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Eve to Eva  作者: 糸雨 冷
2/5

全てを振り払い、ただ一人の手を掴め。

あのことを聞いて、数日。

いつも以上に俺はむしゃくしゃして、喧嘩に明け暮れるようになった。


町を歩けば相変わらず向けられるぶしつけな視線も、女たちが俺に向ける好意の視線も、知人が向ける哀れみによく似た心配する視線も、全てが気に入らなかった。


「また、喧嘩したの?」


長い間天姫殿の自室の、布団の上から動くことのできない俺の天女。

呆れたようにため息をついても、病魔にその身を脅かされても、相変わらず竜里は美しくて。

だけれど、今の天姫殿にそんな彼の姿はない。


ねぇ・・・何で?

















いつもと同じ、天姫殿の天姫の部屋で目を覚ます。

竜里が、いなくなって・・・狂ってしまったのは俺なのか、それとも世界なのか。

いつもと違うものの配置からそれに気づき、俺は乱暴に自分の髪をかき回す。


癖のない俺の黒髪は、寝る前よりいくらか華奢な俺の手をすり抜けて落ちる。


あたりを見渡せば少しばかり困った顔をした、癖のない黒髪を持つ女が俺を見ている。

大きな丸い黒い瞳も、腰まで伸びた癖のない黒い髪も、俺が昔においてきた華奢な体と小さな背丈も。


あんたは自分と俺がどこか似ていながらも、俺のほうがあんたより綺麗だといったけれど、俺にとってのあんたはこの世で一番憎い存在だ。


「おはよう、呼宝君。」


純粋な人しかできないような、そんな優しい笑い方は俺にはできない。


「おはよう、イツク。」


竜里の愛した天姫殿を残すことさえ、俺にはできない。













小さな声で、賛美歌を歌う。竜里が好きな、賛美歌を。












「呼宝君って、声高いね。」


今日の彼は、私と同じくらい。

夢の中で彼と出会う私は、いつも16歳の女の子で、眠る前は16歳の息子を持つ母だ。

彼は毎夜違う姿で現われ、そしていつも変わらない人間離れした美しさを持っている。


例えば10歳ほどの少女にも少年にも見える少年の姿であっても。

例えば18歳の町を歩けばお姉様方に囲まれそうな青年の姿であっても。


そして今日の彼は16歳の少年で。

でもその年頃らしからぬ色気をその身に纏っていた。


「イツクのほうが、声は高いでしょう?」

「(あぁ、それも気に入らないのか。)」


優しげにでもどことなく皮肉げに目を細めて、彼は笑う。

綺麗な綺麗なオトコノコ。だけどその美しさは花嫁のドレスとは対照的なもので。


ハデス

冥界の、女神を思い出した。


「何を考えているの?」


楽しくもないのに笑う彼は、相変わらず皮肉げな笑みを浮かべ、アタシの首に手をそえる。

絞めることはないけど、いつでも殺せるんだとでも言うように、彼はアタシの首に手をそえる。


ねぇ、貴方の竜里は、まだ・・・生きているのでしょう?


竜里が若くして死んでいくことを彼が知ったら、彼のこのアタシを格下に見ている余裕は、崩れるのだろうか。


かわいそうな子供。竜里に愛され、竜里を愛して、アタシを殺せると信じている、可愛そうな子。


「ねぇ・・・呼宝君。ひとつ・・・教えてあげましょうか?」


彼のほうが愛されていたか、アタシのほうが愛されていたか。

結局何があっても、アタシにとっての最愛の敵は彼であり、

彼にとっての最大の敵はアタシなんだろう。


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