方を歩いているキッカも満更ではなさそうだ。

 心なしか雰囲気が柔らかくなっている。

「……キッカの夢は自分だけの竜を持って大空を駆け抜けること」

 それがキッカの夢なのだろう。

 大した夢を持っていなかった俺にはその姿が眩しく映る。

「叶うと良いな」

「“叶うと良いな”じゃない“必ず叶える”よ」

 ここで初めてキッカが言葉を口にして。

「そしてメタロス家を再興させる」

 間髪入れず応えるキッカはこちらを振り向かずに固い口調でこう締め括った。

 再興、という言葉を紡ぐ際キッカの言葉に暗い情念が宿る。

 一体何があったのか知りたいと思うが、絶対に答えてくれないだろう。

 痛みをさらけ出してくれるにはまだ信頼が足りなかった。

 しかし、それでも俺はキッカに言っておきたい言葉がある。

「キッカ、憎しみや妄執は何も産まないぞ」

 少なくとも自身が幸せになることはあるまい。

「……」

 俺の言葉が届いたのか、または届かなかったのか。

 キッカは振り向かず、何も答えてはくれなかった。


「……少し待つ」

 ある区画に辿り着いたユキはそう言って足を止める。

「……ご飯、買っていこう」

「なるほどな」

 普段からロクなものを食っていないのか、ユキもキッカも痩せ細り、少し小突いただけで倒れてしまいそうに見える。

 二人がこの状態なら、残るアイラとクロスも似たような状況だろう。

「よし、何か買って行くか」

 ちょうど良い。

 手ぶらで参ずるよりも何か手土産を持って行った方が後の友好関係に良好だ。

 そう判断した俺は店に向かって足を踏み出そうとしたのだが。

「――何余計なことをしようとしているの?」

 キッカの底冷えする声音によって俺もユキも止まってしまう。

「ユキ、私達はもう食事を終えているはずよね? 彼からパンを恵んで貰ったにも関わらずまだ食べようとするの?」

「……でもキッカ。ネズミと雑草はもうい――」

「黙りなさい!!」

 ユキの言葉を一喝によって否定する。

「ユキ、私達がこんな辛い思いをしているのはなんのため? メタロス家を再興させるためでしょ?」

 キッカの説教は続く。

「泥水を啜ってまでも金を貯めるのは戦うための武器防具を揃えるため。その日暮らしじゃあ一生今の立場から変わらないわよ?」

「……キッカ」

 ユキの語尾が震えているのは気のせいでないだろう。

 関係の無い俺でさえ裸足で逃げたしたくなる。

 さすが伝説の英雄ーーキッカ=バロットイック=メタロス。

 幼いながらもその片鱗が現れていた。

「はい、そこまでだ」

 と、まあ。だからと言って傍観に徹する訳にはいかない。

「キッカが何と言おうと食糧は買う、これは決定事項だ」

「でもーー」

「俺の金だ、キッカが口出しする権利は無い」

 なおも言い募ろうとするキッカの言葉に被せて黙らせる。

 これまではそうしなければならなかったが、今は俺がいる。

 そこら辺の冒険者に劣らない装備と待遇を用意するから、もう心配はいらなかった。

「ほら、だからいーー」

 俺はそんな言葉と共にキッカの腕を取った次の瞬間に絶句する。

 片手で輪を作った大きさであろうとも苦もなく脇まで到達するだろう。

 骨と皮しかない感触に俺は思わず手を離してしまった。

 俺の時代ならユキのような年齢なら同い年の年頃と小学校に通っているはずだ。

 なのに何故こんな重さを感じさせないガリガリにならなければならないのか。

 申し訳なく感じた俺は俯き、謝罪の言葉をかけようとしたが。

「あんた、私達を侮辱しないで」

 俺の表情から次の言葉を察したのかキッカが鋭く言い放つ。

「え?」

 俺はキッカの言葉の意味が分からず、戸惑っていると続けて。

「私達は今、敗者であり弱者なのよ。この世界は力なき者に厳しいの」

 腕を大きく広げたきっかは最後に。

「先ほどにも言ったけど、あんたむかつくのよ。その“皆は平等だ”と言わんばかりの態度が。良い? この世は弱肉強食。強い者には能力以上の報酬が、そして弱者には人間の生活すらさせて貰えない不公平な世界。平等なんて弱者の世迷いごとよ」

 と、堂々と宣言した。

 貴族や富豪がそんなセリフを吐けば恨みしか買わないが、明日をもしれない状態であるキッカが口にすると頭を垂れるしかない。

「……そうか」

 そんなに固い決心があるのなら、キッカの意志を尊重して何も買わない方が良いのかと考える。

 だから俺は。

「そうか、だったらこのパンは捨てるべきかな」

 と、俺は残っていたパンをこれ見よがしに振ってみようとしたが。

「……変なことをたら殺すわよ?」

 目を血走らせ、壮絶な表情で短剣を突きつけるキッカの鬼気迫る表情に俺は諦めた。

 やったら確実に刺されていたな。

 なお、余談として。

「……ユウキ、これ返す」

「何時の間に!?」

 ユキは大量の食糧と少しだけ軽くなった財布を俺に渡してきた。

「……今の私達じゃあこの重さを持てない」

 ユキよ、栄養失調確実な二人に物を持たせるほど俺は鬼じゃないのだけどな。



 表通りを抜けて裏通りの先にある道の先にはこの世の負を体現させたスラム街。

 路上に寝転んだままピクリとも動かない者もいれば、血走った目で俺が抱えている袋を見つめる者もいる。

「……彼らと目を合わさないで」

 ユキが言葉少なく俺に耳打ちする。

「……関わり合うと面倒なことになる」

「分かった」

 俺は小さく頷く。

 淀んだ空気と鼻に付く異臭が立ち込めるこのスラム街は好奇心よりも恐怖が先立つ。

 ここまでは堕ちたくあるまいと心に誓う。

「面倒ごとはごめんだからな」

 食い物や金を奪われるならまだしも、下手すれば殺される危険性があった。

「それにしても」

 俺は呟く。

「スラム街の住民はどうやって金を稼いでいるのか」

 彼らは生産的な活動をせず、ただ寝転んでいるだけに見える。

 働かざる者食うべからずというように、お金が手に入らないのであれば死を待つのみだろう。

「あんた馬鹿?」

 が、キッカは俺の疑問を鼻で笑う。

「盗品や麻薬、禁制品の売買など表に出すわけにはいかない商品を扱うにはここがピッタリなのよ」

「……他にも売春や賭博、裏組織への依頼もこの通りで行われる」

「そして万が一摘発されても黒幕に被害が及ばないよう、スラム街の住人に責任者や運び屋をやらせるから雇用はあるのよ」

「なるほど」

 キッカとユキの説明に頷く俺。

 スラム街にも需要があるのか。

 どれだけ厳しく摘発してもこういった場所が無くならない訳だよな。

 禁制品を欲しがる者がいなくならない限り、スラム街は存し続けるだろう。

「……ユウキ、ここで大枚をはたけば通常では手に入らない希少な装備も手に入る」

「止めておく」

 ユキの茶目っ気が入った誘いに俺は首を振る。

「偽物を掴まされるならまだしも、盗人扱いされては堪らない」

「……個人営業ならともかく、通常は買い主が損害を与える様な真似をする業者はいない。何せここは表以上に信頼が全てだから」

「へえ……」

 裏には裏のルールがあり、矜恃を持っているということか。

 裏世界というのは秩序のない無法地帯だと考えていたが、どうやらそれを改めなければならないな。

 もしかすると表より厳しいルールに縛られた世界なのかもしれない。

「ユキ、私の目の前で違法的な話をしないでくれる?」

 騎士の家系上、不法行為を取り締まる側のキッカが目を三角にさせて言い放つが。

「キッカ、お前も参加していただろうが」

 俺はお前が『あんた馬鹿?』といった言葉を忘れていないぞ。

「はあ? 何言ってんのよ」

 しかし、キッカはあくまで認めようとしない。

 あわや一触即発かと思いきや。

「……ユウキ、駄目だよ」

「俺のせいか!?」

 あろうことかユキがキッカに加勢した。

「あら、流石ユキね。分かっているじゃない」

 キッカがそう鼻を鳴らすのだが俺は納得がいかなかったが。

「……ごめんね、ユウキ。キッカってあんな性格だから余程のことじゃない限り自分の非を認めようとしないの」

 まあ、ユキがそうフォローしてくれたことで多少の留飲は収まったがな。


 そしてそのまま歩くこと数分、後方から人の気配を感じる。

「とんでもない奴から目を付けられたようね」

 キッカが忌々しそうに舌打ちする。

「ヤバイのか」

 俺の囁きにキッカは頷く。

 足を踏み入れて早々厄介な目に遭いそうだ。

「袋の中を少しばら撒いて注意を逸らし、その隙に逃げるか?」

 単純で古典的方法だが、それでも効果は絶大。

 金はあるのだから多少失った所で問題ない。

 俺はそう考えていたのだが、すぐにその見通しの甘さを知る。

 キッカは後ろに気付かれない程度の動きで首を振り、そしてとんでもないことを口にした。

「三丁目のバンホーテンーー通称バン。六十過ぎの白髪ジジイのなのに少年が大好きな変態よ」

「うわあ……」

「だから金や食糧で巻ける可能性は限りなく低いわ」

 確かに。

 金目当てでない以上、その手段を取っても成功率は限りなく低いだろう。

 我知らず尻の辺りが寒くなる。

 別の意味で恐怖に震えてきた俺にキッカは続けてこう告げてくる。

「面倒臭いからあんた犠牲になりなさい。大丈夫、食糧とお金は無駄にしないから」

「それは冗談で言っていることを期待する」

「次の角を曲がった辺りから全力で逃げるわよ、あんたも掘られたくは無いでしょう」

 当たり前だ。

 そんなことになった場合、俺は一生ものの傷を負う。

 今後の人生のためにも俺はあのジジイから絶対に逃げなければならなかった。

「三、二、一……走る」

 ユキの言葉に合わせて俺達は全力で走る。

「こおら~、まあ~て~」

 途端に聞こえてくるしゃがれた声音。

 誰が待つか。

 例え神が待てと命じても俺は断固逃げる。

 そう念じながら俺は必死でユキとキッカの後を追った。


 そして走ることしばらく。

 俺も大分息が上がってきたのに、後ろからの足音が途絶える気配が無い。

「……しつこい」

 ユキが苛々した口調でぼやく。

 それにキッカが答える様に。

「本当にね、うっとおしいからもうあんたをジジイに差し出しましょうか?」

 と、とんでもないことをのたまってきた。

「クスッ、冗談よ」

 俺の驚愕に目を見開いた顔を見たキッカが笑う。

「あのジジイがそこまでご執心ということは、あんたは確実に何かを持っている。あいつは元金貸しだから人を見る目は確かよ」

 それは喜んで良いのか。

 他人とは違うことを認められるは嬉しいが、今は逆にそんな違いなど必要無いと思う。

 その何かのおかげでジジイに尻を奪われそうになっているのだから。

 それはともかく。

「キッカ、もう少し速度を上げられないか?」

 時間が経つごとにキッカの息が上がってきているのが分かる。

 このままだと追いつかれてしまうだろう。

「煩いわね、大丈夫よ」

 強がりを言うのは立派だが、残念ながら体が追いついていない。

 体格的にユキの方が体力が無い様に見えるが、実際ユキはまだまだ余裕そうに見えた。

「……キッカ、ロクにものを食べていないから」

 そう言えば結局キッカは黒パンを食べなかった。

 その性格からいつもあまり食べていないことが容易に予想出来る。

 そんなことを考えているうちにキッカの足はドンドン止まっていく。

「……私をおいて行きなさい」

 そしてついにキッカはそんな弱音を漏らした。

「あのジジイの狙いはあんたよ。だから私は大丈夫」

「……嘘言わない」

 キッカの言葉にユキが鋭く反応する。

「……バンホーテンは基本一角の人物なら老若男女問わず食う。ユウキほどではないけどキッカも目を付けられている」

 もはやなんでもありだな。

 さすがスラム街。

 中に住む住人は俺の想像を越えている。

 二度とここには来まい。

 俺はそう固く決意する。

 まあ、それはともかく。

「!? 何をするのよ?」

「……お姫様抱っこ」

 一時的に袋を口に加え、空いた両手でキッカを抱える。

「離しなさい!」

 キッカが顔を真っ赤にしながら暴れるが、空腹で力が出ないのか全然痛くない。

 例えるなら腕の中でじゃれ合う猫といったところか。

 可愛さこそ感じるこそすれ、憎しみなど覚えるはずなどなかった。

「っく」

 キッカも諦めたのか腕を畳み込んで丸くなる。

「……キッカ、可愛いよ」

「後で覚えておきなさいよ、ユキ」

 今のキッカはそれが精一杯の反抗だった。


「はっ、はっ……」

 俺は息を切らしながら走っている。

 キッカを持ち上げた瞬間は軽いと感じており、これなら何時間でも走れると予想した自分が憎い。

 時間が経つごとに腕の痺れが増してきていた。

「……まだ追ってきている」

 ユキの言葉に絶望を感じる俺。

 あのジジイ、どれだけ元気なんだよ。

 縁の側で茶を啜ってそうなジジイが子供の体力についていけるなんてありえん。

「うおおおおお! 待てえええええ!」

「だから俺は待たん!」

 ゾンビのような叫びによって我に帰る俺。

 どこまで俺にご執心なんだ?

 恐怖を通り越して感動すら覚えるぞ。

「――何をやっているのですか」

 爺に気を取られていたせいか俺の隣に黒装束と頭巾で覆った子供の存在に気付けなかった。

 息も上がり、満身創痍な俺達と違ってゆっくりと発言することから最近合流して来たのだろう。

「アイラ……」

 「はい、キッカ様。アイラでございます」

 顔を頭巾で覆い、声も中庸で平坦なため容姿や性別が分からない。

 けど、まあ彼女があのアイラなら当然なのかしれないな。

 アイラ=ミドガルド。

 数ある英雄の中で最も素性が知れない人物。

 公式な文献が突出して少ないのは彼女が秘密主義であり、徹底して己の存在を消していったからだとされている。

「キッカ様、ご自愛しなければなりません」

 アイラは噛んで含めるようにキッカへ注意する。

「身を投げ出して周りを救う姿勢は立派ですが、時と場合を考えまーー」

「そういった話は後にしてくれ!」

 アイラは余裕があるかもしれないが、ずっと走り続けている俺とユキは限界だ。

「ああ、そうでしたね」

 俺の言葉が届いたのかアイラは一つ頷く。

「ではあなた様、キッカ様をこちらに渡して下さい」

 言われるままにキッカをアイラに渡す。

「次に食糧袋もこちらに」

 それぐらいは俺が持とうかと思ったが、アイラがじっとこちらを見つめていることから渡さないと進まないだろう。

 だから俺は食糧袋もアイラに渡した。

「はい、ありがとうございます。そして……さようなら」

「え?」

 アイラの不吉な言葉と共に俺の体は浮遊感に包まれる。

 アイラに足を掬われたと気付いたのは俺が地面に叩きつけられた後だった。

「ちょ、アイラ!?」

「……理解不能」

 キッカもユキも驚いている中、アイラは涼しい声音で。

「食糧袋とお金は頂いておきました。まあ、縁があれば会えるでしょう」

 気が付けば脇に差してあった財布袋が無くなっている。

 その見事な手際に怒りの気持ちすら湧いてこない。

 しかし、時間は人を待たない様に危機も待ってくれない。

 起き上がって逃げようとした俺なのだが、影が差したと同時におれは地面に押さえつけられてしまった。


「おお、わしの見たて通りじゃ!」

 俺を抑えつけたジジイは鼻息を荒くしながらそんなことを言ってくる。

「このような上物は初めてじゃ。いやはや、今日は良い日よ」

「ええい! 離せジジイ!」

 俺は何とかこのジジイから逃れようと藻掻く。

 体を大きく動かしたり、手足をバタつかせたりして抵抗を試みるのだが、哀しいかな子供と大人という現実が立ち塞がっていた。

「フォフォフォ、無駄な事を」

 ジジイの言う通り、組み敷かれた俺は大した反抗も出来ずに仰向けにされてしまう。

 年季の入ったしわくちゃの顔なのに目は異様にギラついている。

 長年金貸しをやってきた業とこのスラムで開放した獣の本性が合わさり、別の生き物だと錯覚してしまう。

「やるなら早くやれ」

 俺は弱味を悟られまいと言葉少なくそう言い放つ。

 こうなってしまえば後は覚悟するしかない。

 今回の出来事は犬に噛まれたこととして納得させるのが一番だった。

「ふむ、やはりわしの睨んだ通りじゃ」

 勝者の余裕なのかジジイはすぐに襲うとせず、品定めをするかのように俺を覗き込んでくる。

「お主は違う。それは浮浪児の中では収まらない。そう、別の世界から参ったと推測出来るほどわしらとは決定的に何かが違っておるな」

「っ!」

 ジジイの言葉に俺は言葉を失う。

 何だ、このジジイは?

 どうして一見だけでそこまで推測出来る?

「ジジイは。いや、バンホーテンさんは何かを知っているのか?」

 俺は言葉を重ねる。

「死んだ訳でもない、神様とやらの余興に付き合った訳でもないのに何故俺はここにいる?」

 今の俺は藁に縋りたい思いで一杯である。

 バンホーテンの言葉によって突然の郷愁感に襲われた俺は誰でもいいからなぜ俺がここにいるのか教えて欲しかった。

 いや、もっと言うと安心できる理由がほしかった。

 だが……

「さあな、知らん」

 期待というのは実に呆気なく砕け散る。

「おい!」

 思わず俺は怒鳴る。

「期待させておいてそれはないだろう! 俺は本気で悩んでいるんだ!」

「ファッファッファ、愚かなことを」

 バンホーテンは俺の叫びを鼻で笑う。

「そもそも人生というのは本来予測出来ないもんじゃ。わしかて少年時代はこうまで落ちぶれるとは思わんかった」

 バンホーテンは続けて。

「わしにも鍛冶職人になりたいという夢があった。そして何時かは万人が知る武器を作りたかった」

 この独白は俺を諭させるものというより、自身に問いかける類のものだろう。

「しかし、どこでどう間違ったのかわしは金貸しとして生きることなり、親友を金で失い妻子は破産者によって惨殺され、そしてついには唯一残った金さえマフィアに奪われてこのスラム街へ流れ着いてしもうたよ」

「……」

 凄まじい人生である。

 その想像すら出来ない波乱万丈の生涯に俺はなんと言って良いのか分からなかった。

「だからな、少年よ」

 ここでバンホーテンはギョロリと濁った瞳を向けて。

「犯させてくれ」

「はあ!? 断る!」

 全く話が繋がらなかったで叫ぶ俺に対してバンホーテンは苦渋に満ちた顔で。

「お主の様な年頃の少年を見ているとあの夢と希望に満ち溢れていた頃を思い出して仕方ないんじゃよ。片や無限の可能性がある少年、片や体力も寿命もなくなった老人。この現実を突きつけられる度にわしは絶望に身を引き裂かれる思いじゃ」

「そんなの知らん!」

 俺は思わず叫ぶがバンホーテンは聞いていない。

「そしてこの苦しみから逃れる方法はただ一つ、少年を襲うことじゃよ。可能性に満ち溢れた少年を掘る瞬間のその苦渋に満ちた表情だけがわしに痛みを忘れさせてくれる」

「ふざけるな! お前のために犠牲になれというのか!」

「その通りじゃ。さあ、わしのために泣き叫んでくれ」

 その言葉と共に衣服を剥ぎ取ろうとするバンホーテン。

「くそっ、離せ!」

 それに対して俺はさせまいと必死に衣服を掴む。

 目の前にいるのは、全てを失って狂ってしまった哀れな老人だった。

「聞いているのか! だから止めろ!」

 ジジイがそっちのけがあるだけなら、こうまで反抗しなかっただろう。

 だが、その話を聞いた後の俺は大人しく犠牲になるわけにはいかなかった。

 どうして抵抗するのか俺には分からない。

 ただ、心の奥底からこれ以上バンホーテンに罪を重ねさせるなと叫び声が聞こえた。

「俺は聖職者でないのだけどな」

 バンホーテンの指を掴み逆方向へ引っ張りながら俺は笑う。

 思えばあの隊長然り、アイラ然り、怒りこそ抱いているがそれ以上思うところはない。

 意外な自分の発見に俺は苦笑するしかなかった。

 ただ、精一杯の抵抗をしているとはいえこの体を組み敷かれている状況を何とかしないとどうにもならない。

 なので俺は悪いと思いながら、金的を狙おうかと膝を動かした瞬間――

「え?」

 何か衝撃を受けたのかバンホーテンは一瞬の内に右方向へと投げ出された。

 何が起こったのか皆目見当がつかず、辺りをキョロキョロと見渡そうとすると。

「何とかギリギリ間に合ったみたいだね」

 俺に向かって手を差し出す一人の青年。

 おそらく目の前の少年が俺を助けてくれたのだろう。

「ああ、ありがとう」

 だから俺は手を掴みながらお礼を述べる。

 この青年、縦も横も十七歳の俺よりでかい。

 下手すれば身長一八〇、体重は九十を超えているのではないかと思う。

 スラム街に住んでいるのか金色の髪も顔も油と汚れでくすんでいる。

 しかし、それでもこの大らかな青年から力強い息吹が感じられ、傍にいるとホッとできた。

「よっと」

「おお」

 青年は俺の手を握るや否や一気に立ち上がらせる。

 今の俺の二倍ぐらいありそうな筋骨隆々の腕からもしかすると二十代なのかもしれない。

 と、考えていたが青年の口から驚くべきことが告げられた。

「自己紹介が遅れたね、僕の名はクロス=サードワイズ。キッカの従者の十二歳だよ」

 最後の年齢のところに力を入れたのは気のせいではないだろう。

 こんな十二歳がいるか?

 俺はしばし混乱してしまうが、クロスの人となりを思い出して納得した。

 クロス=サードワイズ。

 統一国家“アルファ”において最大の騎士団を統括した将軍。

 伝説の巨人族の生き残りなのかという説があるほど大柄な体躯の持ち主で、そこから繰り出される攻撃には楯や鎧など紙切れ同然だったとされる。

「ん? 僕の顔に何かついているかい?」

 ずっと見つめ続けていたのだろう。

 クロスは困った表情で顔を撫でる。

「いや、悪かった。自己紹介が遅れたな、俺の名はユウキ=カザクラだ」

 俺は何でもないといって首を振り、非礼を詫びて名乗った。

「感謝しなさいよ」

 クロスの後ろに隠れていたのか、聞いたことのある凛とした声音が響く。

「クロスが近くにいたから何とかなったけど。運が悪ければあんたあのまま犯されていたわよ」

 キッカが腕組みをして顎を上げながら出てくる。

 いや、そもそもの原因はお前等にあるだろう。

 少なくともお前等に関わり合わなければ俺はこのスラム街に足を踏み入れなかったぞ。

「まあ、良いか」

 俺はため息を吐いて胸に込み上げた感情を吐き出す。

 言ったところで事態が好転するわけでもないし、何より金は向こうにある。

 下手に反抗して見捨てられるような愚を犯したくなかった。

「中々強靭な自制心のお持ちで」

 スッと足音もなく現れたアイラに俺は眉根を上げる。

 確かに済んだことはもう良い。

 だが、反省も悔恨もしていない奴を目の前にしてまで許せるほど俺の心は広くなかった。

「おい、お前な――」

 だから俺は声音を低くして弾劾しようとしたが。

「……それは後にして」

 ユキの平坦な声音が俺に理性を取り戻させる。

「……今、私達は注目されている。場所を変えないと変な奴が寄ってくる」

 逃走劇に続いて強姦(?)未遂さらに救出と短い間に色々な出来事があった。

 周りには人こそいないものの、物陰の奥からこちらを見つめている気配が多数ある。

「場所を変えるわよ」

 キッカの言葉に俺は素直に従う。

 ここで金の話題を出してハイエナが寄り添ってこられたらお終いだ。

 キッカ達の住みかなり宿なりと誰にも聞かれない所に場所を移すべきだろう。

「アイラ、後でじっくり話し合おうか」

 まあ、これぐらいの嫌味は言っても構わないな。

 アイラの横に並んだ俺はボソッとそんな呟きを漏らした。


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