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俳優の卵と理系大学生  作者: 蓮弥
第2章 クラスアップ?
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20/37

1. 正真正銘の三軒茶屋デート

2章です!!


作者は夏休み期間中の研究のために行っていた地方から戻ってきました~。

海斗モデルのやつと会って、チャージしたら、執筆意欲が出たので書いちゃいます!!

本編は全11話予定です!

ぜひ楽しんでください!

 俺は大学四年生になった。


 だからと言って何かが大きく変わったという実感はない。大学へ行けば、相変わらず眠そうな顔で講義を受けている学生がいるし、研修室に行けばコードとエラーメッセージと睨めっこしている先輩がいる。ホテルへ行けば、相変わらず佐伯さんは少し適当だし、理不尽な客は結局理不尽だ。


 以前と違う点をあげるとすれば、俺には恋人がいることだ。しかも顔がめちゃくちゃ良い。それに加えてとても俺のことが大好きで優しい。


「望、さっきから何で笑ってるの?」

「え?何のこと?」

「一人でニヤニヤしてるから」

「は?してないけど?」

「してたよ」

「気のせいだよ」


 平日の夜。俺たちは、三軒茶屋の細い路地を並んで歩いていた。初めて二人で飲みに来た通り。あの時は、海斗が俺のことをどう思っているのかも分からなかった。


 酔ったふりをして腕につかまった。泊めてくれと言って断られた。手をつなぐ代わりに手首をつかまれた。今思い出しても、我ながら必死だったなと思うが、あのときは精一杯であれ以外の行動をとることができなかった。


 でも、今は違う。会うための理由を探さなくても、会いたいという気持ちだけ会うことができる。


「ねえ、海斗」

「なに?」

「手貸して」

「?」


 海斗が不思議そうな顔をしながら右手を差し出してくれた。俺はその手をとって、指を絡めた。海斗が俺を見つめる。


「なに?」

「いや」

「手つなぐの嫌だった?」

「嫌じゃない」

「ならいいじゃん」


 昔は、これだけのことをするのにも沢山沢山言い訳を考えて、行動していた。でも、今はしたいからする。手をつなぎたいからつなぐ。それだけでいい。


「そういえばさ、最初にここに来た時、俺さ海斗の腕につかまってたよね~」

「そういえばそうだったね」

「俺あれ、実はさ酔ったふりだったんだよね」

「知ってた」

「…は?なんで?」


 足が止まった。海斗も俺に引かれて足を止めた。


「え、知ってたの?」

「途中から何となくね」

「え、どのタイミングで?」

「普通にまっすぐ歩けてたし」

「じゃあなんで何も言わなかったん?」

「言ったら望、猫みたいに“しゃー”って感じで離れるだろ」

「…」


 海斗が少し笑った。


「だから、そのままにしてた」


(なんだこいつ。。。俺よりよっぽど、めんどくさいやつじゃん)


「じゃあ、家泊めてって言った時も気が付いてたの?」

「酔ってるふりかもとは思ってた」

「だったら泊めてくれても良かったじゃん!」

「それとこれとは話が別だろ」

「何が別だよ」

「だって付き合ってなかっただろ」

「真面目か」

「望が軽すぎるんだよ」

「てか、俺に腕つかまれて実は嬉しかったりして?」


 海斗が一瞬黙った。


「…まあ」

「うわ。あの堅物のクールイケメンが認めた。」

「聞いたのは望だろ」

「いや、だってさ。海斗がそういうこと素直に言うの慣れなくて」

「じゃあもう言わない」

「それは嫌。ごめんなさい、海斗様イケメン様。お許しください」

「何それ」


 海斗は笑った。


「面倒くさい恋人様だな」

「恋人なんてそんなものでしょ」

「望だけじゃない?」

「失礼な」


 そんな話をしながら、最初に二人できた居酒屋へ向かった。でも残念ながら今日もその店は満席だったので、仕方なく近くの別の店に入った。


「俺らはいつになったあの店は入れるんだ」

「最初は入れたじゃん」

「あれは奇跡だったのかな」

「平日二十三時だったからでしょ」

「じゃあ、今日も二十三時まで待つ?」

「明日大学あるって言ってなかった?」

「もう四年生だから余裕も余裕、大余裕よ」

「この前、卒論のテーマが決めないとって焦ってただろ」

「…海斗、痛いとこを突くようになったね」

「成長した」

「そういう成長は求めていません」


 店に入って、ビールといくつかの料理を頼む。


 付き合って数か月。前より海斗は、少しだけよく喋るようになった。少しだけ素直にもなった。出会った頃なら絶対言わなかったようなことも、最近は言う。


 会いたかった。寂しかった。好き。今日は望の家行きたい。


 そんな言葉を、少し恥ずかしそうにはするけど、ちゃんと口にしてくれるようになった。


 俺が教えた。と、勝手に思っている。


「これ美味しい」


 俺が玉子焼きを一切れ食べる。


「海斗も食べる?」

「うん」


 皿を渡そうとしたら、海斗が口を開けた。


「…何?」

「え、くれるんじゃないの?」

「皿をだよ」

「あ、そういうこと?」

「なに、食べさせてほしかったの?」

「別に」


 海斗は少し顔が赤くなっていた。その表情に俺は気を良くした。


「海斗さんや、口が開いちゃってましたけど」

「忘れて」

「無理だね。可愛かった」


 俺は箸で一切れつまんだ。


「はい、あーーん」


 海斗が少し迷ってから口を開けた。俺は海斗の口に玉子焼きを入れた。


「美味しい?」

「うん」

「なにこれ。カップルじゃん」

「カップルだろ」


 海斗が当たり前だろみたいな顔で言った。その一言、態度に俺はまだ少しだけ弱い。


「…そうでした」

「忘れてたの?」

「いや、改めて言われるとこっぱずかしかった」

「望が言い出したんじゃん」

「それはそう」


 恥ずかしくなって、ビールを飲みほした。話を変えるために俺は海斗に聞いた。


「最近、オーディションはどうなの?」

「いくつか受けてる」

「いい感じ?」

「相変わらずかな」

「そっか」


 以前なら、ここで無理に励ましていただろうけど、今はしない。海斗だって落ちるたびに毎回慰められたいわけじゃない。


「でも今度、前地方で撮った映画の監督に会うかも」

「え、なんで?」

「ちょっと挨拶するだけ。東京に来るらしいから」

「気に入られているってことじゃん」

「どうだろ」

「絶対そうでしょ。俺だったら、海斗の顔を一回でも見たら絶対に忘れないし」

「また顔?」

「顔だけじゃないですよ、もちろん」

「本当に?」

「なに、大切な恋人を疑うんですか?」

「前科があるから」

「前科って言うな」


 そんなくだらない話をしていたとき・テーブルの上に置かれていた海斗のスマホが震えた。


 海斗が画面を見る。眉が少しだけ上がった。


「マネージャー」

「出れば?」

「でも」

「別にいいって。気にしないから早く出なよ。俺なら逃げないから安心して」

「そういう意味じゃないから」


 海斗は苦笑しながら電話を取った。


「もしもし。お疲れ様です。」


 仕事の声になる。俺は追加のビールを飲みながら何となく海斗を眺めていた。


「はい」


 海斗の表情が変わった。


「え?本当ですか?」


 その声で、俺は持っていたグラスを置いた。


「はい…、はい。ありがとうございます!」


 さっきまでとは明らかに違う。電話を切った後も、海斗は画面を見たまま固まっていた。


「どうだった?」

「…」

「海斗?」

「…決まった」

「何が?」


 海斗がゆっくり俺を見た。


「この前話してた配信ドラマ」

「え」

「俺、出ることになった」

「…マジ?」

「うん」

「どの役?」

「主人公の親友枠」

「…」


 今度は俺が固まった。


「え、ちょっと待って」

「うん」

「それ、普通にメインじゃね?」

「一応。メインキャストの一人になるみたい」

「は?まじか」


 声が思った以上に大きくなってしまった。隣の席の人がこちらを見てきた。俺は慌てて声を落とした。


「え、本当にすごくない?」

「まだ、俺も理解できてない」

「なんで急に?」

「前の映画の監督が推薦してくれたらしい。今回の演出部に知り合いがいたみたいで、俺の映像を見せてくれたらしい」

「…」


 海斗は、信じられないみたいに笑った。その顔を見た瞬間、なんだか胸がいっぱいになった。


 出会った日。「俳優の卵」と言った俺に、海斗は「卵と言っていいか分からない」と笑った。オーディションにも何回も落ちてきて、俳優を諦める理由ができたとまで言った。


 そんな海斗が。今、俺の目の前で。主人公の親友役でメインキャストを勝ち取った。


「海斗」

「何?」

「俺が言ったとおりだったでしょ」

「何が?」

「未来の俳優だって」


 海斗が一瞬黙って、そして少しだけ目を伏せて笑った。


「覚えてたんだ」

「当たり前じゃん。俺は、俳優朝倉海斗の超古参だよ?」

「まだ売れてない」

「もうメインキャストなんだから、だいぶ育ったね」

「望が育てたみたいに言うなよ」

「いや、誰がどう見ても俺が育てたでしょ」

「何を?」

「メンタル?」

「そこは、否定できないかも」

「でしょ?」


 俺はテーブル越しに手を伸ばし、海斗のサラサラな髪をなでた。


「おめでとう、海斗」


 海斗はそれを照れ臭そうにしながら、俺の手を頭から離して、握った。


「ありがとう」


 その手は震えていた。でも、前みたいな怖さの震えではないのは明らかだった。


 嬉しくて。信じられなくて。そんな震えだった。


 俺は、その手を強く握った。


「よし!今日は俺のおごり!沢山食べて、飲もう!!」

「大学生で金がないんじゃなかったの?」

「こういう日は別財布なのです」

「なにそれ」


 海斗は嬉しそうに笑いながら。


「じゃあ、お願いします」

「素直だな」

「望が言ったんだろ」

「まあそのつもりだったけど」

「本当にありがとう」


 会計を済ませて店を出る。駅へ向かおうとすると、海斗が俺の手を引いた。


「何?」

「今日、帰る?」

「その聞き方、久しぶりじゃん」

「嫌なら駅まで送る」

「…行く」

「うち?」

「うん」


 少し前までなら、俺の方から泊めてと言っていた。今は海斗からも誘ってくれる。それだけの違いが俺はとても嬉しい。


 海斗の家に着いて、ソファに並んで座った。海斗はまだ、どこか現実味がないような顔をしている。


「嬉しい?」


 俺が聞いた。


「嬉しい」

「怖い?」


 少し間があった。


「ちょっと」


(やっぱり)


「でも」


 海斗が俺を見る。


「今回は、前より楽しみかもしれない」


 俺はその海斗の発言を聞いてとても嬉しい気持ちになった。


「そっか」

「うん」


 海斗の肩に頭を乗せる。


「じゃあ楽しんできな」

「まだ本読みすら始まってないけど」

「先に言っとく」

「ありがとう」


 少しして、頭に手が置かれた。優しく髪をなでられる。


「望」

「ん?」

「本当にありがとう」

「何回言うの、それ」

「わかんない」

「じゃあもう一回言って」

「ありがとう。望大好き」

「どういたしまして。俺も大好き」


 顔を上げたら。海斗が少し笑っていた。そのまま。どちらからともなく。


 唇が触れた。


 今夜の俺は、本当にただただ嬉しい気持ちでいっぱいだった。海斗がずっと行きたかった場所へ。今まで以上に確実に近づいたことが、心の底から本当に嬉しかった。


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