番外編5. 三軒茶屋デート?~海斗 side~
三軒茶屋懐かしいな~
昔行きました。そして二人で行ったときに、二軒目に行こうとして、結構彷徨ってたのに入った店が一軒目と同じ系列店のお店で二人で笑ったものです。
まあこんな感じで、自分の実話をもとに本作品は描いているわけです。
もちろん望と海斗が二軒目に行ってないように実話とは違うところもあるんですけどね。
望に飲みに誘われた日。
俺は表面上では何食わぬ顔でいたが、内心ではとても喜んでいた。
何度か望からはご飯の誘いをされてはいたが、全部いつもの冗談だと、社交辞令かと思っていた。
いや、冗談だと思うことにしていたという方が正しいか。
その方が、気持ち的に楽だったし、変に期待をして落胆するのが怖かったから。
「疲れたしさ、お疲れ様会ってことで飲みに行かん?」
「いいよ」
すぐに答えた。今までならもう少し余裕を持って答えていたのに。
きっと自分が思っている以上に俺は望に惹かれているのかもしれない。
「本当に?」
「誘ってきたのは望なのに、なんで驚いているんだよ」
三軒茶屋の小さな居酒屋に二人で来た。
なぜ三軒茶屋なんだとも思ったが、望曰く「なんかお洒落じゃん」というよくわからない理由だった。
そんな三軒茶屋の居酒屋で、今二人で向き合っている。
いつもフロントで横並びになっている望と、小さなテーブルを挟んで向かい合っている。
望が、妙に俺から目を逸らす。
少し落ち着かなさそうだった。
それは俺も同じだった。
望の大きな目を真正面から受け止めると、どうしても吸い寄せられてしまう。
お酒を飲みながら、気が付くと俺の話になっていた。
「なんで、海斗は俳優を目指そうって思ったの?」
最近では、人に話すこと自体が少なくなっていた。
夢を語ることが、少し恥ずかしくなっていたからだ。
何年も結果が出ていない人間が語る夢は、だんだん夢ではなく妄想みたいに聞こえてくる。
でも望はそんな文化祭の話を聞いて
「いいね」
と言葉をくれた。
「ちゃんとやりたいことがあって」
その眼には、皮肉も同情もなかった。
ただ、純粋に俺の夢がいいと思っているように見えた。
この人の前なら、まだ俳優になりたいと、昔のように夢を貪欲に追いかけてもいいのかもしれない。
そう思った。
望は、自分は数学やプログラミングが得意だったから理系大学に行っただけだと言った。
「一応ね。留年しないすれすれだけど」
そう言って望は軽く笑う。
でも、俺から見れば十分すごかった。
「そういう軽い感じなのに、実はちゃんとやってるよね」
「何それ。褒めてんの?」
「褒めてる。俺は大学行ってないし、望は凄いと思うよ」
望は、自分には将来がないみたいな顔をたまにする。
でも、俺とは違う。
大学三年生で、某有名大学に在学中。
これから就職することもできるし、大学院に行くことだってできる。
まだ何にでもなれる。
俺はもう、自分が何になれるのかさえ分からなくなっていた。
「海斗って、案外俺のこと見てくれてるよね」
「一緒に働いているしな」
「仕事以外にも見てくれもいいんよ」
「また、そういうことを簡単に言う」
また、望の言葉に俺は期待させらる。
だから、簡単に言わないでほしい。
「だって、今二人で飲んでるんだよ?なんか、デートっぽくない?」
手が止まった。
「デートなの?」
いつもなら流すのに、お酒のせいか分からないが聞いてしまった。
望はいつもみたいに笑う。
「俺は三軒茶屋デートだと思ってたけど。思ってくれてなかったの?悲しいなー」
まただ。
逃げ道を残す。
だから俺はいつもと違って、踏み込んでみた。
「望って、誰にでもこういう感じなの?」
「?こういう感じって?」
「距離が近いというか」
「どうだろ。でも、仲良くなりたい人にはそうかもしれない」
胸の奥が少し沈んだ。
(やっぱり、俺だけではないのか。)
「じゃあ、俺とも仲良くなりたい?」
「もちろん。めちゃくちゃ仲良くなりたい」
「もう仲良いと思ってた」
本当は。
もっと深い関係になりたい、そう言葉を言いたかった。
―――帰り道。
望が俺の腕につかまった。
酔っていると言う。
でも足取りはしっかりしているから多分そこまで酔っていないと思う。
「海斗の家に、泊めてくれてもいいんだよ」
心臓がはねた。
俺の家は三軒茶屋から近い。
連れて帰ってしまうことなんて簡単だった。
そのまま腕を引けばいい。
望が本当に俺を好きなのだと信じてしまえばいい。馬鹿になってしまえばいい。
「それはだめ」
俺は自分でも驚くほどきっぱり断っていた。
「なんでよ」
「酔ってる人を連れて帰るのはよくない」
「俺が問題ないって言ってんのに?」
「望が、明日後悔するかもしれない」
「しないよ」
「する」
本当は、望が後悔することよりも俺が期待してしまうこと、引き戻れなくなってしまうことが怖かった。
明日になって、
昨日のは酔ってたから。冗談だよ。
そんな風に笑われたら、俺はもう耐えられないだろう。
望の手を腕からはがす。
一瞬、明らかに傷ついた顔をしていた。
その顔を見て、自分が望にそんな顔をさせてしまったことにとても胸が痛んだ。
完全に離すことができなかった。
代わりに手首をつかんだ。
「転ぶと危ないし、こっちにして」
(俺は、なにをしているんだ)
期待しないように振りほどこうとしたのに。
結局中途半端に触れてしまう。
駅まで送った。
「家に着いたら連絡して」
望が乗った電車が見えなくなるまで、ホームでぼーっと立っていた。
その夜。
【帰宅しました!今日は本当にありがとう!まじ楽しかった!】
そう届いた。
俺は何度も何度も文章を考えた。
会いたい。
また二人で行きたい。
今日はデートだと俺も思ってた。
結局、そのどれも送ることはできなかった。
【俺も楽しかった。また行こう】
それだけだった。
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