さあもう一度身体を重ねて、確認しよう。
思わず、息を呑んだ。
彼がまさかそんなことを思っていたなんて・・・とか、そんなことを思ったわけじゃない。
彼が死にたいと思っていたのは、気づいていた。
”アタシ”が嫌いで、女になれなかった”自分”も嫌い。
泣きながら彼がそう呟いた日に、アタシは彼が死にたくても死ねないことに気づいていた。
だけど彼が、弱音としか言えないようなことを口に出すとは、思ってもいなかったんだ。
「何?そんなにおかしい?」
今にも泣き出しそうな、だけど皮肉げな表情で、彼は笑う。
もう一人の、アタシ。
「泣きたいなら、泣けばいいのに。」
アタシのそんな言葉に、彼は目を丸くする。
綺麗で可愛い、孤独な子供。
「泣き方なんて、もう忘れたんだよ。」
泣きそうな顔でそう言う君に、アタシは最期まで死ぬことを怖いと言わなかった竜里を思い出した。
だから・・・だろうか。
「何がしたいの?」
彼を、抱きしめて。
アタシの腕の中で、彼はまた皮肉げに笑う。
幼い彼はアタシが思っていたよりも、ずっと少年だった。
「優しくしたって・・・絆されたりしないよ?」
そう言って笑う彼を、アタシはより強く抱きしめた。
差し込む光を煩わしく思いながらも、アタシは目を開ける。
今日も今日とて、アタシは16の息子をもつ母であり、表の天姫殿の責任者を務める女である。
間違っても綺麗で美しい、18の泣けない少年ではなかった。
部屋の襖を開けると、そこに広がっているのは煌びやかで荘厳な、麗しの館。
嘘にまみれ、それでも少しも美しさを損なわれることの無い、天女の楽園。
昨晩から降り続いていた雪は、この場所を白銀の世界へと染め上げる。
「なんで・・・。」
同じ人でありながら、性別が違っていた、それだけ。
大きな違いだという人もいるだろうが、それでもきっと、彼とアタシがした選択は何一つ違わないのだろう。
彼とアタシ、背中合わせ。
それなのにアタシよりもずっと大きな彼の手には何も残らず、彼よりもずっと小さなアタシの手にはたくさんのものが残った。
差し込む光に目を細めて、俺は体を起こす。
違和感を感じて頬に触れると、そこには涙のあとが。
昨日までと同じように、俺の隣に眠る人は、もういない。
緩慢な動作で体を起こせば、夢の中よりもずっと長い髪が、俺の背を流れる。
どこに・・・いきたい?
ユメの中で重ねた、俺とオンナの俺の身体。
確かにあれは、平行世界の先の俺の、俺自身の身体であったはずなのに、俺とあいつの身体はまったく違ったものだった。
あれを持っていたら、俺もこの場所を残すことができた、だなんて。
無性に泣きたくて、仕方がなかった。
だけど今更、泣くことなんてできなくって。
最愛の母が生きていた頃は、他の子供と同じように泣いていたのに。
母が死んでからは、めっきり泣けなくなった。
母が死んで、泣いたのは一度きり。
この死んでいく天女の館をあげると、竜里が言ったときだけ。
天姫殿最期の天女の名は、今宵野竜里と言った。
どの女にも、妓にも勝る、完璧な美貌と最上級の気品と才覚を兼ね備えた、長い天姫殿の歴史の中で、一番と謳われた天女だった。
だけど彼はたった一つだけ間違いを犯し、子をなすことのできない者・・・男を、愛した。
壊れていく天姫殿の中で、俺はこの麗しの館が一番美しく見える場所を与えられた。
本日も、晴天なり。
自分の唇に手を当てると、俺はいつの日だったか天女とした口づけの感触を覚えている気がした。