背中合わせで多くを語り合った。
俺にされるがままになっていたオンナの俺が、口を開く。
赤く色づいた唇は男を惑わし、そしてきっと、竜里の男の部分を掻き回すのだろう。
「竜里は、「死んでしまう、よ?」
彼女は大きくその目を見開き、俺は笑みを深める。
もう一人の俺である彼女の考えてることを読むのはたやすくて、だけどきっと彼女が俺の考えてることを読むことはできない。
それは彼女が、俺をオトコだと思っているから。
自分だけが女で、竜里の子供を産めるんだと俺を哀れんでいるから。
「死んだよ?あんたに会う前の日に。」
竜里のいなくなった世界で竜里に逢いたいと思って眠り、あんたに出逢った可愛そうな俺。
壊れていく天女の館と、天女を産んだお前。
同じように同じ天女に愛され、天姫殿を残すことに成功したお前と天姫殿を壊すことしかできない、俺。
「自分だけがわかってると思うなよ。」
きっと眠る前のイツクは、もっと年上のオンナのだろう。
いつも16の姿だというけれど、眠る前だって18でしかない俺とは違い、きっともっと大人で。
竜里が死んだことも、竜里がいない世界を生きることも慣れてしまっているのだろう。
俺とは、違い。
「竜里が、いない。
あいつ、なんていったと思う?
天姫殿を、あげるって。
竜里が育った、竜里の全てであった、竜里の誇りであった何よりも美しいこの場所を、俺に、くれるって。
そんなの・・・いらない。」
アタシが、死に際の竜里にそう言われたとしたらどうするんだろう。
どうするかなんてわからないけど、きっとアタシだって彼と同じように、
そんなの、いらない。
そう思うのだろう。
だけどそう言える筈もなく、何も言えないまま竜里を見取って、
壊れていく天姫殿を見ているしかないのだろうか。
アタシの知っている天姫殿は、今もとても華やかで。
竜里と同じ顔をしたアタシの息子がそこの天女として君臨している。
アタシは・・・竜里が生きている間、天女の妻を名乗ることはできなかったけれど、それでも先代天姫の妻となり、表の天姫殿の責任者をしている。
彼はその愛する人が愛した物を壊すことしかできないのだとしたら・・・彼はアタシが思っていたのよりも、ずっと辛い。
「また同情?もう飽きたよ。
同情って・・・知ってる?
自分のことじゃないから、自分には起こりえないことだからするんだよ?」
アタシよりもずっと大きな、骨ばった細い手が、アタシの頬に触れる。
皮肉げな笑い方も、細くて長い、華奢な骨ばった手も、話し方も語尾の響きさえも、悲しいほどに呼宝君はアタシの愛した男に似ていた。
きっと彼は、彼自身が愛した男に似ていた。
「イツクなんか・・・大嫌いだ。
だけどそれ以上に嫌いなのは、女になれなかった・・・・・・。」
綺麗な綺麗な彼が泣く。
クロの瞳から零れた涙は不自然に思えるほど澄んだ色をしていて、
悪魔と呼ばれようと死神と呼ばれようと、アタシたちが他の人間となんら変わりないことを表していた。
綺麗な綺麗な、彼が泣く。
アタシよりもずっと大きな体をしたこのオトコノコは、アタシと同じように竜里に救われ、竜里を愛していたんだ。
もしも、今このときアタシは女で、このオトコノコは男だけれど、ひとつ何かが違ったら、アタシが男で、このオトコノコが女だったのだろう。
すべてはサイコロの目が1であったか2であったかの違いでしかなくて・・・・・・あぁ、もう全てが。
他愛のない違いが物事を左右し、アタシは天女の母となり、彼は天姫殿を壊した。
自分に似ているだけのオトコノコでしかなかった彼は、紛れもなくもう一人のアタシなのだ。
アタシはそのことに、泣く彼を抱きしめて初めて気づいた。